ゼロの黒   作:ソルダのおっさん

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クロエに霧香ちゃんみたいな体験をさせてみたい
心を許した人意外にはコミュ障に見えるほど言葉が足りないクロエを動かすとものすごく何もないまま進んでしまう


心の拠り所

ルイズの使い魔として生きることにしたクロエは、その立場に感動した。

 

彼女の話を聞いてみれば、なんと使い魔は一生の関係であり、主である 魔法使い (メイジ)を守るための存在だという。

 

「でも、平民のあんたじゃ期待できそうにないわね。」

 

しかしルイズとしては人ではなく、龍のような生き物を呼びたかったらしい。人間の少女であるクロエはどうやら期待外れの存在だったのか、彼女を見てため息を吐いている。

 

「そんな、私は確かに頼りないかもしれませんが……頑張ります。ですからどうか捨てないでください、ルイズ。」

 

二人の関係に負け、力量では憧れに負けた今のクロエは、自分に自信が持てない。そのせいか彼女は気づかなかった。ルイズと自身の常識に差があることに。

 

「はあ……別にそんなことはしないわよ。」

 

「本当ですか?」

 

「当り前よ、使い魔を見捨てるなんてことをしたら……メイジ失格だもの。って、ちょっと近いわよ!」

 

「本当に本当?」

 

使い魔の契約によって刻まれたルーンは、クロエにとって新たな絆だ。ルイズの勝手で消せるものでも無く、自分が生き続けている以上この手に在り続けるものなのだという仕組みは解る。しかし、誰かに必要とされる存在に戻りたい今の彼女は、その言葉が嘘ではないと信じたくてつい、詰め寄ってしまう。

 

「貴族は嘘なんかつかないわ。」

 

「信じて、良いんですか?」

 

「つかないったら。ねえ、あんた一体どういう経験をしてきたの? なんかちょっと、その、変よ。」

 

「変……。」

 

「それにあんたの胸と腰につけてるこれ、本物の金よね? 服はすごくシンプルで古臭いのに、平民がこんなものをつけてるなんて……部族や集落でも、トリステインじゃ聞いたこともないわ。」

 

そんなクロエの態度と格好を、ルイズは訝しんだ。胸元の黄金だけならば、彼女も装飾品で纏ったことは山ほどあるし、貴族としての見栄で一度に纏った合計の量なら、絶対に負けない。

 

だが腰をベルトのように覆うほどの黄金は、散りばめたものならばともかく、こんな形てでつけたことは無い。ましてや、それを貴族に取られず所有する平民、クロエの存在が信じられなかった。

 

では盗品なのかというと、こんな量の金が紛失した話は歴史に無い。クロエの身に着ける金はどれも非常に古い。それが古代人のような布を巻いただけのような服装には合っているものの、劣化しにくい黄金が摩耗しくすんでいるほどである。どれだけ古いものなのか、ルイズには見当がつかない。

 

「これは……。」

 

ところが、自分の服についてクロエは俯くだけで、何も語ろうとしなかい。こんな大きな黄金を纏う者ならば、ある程度の身分があり、例え田舎の部族であろうと誇りある姿ではないのか。

 

ルイズはますますクロエに疑問を抱く。彼女という人間もそうだ。このくのに決まり、貴族とは何かや、ヒエラルキー、様々なことを教えているうちに気づいたことだが、クロエはほとんど敬語で話すのに、言葉遣いや精神面がどこかひどく幼い時がある。にもかかわらず、こうして取り乱さない限り顔つきや物腰は、落ち着いた大人に近い。

 

何もかもがちぐはぐ。それがルイズのクロエに抱いた印象だった。

 

「まあ別にあんたが何者かなんて、どうでもいいわ。でも使い魔としての仕事は、ちゃんとしてもらうからね。」

 

「はい、頑張ります。でも使い魔の仕事って、何をすればいいのでしょう? ルイズを守るのは解りましたが、他に何をすればいいのか分かりません。

 

「そうね、使い魔になると感覚の共有ができるようになるはずだけど、ダメね。私には貴女わの見えるものとかは見えないみたい。」

 

