あの頃ではとてもでは見られなかった満天の星空の下、二対の竜王とも呼べる存在が向き合っていた。
片や白銀の鎧に周囲に3つの武具を浮遊させ、片や黒鋼の鎧に一本の大剣を背中に下げている。
「此方も色々聞きたい事はあるが、接触してきたのは其方の方だろうし、先に話を伺おう」
「話が早くて助かるよ…さて」
目の前のツアーと名乗った存在からは魔力は感知出来なかった。そして、ダイダルらの完全不可視化を見破る何らかの力或いは知覚能力も所持している。そして、あの鎧に中身が入っているとも思えなかった。伽藍洞の鎧に恐らく何らかの能力を行使し、遠隔操作しているのか、以上の事も踏まえて俺の知らない未知の能力を持っているのはほぼ確定事項だ
「ギルドマスターと名乗ったのだから、君がリーダーなんだろう。君達の目的を聞きたい」
「目的、か」
正直答えづらい質問ではある。この世界に来てからはそう月日は経っていない。俺自身の目的といえば強いて言うなら生きていく事、天空城の維持、そして第一にNPC達の安寧を守る事であった。ただこれらはしいて言うなら現状維持の物であり、これからの目的という答えのアンサーにはなり得ない
「正直俺も測りかねている……プレイヤーの事は何処まで知っている?」
「概ねは。詳細はあまり明かせないが、少なくとも君以外にもプレイヤーは存在したからね」
「自身とNPC達の生存していく事はこれからも必須事項だ。未来に向けてとなるならば、この世界における情報の収集と竜王国に拠点を構える事が当面の目的と言えるだろう」
「成程……少なくともこの世界の秩序を脅かす気はないと?」
「その気はない。世界の全てが俺達を排除しようとするなら話は別だが、そういう訳でもないだろう。俺達はただ生きたいだけだ」
ツアーはその返答に考える素振りを見せた。少しばかり此方に向けていた警戒や威圧が和らいだ気もする
「情報の収集といっていたが、具体的にはどうするつもりなんだい」
「此処に来てから凡そ1週間。大雑把だが情報は収集できている。現在は竜王国のみだが、ゆくゆくは他の国での調査も進めたい」
「まぁそれ以前の問題としてこの国の未来が心配でな」
この戦い事態には勝利したが、実質的に総大将を討ったのも自分。総軍を崩壊させたのも自分達。その援護したのも自分達。暫くの間、都市を防衛する事は出来たが総大将であるヘラクレイノスの力量を鑑みるに飽く迄多少の時間を稼いだに過ぎない。竜王国には決定的に戦力が欠けていた。
「その心配は元人間としてかい?」
「やっぱり、俺が人間種じゃないって分かるんだな。翼も出してないってのに……ま、大体当たりだよ。獣と人じゃ、人を優遇するのは元人間、現竜人としては当然の事だろう。ましてや相手は人を食うしな」
「この戦いにおける異様な援護もその為、か。些か過剰戦力過ぎる気はするけどね、特にあの四竜は」
「……完全不可視化が破られる事はあまり想定していなかった。貴方のような存在も居るという事で一つ反省点だな」
「話を戻す。竜王国に関してだが、裏で女王と交渉する予定だ。一種の内政干渉だな」
「それ、実質的な乗っ取りになるんじゃないかな。君達と竜王国の戦力差を踏まえれば」
「将来的にそうならない為の交渉だ。あまり表だって動くのは其方に取っても良くはないだろう。此方も国の危機は解決したいが、全面的に英雄になりたい訳ではない。それとだが……」
目の前の存在の予測は大方付いた。情報収集の一環でとある文書を閲覧した。500年前、八欲王とこの世界の現地勢力の間に起こった戦いの記録であり、八欲王は勝利したが最終的には仲間割れで自滅したという。状況による予測を並べるならば八欲王はプレイヤーであり、それに全面的に立ち向かったのは竜王と呼ばれる存在だった。戦いに参加した竜王は須らく滅んだようだが、生存している竜王も勿論存在する。目の前のツアーも過程こそ分からないが恐らくそれなのだろう。そして、現存する竜王の一体。その情報を俺は求めていた。
「実は竜王国に交渉する前に七彩の竜王に話を通しておきたいんだが、場所が分からなくて困っている。というか生きているのか?」
「ええっ……あの変t…変竜の竜王にかい?……一応、生きてはいるが」
今、変態って言おうとしたなこの人
「理由はまぁ正直些細な理由なんだ。竜王国に干渉するならば一応、その設立者の許可が居るかなぁとか思ってるんだが、同じ竜っぽい存在としてどう思う」
「あれと一緒にしないでくれ……」
「何かよく分からんが、ごめんな」
