希望を託した戦士のヒーローアカデミア   作:白華虚

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2話 孫悟飯:オリジン(前編)

 光陰矢の如し。時が経つのは非常に早いもので、悟飯が生まれ落ちてから、既に15年の時が経過していた。

 

 今世も悟飯は元気に生きている。やはり誰かを守る為には戦う必要があるのだと、彼はとある事件をきっかけに再認識した。そのとある事件の際に、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものの……彼は依然元気だ。

 

 そして、今日も今日とて彼は己を鍛え上げる為の修行を行っていた。

 

 その場所は……彼の自宅に備わっている道場である。木材で建築されており、日本古来から伝わる武道を伝授するそれだと言われても納得すること間違いなしな威厳のある建物だ。

 広さは、一人暮らしを行う上で豊かな生活を送る為の指標とも言われている55㎡程。複数人で修行を行う為に使用したとしても十分な広さであり、悟飯はいつもここを使用して存分に修行を繰り広げているのだ。

 

 因みにだが、その強度は……この世界において、No.1ヒーローだとか言われる男が全力で暴れたとしても、全く損傷が無い程だと建築会社や国が箔をつけている。それ故、彼の家の道場は、ある特殊能力を使用することを許可されている特別な施設でもある。まさに、要塞や戦国大名が建てさせた強固な城だと例えられる強度だ。

 

 閑話休題。そんな立派な道場の中で、悟飯は己の父である、悟空と現在進行形で修行を行っている。

 

「だあっ!」

 

「でりゃあっ!」

 

 悟空の繰り出した拳を、悟飯は顔を逸らすという最小限の動きだけで避けると、反撃として義手となっている左腕の方で弧を描きながら拳を振り抜く。

 悟空もまた、上半身を逸らすことで彼の拳を避ける。そして、その勢いを利用したままサマーソルトキックを繰り出した。まさしく、自分の体の動き方を完全に把握しているからこそ繰り出せる蹴り。その軽やかさは、まるで風そのものであるかのようだ。

 

 ここまでの動きをされると、そのまま彼の繰り出した蹴りが顎に命中してもおかしくないのだが……悟飯には前世の経験だってある。彼は、これに易々やられる程未熟な男ではなかった。

 

 自身から見て右の方向にサイドステップした悟飯は、黄色く輝く、掌サイズの球体のようなものを自身の掌に作り出すと、サマーソルトキックを繰り出し終えた悟空に向けて、右腕を振り抜いて球体をゼロ距離のところで命中させんとする。

 

 対する悟空もまた、同じような球体を掌に作り出すと……左腕を振るってそれを相殺した。相殺によって、それぞれの作った球体は破裂して爆発を起こす。その勢いを利用しながら、彼らは互いに後退すると、顔の前に両手の手根同士を合わせて構えを取る。

 

「か……め……」

 

「は……め……!」

 

 技の名前を一音一音発しながら、合わせた両手を体の右側へと移動させていき、それを腰の辺りで停止させる。その移動の最中、両掌の間には生命の力強さに溢れんかのような蒼いエネルギーが集中して、眩く輝く。

 その蒼い光は、悟飯と悟空……それぞれの熟練の武闘家とも言うべき、凛然たる顔を照らし出した。

 

 今もなお、悟飯はエネルギーの高まりを確かに感じ取っている。この技は、前世から馴染み深く、何度も自分の力になってくれた思い出の技。それが今世でも扱えることに悟飯は感謝した。

 

 キィィィィン……という、膨大なエネルギーを集めた発射直前のロケットが放ってでもいそうな音のみが道場に響き渡り、一瞬の静寂が流れる。

 そして。悟空が浮かべた不敵な笑みが、技を放つ合図となった。

 

「「波ァァァァァッ!!!」」

 

 阿吽の呼吸とも言うべき、全く同じタイミングと動作で放たれた技。その名も"かめはめ波"。ユーモアのある技名に乗せて、一直線に放たれた蒼い閃光がぶつかり合い、爆弾を凌ぐような轟音を立てながら相殺された。

 

 余程熱量のあるエネルギーなのだろう。爆発の巻き起こった場所には煙が漂い……それを腕で振り払って現れた悟空は、息子の成長に対する感心を露わに、笑顔を浮かべた。

 

「はは、本当に見違えたな、悟飯!今じゃオレともすっかり闘り合えるようになった」

 

 悟飯も、ふうっ、と一息吐きながらはにかんだような笑みを浮かべる。

 

「いえいえ……誠心誠意向き合って、オレに修行をつけてくれたお父さんのおかげですよ」

 

