「お客様の明日の恋愛運は……上々です、水玉模様をつけた年下の方に誘惑されるでしょう」
「え~! そうなんだ! どんな人なんだろう、楽しみ~」
昼下がりのラビットハウス。
お客の入りはそれなり、その中の一組の女性客にチノが何やら面白そうなことをやっている。
ナルミは出した料理の感触を見るため、厨房の陰からそれを見ていた。
「いつもありがとね、店員さん」
「どういたしまして、またいらしてください」
女性は意気揚々と帰っていく。
どうやらこの店のリピーターらしい、先ほどのチノのサービスを求めてやってきていたようだが……?
「リゼさん、あれは?」
ナルミは、そばで皿の片づけをしていたリゼに聞く。
「ん? ナルミは見るの初めてか?」
「はい、この店でやってるサービスか何かですか?」
「コーヒー占いだよ、カプチーノ限定でやってるんだ」
「占いですか……あんまりよく知らないんですが、なぜカプチーノ限定?」
「カプチーノ以外だとわからないからです」
片づけた食器等を持ってきたチノが、横合いから言ってくる。
「あれは『カフェ・ド・マンシー』と言って……飲み終わった後、カップの底に残った模様で占うんです」
「チノの占いは結構当たるんだぞ、さっきの人みたいに占い目当ての人もいるくらいだ」
「ほほう! 下駄占いがよく当たる私と張り合うつもりかな?」
「なんで勝負になってるんだ? というか雨か晴れの二択しかないだろ、それ……」
「そんな事ないよ! 横なら曇りだし!」
「どちらにせよ三択……」
話しているとココアが話に乗ってくる。
『あ~したて~んきになぁ~れ!』と言って靴を飛ばす彼女の姿は容易に想像できた。
きっと子供のころから明るくてやんちゃな子だったのだろう。
「リゼちゃんもその……『カフェ・ド・マンシー』できるの?」
「私は無理だが……これはやったことあるぞ」
言ってリゼは指で銃を作り、自分のこめかみに押し当てた。
ロシアンルーレットだろうか……どういう状況でやったのか。
「なんか危険な匂いがする!」
「それは占いじゃなく賭けかなにかだと思うんですが……」
「実包でやったときはさすがに緊張したなあ」
「命は投げ捨てるものではないですよ」
「自動拳銃を渡されたときは肝が冷えたよ」
「もしかしてダーウィン賞狙ってます?」
ナルミはリゼの将来が心配になった。
ある国では、ロシアンルーレットによって年間10人程度の死者が出ているのだとか……。
なお、自動式拳銃でやった場合はほぼ100パーセントの確率で死ぬ。
「私も占いやってみたい! みんな飲んでみて!」
ココアは4人分のコーヒーを持ってきて言う。
とりあえず飲んでみて、それぞれココアにカップを渡す。
「……うさぎってコーヒー飲んで大丈夫なの?」
「少量なら大丈夫みたいですね」
なぜかティッピーにも渡されていた。
特になんの疑問もなく、ティッピーは器用にコーヒーを飲んでいた。
「まずチノちゃんは……空からウサギが降ってくる模様が浮かんできたよ」
「そうは見えませんが……本当だったら素敵ですね」
空からウサギが降ってくる……?
「なんかデジャブを感じるような……?」
なぜか某和菓子店のうさぎが思い出された。
「リゼちゃんは……コインがたくさん飛んでくるのが見えるよ! 金運がアップするのかな」
「欲しかったものが買えそうだな」
『拾う』でなく『飛んでくる』?