七彩の竜王は竜王国の創設者であり、現女王ドラウディロンの曾祖父と呼べる竜王だ。その能力や風貌・居場所なども不明だが、異形種である竜が人間種と交配を果たすというとんでもない事もやっている。通常、人間種や亜人種・異形種等による異種族交配は不可能とされており、何らかの能力を用いてそれを可能としたのだろう。其処も気になるが何より現在の竜王国の状況をどう思っているか確認する為、此方が本当に介入してよいか彼の竜王国に対するスタンスを確認する為に生死確認。生きているのならその居場所を探していた。
「……まぁ君から特段悪意という物も感じられないし、あれの事なんて同じ竜王としても割かしどうでもいいし、場所を教えてもいいが」
「正直駄目元だったんだが、良いのか? 俺が言うのもなんだか其方から見れば俺はあれだろう、八欲王と同類なんだろう?」
「……此方の想定より情報収集は進んでいるようだね。君のその在り方は六大神に近く、君達と事を構えたくないのは此方も同じだ。それ故の譲歩だよ」
「成程ね。まぁ何にせよ助かる。ありがとう」
かの竜王の居場所は大陸中央部に存在する山の頂。ずっと引き篭もっているらしく、ツアーも一度行ったことはあるものの追い返されたらしい
「あの竜王の所に赴く際は私にも一報欲しい。同行させて貰う」
「別に構わないが俺達の監視か?」
「それもあるが、彼とも協力体制を取っておきたい。私が行った方が話も早いだろうしね。かの竜王はぷれいやーを嫌っている」
「成程。そういう事なら了解した」
その後も情報の事実確認や細かい行動方針の確認をし、それが終わるとツアーはその場を去っていった。この世界において初めてとも呼べる強者と呼べる存在との邂逅が無事に終わった事に疲労と共に安堵の笑みを零した
「取り敢えずこの場は何とかなったか。俺達レベルの存在は想定はしていたが、ああも此方の常識から外れていると困惑する」
あのレベルの存在がどれ程居るかは定かではない。少なくとも人間種にあれ程の強者が居る事は確認できておらず、近辺だけならばプレイヤーの可能性が高い六大神が興した法国に居るか居ないかというレベルだろう。あのツアーは竜王であるのなら評議国の者である可能性が高く、仲間が居る事も間違いない。あれの目的は世界を守る事らしいがそれも何処まで信用して良いか、初対面では判断できない。ただ俺達が協調路線で行っている内は必要以上の警戒や敵意を抱かれる可能性は低いだろう
『主、ご無事ですか』
『テンペストか……会談は無事に終わった。問題がない訳ではないが、まぁファーストコンタクトは成功という事だな』
『……今回我々の不可視化が破られ、かの竜に気づかれてしまった事は我々の非で御座います。如何様に処分して頂いても構いません』
『いいや、俺が悪かった。完全不可視化破る奴が居るなんてな……慢心していたんだろう。それより今後の話だ。会話の内容は把握しているな?』
『はっ! 全て!』
『よし。まず問題の奴さん…ツアー殿についてだな。暫くは協調路線で行く。あちらから此方に敵対的な行動を起こすまでは此方も控えるように』
『あの者は一種此方に嫌悪を向けているように感じます。視線には他の感情も含まれているように思えました』
『八欲王が伝説通りの存在ならば、此方に対して恨み真っ盛りだろうよ。あっちの戦力が割れてない以上、迂闊に地雷を踏むような真似は避けるべきだろうよ』
『それにあそこまで警戒を向けていた事を踏まえれば、彼は現段階の俺達の戦力を無視できない、或いは最大の警戒を向ける程度にはプレイヤーに対して手を焼いていた訳だ。直接ぶつかり合う事は少なくとも望んではいない。あちらの目的が此方に悪影響を齎す物でない限り、協調路線は覆さないし、ツアー殿の対応は俺が行う。他の竜達にもそう伝えておいてくれ』
『承知しました。では失礼致します』
テンペストにも必要事項は伝え終わった。今回の戦いの後処理、七彩の竜王との邂逅、女王との交渉及びビーストマンに対する対応、各国に対する情報収集。この後もやる事は山積みであり、ツアーを筆頭とした竜王の勢力という胃痛要因も増えてしまったが、方針に以前変更はない。
自身とNPCの生存。この世界における情報の収集。そしてその先に
「何故、どうやって俺はユグドラシルのアバターの能力を持ち、この世界にやってきたのか」
「NPC達は何故知性を獲得し、自立し始めたのか」
「そもそもこの世界は何なのか」
未知とは恐怖そのものであり、先が見えない道はとてもではないが歩いては行けない。明確にしなければならない事はそれこそ無限に等しくこの世界に存在した。
「よし」
「気を引き締めて行かないとな」
見下ろした戦場の跡にはティルルとパルラが兵士達に対して治療行動を行っている。そろそろ自身も戻らなければならないと夜空を後目に大地へと向かっていった。