 昔からずっとそうだ。他人に対する感謝を忘れないし、常に謙虚である……。悟飯はそんな男だ。

 

 2人が笑い合って談笑を交わしていると、修行を終えたのを見計らってか、道場の入り口からチラリと愛らしい人形のように整った顔を覗かせた美空が声をかけてきた。

 

「毎朝毎朝頑張ってるね、2人揃って。そろそろご飯の時間にするよー!」

 

「おう、サンキュ。汗流したらすぐ行く!」

 

 食べ物に好き嫌いなどない悟飯にとっては、母の作る食事もまた楽しみである。

 

(修行で程よく体を動かした後の、お母さんのご飯が最高なんだよなあ)

 

 そんなことを考えながら、悟飯は幼い子供のように期待に満ちた笑顔を浮かべて、道場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、一つ余談を挟もう。

 

 結論から言うが、この世界はかつて悟飯の生きた世界とは全くもって別の世界である。サイヤ人やナメック星人といった異星人はいないし、人造人間という恐ろしい存在もいない。悟飯の置かれていた状況ではドラゴンボールを使えなかったので、ないも同然であったが……この世界には、そんな存在も単語もない。

 

 彼の生きた世界も十分に規格外なのだが、今世生まれ落ちた世界は、更に規格外であった。

 

 この世界の人間達は、総人口の8割が"個性"と呼ばれる特異体質に目覚めているのである。__改めて詳細を明かして言えば、悟飯の家の道場は、この"個性"の使用を公的に許可された特別な施設なのである__

 所謂(いわゆる)、超人社会というものだ。人間達は文字通りに進化を遂げ、水や炎を操ったり、風圧を放ったり、剣を作り出したり、単に腕を伸ばしたりと、コミックさながらな芸当を行えるようになったのだとか。

 更に言うと、非常に稀な例だが動物にそれが発現することもあるらしい。

 

 生物の進化について説いたのはダーウィンな訳だが……彼すらも、生物達がここまで進化するなど予想することは出来なかったであろう。

 

 人間が欲望の塊だというのは俗に言われることではあるが、そんな力を持ってみればどうなるかは簡単に想像がつくだろう。

 この力を使って世界を支配したいだとか、他を淘汰して自分が好きに生きられる社会を創りたいだとか、そんなことを考えて、"個性"を悪用する輩が現れ始める。

 

 人々はそんな輩を恐れ、彼らはいつしか犯罪者となり、(ヴィラン)と呼ばれるようになった。

 

 そして、そんな輩を知識のある人間が放っておくのかと言われれば断じて否だ。

 強い正義感や勇気のある人物達が彼らを倒し、人々を"救ける"という偉大な行動を始めたのだ。最初こそ違法だとされていたそれは、いずれ社会的に認められ……そういった行動を取る者を人々はヒーローと呼んで讃えるようになった。

 

 この世界は、そんな架空(ゆめ)を現実にした世界なのである。

 

 当然ながら、そんな世界観であることに気がついた際、悟飯は大変驚いた。

 一般的に、ヒーローとは普通の人を超える力、知識、技術を持ち、それらを用いて一般社会において有益とされる行為を行ったり、武勇や才智に優れ、普通の人には出来ない事柄を成し遂げる人だとされる英雄や人そのものを指す言葉であるが……この世界では、あくまで(ヴィラン)を取り締まり、人々を救ける行為をする職業のことをそう呼ぶようだ。

 

 偉大な行為を行った選ばれし者のみが呼ばれるはずのヒーロー……。そういった存在があり溢れていることに初めは違和感があったが、今やすっかり慣れたものである。

 

 何せ、悟飯の身近にはその立場に立つ者がいるのだから。

 

 何を隠そう、彼の父親である悟空はれっきとしたプロヒーローなのだ。自分の事務所を持っており、格闘ヒーロー"武神"として現役活動中である。

 彼は、ビルボードチャートというヒーローのランキングにおいて、毎回No.4入りを果たしている優秀なヒーローで、いつだって人を救けることに全力を懸ける偉大な人物だ。自分に厳しく、他人には優しい。そんな自分をとことん鍛え上げる武闘家や戦士としての性質も持ち合わせている。その一方で素直で真面目且つ、天然な何処か子供っぽい純粋な一面もある。

 

 それ故か、彼を慕うヒーローや市民達は多く、人気はNo.2であるエンデヴァーより遥かに上だし、単純な強さも同じくだ。

 

