ここは、とある世界の地球。
この地球には、かつて孫悟空という名の戦士がいた。
彼は、かつてフリーザという宇宙の支配を目論む悪の帝王に滅ぼされた、宇宙最強レベルの戦闘民族、サイヤ人のれっきとした生き残りだ。彼は、出身地である惑星ベジータを滅ぼさんとするフリーザの悪意を感じ取った父親と母親によって地球に送られ、結果的に生き延びた。
悟空は、幼い頃に頭を打ったことでサイヤ人の凶暴性を失い、育ての親や師匠のおかげもあって素直で純粋な少年として成長した。彼は、ブルマという少女との出会いをきっかけに旅に出て、世の中を知った。その中で、様々な仲間やライバル……そして、敵達と出会った。
幼き頃のピッコロ大魔王との闘いをきっかけにして、悟空は凄烈な闘いの渦に身を投じていく。
幼き頃に撃破したピッコロ大魔王の息子、通称マジュニアとの闘い。
その数年後にやってきて、己の息子を
更にその後にやって来た、ラディッツよりも遥かに強大な戦闘力を持つサイヤ人、ナッパとベジータとの闘い。
これらや日々の修行を通して、悟空は1人の屈強な戦士としても成長した。強い相手と闘うことを楽しみとし、絶対に負けない為に闘う。彼は、そんな男だった。
その強さが花開いたのか、彼は因縁の敵であるフリーザを撃破すると共に、サイヤ人達の中では1000年に1人現れると言われる、伝説の戦士……超サイヤ人に覚醒し、新たな強さの領域に足を踏み入れた。
フリーザとの闘いの舞台であったナメック星は爆発を遂げ、悟空もそれに巻き込まれて死んだかと思われていたが、彼は生き残った。地球に襲来した、体をサイボーグ化して復活を遂げたフリーザとその父親であるコルド大王を、地球に駆けつけて撃退するという形で彼は生還を遂げたのだ。
誰もが、これから彼と共に在ることを信じて疑わなかった。仲間同士、ライバル同士として高め合い、敵が現れた時には闘いに赴き……そんな生活を彼と共に送れると思っていたはずだ。
しかし。悟空はウイルス性の心臓病に体を侵され、この世を去ってしまったのだ。無論、彼の仲間達は黙って彼が死ぬのを見ていた訳じゃない。彼らなりに何かやれることはないかと模索していたはずだ。だが、地球を脅かす脅威を打ち倒して来た戦士達であっても、病気を打ち倒すことは出来やしないし、心臓病を治すに値する技術も存在しなかった。
まさに万事休す。手の施しようがなく、悟空はあまりにも早すぎる死を迎えてしまったのだった。
……余談だが、この世界にはドラゴンボールという、7つ集めれば
こんな魔法のような道具が現実にあるとしたら、江戸時代の厳しい身分制度の中で不満が募りに募った百姓達や、絶対王政下で君主に支配されていた庶民達にとって重宝する物となるだろう。いや、それどころか全人類がそれを欲しがり、戦乱の世の中に陥るかもしれない。
特に、ヒトラーやスターリンのような独裁者がこれを手にしたらどうなるのか……ということは考えたくないものだ。
どんな願いでも叶えられるのだから、当然死んだ人間でも生き返らせることが可能だ。実際、悟空達もそんな風に悪人に殺された人々を生き返らせた経験がある。ならば、何故悟空を生き返らせることをしなかったのか。否、''しなかった''のではない。正確に言えば、''出来なかった''のだ。
ドラゴンボールによって死んだ人間を生き返らせることが出来ると言えども、条件がある。生き返らせることの出来る人間は、
それ故、病気や寿命などといった要因で死んだ人間を生き返らせることは不可能なのだ。病気の方は人間の手でなんとか出来ることであるから、そんな物を頼らずとも何とかしろと……寿命の方は、決まったことなのだから天命を覆すなと……そういった神からのメッセージなのだろうか。
閑話休題。悟空が永遠にこの世を去ってから然程時間も立たないうちに、地球は新たな脅威によって、危機に瀕した。その脅威というのが、人造人間17号と18号。悟空の暗殺の為に造らされた、いわばサイボーグである。
この2人というのが、あまりにも強すぎた。彼らの強さは、サイボーグ化したフリーザを超え、更にそれを超えてきた超サイヤ人の悟空すらも軽々超えてしまう程なのだ。当時、事実上で言えば宇宙最強は悟空であったも同然だったが、彼と同等に立てる強さの者は誰1人居なかった。残虐な性格の2人は、ゲーム感覚で人々を殺すことを楽しんでおり、地球上に生きる人々は次々と殺されていく。そんな彼らの悪行を止める為、悟空の仲間達は立ち上がった。
