原神 短編集   作:ももドゥーチェ

2 / 3
前回とのつながりはないです。

これはほんの少しだけ長めです。あまり原神に登場するキャラクターは設定が詳しくわからないので書きたくないのですが、欲望に負けました。


第2話

 王が存在しない自由の国モンド。本来ならば風の神が王になるはずだが、本人が自由気ままな性格だからか王にはならず、ボク達をずっと何処かで見守ってるらしい。

 

 この話を聞くたびに思う。僕とこの神はきっと気が合う。神の目を持つとするならば風元素になることだろう。もちろんお酒は好きだし、それだけ自由気ままにその日の気分で何をするかを決め旅をしている。

 もちろん争いごとは好きじゃない。そんなことをしたって面倒なだけだし、そこからは何も生まれない。もしそういった出来事に遭遇したならば、見て見ぬふりをしてやり過ごすのが正解だと馬鹿な僕でもわかる。

 

 でも――でも、どうして僕は今、宝盗団から女性を庇っているんだろう。面倒ごとは嫌いだ。自由に生きればいい。他人なんて知ったことない。そうやって生きてきたくせに、いざそういった場面に遭遇するとこんな性に合わないことをしてしまうなんておかしな話だ。

 敵の数は4人。これをたった、と言えるのが神の目を持つ者なのだろうが、生憎僕にはそんな力が備わっていない。勝てる算段など一切無いのだ。

 そもそも、ただの平凡な旅人に戦闘能力など求めることが間違いだ。逃げるスキルだけがひたすらに育っていく僕にとっては介入するべき件ではなかった。

 

 そう頭では分かっていても、体が勝手に動いていた。最初は無視しようと思っていたのに、剣を振り上げた瞬間に僕の足が勝手に動き出し、女性を庇うように前に出ていた。

 

 「えっ――?」

 

 背後から驚いた声が聞こえてくる。その刹那、俺の胴体が横斜めに切り裂かれ、血しぶきが舞うのが見えた。

 不思議と痛みはない。意外と冷静だ。血が溢れ続けているというのに、つい笑みが零れてしまう。

 

 ――あぁそうか。僕はこの状況を楽しんでいるのか。自由に生きる、なんていうのはただの言い訳で、僕は生きる意味を、今の退屈な生活に刺激を求めていたんだ。それが旅という『形』になって出てきただけで、決して『自由に生きる』 ことを目的としていたわけじゃなかったんだ。

 

 あぁ、あぁ。ありがとう。僕は『自由』に縛られていた。それに気付かせてくれてありがとう。ずっと探してきた『終着点』がこんな身近なところにあったとは思いもしなかった。

 

 そう気づいたはずなのに――なんでこのモヤモヤが晴れないんだろう。

 

 意識が朦朧としてくる。視界が暗くなってきて、立っているのもやっとな状態になってきた。でも駄目だ。ここで倒れてはいけない。せめて女性が逃げられるくらいには時間を稼がないといけない。

 大丈夫だ。女性に格好つけるのが男ってもんだろう。無様なまま死んでたまるか。

 

「……凄いね君」

 

 また、後ろから声が聞こえてきた。それと同時に背中を優しく抱いて、僕が地面に倒れないように支えてくれる。

 その声は今の状況に似合わず優しい落ち着いた声だった。顔を上にあげると、毛先に行くにつれ青がかった緑色のグラデーションが綺麗な2つの編まれた髪が見えた。ぼやける視界の中、彼女が優しく微笑んでくれていることだけは分かった。

 

 あぁ……神様が居たなら、きっとこんな感じなんだな。今の僕には死ぬ恐怖よりもそちらの思いの方が強かった。

 

「見ず知らずの人を身を挺して守るなんて、普通の人には出来ないことだよ」

 

 ……それはよかった。その言葉だけで報われたような気さえする。

 あぁ眠たくなってきた。今日はぐっすりと寝た筈だけど、不思議と優しい睡魔が僕のことを手招きしてくる。

 

「君とは、いいお酒が飲めそうだね」

 

 心地よい風が僕の頬を撫でる。神様が迎えに来てくれた。なんて思っていたが、僕の思いを飛ばすようにそれは徐々に強くなっていき、やがては僕の睡魔を吹き飛ばすほどの威力となって僕の中の『全て』を吹き飛ばした。

 僕は目を開く。整った顔がまず視界に入った。次に視線を外に移すと、風が僕たちを中心に渦巻いているのが見えた。

 

 僕はハッと意識が完全に戻り、彼女の支えから自力で立って彼女と向き合う。風の壁に囲まれ2人きりで向き合うなんて、こんな状態じゃなかったらとてもロマンチックなのに。

 

