希望を託した戦士のヒーローアカデミア   作:白華虚

6 / 6
6話 合格を目指して!解き放て、超かめはめ波!

 実技試験が始まってから、既に4分と少しの時間が経過していた。誰よりも早く飛び出した悟飯。対して、己の拳で仮想(ヴィラン)を粉砕した彼の強さに唖然としていた生徒達であったが、試験監督を務める教師の声で慌てて動き始めた。誰しもが後れを取り戻そうと死に物狂いで仮想(ヴィラン)を探し回っていた。

 

 焦りながらも、遅れを取り戻そうと奮闘する受験生がここにもいた。

 

「これで……32Pっ!」

 

 己の獲得したポイントに、たった今破壊した仮想(ヴィラン)のポイントを加算させながら宣言する少年は、一見すると地味で普通な顔付きをしていた。ただ……彼には、他の誰にもない唯一無二の特徴がある。

 

 それは、彼の腰の辺りに生えている尻尾だ。丸太並みに太く、ボディービルダーの剛腕並みに鍛え上げられた強靭な尻尾。この尻尾こそが、この少年の"個性"だ。彼の名を、尾白猿夫という。その名に「猿」の字が含まれているのは伊達ではない。

 事実、彼はこれまでも仮想(ヴィラン)をヒット&アウェイで確実に叩きのめし、今も都会を模した試験会場の電灯や案内板の一部に尻尾を巻き付け、巻き付けた部分を解いて遠心力を利用しながら移動していた。その様は、まさに密林の中に住む猿そのものである。

 

 彼の脳裏に思い浮かぶのは、額の左側から左頬にかけて、鋭い刃物で切り付けられたかのような傷痕を残した精悍な顔立ちをした少年の顔。誰よりも早く飛び出したのだから、自分よりも遥かに多くのポイントを稼いでいるに違いない。仮想(ヴィラン)を一撃で粉砕する強さと、それらを粉砕した後に次のターゲットを求めて白い炎のようなオーラを放出しながら飛んでいくスピードが、尾白の推測を裏付けていた。

 

 だからこそ、後れをとる訳にはいかない。何より、同年代にあれほどに凄い男がいるのだと知った以上、張り切る他ないではないか。

 

「雄英には、彼のような凄い人が来ている……!ただでさえ、俺の"個性"は冴えないんだ。自分の実力で乗り越えるしかないっ!!!」

 

 ――尾白は思い出す。

 

 幼い頃から"個性"が地味だと馬鹿にされ、見た目も普通で大方ヒーローとして売れないだろうと嘲笑われ続けたことを。その度に何度悔しい思いをしたことか……。だからこそ、そんな風に自分を馬鹿にした輩を見返してやろうとストイックに己の体とその一部である尻尾を鍛え続けてきた。

 

 馬鹿にされた時の悔しさこそが、彼の原点(オリジン)。その悔しさを思い出す度に活力が湧き上がり、何でも出来る気がしてくる。

 

 "個性"が地味、見た目も地味。それなら、実力で這い上がるしかない。人並みならぬ程に積んできた努力を水の泡にしない為にも、尾白は必死で戦っていた。

 

 その後もしなやか且つ強靭な尻尾を鞭のように振るい、順調に仮想(ヴィラン)を破壊してポイントを稼いでいく尾白であったが……。

 

「っく……ここで体力の消耗が響いてくるなんて……!こんな所で立ち止まる訳にはいかないのに!」

 

 体力の消耗が増えてきた影響か、遠距離攻撃持ちの3Pが与えられた仮想(ヴィラン)に苦戦していた。

 背中に取り付けられた2対の発射台から大量のミサイルを放ってくるそれは、戦車というに相応しい。それがある程度自身を追尾する形で迫ってくるのだから恐ろしいものだ。更に、それに備わっているのは申し分ない攻撃力のみではない。申し分ない防御力も備わっている。他の2体よりも遥かに固く、丈夫な装甲。それらよりも動きは遅いが、代わりに半端な攻撃では破壊出来ないように出来ている。破壊する為の攻撃。その最適解を加味した上で、考えながら攻撃しなければならない。だからこそ、攻略難易度が一番上のものとして設定されているのだ。

 

 息を整えようとする尾白に、容赦なく次々とミサイルが迫る。尻尾で何とか弾こうにもそう上手くいく芸当ではなく、逃げることを余儀なくされる。彼が苦戦しているのは明らかであった。

 