しかし、その試みはあまりにも無謀であった。蟻が恐竜に挑むようなものであり、戦士達は次々と殺されていく。地球の神の半身とも言える存在だったピッコロ(かつて悟空と闘ったマジュニア)が死んだことで、地球の神も消えてしまい、最後の希望であったドラゴンボールが使えなくなってしまった。
悲劇はそれだけで終わらない。自分を鞭打ち、血反吐を吐くような修行の末にようやく超サイヤ人に覚醒して悟空と同じ強さの境地に立った、彼のライバル……ベジータも奮戦の末に殺されてしまう。
戦士達は次々と息絶えてしまったが、彼らの希望が完全に途絶えた訳ではない。今日もまた仲間達の仇を取る為、絶望を終わらせる為に反抗を続ける戦士がいた……。
★
暗がりの空に覆われた街中。雷鳴が鳴り響き、雨が降り注いで、地面の水溜りに波紋を作っている。これから起きる不吉なことを暗示するかのように、なんとも重々しい天気だ。
止めどなく降り注ぐ雨が、1人の戦士に訪れる悲惨な運命を嘆いた女神が流している、涙のようにすら思える。
決戦の舞台は街中と言えど、辺りの建物の多くが崩れ去っている。上から半分がなくなっていたり、逆に下から半分がなくなって、上半分が地面に崩れ落ちている物もある。また、地面には多くの瓦礫が散らばっていて、道を完全に塞いでいるところさえもある。その様は、大災害に見舞われた後の大都市と例えるに相応しい。
空を裂くように瞬く雷光が、決戦の舞台に立つ3人の顔を照らす。
首までの長さのある黒い長髪に、黒いTシャツと白い長袖のシャツと首元に巻きつけたオレンジ色のスカーフ、水色のジーンズが特徴の少年。彼が人造人間17号である。腰にホルスターと自動拳銃を備えた優男風の見た目だが、悟空の仲間であった屈強な戦士達を何人も屠った男。人を見た目で判断してはならないという典型的な例だ。
その隣にいる端正な顔立ちをした金髪で、青いジャケットとスカート、ジャケットの下から覗く白い生地に黒いストライプの入った袖のシャツが特徴の少女。彼女が人造人間18号。17号の双子の姉である。
両者ともに服の一部が破れてボロボロになっており、髪型も乱れている。ここまで繰り広げられてきた闘いの凄まじさが分かるだろう。
そして……2人と対峙する、金髪に碧眼の青年。彼は左腕を失っているものの、1人の戦士としての逞しい立ち姿であり、頼りなさなど一切感じさせなかった。額の左側から左頬にかけては傷痕が残っており、特徴的なのは背中に''飯''と刻まれた山吹色の道着だ。
彼の名は孫悟飯。かの孫悟空の息子であり、多くの戦士達に希望を託された者。普段の優しい目つきは、超サイヤ人に変身していることもあって鋭く、その双眸には2人の人造人間を本気で破壊せんとする意志が感じ取れる。
彼もまた、かつての戦士達のように1人の少年に希望を託し、己の死を覚悟してこの戦場に立っている。
仲間や人々を殺された怒りを燃料にし、闘志を燃やした悟飯は強かった。この片腕である状況を物ともせず、2人の人造人間を一目見れば、圧倒していた。その末にようやく人造人間達の服をボロボロにするまでに至れたのである。
(この調子ならいける。必ず押し切れる……!ここで、終わらせるんだ!)
悟飯自身、このままならば撃破も不可能ではないと踏んでいた。……しかし。やはり人造人間達の強さは侮れない。
2人の人造人間はアイコンタクトを取って頷き合うと、同じような構えを取った後に悟飯に向けて駆ける。そして、その距離を詰めると拳撃のラッシュを放ってきた。
片腕のみで何とか彼らの攻撃を捌いていく悟飯だが、攻撃のスピードがそれまでを凌駕している上に、2人の息が恐ろしいくらいにピッタリであった。互いのやりたいことを把握しきっているし、攻撃のタイミングもズレなく合わせている。元々、血の繋がっていた双子の姉弟だからこそやれること。これぞ、阿吽の呼吸だ。
一人一人の本気が悟飯を凌駕しているのだから、彼らがやる気になれば、悟飯がどうなるのかは分かりきったことである。
「ぐあっ!?」
2人が同時に繰り出したフックで吹き飛んだ悟飯は、更に吹き飛んだ先に回り込んだ17号のドロップキックによって地面に叩き落とされてしまう。
背中を強打したことで肺の中の空気を吐き出させられ、地面にはたき落とされた羽虫のように身動きの取れない悟飯に、17号と18号は最後の攻撃を叩き込まんとする。
「終わりにしてやるよ、孫悟飯。正直しつこくて仕方がなかった。でも、もうお前の顔を見ることもない。そう思うと清々する」
