それが、あなたのご注文なんだね   作:ファットマン

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思いつきだけで料理をしちゃダメだと思う

『……やれやれ、大変なことになりそうじゃ』

 

何処からともなく、老人のしゃがれた声がする。

 

ラビットハウスの夜に開店するバー、そこには、香風タカヒロと、うさぎのティッピーだけがカウンターにいた。

 

しかしそこには、二人の話し声が響いていた。

 

「あの二人……ココア君とチノが仲良くやれるといいな」

『ココアと言ったか……あの娘、あっという間に店に馴染みおったわ、チノには、ああいうタイプのほうが接しやすいかもしれんの』

「リゼ君もナルミ君も、ああいう積極的で明るいタイプではないからね、まぁあれはあれで、いい影響を与えているとも思うが」

『ナルミか……あやつがここに来たときのことを思い出すわい』

「そういや、生前の昔馴染みだったか」

『8年も前に少し会っただけだがの』

 

ティッピーは丸い体をころころと転がして言う。

声は老人のそれだが、その所作に威厳は欠片もなく、とても愛らしい。

 

『あの死にかけの子供が、よくよくあぁも元気になったと思ったよ、それで、わしに会うために来たというのだから、驚いたわい』

「そうだな……親父が亡くなったと聞いて、泣きそうな顔になっていたから……」

「……恥ずかしい話をしないでくださいよ、タカヒロさん」

 

横合いから声、そこには会話の当人たる条河成生がいた。

服装は私服に着替えており、恐らくは帰る直前だろう。

 

『おぉ、ナルミ、仕事は終わったかの?』

「はい、おじいさん」

 

ナルミはそのまま、ティッピーの前の席に腰掛けた。

 

「僕も驚きましたよ、まさかあの時のおじいさんが亡くなってて……落ち込んで帰ろうとしたらおじいさんの声がして……振り向いたら、可愛らしいうさぎがいましたから」

 

ナルミは穏やかに笑った。

 

目の前のアンゴラうさぎ……『おじいさん』という言葉は文字通りだ。

この子の中には、タカヒロさんの父、チノちゃんの祖父にして『ラビットハウス』の前マスター、香風老人の魂が入っているのだ。

 

「ワシも、どうしてこうなったのかはよくわからんがの」

「正直、僕にとっては些末事(さまつごと)ですよ、おじいさんはおじいさんですから」

「そう言ってくれると有難いわい……あの小娘に抱きすくめられた時には、人としての尊厳を幾許(いくばく)か捨て去る覚悟をしたわ……」

「ココアさん、もふもふしたもの全般が好きみたいですからね、おじいさんはその究極ですし、あきらめたほうが賢明かと」

「……生前からこいつにだけはなりたくないと思っておったが、今またそう思ったわ」

 

ティッピーは威厳のある老人の声で言う。

 

「でも、いい人ですね彼女は、リゼさんも面倒を見てくれてますし、お陰さまでうまくやっていけそうです」

「そうじゃの、この店もにぎやかになる……あやつがいなくなってから、この店は少し暗かったからの、まぁそれも、落ち着いた雰囲気でいいかと思ったが」

「いいじゃねえか、昔みたいに、パーティみたいにパーッとやるのもいいかもしれんぞ?」

「あやつのアレはやりすぎじゃ……もはやジャズかどうかも怪しかったじゃろ」

「ハハハ……かもしれんな」

 

笑いながら、でもどこかさみしそうに、タカヒロとおじいさんは言った。

 

「そういえば、明日は高校の入学式じゃったか?」

「はい、僕も晴れて高校生です、ココアさんと、千夜さん……今日知り合った人なんですけど、もう二人も友達ができて、いまから楽しみです」

 

嬉しそうにするナルミを見て、ティッピーは思う。

あの時の虚ろな瞳とは正反対だ、と。

8年前に会った時の彼は、文字通りの死に体だった、心も身体も。

 

『なんで助けたんですか』

 

『あのまま死なせてくれたなら、みんな幸せになれたのに』

 

