「今すぐ……って本当の意味だったのか。早いな」
「急ぎでしたから。上がっても良いですか?」
「勿論」
茉莉はブーツを脱ぐと、その足で卓袱台から此方の様子を伺っていた小梛の元へと向かった。茉莉と小梛は視線が克ち合い、時間が止まったかのように動きを止めると、それから小梛の前へと茉莉は座った。
「幸くんも座ってください」
「ああ……良く分からないが、分かった」
「はい。では、あの、単刀直入に言います。小梛、幸くんに告白しましたよね?」
再度茉莉の視線が小梛を貫く。
「……そうだよ?」
小梛は気負った様子無く、あるがままの声音で答えた。
……告白が何か関係しているのだろうか?
空気が一気に重くなる室内で、俺だけが蚊帳の外で話が進む。
「それは幸くんの想いを理解していて、ですか?」
「勿論そうだよ。何年一緒に過ごしたか、それは茉莉も知る所でしょ?」
「はい、だからこそ私は昨日、貴方からメールを頂いて許せないと感じているのです」
「許せないって? 何を?」
「貴方が、幸くんが三人の関係性を尊重して私に告白をしなかったのを知っていて、それでもなお告白をしたことが、許せません」
「そっか……」
断言する茉莉に、話をしている訳でもない俺が気圧された。
俺が三人の関係性を維持したい、というのは二人では周知の事実なのか。と言うか俺のこの恋心、想い人に筒抜けだったのか……!? 間違いなく人生最大の羞恥の瞬間だった。
少し間をおいて、小梛が反駁する。
「でもさ、それって私の幸せを阻む理由にはならないと思うんだ。だっていつかは私たちは離れ離れになる。高校、大学までは良いかもしれない。でもその先はそれぞれ別の道を歩むの。その瞬間がちょっと早くなるだけのこと」
「それが幸くんの純心を踏みにじるものだとしても、ですか?」
「ごめんね、茉莉。私って欲しいものは絶対に手に入れたいの。それも数十年後じゃなくて、今欲しい。利己主義なんだ」
「知ってます。ですが幸くんのことが好きで、なのにそれを平然と汚す貴方が私には信じられません。恋心を抱いた相手の心は尊重すべきだと思わなかったのですか?」
「それを言うなら茉莉は余裕だもんね。幸くんから好かれてて、幸くんが好きで、はい両想い。私の付け入る隙間なんて無いよ、こうでもしないと」
二人の間には確実に溝が存在した。これまで一度たりとも俺が見たことないほど茉莉と小梛の中間点には暗澹たる兆しが見え隠れしていたし、果たして、それは日常を覆す予兆のようにしか思えない。
それは恐れていた事態が現実化しつつあると、俺は咄嗟に口を挟んだ。
「ちょっと待ってくれ。これはどういう話なんだ。整理をしよう。互いに闇雲に言いたい事だけを言っても何も良いことはないだろ」
「……そうですね。幸くんには知る権利があります」
ポツリと、まるで世界の命運を握る鍵を回そうとしているみたいに深刻そうな表情で茉莉は言った。
「昨日の午後4時52分のことです。小梛は私に一通のメールを送って来ました。内容は幸くんに告白して振られたというもので、それのみならば単なる失恋話でした。でも小梛は幸くんが、この私たち三人の関係性を連綿と続けていきたいと考えている事を知っていて、私もそれを知っていました。そう、好きになった相手の心を無視してまで自分の恋心を優先する身勝手な姿勢が許せない。とても、許せません」
「さっきから聞いてたら茉莉こそ何? 矢場くんの最高の理解者のつもり? 良い機会だから言っておくけど茉莉のそれはパートナーとして、いや、友達としても良くないものだよ。人間関係なんて時と場合によって無限に移ろって行くのに、そんな世界の法則を無視してまで矢場くんの理想に寄り添う姿勢を見せる。それは理解じゃない、依存の一歩手前。救いようがないほど、現実が見えてない」
共に言いたいことを出し切ったのだろう、一旦部屋に静寂が戻る。