17号が、自分の掌を悟飯の方に向けながら言う。本人の言う通り、悟飯の存在が余程しつこかったのだろう。ゲームにおいて、今まで自分の苦戦していたステージを何百、何千回とやった末にクリア出来た時のように彼の笑顔は爽やかだった。
「随分と粘ったけれど、もう終わりだよ。安心してよ、すぐにお仲間の所に送ってあげるからさ」
18号も彼の隣に立ち、同じように悟飯に向けて掌を向ける。悟飯に死を宣告する彼女の発言は、まさに死神そのものだ。
……そして、彼らはエネルギー弾を悟飯に向けて無数に繰り出すことで、今もなお降り注ぐ雨以上に強く、激しいエネルギー弾の雨を降らせた。
「ぐあ……ああっ……!」
業火のように燃え盛っていた悟飯の命の灯火が、今まさに風前のそれと化す。その勢いを失くし、冷風に晒されて今にも消え去らんとしていた。
自分の中の何かが切れて、体中の力が抜けていくことを感じ取った悟飯は、自分の死を察した。
死の間際の人間には、お迎え現象というものが起こるが、悟飯はそれを体験していた。今、目の前に既に死んだはずの父親である悟空や、かけがえのない師匠であるピッコロがいるのだ。
2人とも、誇らしそうな笑顔だった。「もうお前は十分に頑張った。よくやった」と褒めてくれている気さえした。
その最中、急激に体の力が抜け落ちた。超サイヤ人を維持出来る力すらもなくなってしまったのだと悟った悟飯は、希望を託した少年であり、弟子でもある、あのベジータの息子……トランクスのことを思った。
(トランクス……すまない……。オレはここまでのようだ……。地球の平和はキミに託した……!キミならやれる。キミは、戦闘民族サイヤ人の王子だった、ベジータさんの血を引いているんだから……!キミが……最後の、希望だ…………)
己の弟子に希望を託した悟飯の脳裏に浮かぶのは、母の顔。今も自分の帰りを待ってくれているであろう彼女に内心で謝罪の言葉を溢しながら、彼は完全に意識を閉ざした。
……孫悟飯は散った。全てを託された1人の戦士として、その希望を弟子に託し、彼は闘い抜き、命を散らした。若者としてあまりに悲惨な人生を送ったが、彼の人生は1人の戦士としてまさに誇り高いものであった。
彼の意志は今、1人の少年に……トランクスに受け継がれたことだろう。
★
遥か彼方の地平線まで夜が広がっているかのように閉ざされた意識の中、悟飯は再び悟空とピッコロの姿を見た。
悟空は悟飯に歩み寄ると、彼の頭を撫でながら申し訳なさと嬉しさの混じった声で言った。
「悟飯……よく頑張ったな。オラが真っ先に死んじまったばかりに、全部背負わせちまってすまねえ」
ピッコロも悟空の隣に並び立ちながら、悟飯の肩に手を置いて、悟飯の師として嬉しさを前面に出した様子で言う。
「弱虫だったガキの頃が嘘のようだ。本当に強くなったな、悟飯。お前は……オレの誇りだ」
自分の尊敬している人達に強さを認めてもらえた悟飯の中に、言い表しようもない程の安堵と喜びが押し寄せて、涙が溢れそうになった。
今なら、1人の戦士でなく、ただの孫悟飯としても振る舞える気がした。
「お父さん……ピッコロさん……。オレは……
1人静かに涙を流す悟飯を、悟空は抱きしめる。久しぶりに直で感じた父の温もりと偉大さは、悟飯に大きな安堵を抱かせた。
悟飯にとって、こんなに優しい温もりを感じるのは子供の頃以来だった。
「あれっ、もう時間か」
今や懐かしい、父の呆けたような声が聞こえたと同時に顔を上げると、悟空とピッコロの体は透けていた。
「もっとお前と話してやりたいんだが……悟飯、オレ達はお前を見送りに来たんだ」
悟飯といる時間を惜しむように笑うと、ピッコロは言う。
何でも、あの世から悟飯の闘いを見届けていたのはいいが、彼の命が絶たれたのを目にしたと同時に、何者かも分からない女性の声が聞こえたのだそうだ。
「彼には、また新たな人生が待ち受けています。お二人が見送ってあげてください」と。そんな声が聞こえたらしい。
その声に導かれてこの真っ暗な空間に辿り着いたとのことだった。
「詳しくは分からないが、悟飯にはまだ役目があるんじゃないか」と悟空が笑いながら言った瞬間、真っ暗な空間の中に一条の光が差し込んだ。
「あれは……」
外の世界を初めて見た子供のようにして、好奇心に満ちた瞳で光の差し込む方を見た悟飯。
そうしているうちに、この先が自分の新たに歩む道なのだと……彼は不思議とそう思った。