そんなことを言っていた少年が、いまこの場所で幸せそうにしている。

それだけでも、こんな体になった価値は十二分にあった、と断言できる。

 

「バータイムのお邪魔してすいません、今日は帰りますね」

『おお、気を付けての』

「はい、では、また明日」

 

言って彼は荷物をまとめ、ラビットハウスから出ていった。

 

「……全く、俺への対応とは大分違うな、親父?」

「お前と違って可愛げがあるからのぉ、それにあぁも懐かれては、年長としては無下にできんだろう」

 

ドアが閉まるのを見届け、タカヒロは小さくごちた。

 

「ふん、こんなナリで年長気取りとはな」

「あやつがわしをそう扱うのならばそうするさ、うさぎ扱いするのならば、そうなるしかないが」

「そう言いながら、ココア君に抱きしめられたときは地声で呻いていたじゃないか」

「限度がある、わしも今はこんなじゃけど一応アレじゃし……」

 

もじもじとするティッピー。

その姿は愛らしかったが、自分の親父の姿とそれを重ねて、タカヒロは笑った。

 

「ハハハ! 何だ、楽しくなりそうじゃないか、親父」

「馬鹿もん! 老人をからかいおって……お前もこうなれば、わしの気持ちの一つも解ろうよ!」

 

それを聞いて、タカヒロは更に笑った。

 

 

ーー

 

 

翌日。

 

僕はココアさんと千夜さんを連れて高校に向かったが、流石に特に問題なく入学式は終わった。

 

「二人と同じクラスで良かったわ」

「私もみんな同じクラスで嬉しいよ! この町に来てから運命感じまくりで、これからが楽しみだなぁ」

「僕も少し不安だったけど、二人がいてくれて安心したよ……ココアさんが学校でも迷子になってたのは、少し驚いたけど」

 

今日は簡単なHRだけで帰宅となり、僕たちは帰路に着いていた。

 

今日はこのままラビットハウスに向かい、昨日と同じくアルバイトの予定だが……。

ふと、ココアさんが足を止める。

 

「いい匂い……パンの匂いだ」

「パン屋さんよ、近くにあるの」

 

千夜さんがパン屋を指差す。

ココアさんは目を輝かせてその場に向かうと、窓辺に張り付くようにパンを見た。

 

「……かわいい」

「パンが?」

「そんな食い入るくらいパンが好きなの?」

「実家がパン屋なんだよ! これを見てると、私の中のパン魂が(たかぶ)るんだよ!」

「どうどう、落ち着こう」

 

興奮して鼻息荒く語るココアさん。

しかし、そこに共鳴する人がいた。

 

「わかるわ! 私も和菓子を見てるとアイデアが溢れてくるの」

「千夜ちゃんの家は和風の喫茶店で、和菓子作るの好きだったよね? この前も『センヤツキ』? だっけ? そんな名前の栗羊羹(くりようかん)を貰ったし」

「そう、それよ! 出来た和菓子に名前をつけるのが一番の楽しみなの!」

「インパクトある名前だよね! 意味わかんないけどなんかかっこいいし!」

 

手と顔を突き合わせ、姦しく話す二人。

その熱量に、僕は入っていく隙すらなかった。

 

しかし、『センヤツキ』……『千夜月』か?

『夜』が羊羹、『月』を栗に見立て、更に自分の名前のダブルミーニングを入れているのか、もしかしたら彼女にとっても思い出深いものなのかもしれない。

そのまま聞けば必殺技の名前だが、まぁまだわからないでもない。

 

「名前? 他にはどんなのつけてるの?」

「『煌めく三宝珠』『雪原の赤宝石』『海に映る月と星々』『フローズン・エバーグリーン』」

「三色団子、苺大福、白玉栗ぜんざい、宇治金時かき氷?」

「わかるの!? うちでは新規のお客様には『指南書』を配布してるのに!」

「まぁ、連想ゲームと思えば……ってかそれ店としてどうなの?」

「なるくんには才能があるわ! うちで働いてみない?」

「千夜さんの喫茶店で?」

「部屋を開けておくから荷物をまとめてきてね?」

「えっ住み込み?」

 