 悟飯は、本質的に言えばどんな悪人であろうと傷つけたくなく、闘うことも苦手な優しい性格をしている。やむを得ない時は闘うものの、俗に言う平和主義なのだ。

 (ヴィラン)を倒すヒーローにおいても同じことが言えるのだが、前世と共通して敵を撃退するには結局は自分の力を振るい、それを傷つけなければならない。

 

 だから、悟飯は積極的にヒーローを目指そうとは思わなかったし、悟空や美空も決してそれを強制したりはしなかった。悟飯自身も、身近にあるものを守れる力さえあれば十分だと考えていた。

 とは言え、彼はある事件をきっかけにして、父を超える偉大なヒーローを目指すようになるのだが……それは後々の話である。

 

 閑話休題。"個性"を持つ人間が蔓延る、超人社会となった現在ではあるが、それを持つのはあくまで世界総人口の8割。裏を返せば、それを持たない例外の人間もいるということだ。

 

 "個性"を持たない人間達は無個性と呼ばれており、"個性"を持つ人間達に(さいな)まれ、淘汰され、社会の除け者にされるという何とも忌々しい傾向がある。

 

 その典型的な例として、彼ら無個性の人間もまたヒーローに憧れるが、それをすれば「無理だ」と蔑まれるし、蔑みを跳ね除けて努力をしていたとしても馬鹿にされ、嘲笑われるといった、無個性の人間を無意識であろうが故意であろうが見下す現象があるのだ。

 

 人を見下す心理として、他人が人より劣っている点を見つけ出して安心したいというものがあるそうだが、なんとも悲しく、虚しいものである。同じ人間同士だというのに、かつての自分達は無個性と同じ立場だったというのに何と酷い話だろうか。彼らの扱いは、言わば障がい者のようなものだ。

 

 因みにだが、母の美空は"保湿"という"個性"を持つものの、悟飯や父の悟空はその2割の人間にあたる。

 ならば、何故悟空がNo.4ヒーローという地位に辿り着けたのか。彼の死に物狂いの鍛練の成果と言われればまさにその通りなのだが……彼がこの地位に辿り着けたのにはもう一つ理由があり、彼の家系が関係している。

 

 彼の家系である孫家は、非常に特殊な家系だ。超常黎明期を迎えてもなお、生を授かった男児達は誰一人"個性"を持たず、無個性であった。孫家の人間にとって、無個性であることはもはや運命なのである。勿論、悟飯や悟空も例外ではなかった。

 

 そんな彼らは、超常黎明期以前から代々とある技術を引き継いできている。その技術こそが"気"。己に秘められた潜在エネルギー(生命エネルギー)をオーラとして顕在化させ、それを自在に練り操る技術だ。

 

 この技術は、前世の記憶を持つ悟飯にとっては大変馴染み深いものであった。己の体内に秘められた、潜在エネルギーでもあり、生命エネルギーでもあり、戦闘力でもある"気"。本質は大体それと同じようなものであるようだ。ただし、生命エネルギーである故か、今世ではそれを開放することで身体能力を引き上げたり、それの顕在化によって若さを保てるというようなことが証明されてもいる。

 

 ヒーローを目指す、目指さないに関わらず、"気"の技術を継承することは、孫家の人間が賜った役目だ。故に、悟飯もまた悟空から"気"の扱い方を教わったのだが……体が覚えているとはよく言ったものだ。

 

 前世から馴染み深い力であったのもあって、悟飯はそれの扱い方を習うようになった4歳の頃から凄まじい"気"のコントロールを身につけた。そのあまりのセンスに悟空が驚いたのは言うまでもないし、「こりゃとんでもない才能だ」と自分を超えてくれることを確信して、1人の親として喜ばしくもあった。

 

 この"気"というのは"個性"ではなく、人間誰しもが持ち合わせる潜在エネルギーを顕在化させて、操るだけの技術である為、無個性だろうが"個性"持ちであろうが扱うことが可能だ。

 

 しかし、何と嘆かわしいことか。これを技術だと知っている者は、一般人において全くと言っていいほどいないし、プロヒーローでも一部の者しかいない。悟空や悟飯自身もそうだが、自分が無個性だと伝えると大抵信じてもらえない傾向にあるのだそうだ。悟空に至っては、"気"のことを社会に広める為に、その扱い方や会得方法、原理などについて分析した書籍を出版しているというのにそういった悲しい現状がある。

 まさに、木を見て森を見ず。"個性"を持つか持たないかという小さなことにだけ目を向けた結果、社会の全体を見る目がなくなり、見識が低くなっている証拠だ。井の中の蛙大海を知らず、とも言えるであろうが。