そんな彼の心情を察したのか、悟空とピッコロは顔を見合わせて微笑み、悟飯の背中を押してやった。
「行ってこい、悟飯。自分のやること、全部やり終えたらまた戻ってこいよ。オラもピッコロもずっと待ってるからな」
「ああ、また立派になって戻ってこい。クリリンや天津飯達も向こうで待っているからな」
……昔からそうだった。悟飯にとって、悟空とピッコロは自分の背中を押してくれる存在。彼らがいてくれるからこそ、悟飯は強くなれた。
(ピッコロさんにもお父さんにも……まだまだ敵わないな)
そんな彼らの偉大さには一生敵わなそうだ、と思いながら、悟飯はありったけの笑顔を向けてサムズアップする。
「行ってきます、お父さん、ピッコロさん!」
2人もまたサムズアップで返してくれたのを見ると、悟飯は振り返ることなく光の中へと踏み込んでいく。
「……はは、年はとりたくねえな」
空間の中には、嬉しさに満ちた声を絞り出しながら、眉間を押さえては涙を拭う悟空の姿と彼の肩にそっと手を置いてやるピッコロの姿だけが残っていたのだった。
★
光に飛び込んですぐ、悟飯は心地いい微睡みに襲われて再び意識を失った。
ふと目を開けてみると、なんということだろう。凄く安堵した様子のかつての母親そっくりの女性が目に入ったではないか。その周囲を見渡してみると、白衣姿の女性が4人、同じように目に入った。いずれもおもちゃを買ってもらった時の子供のようにしてパァァッと笑顔を弾けさせているが……今はどういった状況なのだろうか、と悟飯は思った。
何一つ状況を掴めない悟飯だったが、次の瞬間に白衣姿の女性の1人が言った一言で、即座に状況を掴んだ。
「孫さん、
(えっ!?産まれた!?もしかしてオレ……)
「おぎゃあああああ!!!(あ、赤ちゃんになってるぅぅぅぅぅぅぅ!?)」
まさに驚天動地。この言葉を用いて褒め称えられた、李白の詩文の才能のように驚くべきことである。非現実的な状況である故に、自分の置かれていた状況下ではドラゴンボールが使えなかったことすらも忘れて、誰かドラゴンボールを使って、オレの年齢を退行させるいたずらでもしたんじゃないだろうな、と疑った。
悟飯の驚きは産声の大きさにも表れていたようだ。彼を抱える、かつての母そっくりな女性は圧倒されたようにキョトンとした後に、慈悲深い笑みを浮かべて彼を、壊れ物でも扱うかのようにそっと抱きしめた。
「元気いっぱいだね……。良かった、無事に産まれてきてくれて……」
「無事に産まれたみたいだな。よく頑張った、美空。流石オレの嫁さんだ」
今度は、かつての父親そっくりな声がした為、美空と呼ばれた女性に釣られて声のした方を見てみると……声のみならず、姿までかつての父親な男性がいた。彼の姿を見ると、美空が彼のことを「悟空さん」と呼んだ為、名前までも全く同じのようである。
(お父さんとお母さんそっくりだけれど……違う。雰囲気は少しだけれど、言葉遣いは全然違うもんな)
「お父さんだぞ〜」と、赤ん坊をあやすに相応しい人懐っこい印象の笑みを浮かべる男性を見ながら、悟飯はそう思った。
ふと、美空が首を傾げながら悟空に尋ねる。
「悟空さん。この子の名前、どうする……?」
彼女に尋ねられた悟空は、悟飯を抱き上げて、かつての父親を彷彿とさせる朗らかな笑みを浮かべて迷わず答えた。
「へへ、ずっと決めてたことなんだ。男の子が生まれたら、死んじまった父ちゃん、母ちゃんの代わりにオレを育ててくれていた、祖父ちゃんの名前をつけるんだってな。そこに
白い歯を見せつけ、太陽なのかと錯覚する程に眩しい笑みを浮かべて名付けられると同時に、悟飯の中で2人が今世の両親なのだという自覚が芽生えた。
まだまだ分からないことは多いものの……これより孫悟飯、第二の人生が始まる。
これは、かつて託された希望を次へと繋いで散った戦士、孫悟飯が誰かの希望となる為にヒーローとして歩み続ける物語だ。
納得がいかず、消去した3作目の代わりと言いますか……そんな感じです。
度々思います。何故にドラゴンボールとヒロアカのクロスオーバー作品が少ないのだろう……と。やはり、パワーバランスの問題なんでしょうか?
私がジャンプ作品の中で最も好きな「ドラゴンボール」と、それに次いで好きな「僕のヒーローアカデミア」。
この二つがクロスオーバーした作品がもっと見たいなあ……。じゃあ、自分で作っちまえと、そんな考えに至って執筆した作品でございます。
他の二作品より更新速度は遅いかもしれませんが、よろしくお願いします!