ものすごい勢いで話が進んでいく、千夜さんは僕の手をがっしり掴んで離さない。

存外力が強く、僕の非力では引き剥がせそうにもないほどだ。

 

「なるくん取っちゃだめぇ!」

 

しかしその手は、間に割って入ってきたココアさんによってほどかれた。

 

「なるくんはラビットハウスの従業員さんだから、いくら千夜ちゃんでもあげられないよ!」

「僕の権利は?」

「そ、そんな……既に手を回していたなんて、同い年の子と一緒に働けると思ったのに……」

 

……同い年の子と一緒に、か。

その想いは、なんとなく僕にもわかった。

 

「……時々ならいいよ?」

 

僕がそう言うと、千夜さんはパッと笑顔になった。

 

「本当!? 嬉しいわ! その時はココアちゃんも連れてきてね?」

「私も!? でも、私にはラビットハウスという住み込みの職場が……」

「部屋を開けておくから荷物をまとめてきてね?」

「話がトントン拍子で進んでいくよぉ!」

 

千夜さんは僕とココアさんの腕をがっしり掴む、被害者が増えた。

でも、千夜さんの顔が本当に嬉しそうだったから、僕もココアさんもそれをほどくことをしなかった。

 

 

ーー

 

 

ーー数日後。

 

『オーブンならありますよ、おじいちゃんが調子に乗って買ったやつが』

 

チノちゃんのその言葉によって、ココアさんのパン魂が再び昂った。

 

「じゃあ、今日はみんなで看板メニューの開発をするよ!」

 

そして話は進み、ココアさん主催の料理会が開催と相成ったのだ。

 

「こちらは千夜ちゃん! 私となるくんのクラスメイトで、和菓子屋の看板娘だよ」

「呼んでくれてありがとう、今日はよろしくね?」

「ここのバイトのリゼだ、よろしくな」

「チノです、よろしくお願いします」

 

挨拶を交わして頭を下げるチノちゃん、その頭上にちょこんと乗っているティッピーがずり落ちそうになる。

 

ギリギリでチノちゃんが受け止めるが、『ぬおっ!』というしゃがれた声が聞こえた。

隠す気があるのだろうか。

 

僕は昔のおじいさんと知り合いだったのもあり、その正体を知っているが、もし世間にバレたりすればどうなるかわかったものではないのだが……。

 

「あら、そのワンちゃん……」

 

千夜さんがティッピーを見て言う。

確かにうさぎには見えないが。

 

「ワンちゃんじゃなくティッピーです」

「この子はただの毛玉じゃないんだよ~」

「あら、毛玉ちゃん?」

「もふもふ具合が格別なの! ラビットハウスのマスコットだよ!」

「癒しのアイドルもふもふちゃんね」

「ティッピーです」

「話終わりそうにないから言うね? アンゴラうさぎって品種だよ」

 

放置すれば話が異次元に飛ぶ予感がしたので僕は口を出した。

ただの毛玉でないのは全くもって間違いないのだが。

 

「それにしても、ココアがパンを焼けるなんて意外だな」

「えへへ、そうかな」

 

リゼさんが話を仕切り直す。

 

「みんな、パン作りを嘗めちゃいけないよ! 少しのミスが完成度を左右する……そう、これは戦いなんだよ!」

「戦い……!? そしてココアのこのオーラ、まるで……」

 

リゼさんが昂るココアさんを見てはっ、と息を飲む。

嫌な予感がする。

 

「今日はお前に教官を任せた! よろしく頼むぞ!」

「任された!」

「リゼさん……」

 

彼女は幾つかの琴線に触れるワードーー主に軍事関係ーーを聞くと、すぐに調子に乗ってボケに回る癖がある。

 

 

「……暑苦しいです」

 

チノちゃんは小さく呟いた。

彼女は僕が来る前からこのノリを味わっていたので、既に若干辟易しているらしい。

曰く、『疲れる』とのこと。

 