「……そっか。僕、格好悪いことをしちゃいましたね」

 

 そう言った僕の視界の中心には、彼女の腰にぶら下がる緑色のガラスの珠が映されていた。

 

 神の目。神に選ばれた者が、神に認められた者が所持している『力』。彼女の場合だと、風の元素を操ることができる神の目だろうか。

 そう、彼女にとってこの状況は危機でもなかったのだ。それを勝手に危険だと勘違いして僕は無様にも彼女の前で斬られてしまった。

 

 あぁ、これほどダサいことがあるだろうか。穴があったら入りたい気分だ。

 

 そう肩を落としていた僕を見かねたのか彼女は首を振り、こう返してくれた。

 

「そんなことないさ! 危機から救おうとする人間が格好悪いなんて事あるはず無いよ! ボクがよく知っている人もそういう人だけど、とっても輝いて見えるからね!」

 

 満面の笑みを向けられて、不思議と僕の口角も上がる。

 

 「自信を持って生きるんだ旅人よ! 『自由』に答えなんてない! 色々な形があるからこそ『自由』なんだ! だから――そう焦らなくていいんだよ。君には君の『物語』があるんだから」

 

 その一言で、僕の心に掛かっていたモヤが綺麗さっぱり晴れた感覚を覚えた。詰まった排水口に溜まった水が詰まりの原因を取り除かれ一気に流れ込んでいくように、彼女の言葉が僕の心に深く深く入り込んでいく。

 

「助けてくれてありがとう、旅人よ」

 

「……いえ、その言葉は僕のセリフです。何だかスッキリしました。僕にとってあなたは……神様みたいなものです。本当にありがとうございました」

 

 僕は腰を折り曲げ深く頭を下げると、彼女の「アハハっ」という笑い声が聞こえてきた。僕は顔を上げると、彼女はお腹にてを当てて笑っていた。

 

「助けた人に頭を下げるなんて本当におかしな人だね! 嫌いじゃないよ!」

 

 確かに言われてみればそうだ。いやでも、助けられたのは本当のことだ。ここでお礼を言ったとしても別にいいだろう。

 

「あなたのお名前を……聞いてもいいですか? また今度、何かお返しがしたいです」

 

「ボクの名前? お返し? ならそうだね……」

 

 彼女は少し考えた後、いたずらっぽく笑って僕に背中を向けた。

 

「ボクはここティーワットで1番の吟遊詩人。また今度会ったら、その時はりんごをちょうだいよ」

 

 彼女の吸い込まれそうな緑色の瞳が僕に笑いかけると、突如として抗えない睡魔が襲い掛かってきた。

 

 名前だけでも聞かないと……!

 

 何とか意識を保とうとするが、視線を下に向けて納得する。さっき受けた傷は治っていない。今でも血が流れているため、これは貧血による症状なのだろう。

 そう理解するとともに僕の視界が完全な暗闇に閉ざされてしまった。

 

 ▽

 

「っ――!」

 

 目が覚める。息が止まっていたような錯覚を覚え、深い深呼吸をする。全身が汗だくで、何か大事な夢を見ていたような気がする。僕はベッドから起き上がりながら何となくでお腹を撫でると、立ち上がった。

 不思議な夢を見た。詳しくは覚えていないが、僕が初めて恋を抱いたことは覚えている。夢の中とはいえ、あまり女性に関心がなかった僕には貴重な体験と言えるだろう。

 

 そんなことを考えながら軽く体を伸ばし、ふと、ベッド近くに置いている机に視線を向けた。テーブルランプの下に照らされているのは、緑色に反射して自分を主張する1つのガラスの珠。

 見たこともない、いつどこで手に入れたかもわからないそのガラスの珠だったが、不思議とこれは僕のものなんだと理解する事が出来た。

 

「……りんごでも供えに行こうかな」

 

 なんでこんな思考になったのかはわからないが、唐突にそうしなければならないような気がしたのだ。

 

 たまにはこういうことをしてもいいだろう。

 

 ガラスの珠を腰に掛け、モラとりんごを準備して、『自由』の国モンドにある大樹、その近くの風神像へと足を運んだ。

 一度礼をし、神像の前にりんごを供えると、風が喜ぶかのように僕の頬を優しく撫でる。その感覚に懐かしい気持ちを覚えながら立ち上がると、青一面の空を見上げた。

 

「さて、これから何を――いや、まぁ、適当に旅をしながら考えるか」

 

 

 

 

 




初恋が男の娘。素晴らしいと思います。ちなみに更新は超不定期です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。