なんか痛そうだ。
「ティッピーはセクシーな格好でみんなの視線を釘づけだよ!」
ティッピーは顔を赤らめる。
いやそもそも貴方は常時全裸だろう……。
「毛刈りでもされるのかな……」
「縁起でもないことを言うでないわ」
身震いしながらティッピーが言う。
まあ所詮は占い、気軽に聞いていいだろう、とナルミは思った。
しかしココアはナルミのカップを見て眉を潜めた。
「ココアさん?」
「なるくんは……なんだろう、倒れてる人と、寄り添ってる人が見えるよ、誰かを助けてるのかな」
「助ける? 僕が役に立てるのなら、嬉しいな」
言っていると、横合いからカップが差し出される。
手の主はチノちゃん……そして、頭の上にいるおじいさん。
「全くなっとらん、ワシが占ってやろう」
「ティッピーも占いたいの? どっちが当たるか勝負だね!」
「私もやるのか……」
ココアとリゼはコーヒーを受け取り言う。
カップを渡したチノはものすごく微妙な表情をしていた。
「相変わらずチノの腹話術は凄いな」
「はい、実はティッピーの力を借りれば、ほかのコーヒーでも出来るんです」
「へぇ……」
「おじいさん……」
ナルミは小さくため息をついた。
普通に喋りだしたぞこのウサギ……。
……まぁ腹話術で済むならそれでいい。
ココアは受け取ったコーヒーを飲み干し、チノに渡す。
チノはそのコーヒーカップを特に見ることもなくティッピーに見せる。
もはや隠す気もない。
「ココアの明日の運勢は、雨模様、いや水玉模様じゃな、外出しないのが賢明じゃ」
「……だって、リゼちゃん」
「いやお前の運勢だよ」
ティッピーは次にリゼのカップを覗き込む。
「次はリゼのじゃが……リゼは将来器量のよい嫁になるじゃろう」
「私が? そんなまさか……」
「リゼさんらしい結果ですね」
「ナルミまで……そんな、私なんて」
リゼは否定するが、頬の緩みは隠せていない。
「昨日は夕食のティラミスがひとつじゃ足りずキッチンに侵入した」
「! なぜそれを!?」
「しかしカロリーが気になって、その後ランニングに走ったの」
「えっ」
「誉めるとすぐ調子にのる」
「待っ」
「実は甘えたがり」
「……」
「適当にかわすのが無難……ギャーッ!!」
そこまで言ったところで、リゼのチョップがティッピーを襲った。
彼女の顔は耳の先まで真っ赤だった、つまり全て事実なのだろう。
「この毛玉め! こんなのただの性格診断じゃないか!」
「あはは……」
一応、言ってるのはチノーーということになっているーーが、ナルミは黙った。
これで少しは隠してくれるようになってくれればいいのだが……。
なおティッピーが粛正されたので、ナルミが占われることは、なかった。
ーー
翌日、学校にて。
「コーヒーで占いができるの? 面白そう!」
「『カフェ・ド・マンシー』って呼ばれてるんだって」
「『カフェドマンサー』? ネクロマンサー的な?」
「『マン』しか合ってないよ……千夜さんってそういうオカルト系? の知識が豊富だよね」
休憩中、千夜とココアとナルミは席を囲んで昨日の占いの話をしていた。
「占いと言えば私、手相を見られるのよ」
「面白そう、なるくん、一緒に見てもらおうよ」
「そうだね、千夜さんお願いできる?」
「どれどれ……」
差し出したナルミとココアの手のひらを、千夜が手にとって観察していく。
すべらかな感触に、ナルミは一瞬どきっとした。
「なるくんには……気配りやさんの線と二重感情線があるわね」
「気配りやさんはわかるけど……二重感情線?」
「ふだんは落ち着いてるんだけど、好きな人の前では緊張してガチガチになってしまう人の線よ」
「嬉しくない……」
それはつまり、恋愛がうまくいかないということなのだろうか。
しかし、そうなってしまう自分を、ナルミは容易に想像することができた。
「ココアちゃんは……あら、魔性を秘めた線があるわね」
「魔性!?」
「実は私にもあるの」
「おそろいだね~」
言って二人は、お互いの『魔性を秘めた線』とやらを重ね合わせた。
「……魔性?」
二人してえへへと笑い合う姿は、まるで背景に花が咲いているよう。
その緩い雰囲気に、『魔性』という言葉は究極に似合わないとナルミは思った。
多分クラス中がそう思っているだろう、とも。
ーー
お昼休み。
季節は春を迎えて久しい、晴天の空より降り注ぐ日差しはポカポカ暖かく、ぼぅっとしていればそのまま寝入ってしまいそうだ、とココアは思った。
