またシリーズ増やすやつー
最後に外を歩いたのは何時だろう
最後に日を直接浴びたのは何時だろう
最後に子供を抱いたのは何時だろう
最後にちゃんとした食事を取ったのは何時だろう
最後にこの部屋を出たのは何時だろう
私の名前は鬼舞辻無惨。元々幼名だったが成長しても体が弱く、そのまま幼名を使い続けている。
平安時代の貴族として生を受けたが当主にはなれないだろうと父上から言われ、自分でもそう思っている。
無理やり子供も作った。跡継ぎに関してももうすでに問題はない、私は何時でも死ぬ覚悟は出来ている。
前の医者には20になるまでは生きられないと言われている、そして今日新たな医者が来た。
「無惨様、私が必ず治しましょう」
「…その言葉はあなたで16人目だ。もういい、私はいつ死ぬ? いつ、妻や子供と別れることになる?」
会った印象は人のいい、だ。柔らかな笑みを浮かべており会った印象も悪くない。
だが無惨はもう諦めていた、自分の体が全快することに。だが医者は一つ言う。
この新薬を試してみませんか?
私は最後の希望にすがることにした。
その薬を処方してもらい、即座に服用し。時期を待った。
だが、効果は出ない。どれほど経っても効果は出なかった。
私は感情が高ぶることを覚えた、怒りともいえるかもしれない。私はそばにある鉈を手に取り振り上げようとしたとき。正気に戻った。
・・・私は何をしようとした?
何故か近くに合った鉈を人が居ない所に投げ捨て、頭を抱える。
こちらの異変に気付いた医者殿に頭を地面にこすりつけるように下げて謝罪した。
「医者殿…私は…私は…あなたを殺そうとしてしまいました。あの鉈で、あなたを背後から襲おうとして…本当に…本当に申し訳ございません…!」
言うと医者殿は優しく許してくれた、どうやらあの薬は人の正気を失わせたり感情が高ぶりやすくなったりする効果があるらしい。そのまま数日、軽い薬を処方されて数日。体の調子が良くなっていることに気付いた。
鏡で確認すると目は赤く染まり瞳孔は縦に割け、鋭い犬歯がさらに鋭さを増し。爪も伸び筋肉量が増した。
まるで化け物のようだ。妻には子供と共に近づけないように伝え、爺と医者殿だけと会うようにした。
医者殿の話を聞くと私は鬼と呼ばれる存在になったらしく、このままでは人肉を食うようになってしまうと言われた。
「医者殿…私はどうすれば…」
「この薬がございます」
医者殿が取り出したのは一つの薬、すると医者殿は今まで浮かべていた朗らかな笑みを消し真剣な顔で語る。
「こちらは鬼を人肉ではなく普通の食事で生きられるようにする薬です。ですが飲んだ後一晩ほど全身を作り替えるので骨が砕け肉が裂けるような激痛が襲い続けます。並みの精神では耐えられないでしょう。なのでこちらもあります。こちらは僅かな血で生きられるようになる薬です。こちらは全く苦痛はありませんが血だけしかとることが出来なくなります」
その説明を聞かされたが私は最初から答えは決まっていた。
「最初の体を作り替える薬をください、私は…妻達と一緒に食事を取りたい」
「…分かりました、一応こちらを渡しておきます。苦痛に耐えられなくなったらお飲みください」
渡されたのは藤の花という鬼の弱点で作られた毒薬らしい、私はその薬を懐にしまう。飲む気はない、妻と子供を残して死ぬわけにはいかない。
私は爺に人払いをしてもらい、妻達には懇意にしてもらっている煉獄家へと向かってもらった。
私と医者殿、そして爺の三人のみになり。私は意を決し薬を嚥下する。
しばらくすると体に変化が起こった。
「が…! ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
床に倒れこみついた手の指が裂け、再度修復される。視界が何度も割れ、血を吐き全身を割かれるような感覚と激痛が起こり私は床をのたうち回る。
「無惨様!」
「だ…いじょうぶだ…っ! これしきのこと…! なんでもなぐぁぁぁっ!」
爺が心配して駆け寄ろうとしてくれるがそれを手で制す、力が増しており床に叩きつける手で畳に穴が開いている。下手に近づかれると爺を攻撃するかもしれない。そのまま私は朝まで苦しみぬいた。そして朝になったのが外の障子が明るくなり気づいたころ。体の変化は終わった。
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
何度も裂けていた体は何事もなかったように元に戻り、当たりに飛び散っていた血は消え。体も爪と目の色を自分で変化させることが出来るようになっていた。
そして……腹部に感じる強烈な空腹。
「…爺、食事を持ってきてくれないか?」
「…っ! はっ! いますぐに!」
そして用意された食事の山、今までは匂いを嗅ぐだけで気分が悪くなり。まともに食事を取れず無理やり粥などを流し込んでいた。だが今は違う、久し振りに箸を手に取り、おもむろに口に頬張る。
思わず涙が溢れる。あぁ…食事はこんなに嬉しいものだったのかと歓喜した。
行儀が悪かったが手当たり次第に口に食事を詰め込むように頬張る。医者殿と爺が微笑ましく見守る中私は涙を流しながらひたすらに食べ続けた。ざっと2~3人前を食したあと、私は再度医者殿に頭を下げた。
「ありがとうございます、医者殿に出会えなければきっと私はこのような幸せを知ることはなかったでしょう。本当にありがとうございました」