「よし、それじゃあ各自、パンに入れたい具材を提出~!」

 

ココアさんが仕切り、改めて料理会が始まる。

彼女が言って取り出したのは……

 

「私は新規開拓に焼きそばパンならぬ焼きうどんパンを作るよ!」

「私は自家製あずきと、梅と海苔をもってきたわ」

「冷蔵庫にいくらと鮭と納豆とごま昆布がありました」

「和風縛りでもあったっけ?」

 

見事に和風の食材しかない、そしてあんこ以外は総じてキワモノ揃いだ。

初心者が奇をてらって常軌を逸したモノを作り上げるのは古来からの伝統芸能だが、大丈夫だろうか。

そもそも料理人が変わり種なのだし、普通にするくらいがちょうどいい気がするが。

 

「……私はイチゴジャムとマーマレードだ」

「あぁ普通だ、良かったです」

 

ものすごく釈然としない表情で、リゼさんはジャムの瓶を取り出した。

 

「ナルミ、確認なんだが、これはパン作りだったよな?」

「そのはずですよ」

「だよな、ナルミは何を持ってきたんだ?」

「僕はケチャップ、ウインナー、玉ねぎとピーマンとマッシュルームです」

「何を作るんだ?」

「ナポリタンです」

「パン作りだよな? あれ? もしかして私がおかしいのか?」

 

リゼさんは頭を抱えた。

 

「あ、いえ、焼きそばパンがあるのでナポリタンパンがあってもいいかなと思って」

「そ、そうか……まぁ焼きうどんパンよりはマシか……?」

「千夜さんのあんことそれ以外は全部おにぎりの具材ですからね」

「不安だ……」

 

 

ーー

 

 

その後僕たちは、パンの生地作りを初めていた。

 

「ふぅ、ふぅ……」

 

小麦粉の塊を、ひたすらこねる、こねる、こねる……。

 

「こ……これ……思った以上に……重労働、だね……」

 

既に貧弱な僕の体力は尽きかけていた。

周囲にいる女性たちと大差ない太さの腕はぷるぷると震え、乳酸を退かせと叫んでいる。

 

「思ったより、時間のかかる作業なんですね……」

「腕が、もう動かない……」

 

他にも、体力に自信のない人たちがきつそうしているが、諦めずに続けていた。

 

「リゼさんは余裕ですよね?」

「何故決めつけた?」

「ココアさんは……」

 

そしてもう一人、何かのオーラを放出しながらひたすらにパンをこねる……いや、愛でる人が。

 

「このパンがもちもちしてて、凄く可愛いんだよ!」

「凄い愛だ!」

 

流石はパン屋の娘といったところか、その作業は手慣れたもので、そして一つ一つの作業に工夫と愛が込められているのがわかる。

 

「くっ……ふぅ」

 

対して僕は疲れはて作業スピードが落ちてきていた。

正直に言えば休みたい、だが……。

 

「大丈夫千夜ちゃん、手伝おうか?」

「いいえ、大丈夫よ」

「なるくんも辛そうだけど……」

「これくらいなんともないよ、大丈夫」

 

最も辛そうにしている千夜さんが健気に続けている以上、男の僕が先に折れるわけにはいかない。

その想いで、僕はパンをこねた。

 

「二人とも頑張るねぇ、健気ってやつかな」

「あぁ、流石にナルミは体力無さすぎな気がするが……」

「逆にリゼさんは体力お化けですよね、普段の仕事でも力仕事はリゼさんがやることが多いですし」

「……なんか釈然としない、いやまぁそれ以外の仕事が完璧だから、困ってはいないんだがな」

 

何か三人がひそひそ話をしている。

 

まさか、体力ないとか男として情けないとか言われてるんじゃ……。

なら、意地でもついていけるってところを見せつけなくちゃ……。

 

へろへろになった腕に力を込めようとすると、千夜さんと目が合う。

 

「なるくん、大丈夫……?」

「だい……だい……だい……丈夫、男なんだ、これくらいこなさなきゃ……」

「なるくん……そうね、ここで折れるは武士の名折れぜよ、息絶えるわけにはいかんきん!」

「何故に土佐弁……?」

 

千夜さんは腕捲りをして、まるで立ち合いの如く気合で小麦粉に向かっていった。

 

僕も負けていられない……!

