「退屈だ」
「媚薬でも飲むっスか?」
突然何を言い出すんだ、この後輩は。
「退屈は感じなくなると思うんスけど」
「カラダは感じるようになるんだよなぁ」
我ながらうまいこと言ったかもしれない。というか、
「媚薬持ってるのか? お前」
「ええ、持ってるっスよ。取ってきますね」
何の躊躇もごまかしもなくそう言った後輩の背中に慌てて声を掛ける。
「取ってくる? 普段どこに置いてるんだよ、それ」
「へ? ああ、台所っスけど。先輩、私の料理に一服盛ってみたくなったんスか?まあ、先輩は私といる以外にやることがないっスからね。そういうことは大歓迎っスよ」
逆だ。俺の食事に薬が盛られないかの心配だよ。
部屋の扉が開かれ、後輩の足音が遠のいていく。
媚薬、か。よく考えなくても俺と後輩は、精神的には男と女の仲だ。それで、少なくともあいつは俺に恋愛感情を持っている。で、あいつは可愛い。さらりと垂れた黒髪や少しばかり鋭い目、整ったプロポーションは魅力的で、俺好みだ。あとは、あの重すぎる愛さえどうにかなれば……
唯一まともに動く頭を振って、冷静になる。まずい、思考が変な方向に行っている。この部屋に監禁されてから一度も”そういうこと”ができていないからだろう。
「持ってきたっスよー」
後輩の手には青い小瓶。それとは反対側、左手には珍しく、腕時計が巻き付けられているのが見える。
「って、いったぁッ」
まさかの何もないところで躓いた後輩の手からそれが離れ、壁にぶつかる。割れたことで飛散した瓶の中身が俺の口に……
「おい、嘘だろ……」
とてつもなく甘い味が口の中に広がる。マズい。珍しく申し訳なさそうな後輩の表情。
「あー、えっとぉ。八分くらい……っスかね」
何がだ。いや、言わなくていい。心なしか、心臓の鼓動が早い気がする。
時間が経つ。もうとっくに五分は過ぎただろう。十分か、一時間か、それ以上か。あいつが言っていたように、退屈は感じない。だが、苦しい。体が熱い。やけに口が渇く。この熱をどうにかしようと、俺は目の前の彼女に片手を伸ばして……
「嘘っスよ、先輩。びっくりしました? 」
へ? 嘘、だと。
「あの瓶の中身は砂糖水っス。あれ?もしかして信じてたんっスか?」
つまり、思い込みってことか。
「なんだ、そりゃ」
そうと知ると、気分は一気に冷静になった。
「でも、私はいいんっスよ、先輩。ところで……」
「なんだ? ──んぅッ!」
両手で顔を抑えられる。息ができない。意識の空白。喉に液体が流れ込む感覚だけが鮮明だった。
「けほっ、けほっ、何を──」
俺にまたがっている後輩の手には”既に空になった透明な瓶”。
「言ったじゃないっスか。媚薬、持ってくるって」
つまり、今飲ませたのは……
「さて、あと三分くらいっスかね」
扉の鍵が閉められ、俺の手錠の鍵が開かれる。三分?
「あと二分っスよ」
ちらりと腕時計を見てから、そう言って彼女は俺の横へと座る。
「先輩、言い忘れてたことがあるんっスよ」
「なんだ」
さっきの時とは比べ物にならないほどの熱が体中を巡る。正直、話すことすら辛い。
「あと二分で、先輩の誕生日っス。十六歳になるんスよ」
考えがまとまらない。
「先輩はもう女の子になったんですから、私たち、結婚、できるんスよ。だから──」
結婚という単語だけが、はっきり聞こえた。俺は自由になった手を伸ばして後輩を引き寄せる。
「──イイんっスよ、せんぱい」
後のことは、覚えていない。
「あは♥️あぁ♥️好きっス♥️んッ♥️せんぱい♥️せんぱぁい♥️」
どうしようもなく苦しい熱が、俺を焦がしていた情動が、次に目が覚めた時には収まっていた。
「女の子同士っスけど、きせーじじつ、できちゃったっスね。先輩♥」