 

 "気"のおかげもあってか、本人がやる気になると強いからかは定かではないが、悟飯は無個性ながらも他人に淘汰されるようなことがなかった。彼は、一風変わった環境に囲まれながらも幸せな日々を過ごしていた。

 

 今日も今日とて、家族3人揃って朝食をいただき、自分の通う中学校へと向かうところだ。

 

「お父さんもお仕事頑張ってください!」

 

「おう、悟飯も勉強頑張ってこいよ!」

 

 制服に身を包み、玄関に立った悟飯が声を上げる。大抵、彼が学校へと向かった後に悟空は自分の経営するヒーロー事務所へと向かう訳だが、行ってきますの挨拶は、悟飯にとって彼の見送りも兼ねているのだ。

 

 今日も変わらず元気そうな悟飯を見て、悟空は春の穏やかな木漏れ日のような暖かい笑みを浮かべる。もしかすると、彼としても悟飯が無個性だからと除け者にされていない事実に安心しているのかもしれない。

 

 その後、悟空は父親らしい暖かい笑みから一変。誰かに恋心を抱く級友を揶揄う高校生のようにニヤニヤとしながら、悟飯の肩に腕を乗せて耳打ちする。

 

「悟飯、百ちゃんと何か進捗あったら報告するんだぞ」

 

「なっ、ななな、何言ってるんですか!?」

 

 「百ちゃん」とは、悟飯の長年の幼馴染である少女の名前なのだが……予め言っておくと、悟飯とその少女はまだ幼馴染であり、そういった関係ではない。前世、色恋沙汰に時間を割く暇もなかった為か、悟飯は頬を微かに赤く染めて父の方を慌てて振り向く。

 

「進捗も何も、百は大事な幼馴染です!」

 

「ほ〜、そっかそっか」

 

 顔を赤くしながら否定する悟飯の様子は、まさに恋をしていることを言い当てられた思春期の少年のそれである。本人は自分と同じく隠し事が得意な性格ではないし、つくべき嘘以外はつかないだろうし、言っていることは事実なのであろうが……。

 

(多少なりとも意識はしてんだろうなあ)

 

 悟空はそう確信しながら、悟飯の少年らしい一面が見れたことにホッとしていた。

 

 そんな2人の様子をいつから窺っていたのだろうか。美空が今朝道場を訪ねた時のようにして壁の向こうから顔を覗かせ、くすくすと笑いながら助け舟を出してきた。

 

「悟空さん、程々にしてあげてね。悟飯ったら、昔からそういうのには疎いんだから」

 

 母の発言に、悟飯はその顔を熟れかけた林檎のレベルにまで赤く染めると、ドアノブに手を掛けてから恥ずかしさを堪えるような顔を向けた。

 

「お父さんもお母さんも2人揃ってやめてください……!じゃあ、行ってきます!」

 

 そして、彼は照れ隠しのようにして挨拶をすると、ドアを開けて中学校へと向かっていくのだった。

 

「気ィつけろよー!」

 

「いってらっしゃーい!」

 

 そんな悟飯の背中を、両親は微笑ましく見守り、手を振りながら暖かく見送ったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 悟飯の自宅から徒歩で数分後。彼は、とんでもない豪邸の前に来ていた。

 

 そこいらにある小学校やら中学校の体育館、もしくはそこの校舎そのものと同じくらいの規模の建物があり、その周囲はレンガの壁で囲われていて、鉄の扉をあしらった立派な門もある。真正面には御大層に立派な噴水も配置されている。

 その景色は、西洋でよく見られるような豪邸そのものだ。悟飯は毎度ながら、ここに来ると自分が貴族社会の中にタイムスリップしたかのように錯覚する。

 

 水に慣れるとは言うが、こればかりは新たな土地で飲む水とは違って簡単に慣れないものだ。

 

「!悟飯さん、おはようございます!」

 

 そんな豪邸の景色を見ながら、その壮大さにいつもと変わらず浸っていると、彼の存在に気がついた少女が、人懐っこい猫が心開いて甘える時のようなふにゃんとした笑みを浮かべて、声をかけてきた。

 

 少女は、長い黒髪を後頭部でまとめてポニーテールの髪型をしている。肌は血色が良くはあるものの、それを考えたとしても他と比べると白い方であった。__活発に外で遊んだりするよりも、屋内でお淑やかに過ごす方を好むのだろうか__