何というか、頭痛がした。俺は二人が喧嘩するなど一度も考えたことはなかったし、まさか俺がその中心になってこんな状況下に陥るなんて想像もしたことが無かった。当然かもしれないが。
考えている内に、これは俺が今まで安寧を享受し続けた罰なのかと思い始めた。俺の人生には困難が多い。大事なものは様々失って、そのたびこの二人に甘えてきた。この二人だけはセーフゾーンであると勝手に決めつけて、何も起きないことを望んでいた。抱いていた初恋さえ無意識に封じ込めるほどに。
これは水面下で進行していた問題が遂に表面化しただけのことであって、問題が起きないように俺が立ちまわれば何とかなる可能性もあったのだ。その事実に心が串刺しになりそうなほど、ザクザクと穴が開いた。俺は自分がどうしようもない程、酷い人間であると感じてしまう。
「……私たち、上手く付き合えないみたいだね」
「そうかもしれません」
「どうにもならないよね」
「どうにもなりません。私たちは元々、根本が決定的に違うんです」
「言えてるかも」
その言葉は決定的に、袂を分かつものだった。
「終わり……にしましょうか。名残惜しいですけど」
「そうするしかないね。こうなってしまった以上、破綻しかないかな」
そうして俺たち三人は別離する。小さな古びたアパートはいつも以上に小さく感じた。
俺は何かを言わなくちゃならない。そう頭では分かっていて、脳味噌も全力で回転していたのに口を挟むことが出来ない。
俺は惨めだ。ゴミだ。屑だ。
この三人の関係を誰よりも俺が希求しているのに、行動すら起こせなかった。
二人の話を聞いて、俺が一番この関係性が手遅れだと実感してしまったのだ。茉莉も、小梛も。目を逸らさずに互いのことを見つめ合っている。薄暗い森の中で天敵同士が偶然会ってしまったみたいに、一挙手一投足に注目している。
情けかった。嗚呼、本当に情けない。
俺はとんでもなく欠落していた。
─── ─── ───
結局、決別が白日の下に晒された後に二人は無言で家から出て行った。
俺は小梛に言ってた予定の通り、家を出て喫茶店でコーヒーを啜りながら本を開く。白いページに印字された黒い文字の数々に幾ら目を通したって目が滑った。その文字たちが意味を成していると脳内では理解していても、その意味が全く掴めない。今の俺には無秩序な記号の羅列にしか見えない。アラビア文字でも読んでいる気分だった。
どれだけ文字を追従しても意味などなく、徐々に倦怠感が増して行って、俺は本を閉じた。脳内のメモリは全部これからの事について占められていて、次第にコーヒーカップを口元にまで持って行くよう神経を通して右手に命令することすら億劫になった。
俺はどうすればよかったのだろう。
結局のところ、何をすれば良かったのか。何が最善策で、何が弥縫策で、何が下策だったのか。分からない、分からない、分からない。
バグった思考回路をリセットするように手早くコーヒーを口に含めた。苦い、とても苦い。そうだ、俺は今日はエスプレッソを注文していた。ルーティーンならばブレンドコーヒーか、アメリカンコーヒー。プラスで砂糖とミルク。しかし今日はとてもそんな気分じゃなかった。
俺はどうすればよかったのだろう。
自問自答が続く。いや、自問自答にもなっていない。自分に問いを投げて、また投げる。問いを施錠するカギを持ち合わせていないからずっと疑問を繰り返すだけだ。自問に次ぐ自問に頭がおかしくなりそうになる。
「ここ、相席良いですか?」
「…………茉莉?」
対面の椅子が引かれ、声を掛けられて漸く俺は気付いた。茉莉はアイスコーヒーとモンブランの乗ったトレーをテーブルに置いて、椅子に腰を掛けた。
「何でここに?」
「知ってますか? 幸くんのそのバック、GPS発信機が入っているんですよ?」
「え」
「冗談です。ただ幸くんの行きそうな喫茶店をローラーしただけです」
……珍しい冗談だな。茉莉はそういうしょうもない事を言うタイプではないんだが……俺を励まそうとしたのか? いやまあ、好意的に解釈し過ぎか。