 そんな彼に手を差し伸べんとする者がいた。

 

 突如、上空から黄色に輝く光の弾が彼の元に降り注いでくる。それは尾白を追尾するミサイルに向けて飛んでいき、爆ぜさせた。

 

「ッ!?」

 

 何が起こったのか理解出来ず、咄嗟に光の弾が飛んできた方向を振り返る。

 

 その先にあったのは……尾白の方へ向けて掌を(かざ)し、空中に浮いている悟飯の姿。

 

 悟飯は、着地すると同時に3Pを見据えながら言った。

 

「キミ!3Pの放つミサイルは、オレが撃ち落とす!本体の撃破に集中するんだ!」

 

 試験中なら、誰しもが自分のことを優先したがるものだ。自身の合格が、夢がかかっているのだから、そうなるのは無理もない話。

 

 だが……どうしたことだ。目の前の少年は、他人に気を遣う余裕があるではないか。合格することへの確信ゆえか、元々の善人としての性か。他人の心を読める訳ではない為、尾白にはどちらなのか分からない。それでも、恐らくは後者だろうと彼は思った。

 

「ああ、済まない……!」

 

 彼の善意から来る行動に心の底から感謝し、尾白は3Pを撃破する為に動き出した。周囲の木や電灯を利用して、木から木へと跳び移るように3Pを翻弄しながら、その懐へ接近。標的を撃墜すると言わんばかりに3Pの放つミサイルが再び狙いを定め、猛威を振るわんとする。しかし、発射されたそれは決して尾白に命中しないし、迫りもしない。

 

「はあっ!」

 

 何故ならば、ミサイルが発射されたその瞬間、悟飯が軌道を見切って張り巡らされた蜘蛛の巣のように高密度の気弾を発射して相殺するからだ。ミサイル一つも逃さない高密度。それなのに、尾白には一発も攻撃を当てない正確さを損なうことがない。

 あまりに子供とは思えない程の高度な技術に、尾白は舌を巻いた。

 

 悟飯の正確な援護により、尾白は遂に3Pの懐に潜り込んだ。

 

「でぇりゃあっ!」

 

 地に足を付け、腰の入った状態で繰り出された左脚での中段回し蹴り、龍の尾の如く振われた強靭な尻尾の殴打、右足での上段後ろ回し蹴りの三段打撃は、3Pの硬い装甲を貫いて見事にひしゃげさせた。

 

(た、倒せた……!)

 

 助力を受けながらも、目の前に立ち塞がっていた壁を乗り越えられた。その達成感に笑みを浮かべて、グッと拳を握りながら尾白は悟飯に向けて頭を下げた。

 

「ありがとう。君のおかげで救かった」

 

「いや、礼を言われる程のことはしてないさ。ヒーローを目指す者同士、救け合いも大事だからね」

 

 そんな彼を救けることが出来て良かったと笑いながら、悟飯は手を差し出して固く握手を交わした。

 

 その後、悟飯は尾白の腰の辺りから生える強靭な尻尾に視線を移して尋ねた。

 

「それにしても……その強靭な尻尾がキミの"個性"なのかい?」

 

「ああ、見ての通りだよ。分かりやすいけれど……地味で冴えないってよく言われるんだ。単なる尻尾で何が出来るんだとか言われてきたけれど、そんな奴らを見返そうと思ってさ。必死で鍛えてここまで来た」

 

 苦笑した後、一転して強い意志を宿した瞳で握った拳を更に強く握りしめながら尾白は言った。そこから、彼が幾度も馬鹿にされつつも、それを跳ね除けて己を鍛え続けてきた長い道のりを垣間見ることが出来た。

 

 尾白から、微かな"個性"に対するコンプレックスを感じ取った悟飯は彼を勇気付けることにした。

 

「確かに冴えないかもしれないけど……逆に言えば、キミの"個性"はシンプルだ。冴えなくてシンプルだからこそ、オレは強いと思うけどな」

 

「えっ?」

 

 これまで出会ってきた他人は、大概が"個性"のことを馬鹿にしてきた。その形が直接的か遠回しかという違いはあれど、大概そうだった。例外と言えば、両親と心優しい善人のみ。赤の他人である悟飯から自分の"個性"を認めてくれるような言葉が出てきたのは、完全に予想外のことで尾白は呆けた声を上げた。

 

 悟飯は、指先に作り出した気弾を、そこに乗せたバスケットボールのように器用に回転させながら続ける。

 