 更に黒い瞳を持つ、吊り目気味なキリリとした切れ長の目が特徴である彼女の顔付きは、非常に端正だ。彼女を見た男性の10人中10人全員が彼女のことを「可愛い」だとか「美人だ」って褒めるだろうし、さながら"立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花"という女性の美しさを花に例えた言葉をたった1人で体現しているであろう。

 

 吊り目気味であるのと、普段の立ち振る舞いが凛としているからか、多くの人は彼女を強気な大和撫子風の少女だと考えるはずだ。

 しかし、なんということだろう。彼女は悟飯に向けて年頃の少女らしい柔らかい笑みを向けたのだ。これぞまさにギャップ萌え。多くの男達がハートを射抜かれ、恋心を刺激されるに違いない。

 

「ああ、おはよう。百」

 

 そんな笑顔を向けられた悟飯も、もはや恋人に向けるそれだと断言していいくらいに朗らかな笑みを向けて、手を振った。

 

 実は、この少女こそが彼の幼馴染なのだ。名前を八百万百と言う。文武両道、高身長で博識、そして可愛らしい容貌とモデルのように発育の良い体……。そんな少女が幼馴染だと知れば、余程恵まれていない限り、世の中の男達は嫉妬すること間違いなしだろう。

 

 八百万は、いつも通りに悟飯の左腕に自分の腕を嬉しそうに絡ませる。そんな彼女に向けて悟飯も微笑み、彼女の頭を撫でてあげた後、足並みを揃えて歩き始めた。こんな様子で、いつも自分達の通っている中学校に向かう彼らなのだが……明らかに幼馴染以上の距離感である。大事なことだから予め言っておくが、彼らは決して恋人同士ではないのだ。

 

 肩を並べて歩きながら、彼女は義手となった悟飯の左腕を、壊れ物を扱うように優しく撫でては尋ねる。

 

「悟飯さんは、今朝も修行をされたのですか?」

 

 首を傾げながら尋ねる彼女に、悟飯は肯定を示しながら拳を握った。

 

「勿論。毎日の日課だしね。それに……そろそろ本腰入れていかないと」

 

 悟飯の返答に対し、感心して微笑みを向けた八百万は同意しながら答えた。

 

「ふふ、そうですわね……。近いですものね、雄英高校の入試が」

 

「ああ」

 

 国立雄英高等学校。国内最大級のヒーロー養成校であり、偉大なヒーローを目指すというのならば必ず通ることになる登竜門だ。

 オールマイトやエンデヴァー、ベストジーニストに、悟飯の父でもある悟空。数多くの人気ヒーローを輩出した名門校だが……偏差値は79。更に、倍率はそこのヒーロー科のみで毎年毎年300倍を叩き出すという超難関校でもある。

 

 悟飯と八百万の目指す先は、そんな偉大なる場所なのだ。無論、彼らも多大な努力を積んでいる最中だが、通るとは限らない現実もある。

 まさに、研鑽を積んで護衛を任された優秀な騎士のみにしか立ち入れない王座の間のようにして、通れる人物には限りがある訳だ。

 

 悟飯達の通う中学校には、雄英から推薦入試の資格が授けられた。その候補は、学校内でとびきり優秀な成績を収めている悟飯と八百万だったのだが……レディファーストとはよく言われるものであり、悟飯はその道を選んだ。こうして、彼の期待も背負い、八百万は雄英の推薦入試を受けることに決めたのだ。

 

「悟飯さんのご期待に添えるように、全力を尽くします。必ずや受かって、悟飯を支えられる立派なプロヒーローになりますわ」

 

 左腕に向けていた目線を悟飯の方に向け、彼女はやる気に満ちた表情で言う。

 

 彼女のやる気を感じ取った悟飯は、微笑みを向ける。

 

「ありがとう、百。オレも応援してるよ」

 

「ありがとうございます。お互いに、ですわね」

 

(オレだって、二度と百に怖い思いをさせない為に、泣かせない為に……強く、偉大なヒーローになるんだ!)

 

 会話を交わしながら、悟飯は密かに右拳を握りしめて強い意志をその黒い瞳に宿していた。

 

 幼馴染であると共に、自分がヒーローを目指すことになった原点でもある少女……。悟飯にとっての彼女は、そんな存在なのだ。

 

 悟飯の瞳を見ていた八百万は、彼に対する畏敬の念を抱く、1人のヒーローに純粋に憧れる少女のような笑みを浮かべたが、その直後。彼の左腕に再び目を向けて、どこか悲しげな目をしていた。

 

 ……そもそも、悟飯がどうやって左腕を失うに至ったのか。それを語るには、彼と八百万の出会いにまで時間を遡る必要がある。


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