そんな心地よい天気だったものだから、ココアと千夜は弁当を片手に校舎すみのベンチでランチタイムと洒落混んでいた。
ナルミは別の男の友人と席を囲んでいるため不在。
少し前の球技大会から、ナルミの回りには人が増えたような気がする。
「そのお弁当美味しそうね」
「ほんとー!?」
千夜がココアの弁当を見て言う。
彼女の弁当は、卵焼きやウインナーなど定番のものを詰め込んだ彩りのよい献立だ。
ふだんはチノの父、タカヒロがまとめて作っているが、今日は自作、なかなかうまくできたとココアは自負していた。
「今日は自信作なんだ、特にこの卵焼きの焼き加減が……」
そこまで言ったとき、ぴりりり、と電子音が鳴る。
音源は千夜の電話からだった。
「あら、電話……なるくんからだわ」
「なるくん? どうしたんだろ」
少し首を傾げながらも、千夜は電話に出る。
「もしもし? なるくん? ……え? あんこがカラスに
「え!? あんこが!?」
あんこは、甘兎で飼われている看板兎のことだ。
真っ黒な体躯と人形のような動じなさが特徴で、何故かよくカラスに拐われるのだ。
「何処で見たかわかる? ……え、こっちに飛んで行った?」
ココアと千夜は同時に上を見た。
ーー瞬間、ココアの顔を影が覆う。
「え」
膝元に広げていた弁当に、べしゃり、と何かが着弾する。
見ると、件の黒うさぎが普段と寸分変わらぬポーズのまま、ココアの膝に鎮座していた。
「あらあら、またカラスに拐われるなんて……」
「私の自信作……」
当然だが、弁当は半分が地面にぶちまけられ、半分はぐちゃぐちゃになった。
地面にぶちまけられた半分の中には、卵焼きもあった。
『……マジかよ』
千夜の携帯から、ナルミが小さくぼやいた。
ーー
ココアの弁当にあんこが落着してきて数分後。
二人は食べ物がこぼれ汚れた制服を洗い、購買にて代わりの昼食を買おうとしていた。
あんこは先生に許可をとり、一時的に預かってもらっている。
「そういえば、この学校のコロッケパン食べてみたかったんだ、前になるくんがおいしいって言っててね」
「ココアちゃんはいつもお弁当だものね」
「うん、千夜ちゃんのおかげだよ、ありがとー」
普段はお弁当だし、たまにはこういうのもいいかもしれない、ココアは持ち前のポジティブ思考で気持ちを切り替えた。
「少し遅い時間だけど、まだ売ってるかな……」
通常、購買には終業直後に生徒が雪崩れ込む、少し遅い時間なのもあって生徒の数はまばらだった。
幸い、コロッケパンはまだ残っていた。
おいしいと評判の一品だが、パン屋の娘としては厳しい目で見ざるを得ない。
「コロッケパンひとつくださいな」
購買のおばちゃんが素早く袋詰めをして、こちらに渡してくる。
値段は百円、やはり高校の購買とあって安い。
これで美味しいのならば完璧なのだが……。
「触れた感じのもちもち感は……及第点かな」
「……あら?」
そこで、千夜が何かに気づく。
ココアもつられて見回すと、すぐにそれに気づいた。
注目されているのだ。
購買周辺の少なくない人たちに。
「ココアちゃん……なにか私達、見られてるような」
「そうだね……ふふふ、私達の魔性にみんなが気づいたのかもしれないね」
「そうなのかしら……」
魔性を秘めた二人が揃ってれば魔性は二倍、人を引き付けるぐらいはできるのだろう……たぶん。
ーーそこまでココアが思ったところで、ぴりりり、という音が再度鳴る。
また千夜の携帯電話のようだった。
「あら……またなるくんだわ」
「珍しいね、あんこは先生に預かってもらってるけど」
「出てみるわ、もしもし? なるくん? ……どうしたの?」
千夜の表情が変わる。
会話の内容は聞き取れないが、何処か深刻な様子でナルミが話していることだけは、ココアにもわかった。
「え……? ココアちゃんの背中? 少し待って……」
千夜がココアの後ろに回る。
「ーーつっっっ!!!? ココアちゃん!」
「ひゃっ!? っと!」
言葉にならない悲鳴とともに、ココアのお尻が思いっきり押される。
その拍子に、手からコロッケパンがこぼれ落ちる。
が、ギリギリでキャッチ。
折角の昼食だ、これまでなくなったら夜までご飯抜きで過ごすことになってしまう。
一息ついて千夜のほうへ向くと、千夜は顔を真っ赤にしていた。
「こ、ココアちゃん……パ……パ……パン……」
「パンなら無事キャッチできたよ!」
「違うの! さっきトイレに行ったときから……スカートがめくれあがって、その、ココアちゃんの水玉が……っ!」