「つまり、俺のことを探してきたってことだな。何か用か?」
「用が無くちゃ、会っちゃダメですか?」
「そんなことないが」
「じゃあ少し、おしゃべりしましょう」
そう言って茉莉はストローを加えてアイスコーヒーを啜った。冷たい方が苦いはずだが、茉莉にとってはそこまでの苦みを感じるものではないらしい。
おしゃべり……か。
「悪いが、今はあまり話す気分じゃないんだ。しょうもない世間話なら辞めてくれ」
「幸くんは大学、どこに行こうと思っています?」
「大学?」
俺の言葉を無視して茉莉は口を開いた。予想外の話題にオウム返しをしてしまう。
大学って今はそんな話どうでも良いだろ、と俺は言いそうになって口を噤む。今の経済情勢だの政治ニュースだのスポーツだのの話だったなら勘弁だったけどそういう話題ならまだマシだ。それに今は全く関係ない話題に乗った方が気分転換になるかもしれない。
そうと決まれば回らない脳味噌をギチギチ回して考えてみる。
「……正直、今は分からないけどな。学費の安い場所にしようとは思っている。だから国公立は確定だな」
「となると。ここから通える場所にも三校ほどありますね。学部はどうです?」
「学部か……。学費的には文系かもしれないな。具体的には調べてないけど、理系となると国立でもかなり掛かるはずだ」
「え……? 幸くんはその、お金で決めるんですか?」
「しょうがない事だ。今俺に仕送りしてくれている親族にも迷惑は掛けられない。」
ただでさえ下宿させてもらっている立場なのにこれ以上金を捻出させるなんて申し訳が立たない。大卒資格さえあれば世の中はある程度渡って行けるし、興味が無い学問でも不満は無い。
だが茉莉は俺の言葉を不満と思ったらしい。目を細めて、綺麗な顔でこちらを直視する。
「じゃあ大学とか関係なくでもやりたい事とか……そういうの。本当に無いんですか?」
「無い……と言えば嘘になるかもしれないな。だがさっきも言った通り、あまり金銭的にも余裕が無いからそんなことを考えるのは」
「お金については無限にあると思ってください。その上でやりたいこと、ありますか?」
「……金銭関係なく、か」
考えるまでもなく答えは決まっていた。分からない。俺は自分の事が一番分からない。
隠す必要性も感じなかった俺は包み隠さずに話すことにした。
「分からない。俺は夢なんて大層な物を持ったことないし、一生三人でいるだけで……いや、悪い。今の無かったことにしてくれ」
滑りかけた言葉を慌てて引っ込める。もうそれは絵空事になってしまったのだ。……まだ俺はその事実を受け入れられないのだろう。
キョトンと茉莉は薄紅色の瞳を丸めて、するとクスクスと小さく笑った。
「幸くんは変わらないですね本当に」
「悪い……」
「怒ってないですよ。しかし、そうですか……やりたいことがないんですね」
そんなことを同級生で幼馴染の異性から面と面向かって言われると何だか心が蛇に締め付けられたような気分になる。自分を惨めに感じる。つい自分の劣等感と対峙しそうになって、俺は茉莉から目を逸らした。これはただの雑談だ。その最中にそんなことを考えるなんて場違いにもほどがある。
俺は内心を悟られないように脊髄反射で適当な返答をした。
「一つあると言えばある。俺は高2でも茉莉と同じクラスになりたい」
「それがやりたいことって……幸くんはやっぱ変わってますよね」
「そうか? 俺はそこまで変わったことを言った気は無いんだが」
「その言葉がもうおかしいですよ、私は好きですけど」
何がおかしかったのか再び茉莉は綺麗な白い声でふふっ、と息を漏らした。若干照れているのか、白い肌に桜が咲いていた。肩が震えるのに連動して茶色の滑らかな髪の毛が微かに揺れる。
……少し意識を奪われていた。やっぱり俺は茉莉のことが好きなのだろう。茉莉の一つ一つの仕草に思わず視線を釣られてしまう。そうだ、昨日から続く事件のせいで俺は忘れていた。