腕捲りをして、目の前の小麦粉を叩き伏せんと挑みかかった。

 

「……健気?」

 

チノちゃんの呟きは、熱気にのまれて消えた。

 

 

 

ーー

 

こね終えた、ココアさん曰く『凄く可愛い』パン生地を一時間ほど寝かせるため、一同は暫しの休憩をとっていた。

 

「改めて、ココアさんは料理もできるんだね、パン作りの手際を見て驚いたよ」

「えへへー、もっと誉めてくれていいんだよ?」

「僕、ここのメニューは粗方作れるけど、パンは作ったことないし、また機会があったら教えてくれる? もしメニューにするんなら、作れる人多いほうがいいし」

「もっちろん! お姉ちゃんにまかせなさーい!」

 

ココアさんはサムズアップして言った。

 

「ココアさんはパン以外作れないんですが……」

 

チノちゃんはその姿をジトついた目で見ていたが、目の前のココアさんがとても嬉しそうだったので、気にはしなかった。

 

「しかし毎度思うが、ナルミは体力がないな」

「あはは……昔は身体が強くなくて、今は大丈夫なんですが、体力は底辺ですね」

「私が訓練をしてやろうか? 1ヶ月で、一人前の戦士にしてやるぞ」

「あはは、戦士にはなりたくないですね……あっ、タイマー鳴りましたよ、パン作りの続きやりましょう?」

「あっおい逃げるな! ……全く」

 

リゼさんからのお誘いを回避し、僕は自分の分のパン生地へ向かった。

彼女の作ったメニューをやろうものなら、間違いなく僕は天に召されることだろう。

悲しいことに人には向き不向きがあるのだ。

 

「さて! 次はパンの形を整えていくよ! みんな自由に作ってね?」

 

ココアさんの一声で、全員が思い思いの形にパンを整形していく。

 

リゼさんはうさぎの形。

千夜さんは団子のように小さく丸めたものを複数。

僕は普通のコッペパンのような形。

 

チノちゃんは……

 

「それは……アンパ○マン?」

「違います、おじいちゃんです」

「おじいさん……?」

 

ちらり、と上を見る。

チノちゃんの頭の上には、少し恥ずかしそうに身を縮こまらせるティッピーの姿が。

まんまるふわふわのその姿と、若干リアルなアン○ンマンのようなパンは似ても似つかない。

 

「そっちじゃないです」

「あ、そう……デフォルメし過ぎてわかんなかったよ」

「白いお髭が特徴的で……コーヒーを煎れる姿は尊敬していました……」

「白いお髭が特徴だったのでは……?」

「表現上の都合で省略しました、表現しないことも、芸術の一つの形なのです」

「後で生クリーム持ってきてあげるね」

「……ありがとうございます」

 

チノちゃんは恥ずかしそうに目を反らした。

上のティッピーも尊敬していると言われて面映ゆいのか、もじもじとしている。

……こういうところが、家族なんだなぁと思った。

 

「よーし、じゃあみんな、オーブンにパンを入れていくよー!」

 

ココアさんの声。

 

「それじゃ持っていこうか、焼いてる間、僕はナポリタンでも作ってようかな……」

「そうですね、では……」

 

チノちゃんはパンを持って、オーブンへ向かう。

そしてそのパンーー複数のおじいさんを、オーブンの中へ。

 

「これからおじいちゃんを焼きます」

 

言葉尻だけ聞けば恐ろしく猟奇的だった。

 

 

ーー

 

 

「じゃーん! 焼けたよー! 早速食べて見よー」

 

パンの焼ける香ばしい匂いと共に、ココアさんが焼きたてのパンを持ってくる。

見るとパンはどれも美味しそうに焼き上がっており、匂いと合わせて食欲をそそってくる。

 

まず、それぞれ作ったパンを一口齧る。

 

