旅館の中に入ると、中居が丁寧に頭を下げていた。
「俺の大事な奴がこの中にいる!!!!お前ら!!!いつまであんな奴に怯えているつもりだァ!!」
一括すると、驚いた顔をしたかと思えば、中居はわんわんと泣きだしてしまった。
「どうしようもないじゃないですか!!私の子どもも人質に取られているんですよ!?どうしろって言うのよっ!!!」
「あァ。悲しい。なんとも悲しきことか。わが子の為に人を鬼に差し出すなんて。あァ、なんと哀れなり」
「俺たちが、助けてやる。だから、鬼の居場所をさっさと吐けェ」
「!?」
中居は最後まで躊躇っていたがようやく口を開いた。
「最上階の、一番奥間に……。あのっ、町の人の子供たちも最上階に捕まっているのです!!その子たちを、助けて下さい!!!!お願いします!!!!!!」
額を床にこすりつけるように土下座をする中居の肩に、ぽんと手を添えた。
「任せておけ」
そう言って俺たちは最上階へと走った。階段を登るにつれて、壁には人間の頭が綺麗に飾られていた。綺麗に血抜きを済ませているのか、全員揃って真っ白な顔で、傷一つなく綺麗なモノであった。
「-ったく、嫌な趣味してやがるぜェ!!!!」
最上階へと上がり、襖を開けると、鎖で繋がれた子供の死体が横たわっていた。その数は30人にも及ぶ。
「!?」
人質じゃなかったのかよ!?
「なんと惨い。全員殺していたのか」
「-っ……ゆずっ!!!!」
―早くしねぇとゆずが危ねェ!!!!
中居が言った、奥の襖を開けるとそこには、鬼に首元を噛みつかれているゆずの姿があった。ゆずの顔色はあまりにも白く、まるで先ほどまで自分が見てきたあの首だけの死体の様だった。ゆずの白い着物は赤く染まり、ゆずを中心に大きな血だまりができていた。
その血だまりの上に白い風車のかんざしが落ちていた。俺の中で何かがブチッと切れる音がした。
「てんめェエエエエエ!!!!!!」
俺は、落ちていたゆずの短刀を拾い、鞘から素早く抜き取り、ゆずにかぶりついている鬼の首を掻っ切った。
どうやら鬼は、ゆずの血肉に夢中だったようで、斬られるまで俺のことさえ目に入っていなかった。
「あれ?……なんで私が……私が斬られていル?……」
首だけになった楓は、なぜ斬られたのか分からずただただ自問自答していた。
「おかしい。あの娘を喰らったのに!!!私は強くなった筈なのにィイイイイ!!なぜ私がっ、この私がこんなガキに!!??」
大男の方は、近くにいた鬼を簡単に切り捨てて、刀を持つ俺を不思議そうに見ていた。
―あの刀は!!!まさしく日輪刀!!短刀の日輪刀だは見たことがない!!!鬼殺隊でもないのに、なぜ日輪刀を持っているんだ?
そんな男には目もくれず、俺は冷たくなったゆずを抱きしめた。
「さね……み」
どうやらまだ意識がある様だが、体は石の様に冷たかった。
「来てくれたんだね。……ありが、とう。さね、み」
「ゆずっ!!お願いだっ!!死ぬな!!!!!俺を残して、逝かないでくれっ……!!!ごめん、ごめん、ゆず」
―俺がっ、俺が弱かったせいでお前がこんな目に!!!!!俺が、あいつの忠告を聞いていればこんなことにはならなかったんだ!!!!俺が、お前をこんな目にっ!!!
すると、弱弱しくゆずの冷たい手が俺の頬に添えられた。
「……さね、み。…笑って?…ほら、おはぎ、……食べる時みたいに」
―こいつっ、こんな時に何言ってやがんだっ!!!!