「そうなんですか。」

 

「あとは、秘薬の材料とかを山とかで取ってくるのだけれど。」

 

「遠出ですか? そういう事でしたら任せてください。」

 

慣れたものですと語るクロエに、ルイズは首を横に降る。

 

「人間の足で歩いて山まで取りに行かせるくらいなら、流石に待ってるのが面倒だし買うわよ。」

 

「そうですか。ごめんなさい。」

 

ルイズの役に立てないことに、クロエの顔が暗いものになっていく。

 

「まあ、とりあえずは身の回りの世話をしてちょうだい。今日はもう遅いし、細かいことは明日以降に話してあげるから、とりあえずはいこれ。」

 

そう言ったルイズは服を脱ぎだすと、それを次々とクロエに渡していった。

 

「これは?」

 

「洗濯、明日の朝にしといて。」

 

「わかりました。」

 

「そう、それじゃおやすみ。ああ……ベッドは一つしかないし、平民を入れるなんてことは駄目だけど、毛布くらいはあげるわ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「明日の朝、鐘が二回鳴ったら起こして。おやすみ。」

 

「はい。おやすみなさい、ルイズ。」

 

そう言うと、クロエはそそくさと床で毛布にくるまって寝始めてしまった。固い地面なのに嫌とも言わないのを、地で寝ることに慣れているせいだと勘違いしたルイズは、やはりこいつは田舎どころか秘境の部族の人間か何かではないかと誤解を拡げる。

 

メイジを知らない所の人間で、族長が付けるような金属をあしらった服を着ているのに、威張りもせず淡々と自分の言う事を何でも聞くクロエ。本当に変な子だとそう思ったルイズもまた、夢の中に落ちていった。

 

―――――日が登り始めた頃。

 

「んんーっ……。」

 

野宿みたいなことをするのは久しぶりだと思いつつ、朝、少し固くなった体の筋肉をほぐしてクロエは起きた。

 

「洗濯物を洗いにいかないと。」

 

体操を終えたクロエは、まだ少し眠そうな顔のまま洗濯物を拾い上げていく。

 

 

「久しぶりだなぁ、こういうの。」

 

ルイズのスカートやシャツを拾い上げていく。やがて手でもちきれなくなると、纏められそうな大きさの籠を見つけてそこへゆっくりと置く。

 

入れ終えると彼女は部屋をとても静かに出て行った。それは誰も気づくことが出来ないほどに静かな動き。ただ、ルイズを起こさないためだけに彼女は細心の注意を払っていた。

「洗い場は、どこでしょう?」

 

そんな動きの出きる肉体を持つ彼女も、この広い魔法学院で直ぐに洗い場を見つけることはできなかった。遠くかで待つ洗い場が水の音や、付近からするであろう洗剤の匂いをこぼしても、犬のような鼻や、ウサギのような耳を持っていなければそれを感じるのはいくら彼女でも無理だ。

 

当て所なく少し辺りをうろついていると、似た籠を持つ黒い髪をしたメイドを見かけ、そのまま彼女の後ろをついていく。洗い場はきっと、この女性の進む先にあると検討をつけた。

 

「え? あっ!? わきゃあ!」

 

気配を感じたのか、メイドが振り返ると、クロエの姿を見て驚く。その薄着と、体につけた貴金属に目が向かい、足元にあった小石でバランスを崩してしまい、辺りに洗濯物が散らばった。

 

「大丈夫ですか」

 

「あいたたた、うう……またやっちゃったぁ。」

 

クロエは最初は話しかけるだけで、その黒髪のメイドを助けようとはしなかった。しかし、あまりにもそれから洗濯物を集め直すメイドの動作が遅く、これならば助けた方がより案内も早くなると思い直すと、籠をおいて彼女を手伝い始めた。

 

「ありがとうございます、あの……貴女は?」

 

「クロエ」

 

「クロエさん、ですか?」

 

「そう」

 

「ええと、この学院では何を」

 

「ルイズの使い魔をしています」

 