「あ"……」
気づけばパンは地面に落ちていた。
『……セクシーな格好でみんなの視線を釘付け』
千夜の携帯電話から、ナルミの声が小さく響く。
誰にも聞かれることはなかったが。
ーー
「なんだか今日はついてない気がする……」
「ま……まぁこんな日もあるわよ」
放課後。
ココア・千夜・ナルミの三人は、連れだって帰りの道を歩いていた。
パンツ露出事件の後、ココアと千夜はそそくさとその場を退散した、購買に近寄ることはできなかったため、昼食は抜きだ。
「……そういえばなるくん?」
「何?」
「見た?」
「……遠くから、少しだけ」
ナルミはそっぽを向いて言った、彼の耳は赤かった。
ココアは少し泣きそうになった。
「もうお嫁にいけない……」
ココアは小さく呟く。
ーー幸い、トイレから購買の距離は近い、曝したのはあのときに購買にいた人くらいだろう。
それでも、教室に戻った際に
明日学校に行くのが……少し気が重い、こんなのは始めてだ、とココアは思った。
「うぅ……」
何より、この目の前で顔を赤くしている少年に見られた、と言う事実が何よりきつかった。
「なにか美味しいものでも食べて気分を変えようか、今日は奢るよ、千夜さんも」
ナルミは振り向いて、いつもの笑顔で言う。
先ほどの表情は欠片も残っていなかった。
「なるくん……ありがとう」
「私もいいの?」
「僕も男だし、甲斐性ってやつを見せなきゃだからね……っ!?」
ナルミが血相を変える。
ーー次の瞬間には、ナルミはココアに飛び付いていた。
「えっ……!?」
突然の出来事に混乱していると、大量の水がナルミに振りかかる。
最後にじょうろが、おまけとばかりにナルミの頭を叩いて地面に落ちた。
「ご、ごめんなさい! 手が滑ってじょうろが!」
上からの声に視線を向けると、窓から身を乗り出し、慌てふためく女性の姿が。
恐らくは窓枠にかけたプランターに水をやっているところを、手を滑らせて落としたのだろう。
「ココアさん、大丈夫?」
ナルミがココアを抱き止めたまま言う。
水を被ったのもあるが、ひんやりとした体温。
どこか病院を
体つきは細いけれど、思ったより硬い、男の子だとわかる感触。
守ってくれたーーその事実を理解した瞬間、ココアの心臓が少しだけ跳ねた。
そして、今日のことを思い出す。
悪いことがたくさん起こったけれど、どの時も彼は私を助けようとしてくれていた。
そう考えると、今までの陰鬱な気持ちが晴れて、ココアはとても嬉しくなった。
「あ……ごめんココアさん、急に飛び付いたりして……っ!?」
離れようとする彼をぎゅうっと抱き締める。
「ありがとーなるくん!! なるくんはわたしのラッキーアイテムだよぉ!!」
「こ、ココアさん、引っ付くと濡れちゃう」
「できた弟を持ててわたしは幸せだよぉ」
「弟じゃないよ……まぁいいか」
ナルミはほっとしたように息をついた。
自分はずぶ濡れなのに、まるで自分が助かったかのように、安心したような表情だった。
それはどこか、自分の姉が見せる表情に似ているとも、ココアは思った。
「あらあら……なるくんびしょびしょね」
「ありがとう、千夜さん」
千夜がハンカチを取り出してナルミの髪を拭う。
「水も滴るいい男になったわね」
「いつかそうなれたらいいなぁ……へっくち!」
「あら、大丈夫?」
ナルミが勢いよくくしゃみをする。
「別にこのくらい平気だよ、天気もいいし、服もいずれ乾くだろうし……」
「ダメだよなるくん! お姉ちゃんがもふもふして暖めてあげる!」
「ちょっ……平気だから! ほら、フルールが近いし、そこに行こう? ごちそうするよ」
ナルミはココアの手を避け、普段と同じ笑顔で言った。
彼はそのまま、フルールの方向に向かって駆けていく。
「あ、そうだ」
……が、急に止まって、振り向き彼はこう言った。
「ココアさん、今後は絶ーっ対に、占いやっちゃダメだからね!」
「なんで!?」
「いずれ身を滅ぼすよ!」
「そこまで!?」
ーー
「なっ……なんてもの連れてきてんのよ! ひいっ!?? やめて! こっち来ないで!!」
ココア、千夜、ナルミが『フルール・ド・ラパン』に入ると、制服を着たシャロが完璧な営業スマイルを見せてくれる……ことはなく、彼女はまるで殺されかけているかのように全力で逃げ出した。
「がーん……わたし、そんなに不幸オーラが出てるの?」
「だったら誰も近寄らないよ、千夜さん、あれは?」