「おいしい!」

「いけますね」

「これなら、看板メニューにできるよ!」

 

千夜さん、チノちゃん、ココアさんが口々に言う。

 

「この焼きうどんパン!」

「梅干しパン!」

「いくらパン」

「どれも食欲そそらないぞ……?」

 

大量の珍パンにリゼさんが思わず突っ込む。

つられて僕もナポリタンパンを食べてみる。

 

「野菜の火が少し通りすぎてる……麺の食感も少し……これならアル・デンテで上げない方がいいかな……最後にバターでも入れて、食感をしっとりさせて……」

「なるくんは、あんまり美味しくなかった?」

「え?」

 

見ると、ココアさんが少し不安そうにこちらを見ていた。

 

「い、いやいやいや、そんな事……パンはとても美味しいよ、ただ、それに合わせるナポリタンの方がもうちょっと改善できるかな、って」

「そうなの? 一口もらっていい?」

「いいよ、ナポリタン余ってるから今から……」

「なるくんの持ってるやつでいいよ」

 

言って、ココアさんは僕の持っていたナポリタンパンに齧りついた。

僕が食べた断面部分から。

 

「おいしい! なるくん、お料理とっても上手いんだね!」

「あ……ありがとう」

「お返しに、私の焼きうどんパンもどうぞ!」

 

少し目を反らしながら答えると、返礼とばかりに焼きうどんパンが差し出されてくる。

差し出された方向は……断面部分じゃない。

よく見るとココアさんの顔は少し赤かった。

 

あぁ、この人も恥ずかしがるのだな……などと少し失礼なことを考えると、頭が冷静さを取り戻す。

そのまま、差し出された焼きうどんパンを一口。

 

「ど、どうかな?」

「おいしいよ、だけど少し味が薄めかな、後、パンとうどんで食感がもたつくから、野菜はあまり火にかけずシャキシャキ感をを出すようにしたほうがいいと思う」

「まともな食レポだ!」

 

焼きうどんパンは思ったより美味しかった、パンに挟まずそのまま食べた方が多分美味しいが……やはりココアさんは料理も結構出来るようだ。

 

「それなら私の梅干しパンも、あーん」

 

千夜さんもつられてパンを差し出してくる。

海苔の巻かれたパンで、中に梅干しが入っているらしい。

 

「おいしいね、なんかご飯が欲しくなる味」

「なるさん、私のいくらパンもどうぞ」

「チノちゃんはなんでわざわざそれをチョイスしたの?」

 

彼女の持っていた食材は特にキワモノ揃いだったが、何故更に選りすぐりのキワモノを選んだのか。

とりあえず食べてみる。

 

「……」

 

パンの中に、火の通ったいくらのぐにぐにした食感が……。

 

「どうですか?」

「……………………えっと」

 

返答に非常に困っていると、にわかにコーヒーの香りが立ち込める。

見ると、ココアさんがコーヒーを煎れて持ってきてくれたみたいだ。

 

「じゃーん! おもてなしのラテアートだよ!」

「ありがとう、ココアさん」

 

僕は二重の意味でココアさんに感謝した。

ココアさんから配られたコーヒーには、花のラテアートがあしらわれていた。

まだ少し歪だが、始めたばかりと考えれば十分と言える出来だろう。

 

「はい、千夜ちゃんには最高傑作だよ!」

「まぁ、すてき! 味わっていただくわね」

 

千夜さんがコーヒーに口をつける。

 

「あ……けっさくが……」

 

ココアさんがにわかに落ち込んだ表情をする。

千夜さんはゆっくりとコーヒーを戻した。

ココアさんは笑顔に戻る。

 

……数秒後、再びコーヒーを手に取る。

ココアさんの表情が曇る。

 

「……その前に写真撮っとけば? 傑作なんでしょ?」

「そ、そうだね! あっでももう……」

「大丈夫よココアちゃん! まだコーヒーには口をつけてないわ!」

 

ココアさんは写真を取り、千夜さんはゆっくりとコーヒーを飲むことが出来ました。

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