「私からもお礼を申し上げます。無惨様を救ってくださり…本当に…本当にありがとうございました」
すると医者殿は微笑み、少し照れ臭そうに言った。
「私は医者です。私は私がやれることをしただけです」
その後、妻達に食事を取れるようになったことを伝え。互いに喜んだ、医者殿と雑談をするようにもなり陰陽道なども話を聞き多少見聞を広めることになった。その後藤の花に対する薬を服用し、最後に太陽の光を浴びても大丈夫なようになる薬を飲むことになるらしい、なんでも段階を得ないと体がもたなくなってしまうらしい。現在藤の花まで克服しているが太陽を克服する薬を飲むのが楽しみだ。
あとこの薬を服用する予定の物がもう一人いるらしい、その者も私のようなものだったのだろうか。
「…まだ夜にしか歩けなくて済まないな」
「いいんですよあなた、あなたと一緒に歩けるようになっただけでも嬉しくて仕方ないんです」
子供が寝静まった後、私は妻と庭を歩いていた。医者殿が来るのは明日、その時に外を歩けるようになったことを伝えたい。私はまだ鬼としての身体能力が残っているらしく、妻を軽々と姫抱きすることも出来た。初めての逢瀬にとても心が躍る、妻は何もできなかった私のことを恨んでいるものだと思っていたが全くそのようなことはなかった。私は本当に果報者だよ。
そして翌日、日が落ちた頃私は医者殿を家の前で待っていた。
家の者には驚かれたが外を歩けるようになったことを医者殿に早く伝えたかったのだ。しばらく待っていると足音がしたのでそちらを振り返る。
「医者殿! とうとう私も外を歩けるように…医者殿っ!?」
振り向いた視線の先には外傷を負い傷だらけの体を引きずる医者殿がいた。私はすぐに駆け寄り医者殿を抱き起す。
「いったい何があったんです…! 爺! 爺! 医者殿が! すぐに家の中に」
「待ってください…! 私を家の中に入れてはいけません…!!」
医者殿は私の腕を強くつかむ、しかし人では考えられないほどの力がこもっていた。いったい何が…!?
医者殿は何か薬の付いた細い針を首筋に刺すと息を荒く吐きながら私に向き直る。
「私は鬼に変えられてしまいました…! 薬で自我を保ってはいますがそろそろ利かなくなってしまいます。その前に伝えたいことがあります…!」
そこから伝えられるのは
「これを…」
そして渡されたのは一つの薬、どうやらこれが日光を克服する薬らしい。一つしかないらしく、これを取られる前に私の元へと来てくれたようだった。
私はどうすればいいのか分からなかった。目の前に恩人ともいえる人が死にかけている、私の血を送り込むことも考えたがそうするともうほとんど鬼となってしまっている自分の体では意味がないらしい。薬を何度も首に刺しているがもう効果がなくなるのも近いらしい。
「あの男を…甘蔗生殿を…止めて…」
「医者殿っ!? しっかりしてくださいっ! 医者殿っ!」
力なく崩れた医者殿を抱えたまま泣き出しそうにしていると医者殿がピクリと動く、大丈夫かと視線を向けると医者殿の目が合った。
赤く縦に割けた瞳孔、鋭く生えた牙。これは…!
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「い、医者殿っ!? しっかりしてください!!」
「無惨様ぁっ! ここは爺にお任せ下され! 無惨様はお逃げください!」
私に襲い掛かろうとした医者殿を刀を持った爺が医者殿を止める。
「し、しかし爺が…!」
「心配無用! この継国勝頼っ! 鬼に引けは取りませんぞっ!」
「…すまぬっ! 爺、医者殿っ!」
…その後、私は妻達を起こし屋敷から脱出した。親族である継国家に匿ってもらい薬も服用した。
爺は翌朝傷を負いながらも五体満足で戻ってきた。医者殿は日の光を浴びると灰となって消滅したらしい。最後に人を殺さずに済んだと笑いながら逝ったそうだ。
いざという時の手紙を持っていたらしくそれを渡された。内容を要約すると『完全に人に戻す前に死んでしまったことを心ぐるしく思う。あなたは自ら死を選ぼうとしない限り死ぬことはないだろう。医者として最後まで見ることが出来ずに申し訳ない』とのことだった。
私は怒りを覚えた。医者殿を殺した悪鬼に、必ず顔も知らぬ奴を必ず倒すと心に誓った。
妻にその事を伝え、一緒に逝けぬことを謝罪した。
妻は笑いながら許してくれた。目的を果たさずに来たら怒りますからねと。私は、本当に最高の妻を持った。
それから数年ほど家族と過ごした。今生の別れとなるため、今まで与えられなかった愛情を家族に注いだ。
そして私は一人で旅をすることにした。妻にとあることを伝え奴を探す途方もない旅へと。爺がついてくるとも言ったが私は一人で旅をすると伝えた。危険な終わりの見えない旅になる、鬼とまともに戦えるのは私だけだとも。爺は渋ってはいたが「あなたに仕えられたことを心から感謝いたします」と告げ、送り出してくれた。
そして宛もなく始まった旅。鬼であるために疲労を感じることもなく日本を巡る。道中有名な陰陽師に弟子入りをしたりもした。式神が使えれば人手を増やせると思ったが私は呪いをかけることと呪いを払う才能しかなかったようだ。
そして妻が亡くなったことを知り涙を流した数百年後。
私は珠世という女性にあった。
プロローグなので駆け足気味に