「オレのお父さんの受け売りなんだけどさ、『小細工混じりで複雑な"個性"より、地味でもシンプルで使い勝手の良い"個性"の方が強えと思う』だってさ。勿論、オレだってそう思ってる」

 

「考え方じゃ脳筋みたいだけど……オレは思うんだ。そんな地味で冴えないって言われる"個性"が強個性を打ち破るのはカッコいいってね」

 

 自分の"個性"が認められた。尾白はそのことが嬉しくなった。"個性"を認めてくれた悟飯の存在は、彼にとっての救いに違いなかった。

 

「地味でシンプルだからこそ強い……か。言われたこともなかったな。ありがとう、励みになるよ」

 

 不思議とやる気が湧いてくる。これも、自分の半身と言っても過言ではない"個性"を認めてもらえたからだろうか。

 

 笑みを浮かべ、自分はまだまだやれると信じてやまない表情になった尾白を見て、悟飯もまた、余計なお世話をして正解だったとしみじみ感じながら笑った。

 

「はは、そりゃ良かったよ。残り時間も半分近いけれど……お互い頑張ろうね」

 

「ああ!」

 

 彼らが互いの健闘を祈り合い、再び固く握手を交わした――その瞬間だった。

 

 突如、体の芯にまで響く程の重々しい地鳴りが轟き、辺りが激しく揺れた。

 

「何だ……!?地震か!?うわっ!?」

 

 その揺れでビルの一部が崩れて瓦礫となり、尾白に迫る。

 

「いや、多分……0Pだ」

 

 揺れの中で動ける人間はそういないことを鑑みた上で、悟飯は尾白に迫る瓦礫を気弾で爆破。軽く飛び散った礫をも消滅させながら答えた。

 

 覚悟の決まりきった黒い瞳で震源地であろう方向を見据える悟飯。彼のこれからを察したか、尾白がおずおずと尋ねた。

 

「…………念の為に聞くけどさ、0Pをどうする気なんだ?」

 

 悟飯は、体から白い炎のようなオーラを激しく噴き上げさせながら、空中に浮かびつつ答えた。

 

「破壊する!この揺れでヤツのデカさはよく分かった。こんなヤツがいたら……誰かが怪我をするかもしれない。最悪の場合、命を失うかもしれない。それなら、誰かが動かなくちゃな。ヤツを破壊するのはオレが請け負う!キミは、キミに出来ることをやってくれ!」

 

 そう言い残すと同時に、悟飯は頼んだよと言いたげにサムズアップする。直後、激しい風圧を巻き起こしながら、揺れを引き起こした元凶の方に向けてあっという間に飛んでいってしまった。

 

「……カッコいいな、彼奴……」

 

 今の自分はどんな顔なのだろう。ヒーローを目の前にした幼き頃の自分のように目を輝かせているんだろうか。そんなことを考えながら、尾白は無意識のうちに呟いていた。

 

 やはり、彼は凄い奴だったんだと確信しつつ、このままじっとしてなどいられない、と尾白は走り出す。

 

「そうだ、俺だってヒーローを目指してるんだ……!未熟な俺なりに出来ることは幾らでもあるはず!」

 

 その背中は、まさしくヒーロー志望に相応しい眩いやる気に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コイツが0P……」

 

 悟飯の見上げる先に、周囲に立つビル二つ分ほどの大きさを持つ巨大な鉄塊があった。

 

 見れば一眼で分かる。大きさもその装甲の硬さも、これまでの仮想(ヴィラン)とは比べ物にならない。

 顔面に当たる部位に取り付けられた赤い発光部位は、異界の魔物の恐ろしい眼光を放つ目のようだ。当然、大きさに比例して重さもとてつもない。その証拠に、それの手の置き場になっているビルは重さに耐えきれず、されるがままにその体に亀裂を走らせていた。

 

 脚部に取り付けられたキャタピラでビルを薙ぎ倒しながら進むその姿こそ……まさしく、弱き人間を蹂躙する兵器。その兵器こそが0Pの仮想敵だった。

 

 その0Pの進路を塞ぐかのように仁王立ちする悟飯に対し、他の受験生達は脱兎の如く逃げ惑う。周りのことなどいざ知らず、己の身の安全を優先して。

 

 街の被害なんぞ知ったことか、と進撃し続ける0Pの姿は……前世生きていた地球を襲った悪夢、人造人間17号と18号の姉弟の姿を彷彿とさせる。

 

(生憎……コイツのように街を破壊する輩には、昔から因縁があるんだ。ここで破壊させてもらうぞ!)