もう俺たちの関係性はバッドで窓ガラスを殴ったみたいに罅割れてしまった。以前までの関係性へと戻すことは無理に等しい。
ならいっそのこと、だ。茉莉に告白しても良いのかもしれない。そうしたら俺の淡い恋心は漸く報われて……少しくらいは文鎮のように重くなった心への救いになるかも、と思う自分がいた。
───だが、寸でのところで踏みとどまった。
俺は、そうだった。小梛と付き合う資格が無いのなら、論理的に茉莉とも付き合う資格も無い。汚い心を持ってる俺とは釣り合わない。
それに、仮に茉莉と恋人関係になったら。罅割れた俺たち三人の関係性が、完膚なきまでに過去の思い出ごと全て粉砕されてしまう。今度は罅程度じゃ済まないはずだ。粉微塵になって、風に流れて空中を漂って土へと還る。それはもう喪失に等しい。……相変わらず俺は現実と言うのを見る気になれない、理想ばかりに浸る馬鹿野郎のようだった。
「どうかしましたか?」
「……いや、何でもない」
不思議そうに前屈みになって俺のことを覗き込んできた茉莉に首を振った。此方に乗り出して来たことによって茉莉の大きな胸が強調されて、俺は再び目線をレジカウンターの方へと外した。バレたらアレだ、気恥ずかしいことこの上ない。
「何でもないって言いながらそっぽ向いたら何かあると白状するようなもんですよ?」
「そうだな……けど何も無いんだよ。それよりモンブラン食べないのか? 甘いの、結構好きだったよな」
「……良いです。食べますよーだ」
はぐらかされたのが少し癪に障ったのか、茉莉は「ふーだ」と言いつつも頬を緩めてフォークでモンブランを八分の一くらいの欠片にすると、小さな口で頬張った。むぐむぐと桜色の唇が上下に動く。
「美味しそうに食べるな」
「幸くんも食べますか? あ、食べかけになりますけど……」
「良いよ俺は。今日のラッキーアイテムはブラックコーヒーなんだ」
「何ですかそれって」
「気にすんな。本当に甘いの、今は気分じゃないんだ」
本当の話だった。今の心理状況で甘味なんて食べようもんなら更に胃が痛くなりそうだ。
「こういう場所でケーキを食べたことなかったんですけど、意外に馬鹿に出来ないですね……これは600円の価値は断然あります」
「600円もするんだなそれ」
「でもケーキってそのくらいしませんか?」
「確かにそうかもな……ケーキって全般的に高いんだよな。俺じゃコンビニの菓子パンのところにある六個切れのロールケーキくらいしか買えないし贅沢品だ」
「ああ、それ100円のあまり美味しくないやつですね」
ズバズバと物を言う茉莉に一応、声を小さくするように言っておく。茉莉は静かに頷いた。喫茶店で美味しくないとか言って勘違いされたら面倒臭いからな。
着々と口に運び続け、然程時間を使わずに茉莉はモンブランを完食した。紙ナプキンで口をゆっくり、流麗な仕草で拭うと口直しにアイスコーヒーに口を付けた。水量が減ってきたからか、カラン、と氷が崩れる音が鳴る。
「ごちそうさまでした……ふぅ」
「完食タイム1分21秒……と」
「え……。ちょっと幸くん!? 私が食べ終えるまでの時間数えてたんですか!?」
「ナイスファイトだった」
「わ、忘れてください! 今すぐに! って言う傍からメモ帳取りだすのは本当に辞めてください! メモしたら絶交ですからね!」
つい頬を染めて小声で怒ってくる茉莉が面白可愛くて弄ってしまった。茉莉と絶交したら自殺する自信があるので俺はメモ帳をバックへと戻すと小さく両手をハンズアップする。……茉莉のモンブランを食べる速度。インプット、と。
「全く、困った人ですね……」
「嫌だったか?」
「……そういう、答えづらいことを平然と聞いてくるの止めてください……分かってますよね」
アイスコーヒーを握ったまま茉莉は顔を俯かせた。ドクンドクン、と。心臓の鼓動が早まるのを自覚する。
