都市に集った防衛隊の多くは竜王国の兵士達。その多くは15レベル以下であり、とてもではないが十分とは言えない戦力であった。都市防衛の依頼を受けた冒険者も少なからず存在し、その多くは都市より退去する国民の護衛に回されている。前線に立つのはシルバー以上の命知らずの冒険者或いは英雄として扱われているアダマンタイト級の冒険者となる。後は法国より援軍が来るという話を聞いていたのだが、一兵も見られないのは一体どういう事なのか。隠れて行動するというのはこの場でも無意味だし、本当に居ないのか?
「これで200…流石に人命救助を目的としていると、やれる数は少なくなってくるか」
そんな事を考えつつ、一定の加減しつつ向かってくるビーストマンを薙ぎ払う。
現在、俺達は散開しつつ味方の救助を目的としてビーストマンの追撃を食い止めている。ティルルやパルラは同じく地上から味方の救護を目的として動き、ダイダル含めた四体のドラゴン達は上空或いは地中より索敵と後方に退去する味方を援護する為の支援砲撃を担当している。支援砲撃といっても一定の隠蔽性を確保する為に小規模の岩石を降らして敵を散らす程度の行動内容だ
これらの行動を何者かに感づかれる可能性もあるが、かといって人間の被害は無視できないし、社会的な立場は欲しいしで見つかったら見つかったで対応すると伝達している
都市内部には未だビーストマンの侵入報告はなく、上手い事被害は減らせているようだ。但し、大勢に影響する程ではなく次第に押されて行っているのは事実であり、『クリスタル・ティア』が外壁で戦い続けているものの局地戦で覆すのは難しいだろう
『主殿、宜しいか?』
『テンペストか。報告を頼む』
『敵後方の座標Xに軍の本陣及び総指揮官と思われるビーストマンを発見致しました。恐らく将軍級と思われます』
『良い報告だな。状況は想定内だが、ちょっと懸念事項がある。予定を変更し、敵本陣をさっさと潰す』
『地中に居るレドックスと共に座標Xに向かう。その間の指揮はブラスター及び天空城のハスキーに一任しよう』
『御意…ああ、レドックスは既に向かっているようです。現地で集合を』
NPC達の行動は迅速で頼りになる反面、時折怖く感じる時もある。何にせよ指揮官を潰し、士気を落とさなければ都市はほぼ確実落ちる。急がなければならないだろう
◇
強引に敵を切り裂き、踏み潰し、突っ切りつつ敵の本陣目掛けて疾走していく。既にレドックスとは合流済みで本陣も目視出来た
「何だこいつ! まるで攻撃が通らんぞ!」
「悪いが、死んでもらう《魔法三重化/魔法の矢(トリプレットマジック/マジックアロー)》」
大量の光弾が付近のビーストマンを射抜いていく。本陣近くのビーストマンのレベルは20後半であり、明確な意志と思考を持って、此方に対して連携を取りつつ迎撃に当たっているようだ。立ち塞がる者を薙ぎ払い、遠くより魔法や矢で射抜いて来る者は遠距離魔法で迎撃。そのまま突撃を続けていき、本陣に突入し、ついに総指揮官と思われるビーストマンと邂逅した。
「さて、お前が総指揮官という事で良いんだな?」
「ああ……竜王国に貴公のような猛者が居るとは聞いた事はなかったが」
体長は3m。ライオンのような顔に黄金の盾と黒鉄の斧を構え、煌びやかな鎧姿のビーストマンだった。如何にもグラディエーターといった風貌であり、此処まで倒してきビーストマンとは格が違う。
「我が名はヘラクレイノス。竜王国の猛者よ、貴公の名を聞こう」
「冒険者のリュウジだ」
「リュウジか…此処まで到達した事、驚嘆に値する。戦いを始めよう」
パット見ではレベルは測れないが少なくとも40レベルは超えており、装備も見た事がない物ばかりだが現地の装備では相当な強度であると判断出来た
「小手調べだ」
装備や力量も含め、凡そ60レベルを想定しつつ瞬時に距離を詰めつつボディブローを振るう
「この速さ…!《可能性知覚》《痛覚鈍化》《要塞》《重要塞》《限界突破》!」
武技と思われる言葉を幾つか紡ぐと共に肉体を強化し、拳を盾と共に受け止め切った。拳の威力で数m吹き飛ばされつつも、大地を踏みしめ此方を凝視していた
「その強さ! スレイン法国の者か!」
「どうだか。さて其方の番だ、来い」
その言葉を聞いたヘラクレイノスは雄叫びと共に大地を蹴り、斧を大きく振り上げながら飛び掛かった。
「《能力向上》《能力超向上》《縮地》!」
武技と共にさらに高まる肉体能力。見た所、概ねユグドラシルの中級バフ魔法と同程度の効果があるようだ
「武技!《限界突破》《剛腕重撃》!」
赤く染まり、さらに威力を増した斧の一撃に対して
「すううううっ……《竜の咆哮/ドラゴン・ロアー》!」