「ばか野郎……っ、こうか……?」
震える体を必死に引き締めて、無理やり笑顔を作って見せた。喉の奥が熱くて、胸が痛くて、どうにかなってしまいそうだ。目からは熱いものが流れてくるし、あァ、これが、最後なのか……?俺はもっとゆずと一緒にいたかった。ゆずと色んな所に行きたかった。ごめん、ごめんゆず!!!全部、俺のせいだ……!!!!!!
ゆずは大きな瞳に涙を貯めながら、俺が大好きだったあの笑顔を向けてくれた。
「うん、やっぱり……実弥には、笑った顔が……1番、だね。……実弥、大好きだよ」
そう言うと、ゆずの手は畳の上に落ちた。
「おい。……ゆず、おい、起きろよ。こんな所で寝てると、風邪引くぜ?おい……、なんとか、……なんとか言ってくれよ。また、……笑ってくれよ……なァ、ゆず」
何度呼び掛けてもその瞳が開かれることはなく、俺はただただこの現実が受け入れられずにいた。
すると、大男がゆずに手を伸ばした。
「まだ息がある。一か八かだが、助かるやもしれん」
「本当か!?」
「鬼殺隊の中でも医療に優れた者が近くにいる」
「頼む!!!ゆずをっ、ゆずを助けてくれェ!!!!!」
「助かる命をみすみす見逃すことはできない。ついてこい」
俺はゆずを抱えて無我夢中で走った。山を一つ越えたところに、男の言う、鬼殺隊の連中がいた。全員揃いの隊服に身を包んでいて、どこから知ったのか、俺たちが来ることを既に知っていた。
「貴方がそうね?早くこちらへ!!」
女だった。年は俺とそう変わらない女だった。女は慣れた手つきでゆずの腕に針を刺して、血液を流し込んでいた。
「あと少し遅かったら、彼女、死んでいたわ」
「……ゆずはっ、ゆずは助かるんでしょうか!!!」
「えぇ、もう大丈夫だと思うわ」
「!!!……ありがとう、……ありがとうございます!!!!」
地面に頭をつけて何度も、何度も礼を言った。俺にはゆずを助けることができなかった。でも、こいつらは違う。
「少年よ、名はなんと?」
「…不死川、実弥です」
「私は悲鳴嶼行冥。鬼殺隊の隊員だ。不死川少年よ、守りたいモノがあるなら守れるほど強くなりなさい。弱いままではあの子は今助かったとしても、いづれ死ぬ」
何も言えなかった。悲鳴嶼さんの言う通りだ。
「俺を、……鬼殺隊へ入れてください」
「鬼殺隊に入ればその子とは離れ離れになるが良いのか?」
「……俺はこいつの笑った顔が好きです。その顔が二度と見られなくなるのは御免だ。ゆずが笑って生きていける様に、俺は鬼殺隊に入って鬼を殺す!!!鬼を全部ぶっ殺して、ゆずが安心して生きていける世界にしてみせる!!!」
「ふむ。いいだろう。私が入隊できるように取り計らってやろう。その子が目覚めるまで待ってもいいが、どうする?」
「いや、このまま行かせてください」
「いいのか?挨拶もなしだと、起きた時その子が困惑するんじゃないのか?」
―多分直接目を見て話せば、俺の決意が鈍ってしまう。
「それじゃぁ、手紙を残すっていうのはどうでしょうか?」
さっきの女隊士が話に割り込んできた。
―まぁ手紙ならいいか。
俺は、まともに筆も持ったことねぇからそれはそれは汚い字で、でも自分の気持ちを書き留めたモノを眠るゆずの隣にそっと置いた。
「それじゃぁ、胡蝶、胡蝶妹よ、また会おう。行くぞ、不死川少年」
「おっス」
俺は振り向かなかった。俺は強くなる。
お前を守れる程、強く。
そしてこの世界にいる鬼どもを全員滅殺してやる!!!
朝日が昇り始めていた。それはあまりにも美しくて、清々しかった。
それから俺は、最終戦別にも合格して、無事鬼殺隊の一員となった。