私と実弥は夜が来るまで、町はずれの森の中を歩いていた。すると、少し開けたところに、白い小さな花が咲き誇っている場所を見つけた。
「わぁああ!!実弥!!見て!すごく綺麗!!」
「あァ」
まるで幼い子供の様にはしゃぐ姿を見て、実弥はククッと笑っていた。
「お前一体何歳だよ」
「え~?もう15歳になるけど」
「15にもなってはしゃぎすぎなんだよ」
「いいじゃない♪ねっ、こまちゃん」
「わんわん!」
こまも私の後に続いて一緒に走り回っていて、どうやら楽しそうだ。実弥は少し呆れた顔をしているけれど、少し笑っていた。
―ゆずはこの5年のうちに見違えるほど綺麗になった。元々端正な顔立ちをしていたが、成長してどんどん女らしくなっていきやがる。
最近、町で歩いていると、男どもがゆずを見ることが多くなった。そのくれェゆずは綺麗だ。
こんなに器量の良い奴だ。女としての幸せを、奪っても良いのか。ゆずならすぐに男ができる筈だ。所帯を持ってそいつと仲良く暮らしていきぁいい。
なにも、こんな危険なこと、しなくてもいいんだ。
……でも、ゆずを突き放せられねェ。この5年、ゆずと共に生きてきて、俺にとってゆずの存在が余りにもでけェもんになってしまった。
俺が、ゆずを手放したくないんだ。
いつからだろうか、お前を見て、お前のその笑顔を俺だけに向けて欲しいと思ったのは。
いつからだろうか、こんなにもお前を想ってしまう様になったのは。
「実弥!!」
私は実弥に、白い小さな花を摘んで花束を作り手渡した。
「凄く綺麗でしょ?実弥にあげる」
「あげるったって、お前なァ。この花が何の花か知ってるのか?」
「ううん、知らない。実弥は知ってるの?」
「かすみそうって言うんだ。花言葉は、“無邪気”“清らかな心”“幸福”“親切”“感謝”」
「わっ、実弥にぴったりな花言葉だね!おはぎ食べてる時なんか、凄く無邪気に幸せそうだよねぇ。人に対して凄く丁寧で親切だしね。口はたまに悪いけど、きっと心が綺麗なんだよ。それに、私を助けてくれた。いつも一緒にいてくれた。実弥、ありがとう」
満面の笑みで微笑むゆずを見て、実弥はゆずを抱きしめた。
「お前なァ……、人の気も知らねェでよくそんなこと言う」
「え?どういう……」
すると実弥の唇が私の唇に重なった。初めは驚いたけど、私はゆっくり目を閉じてその暖かさや感触を感じていた。
「俺、ゆずが好きだ」
実弥のその言葉に、胸が飛び上がった様にドキドキと鼓動を早くさせた。
「私も、実弥のことが好きだよ」
すると実弥はもう一度私にキスを落とした。
「俺からもこれ、ゆずに渡したい」
そう言って手渡されたのは、カスミソウの一房であった。
「ゆず、知っているか?かすみそうにはもう一つ別の花言葉があるんだ」
「そうなんだ!どんな花言葉なの?」
「……また今度な」
「えー!今知りたいよ!」
「ハハ、またな」
そう、この時の俺はまた明日があると思っていた。
俺たちが相手にしているのは“鬼”。
戦いの中で生きる俺たちに、確定された明日なんてないのに、当たり前の様に明日をゆずと一緒に迎えられると思っていた。