「まあ! では、貴女がミス・ヴァリエールの召喚された平民の方ですか!?」

 

頷くだけのクロエにシエスタがまあまあ、まあまあと驚いていると、クロエが洗濯物をまとめ終えてしまった。

 

「あ、ご……ごめんなさい。私ったらつい。」

 

「別に。それより、洗い場に案内してくれませんか?」

 

「あ、はい。それてしたらいつもこちらで――」

 

シエスタに話ながら案内され、クロエも洗い場へ向かうと、ふたりでせっせと洗濯物を洗い始めた。荘園という、電気もガスもない高原で過ごしていたクロエは、服も、下着の洗濯も、メイドであるシエスタ顔負けの丁寧さと早さで片付けていく。

 

その手さばきに見とれていたシエスタは、クロエが体を動かす度に朝日に当たって鈍く光る、胸元と腰の金属へとまた目が向かってしまう。

 

「クロエさんのそれ、すごいですね。それってやっぱり、金なんですか?」

 

頷くクロエに、またシエスタはキャイキャイと騒ぎ始める。

 

「わあ! 私、そんな大きな金は初めて見ました。」

 

「……」

 

「あ、あはは! わ、私ったら嫌だわ。また手が止まっちゃってますね、よいしょ……よいしょっと。」

 

最後の言葉に、クロエの手が一瞬止まったように思えたが、シエスタは気づかなかった。

 

「ありがとうございます。」

 

「え? 何がですか?」

 

「貴女のお陰で、ルイズの服を洗濯することができました。」

 

あっという間に、物干し竿へクロエはルイズの服をかけおえ篭を持ち直すと、去り際にシエスタへ礼を述べた。

 

「あ、あぁ! いえいえ、平民困ったときはお互い様ですから。」

 

「お互い様……。」

 

その言葉に、クロエは死ぬ間際の光景をフラッシュバックさせる。

 

「仲良く助けあえば、辛いことや大変な日々も乗り越えられます!」

 

「仲良く、そう。そうですね……。」

 

それは、自分が欲しかったもの。助け合いだけではない、何かへ繋がる第一歩。

 

「クロエさん?」

 

「それでは。」

 

そう言って頭を下げると、クロエは部屋へと戻っていった。ルイズの待つその部屋へと近づく度に、だんだんとその足取りが軽く、早くなっていく。

 

自分を必要としてくれる、あの子と早く仲良くなりたいな。

 

鐘が二つ連続で鳴る音がして、クロエは更に足を早めて部屋へと戻った。

 

「ルイズ、朝ですよ」

 

「むにゃ……」

 

「ルイズ、起きてください」

 

「ふぇ? あんた、誰」

 

ねぼけたルイズの言動に、クロエの顔が悲しみに染まる。今の彼女へ興味のない人間のように扱う発言はタブーだ。

 

その急変する顔の異様さは、ルイズにとっては何よりの目覚ましとなり、意識が覚醒していく。

 

「え、あ、クロエか……昨日召喚したんだっけ、寝ぼけてたわ。」

 

ルイズ自身が言ったとおり、彼女はどこか精神的に変だったこと思い返してすぐさま誤解を解く。

 

「洗濯は?」

 

「もう欲してあります。」

 

「そう、それじゃ顔を洗うから、そこの甕から水を汲んで桶に入れてきて。」

 

「はい」

 

クロエは仕事があることが嬉しいらしい。本当に変わった使い魔だと思いつつ、これならもう少し朝食を優遇してもいいだろうとルイズは顔を洗いながら考えていた。

 

「じゃ、次。服を着せてちょうだい。」

 

「良いんですか?」

 

「当たり前でしょ。」

 

自身の裸体を他人にさらけ出すなど、いくらクロエでも特定の人間以外には抵抗がある。だというのに、ルイズはそこまで信頼してくれているのかと心が躍った。

 

もっとも、ルイズにとっては使用人や平民、女性でもあるクロエに対し別に思うことがないだけなのだが、互いにその認識のずれに気づくことは無かった。

 

