「令和っスね」
2019年5月1日、平成が終わった。らしい。この部屋には時計がなく、この情報も、後輩が伝えたものだ。俺が後輩に薬を盛られて少し経った頃のことだった。
「そうだな」
「思ったんっスけど、今年生まれた子供って、少し残念な思いをするかもしれないっスね」
「なんでだ?」
「平成って、Hで表すじゃないですか。で、令和はRっスよね。なんで、令和18年はR18なんスよ」
確かにそうだな、だが、それの何が残念なんだ?
「R18年の時、さっき挙げた子たちは17歳なんっスよ」
「ああ、メ○ンブックスとかと○のあなとかでセールしてそうだな」
じっとりとした目を向けられる。
「センパイ、まだ十七歳っスよね……」
しまった、墓穴を掘った。まあ、そんな18歳以上じゃないと読んではいけない漫画で見たようなことを、拘束されている俺に対してしてきた後輩がいるわけだが。
「いや、思春期の青年としてはそこらへんに興味がある訳でだな……」
「大丈夫っスよ。ナマイキ系黒髪後輩萌えには理解があるっスから」
──何故知っている。いや、あの後輩の愛の重さだ。ネットの検索履歴くらいは調べているだろう。それにしても、あいつの容姿、もしや。
「お前、俺の好みに合わせて……」
「そんなわけないじゃないっスか。私が先輩にとって運命の人だったってことじゃないんスか?」
「……そうだな」
「そうっスよ」
あいつがそう望むんだ。そういうことにしておこう。
「で、式はいつ挙げます?」
「……ノーコメント。そもそも、何度も言っているが、今の俺の体は幼女だぞ。この前は既成事実ができたとか言ってたが、見た目上は女性同士の結婚だ。できるのか?」
その一言に後輩は一瞬だけキョトンとした表情になった。
「そうでしたね。センパイは外のことを知らないんスよね」
ん?外のこと?なんのことだ?法律でも変わったのかと訝しむ俺に対して、後輩は当たり前のことのようにこう告げた。
「センパイが感染した病気、TS病っていうんスけどね。これが世界中に大流行しまして。もう男の人なんて誰一人残っていないんスよ」
「……は?」
意味が分からなかった。つまり、男が誰もいないんだから、結婚は女性としかできないということか?
「なので、センパイがお外に出ても、誰も襲う人がいなくなったんスよ」
今まで閉じ込めていてごめんなさいと、俺の手錠や足錠を外しながら後輩は言う。
「さて、これでセンパイは自由に外に出られるようになったんですけど」
「例えば、ここで私がプロポーズをしたら、受けてくれます?」
「……そういうことは最初から言え。やっぱり、監禁する必要なかっただろう」
正直、こいつと一緒に過ごすことに関しては、悪い気はしなかった。手足も自由になったのでベッドから降り、上目遣いに後輩を見る。足は使っていなかったからかフラフラとしていて、倒れそうになったのを抱きしめられた。
「ほら、こんな風に危なっかしいから、センパイが女の子になった直後に部屋まで連れてきたんスよ」
それに、センパイ一人だとお風呂やトイレも苦労したでしょうしと後輩は言葉を続けた。一理あるとは思ったが、恥ずかしい思いと酷い目に遭ったのは確かだ。
「明日は一緒に買い物に行きましょう。怖い人もいないから安心っスよ。疲れたらおんぶしてあげますし」
「その子供に語り掛けるような口調はどうにかならないのか?」
些かの不満は感じる。
「まあ、そのためにもお風呂に入りましょう!センパイ一人だとお風呂でこけたりしないか不安なので、私も一緒に入るっスよ」
「あー、髪の毛とかも、洗ってもらった方が楽だな」
手入れが面倒だとか聞いたことがある。それに──
「今の俺は幼女の体だからな。お前から変なことはされないだろう」
そこは安心できる。まあ、ふざけてくすぐられたりはするだろうが、その程度で済むだろう。押し倒してきたりしたら抵抗できないが、肉体的な面でいえば女同士だ。そこまでのことはされない。
「TS病に罹ると、女の子同士で子供が作れるようになったってことは、言わないでおいた方がいいっスね」
「?何か言ったか?」
「何でもないっスよ!さあ、体を洗ってあげるっスからねー」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。六畳一間の中だけで進んだ純愛の話でした。