 

 意を決し、逃走を図る受験生の流れに反抗するように地面を蹴って走る。

 

 悟飯が人間や自動車を逸脱する速度で走り抜けて距離を詰めていく中、0Pが腕を振りかぶった。

 

 自分に狙いを定めてきたのかと警戒したが、それは違うのだとすぐに気が付いた。

 

 振りかぶる腕の角度と、首の向いている方向。そこから腕が振り抜かれるであろう場所を予測する。その高度な予測で割り出した位置に居たのは――

 

「ッ、あんただけでも逃げてっ!怪我してるその子を連れて!早くっ!」

 

「ッ、わ、分かった!」

 

 足を怪我したらしい少女を抱えた少年にそう一喝する、蜜柑の果実のように鮮やかなオレンジのサイドテールが特徴的な少女であった。

 

 ましてや、彼女は2人を逃がす為なのか、立ち上がってその場から動かない。深く腰を落として構える彼女であったが、その頬には冷や汗が垂れ、不安と恐怖を拭いきれていない様子だった。悟飯も、その目で彼女の腕が微かに震えているのを捉えていた。一見すると勇敢にも見えるが……本当は虚勢を張った子犬のようでか弱い。

 

 悟飯は誓った。ヒーローを目指すきっかけとなった残酷な事件が起こった日に幼馴染の八百万に限った話ではなく、他の誰にも怖い思いをさせたくないと。その為に父のような偉大なヒーローになるのだと。

 

 故に、彼女を見捨てることは決してなかった。

 

 0Pが腕を振るい、それを振り抜かんとする。空気を裂きながら猛然と迫るそれは、少女に命中――することはなく。

 

「つぁりゃあッ!」

 

 彼女の前に立ち塞がった悟飯の繰り出したアッパーカットによって、見事に消し飛んだ。単なるアッパーカットではない。その拳一点に"気"を集中させて増幅し、大幅に攻撃力を増加させたアッパーカット。その威力が0Pの防御力を貫き、その現象を引き起こしたのだ。

 

「え……!?どうなってるの……?」

 

 突然の出来事にサイドテールの少女は何度も瞬きをするしかない。脅威が去って気が緩んだ影響だろうか。終いには腰が抜けて、その場に崩れ落ちてしまった。

 

「キミ、伏せるんだ!……ずあっ!

 

「えっ!?わ、分かっ……きゃあっ!?」

 

 少女を守った悟飯は、0Pを消し飛ばす為に拳に集めて増幅した"気"を爆発させて全身レベルの開放へと昇華させた。

 

 少女が伏せるよりも前にそれを行った為、辺りに颯のような一陣の風が吹き荒れて、彼女は風圧に曝されてのけ反りかけてしまう。――咄嗟に交差した腕で身を固めて、凌いだようではあったが――

 

「さあて、やるか……!お父さんとの特訓の中で威力を増して、一段階レベルアップしたコイツを喰らわせてやる!」

 

 轟々と燃える烈火のような白いオーラを纏った悟飯が、両掌の手根を合わせる。そして……。

 

「超……か……め……は……め……!」

 

 十八番(オハコ)である必殺技の名を一語一句、丁寧に発しながら腰の辺りまで引いていく。同時に、掌と掌の間には眩しく輝く太陽のような生命の輝きが蓄積して、蒼く光り輝く球体を作り上げた。

 

 エネルギーが溜まりきった瞬間、目を見開く。目の前の標的を射殺すかのような覇気をその目から発しながら、彼は叫んだ。

 

「波ァァァァァッ!!!!!」

 

 天高く轟く咆哮と同時に凄絶なる生命の奔流が解き放たれて、閃光のように0Pに迫る。そして、その上半身を呑み込んだ閃光は、遥か上空に飛んでいき――()()()()()()()()()()()()

 

「ほ、本当に0Pを破壊した……!」

 

 その瞬間を偶然にも刮目した尾白は、唖然として呟く。

 

「す、すっごい……」

 

 その瞬間を一番近くで目に焼き付けた少女は、目を輝かせながら、自分もいつかはあんな輝きを放つのだと誓った。

 

「ふうっ……」

 

 火花のように悟飯の纏っていたオーラが弾け、構えを解くと同時に息を吐いた瞬間……。

 

『試験……終了っ!!』

 

 雄英高校ヒーロー科の実技試験は終わりを告げたのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。