下着と服を着せて、最後にルイズの髪を櫛でといて整え終わると、二人は部屋を出る。すると、同じような形の別のドアから一人の女性が現れた。

 

その姿は褐色の肌に豊満な胸と赤い髪を持つ、長身の女性。

 

「あらルイズ、おはよう」

 

 

「……おはよう。キュルケ。」

 

そんな彼女にルイズが嫌そうに挨拶を返すと、クロエも軽く頭を下げた。

 

「あなたの使い魔って、それ?」

 

自分を指さし、何処か馬鹿にした口調でキュルケが言う。ちり……とクロエの内から黒いものがくすぶった。

 

「そうよ。」

 

「あっはっはっは、凄いじゃない本当に人間を、しかも平民を呼ぶなんて。流石ゼロなだけはあるじゃないの、ねえルイズ……え?」

 

ルイズと自分を指さして笑うキュルケがそういった瞬間に、クロエはすでに彼女の眼前まで迫っていた。

 

「クロエ!?」

 

「私を救ってくれたルイズを笑うのは……」

 

子気味良い音ともに足を払いながらキュルケの腕を掴み、もう片方の手で彼女が携帯している杖を服から抜き取る。

 

「ぐっ…!」

 

「誰であろうと許さない。」

 

そうして奪った杖を喉元に突き刺すその瞬間に、クロエの手が止まった。殺気を感じた彼女はその先に視線を向ける。

 

そこにいるのはイグアナや鰐よりも大きな蜥蜴が尾に猛々しい炎を宿し、口から火をこぼしている。その蜥蜴もまた、今にもクロエに襲い掛からんといわんばかりの体制をとっていた。

 

その蜥蜴を一瞥すると、クロエはキュルケのシャツを胸元を締めるようにつかみ、視線を戻して薄気味悪く笑う。

 

「どちらが早いか、試してみてもいい。」

 

その言葉にキュルケが息をのんだ。クロエはサラマンダーを見ても何一つ恐れていない。そんな平民などキュルケは見たことがない。

 

「やめなさい、クロエ。こいつが私を馬鹿にするのはいつものことよ。いちいち気をしてたらもたないわ。」

 

そんな二人を止めたのはルイズだった。

 

「でも、ルイズ……!」

 

「良いから! さっさと食堂へ行くわよ。」

 

そう言って走るような大股で歩き、二人を無視して先へ行くルイズ。おいて行かれることへの恐怖と焦りを感じたクロエは、キュルケの拘束を解いて杖を投げ捨てルイズのもとへと走っていった。

 

「はっ……、はあ、はあっ!」

 

クロエが離れてからしばらくしても、キュルケはその身を起こすことが出来なかった。最初の内は息をすることすら忘れ、体が強張っていた。心配そうに使い魔のサラマンダー喉を鳴らしながら近づき、主となった彼女は顔を覗きこまれ、漸くその体を起こす。

 

「ありがとうフレイム。大丈夫、大丈夫よ……。」

 

放り投げられた杖を探して手に取ると、杖を突きつけられていた喉が、今も何かに触れられているような不気味な感覚を覚え、身の毛がよだつ。

 

「……っ!」

 

クロエの目を思い出したキュルケはその肩を抱いた。あれほどの殺意を向けられたことは、軍人の家庭で生まれ育った彼女でも初めてだった。

 

「ルイズが召喚した、あの子は何なのよ……」

 

ルイズが止めなければ、間違いなく自分は死んでいた。そう思わせるほどの殺意と、躊躇いの無さがあの瞳には合った。

 

人を殺す。そのことに何も思うことは無いと言うような、鋭く細いクロエの目。

 

「まさか……メイジ殺し?」

 

自身の使い魔をルイズに自慢しようとして返り討ちに合い、一人残された彼女が歩き出せたのは、朝食の時間が始まってからだった。




ノワールの儀式に使われた古い衣装は、布はともかく金属部はクロエが金、霧香が白金と思いたい
あれ?原作って顔洗わせてませんでしたっけと一巻序盤読み返しながら
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