「ぬううっ!?」
竜の咆哮。効果は咆哮を発する事によるエネミーのバフ効果の解除及び攻撃アクションの中止。《竜を統べる者》の持つ種族スキルのひとつであり、とても優秀な効果を持っている。バフという事で使ってみたが、どうも武技にも効果はあるらしい。
「終わりだな」
確認したかった事はそれなりに確認し終わり、これ以上時間を掛ける訳にも行かない。決着を着ける為に咆哮により態勢を崩したヘラクレイノスの首を大剣で静かに切り飛ばす
「大将は討ち取った。レドックス、頼んだ」
「《岩盤封鎖/ロックダウン》…《岩盤吸収/ロックドレイン》」
周囲に居たビーストマンはヘラクレイノスが討ち取られると共に此方に駆けだすが、地中より出現したレドックスにより阻まれ、同時にスキルによって地面が割れ、割れた穴に落ちていく
落下したビーストマンは岩に吸収されるようにして消失し、本陣近くのビーストマンはこれにて壊滅となった
「“本陣近くのビーストマンは全て捕獲したな”。レドックス、そのままお前は指定のルートを辿り、ブラスターと合流し、天空城に戻れ」
「御意」
レドックスは再び地中に戻り、大地に吸収したビーストマン達を自らの肉体に移した後に撤退。俺はというと隠密魔法を掛けつつ、ストレージよりユグドラシル産のアイテムである時限爆弾をセットしていく
派手に爆発させられれば、いやでもビーストマン達は本陣で何があったか気づくだろう。速やかにセットした後は隠密魔法を掛けつつ即撤退。大体1km離れた所で爆破スイッチを押し、本陣から火の手が上がるのを確認した。後はティルルらと合流するとしよう
◇
「と、そんな所だな。救助も上手く行っただろうか二人共」
「色々制限がありましたが、大半は助けられたと思います。でも良かったのでしょうか、こんなに派手に動いて」
「まぁ派手といえば派手だが、まだ常識の範囲内ではある。少なくとも新たな英雄の登場以上の情報はないだろう」
それから数日後、竜王国側の勝利で戦いは終結した。
決め手はやはり突然の本陣の壊滅であり、火の手が上がった事でビーストマン側は大混乱。本陣の壊滅は此方が情報を流した事により竜王国側にも早期に伝わり、士気が上がった竜王国兵士達により次第にビーストマンは押し戻されていった。再び戦場は膠着状態へと移行し、恐らくビーストマン側の他の指揮官による判断でビーストマンは退却していった
「本陣のあの爆破は俺のタレント及び魔法による隠密と火炎魔法に寄る砲撃という事で通してある。二人共それは承知しておくように」
「了解致しました!(はいはーい)」
本陣で確保したヘラクレイノスとその部隊の死体は情報収集の為に用いる予定だ。ヘラクレイノスの首辺りは竜王国との取引にまた使えるかもしれないが、その辺りは追々考えるとして
「二人は都市の負傷した兵士達の治療を進めてくれ。俺はやるべきことが残っている」
「御一人で大丈夫でしょうか?」
「むしろ、一人でないと不味いんだ。宜しく頼む」
そう言い残し、不可視化と浮遊によって空に飛び上がり、懸念事項を片付けにいく
戦いの最中に発見してしまった第三勢力。元々は空中で索敵していたブラスターらによって発見されたものであり、ブラスターとの交渉の結果、戦いの終わりまで空で待つように言っていたという
「貴方がその待ち人で合っているだろうか」
白銀の鎧に並び立つように浮かぶ槍・刀・ハンマー・大剣。
既視感のある雰囲気から恐らくドラゴンと関連性のある種族か装備なのだろう。
「ああ、そうだよ。私はツアー……そして君は“ぷれいやー”で間違いないね?」
「……プレイヤー、ね」
この存在が何かは未だ不明。ブラスターの言葉に大人しく従ったという事は少なくとも現状は敵対意思があるという訳ではないようだが、このツアーと名乗る存在はプレイヤーといった
プレイヤーという言葉が何を指しているか、この世界においてプレイヤーという言葉がそれ程あり触れている訳でもなく、ユグドラシルのプレイヤー単体を指す言葉というのはほぼ間違いない
是が非でも話さなければならない、この存在と。何を知っているか、何故我々にコンタクトを取ってきたのか、この世界におけるプレイヤーとはどういう存在なのか。思考を回転させつつ、言葉を選んでいく
「そうだな、こう名乗るのがいいか」
「ユグドラシルの【竜の守り手】ギルドマスターのリュウジだ。戦闘の意思はない。交渉の意思はあるがな」
簡潔な自己紹介を述べ、目の前の竜のような何かと夜空の下、会談を始めた
ヘラクレイトスの元ネタは遊戯王の剣闘獣ヘラクレイノスです。そのまんまですね
前話の第二階層守護者のドラグニティや第三階層守護者の竜剣士なんかも遊戯王が由来です