ああ、知ってるさ。さっきの会話でただ俺が地蔵だった訳じゃないからな。
俺が茉莉のことを好きなように、茉莉は俺のことも好きだった。どうやら小梛も知っていたらしく、皮肉気に両想いという言葉を使っていたのが印象深い。……またこの事を考えてしまう自分に辟易してしまいそうになる。
ともかく、両想いだ。仮に俺が告白したら、多分茉莉は俺の彼女になる。
だが全くそのイメージが湧かない。俺が彼女を作る? 分かる訳が無いだろ、そんなの。
「まあ……そうだけど……そうだな」
「良いですよ、答えなくて。私も幸くんの気持ち、知っていて現状維持を望んでいるのですから」
複雑に絡み合う内心を言語化出来ずまごついている間にも茉莉はそう言って柔らかく微笑んだ。本当にそれは柔和で、俺が好きな茉莉の笑顔だった。
茉莉は続けて言葉を紡ぐ。
「私はずっと、ずーっと、幸くんの味方です。幸くんが望むものを私は尊重して、幸くんの考える事の通り私は動きます。私は幸くんと一緒に居られれば足りますから。だから幸くんも私のこと、ちゃんと握っておいてくださいね?」
今までにない、熱い吐息を伴って鼓膜を揺るがした。声量は大したことも無い。声質自体も細く、掠れるようなもの。なのに強烈なインパクトを以って俺の脳味噌を震わせた。
地獄窯みたいに茹った思考回路を強引に抑えつけながら、俺は片隅で考える。
間違いなくこれは不健全だ。宜しくない。俺の勘違いじゃなければ男女の関係なんかよりもよっぽど良くないものだ。
でもそれは、俺が否定して良いものだろうか。善意から提案した茉莉の言葉を、俺如きが自己判断で勝手に正否のレッテルを張って良いものなのだろうか?
「……ああ。俺は茉莉のことを信頼してる」
それが俺が出せた、問いに対する最良の答えだった。
─── 花飾茉莉 ───
私は矢場幸雄の事が好きだ。
その癖の強い茶色の髪が好きだ。私と同じ髪色、若干幸くんの方が色が濃いかもしれないけどそんなのは些末事で、ペアルックみたいに思えて見るたびに嬉しくなる。
その黒い瞳が好きだ。何もかもを見透かしているように澄んだ黒曜石のような綺麗な目。どんな宝石よりも価値があるはずだ。
その顔が好きだ。ちょっとダウナー寄りな表情を何時もしているけど、その内側では私や小梛に対する確かな愛情を持っているのを私は知っている。
だから、私は矢場幸雄のことが好きだ。
好きだからこそ、告白はしない。
私の存在意義は一重に幸くんだけだ。幸くんの幸福、夢、望み。それだけが私の生き甲斐。幸くんのそれらを果たすことが私の役割。
私と小梛の関係が破綻した今でも幸くんは以前みたいに、三人で過ごせる空間を求めている。それはもう不可能だけど、それでもきっと幸くんは捨てきれないのだろう。幸くんは全く悪くない。悪いのは私と小梛だ。自分の幸せを求める小梛と、幸くんの幸せを求める私は相容れない。月と太陽、N極とS極、水と油。正直言ってしまえば、こうなってしまうことは少し前から薄々勘づいていた。それが表面化しただけの話で、私の本音を語れば「ああ、時間切れか」くらいにしか思っていなかった。
幸くんの望みは三人の安定した関係性。でもそれは悔しいけど、無理だ。私と小梛の仲は突然壊れたんじゃなくて元から亀裂は入っていたから。ただ見て見ぬふりを互いに続けていただけで。
そう、堪らなく悔しい。幸くんが望んでいることを叶えられないなんて、まだ下水道でクロールしてる方が気分的にはマシだ。本当に嫌な気分だった。
だから私は、次に幸くんが望んでいる事だけは果たさなきゃ。果たさなきゃ。果たさなきゃ。じゃないと……今度こそ死んでしまいたくなるから。
───あ、そうそう。
幸くんには言いそびれましたけど、さっきのGPSの件。アレは本当に嘘です。だって本物は幸くんの財布の中に入ってるんですから。
良きタイトルとあらすじが思い浮かばない助けて。
良ければ評価下さい、やる気出ます。