「シャロちゃんは昔あんこにかじられて以来、うさぎ恐怖症なの」
「よりにもよってこの街でそんな難儀な……」
どうやら不幸オーラが出ているわけではないらしい……ココアはほっと胸を撫で下ろした。
そういえば、シャロがリゼと会ったきっかけはうさぎに襲われたことが原因だと以前言っていた。
「こんなに可愛いのに……もったいない」
腕の中にいるあんこをそっと撫でる。
普段微動だにしないあんこだが、何故かこの店に入った瞬間から、シャロを常に視線に捉えていることにココアは気づいた。
懐いているのだろう、本人の好感度は低いようだが。
ーーびくびくしながらもシャロは席へと案内してくれた。
客入りが少ないのもあってか、注文するとほどなくお茶とお菓子が運ばれてきた。
リンデンフラワーのハーブティに、フルールのシンボルマークがあしらわれたロールケーキだ。
「んー♪ おいしい!」
「ココアさんの機嫌が治ってよかったよ」
「むしろ
「私にもご馳走してくれてありがとう、なるくん」
「どういたしまして」
笑顔で言いながらも、どこかナルミは忙しなく周囲に気を配っているようだった。
その中でも特に、出口前のお会計に目を向けているようだ。
「……『コインがたくさん飛んで来る』なら、やっぱり会計の時が危ないか……? まぁ僕が払えば後ろのココアさんに当たることは……」
ぼそりと呟くナルミを尻目に、さらにココアは視線を巡らせる。
若干離れた所では、シャロが警戒心を最大にしてココア……の上に乗っているあんこを見つめていた。
「こ、こいつが来るなんて……今日はついてない……!」
「シャロちゃん! 今のココアちゃんの前で『ついてない』なんて言っちゃ駄目!」
「えぇ!? なんかわかんないけど面倒くさい……!」
千夜が言う。
やはり気を使わせてしまっているらしい……。
元気にやって、もう大丈夫だと伝えなければ。
「大丈夫だよ千夜ちゃん、なるくん、二人のおかげでむしろ良い日になった気がする」
「そう? ならいいんだけど」
「気を付けてねココアさん、何が起こるかわからないし」
「もぅ、なるくんは心配性だなぁ」
ナルミはあははと笑って、ハーブティに口をつける。
その後は、何が起こることもなく和やかなアフタヌーンティーを楽しむことができた。
ーー
少し日が傾いて来た頃。
ココアたちは会計をして店を後にしようとしていた。
「……はい、お会計ちょうどですね、ありがとうございました」
シャロはナルミからお金を受け取り、いつも通りの営業スマイルを見せてくれた。
「ごちそうさま、また来るね」
「またのご来店をお待ちしてます、でもそのうさぎはやめて欲しいわ」
「あはは……まぁ、今日は事情があって」
ナルミは入り口を開ける。
外は既に夕焼けに染まっており、少し肌寒い風が吹いていた。
「……あっ!」
そして、同時にそれは起こった。
まず、ココアの腕にいたあんこが勢いよく飛び出した。
そして、シャロの顔面に張り付いた。
「ふぎゃ!? いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!!」
シャロは混乱し、断末魔の如く悲鳴をあげて手を足をじたばたと振り乱す。
ーーそして、お会計を持っていた腕が、勢いよく振り抜かれる。
大量のコインが、飛んで来た。
「ココアさ……」
ナルミの反応も虚しく、薙ぎ払われるように放たれたコインはーー
ーー咄嗟にくしゃみをした千夜を除く二人を直撃した。
ーー
翌日。
「ねぇねぇ二人とも、昨日はわたしの占い当たった?」
ラビットハウスのバイト着に着替えたココアは、既に店内にいたチノとリゼに聞いた。
「特に何もありませんでしたね、うさぎも降ってきませんでした」
「私も特になにもなかったぞ、お金を拾ったりとかもしなかったし」
「そっか……占い勝負はティッピーの勝ちだね」
昨日の運勢は決して良くはなかった、どうやらティッピーの力を借りたチノの方が、いわゆる
「わたし、あんこが落ちてきたりスカートが
「ココアさんは人の不幸の身代わりになる才能でもあるんですか?」
「えへへ、でもなるくんにお茶ごちそうになったり、良いこともあったんだよ」
「へぇ……それはよかったな」
そこで、ココアは気づいた。
「……あれ? なるくんは?」
ココアが言うと、チノは少しだけ目を伏せて、こう言った。
「さっきマヤさんから連絡がありました、なるさんは……熱を出して寝込んでしまったらしいです」