「恋って何なんスかね」
後輩は語る。俺はずっとこの部屋のベッドの上にしかいないんだ。気を使ってくれたのはまあ分かる。ただ、その話題はないだろう。
「お前がそれを言うのか」
監禁までしているんだ。しかも、好きですという告白付きで。そのうえ監禁している相手の見た目は幼女だ。これで恋愛が分からないなんて言ってみろ。状況がまさかの身代金が目当てに早変わりだぞ。
「普通の恋って何かなって話っス。少なくとも、これは普通ではないですから。そうっスよね」
「まあ、普通ではないことは確かだな」
できれば早く俺を解放してほしい。この前漏らしたせいで、パンツもこいつの履いていた女モノに取り換えられて恥ずかしいんだ。というか、せめて新品のものにしてほしい。裸よりはましだが、後輩の使っていた下着を身につけなきゃいけないのも精神的につらい。
「だから普通の恋愛なら、センパイは受け入れてくれると思いまして」
「そうだな。普通……ね。恋愛小説みたいなーってやつか?」
「ああいうシチュエーションこそ、典型的な異常じゃないっスか。普通じゃない恋愛だからウケる訳ですし」
「そういえばそうだな。じゃあ、あれか? 一目惚れ。割と昔から言われてるだろう」
後輩は複雑そうな表情をする。なんだ、当たりか? これで満足してほしいが。そしてマトモな恋愛のためにも、ベッドにつながれているこの状態から解放してほしい。
「一目惚れはないっスよ。本能的な恋愛が正しいのなら、とっくにセンパイのハジメテは貰ってるっスから。私はケダモノじゃないっスからね。ただ、センパイがそれでもいいって言うなら……」
じゅるりと舌なめずりの音が聞こえた気がした。このままでは俺の何かが危ない気がする。こんな体になって、拘束されているから体を清めるのも後輩に拭いてもらうしかなくて、俺の尊厳はとっくになくなっているがな。
「どうやら、一目惚れも違ったようだな。じゃあ、次だ。許嫁とかどうだ」
「今時、許嫁はないと思うっスよ。そこまで政略結婚みたいなことしなくちゃいけない時代でもあるまいし」
「あー、じゃあ、ラブレター。あ、これいいんじゃないか?」
「貴方のこういうところが好きですとか、貴方のことをずっと見ていましたなんて書かれた、差出人不明の手紙が届くんですよ。怖くないっスか? もはやストーカーじゃないっスか」
俺を監禁しているお前が言うのか。というか、
「否定ばっかりだな。お前はなんかないのか? こういう恋愛は普通だっていうやつ」
──その一瞬に後悔する。やらかした。俺は直感でそう思った。さっきまで俺自身が考えていたじゃないか。好きだからって監禁するような相手に恋愛観を聞くなんて、よっぽど油断していたようだ。
「そもそも、普通の恋愛なんてないんじゃないんっスか?」
ほら始まった。
「全く異常ではない恋愛があったとして、そこから外れたら異常ってことっスよね。要は、正常性に束縛されているんですよ。だから、結局は異常である、逆説的に言えば、全ての恋愛は普通の恋愛ってことっス」
「つまり?」
「こうして、この部屋で一緒に過ごしているのも、普通の恋愛ってことっス」
そうはならないだろう。そのはずだ。だが否定ができない。圧されているというか重圧がすごい。
「普通の恋なら、センパイは受け入れてくれるっスよね。というわけで、改めて。好きっスよ。センパイ」
「こんな状況じゃあ拒否権なんてねえじゃねえか」
「卑怯っスかね」
「ああ。そうだな」
まったくだ。
「謝らないっスよ」
「ちっ、それを口実にここから出ようと思ってたんだがな」
お互いに笑い合う。
不本意なことにもう少し、この生活は続くようだ。相手が気心の知れたコイツじゃなきゃ、俺はとっくに舌でも噛んで死んでるだろう。そんなことをさせてもらえるかどうかは別として。
「恋愛といえば、デートしないか?」
「お部屋デートってやつっスね。やりましょう!」