提督ですが、人類は滅亡してしまったようです。 作:クソザコナメクジ
▼10頁目.寝坊助さん
朝方、食堂に向かう途中で真っ白になっている川内さんが発見された。
五十鈴さんや龍驤さん、叢雲を始めとした面子は彼女を無視し、電と漣は軽巡洋艦の残骸を見て苦笑を浮かべたがスルーした。吹雪は、そもそも通りがからなかった。そして残されたのは私、五月雨になる。今日の私は秘書艦の任を担っており、今から提督さんを迎えに行くところだ。提督さんに関しては好きでもないし、特に苦手という訳でもない。そもそも話した事がほとんどなかった。
此度の秘書艦制度は、提督さんとの交流の意図が強い。という訳で廊下で力尽きている川内さんよりも優先すべきは提督さん、ちょっと申し訳なく思いながらも放置することに決めた。
突撃、隣の寝起き姿〜! そんなテンションで提督さんが居る部屋の中に入ると熟睡している提督さんが発見される。
とりあえず起こせば良いのかな? 先ずは体を軽く揺すろうと手を伸ばすと――あっ! と手首を掴まれて、そのままベッドの上に引き摺り込まれた。ぐるんと器用に背後から抱き締めるように、仰向けになった私の体をがっしりと両足で固定されて、両腕で頭を固定される。
そのままコキッと首を捻られて、意識を手放した。
†
深い闇の中から目覚める時、心地良い温もりを感じ取った。
私の体は基本的に冷たいので人肌の温もりが心地良い。特に艦娘は代謝が良いのか、普通の人間よりも体温が高めなので抱き枕として快適だった。まだ意識は微睡の中、抱き心地の良い肢体をぬくぬくと抱き寄せる。電にしては少し細身、五十鈴にしては小さい体、では誰なのか? とりあえず反撃を受けないように彼女の両腕の関節を極めながら温もりを甘受する。
ぬくぬく気持ち良い、ぬくぬく心地良い。彼女の首筋に顔を擦り付けながら再び意識を微睡の中に落とす。
すぴー。
†
これは、どうすれば良いのです?
提督を迎えに行った五月雨が、余りにも遅過ぎたので迎えに行ったら二人で横になっていた。しかし、その姿は「仲良く」と前置きするには余りにも物騒だ。というのも今の姿勢は仰向けになった五月雨を提督が後ろから抱き締める格好になっているのだが、抱き締められている五月雨は白目を向いて涎を垂らしているし、提督は両足で抱きしめながら五月雨の両腕の関節を極めていた。
下手に動かすと取り乱した提督がポッキリと五月雨の関節を締め上げてしまいそうだし、五月雨だけを起こしても身動ぎした時に腕関節を痛めてしまいそうだった。どうしよう? 提督は起こしたいけども、誰かを傷つけたくないって、おかしいですか?
悩み悩んだ私の結論は何も見なかった事にして、そっと扉を閉じることだけだった。
†
漣です。
電が曖昧な笑顔で水雷戦隊と航空戦隊の出撃の順番を変えたので、気になって提督の部屋を覗きに行くと案の定、二人一緒に折り重なるように眠っている。ちょっと穏やかなじゃない感じで。なんとなしに提督の柔らかそうな頰をぷにぷにと指で突けば、身動ぎをするだけで目を覚ます様子もなかったので五月雨の腕の拘束を解いてあげた。そのまま五月雨の体を提督の横に下ろし、ついでに二人の体を向かい合うように寝かせる。互いの片腕を腰に回すおまけ付き、最後にデジタルカメラでパシャッておいた。
うん、満足と撮った写真を見つめながら部屋を後にする。
†
妖精さんが作った朝食を平らげた私は、皆が皆、口を噤んで黙る提督の様子を見る為に部屋へと訪れた。
二人が向かい合って抱き合いながら眠っていた。ん、あれ? こいつらそういう関係やったんか? 混乱する頭で、とりあえず深呼吸。とりあえず五月雨と提督の布団がはだけていたので直しておいた。すると提督が身動ぎをした流れで、五月雨の首をキュッと抱き寄せる。提督と艦娘、その仲が良いのは良いことだ。
ひと仕事を終えた私は、そりゃ誰も口外しないわけやなあ。と、いそいそと部屋を出て行った。
†
気絶から目を覚ます、目と鼻の先に提督さんの顔があった。
何があったのか分からない、距離を離そうにも首に巻かれた腕が思っていた以上に力強い。息が吹きかかる距離で汗をだらだらと流していると、ガチャリを扉が少しだけ開いた。誰かが覗き見る程度の隙間、頭だけを持ち上げて恐る恐ると扉の方を見ると地面付近に妖精さん。衝撃的な顔を浮かべた後、信じていたのに! と言いたげに涙ながらに駆け去っていった。何がしたいのか分からない。開かれたままの隙間が気になって、スーッと視線を下から上に上げていくと――そこには川内さんの顔があり、目が合った。じとっとした視線を私に向けてくる川内さん、そのまま彼女は何も言わずに立ち去る。
待って、違うんです。誤解なんです。
体を持ち上げようとすれば、提督さんが首に巻き付けた腕に体重を乗せるように私を布団に押し付けた。半ば、提督さんの体が乗っかる体勢、えっ? これって、どうすれば良いの? 誰も助けてくれず、時折、扉の隙間から視線を感じながら天井の染みを数え続ける。
結局、提督さんが目を覚ましたのは昼過ぎだった。
†
寝ぼけた頭、何故か五月雨が私の部屋で眠っている。なにそれ怖い。
ま、まあ私が起きなかったということは悪意がなかったということだし、仮に悪意があったとして私が目覚める間もなく倒してしまったということなのだ。衣服がはだけた様子もないので、とりあえず一安心。ふわぁっと体を伸ばしながら持ち上げる。とりあえず手洗い洗面、歯磨き、くちゅくちゅぺーっと身嗜みを整えてから部屋へと戻る。もう少し、惰眠をむしゃぶろうと思っていたら五月雨がベッドの上で正座しながら私のことを睨みつける。
あれ、何かしたっけ? 思い出そうとしても思い出せるはずもなく、何故か激おこの五月雨に片手を握られて食堂へと連れ込まれる。
朝の出撃はもう終わっていて、みんな揃って漣のデジタルカメラを取り囲んでいた。
にまにまと笑みを浮かべられたり、ちょっと顔を赤められたり――なんでこんなに注目を受けているのだろうか? 首を傾げると隣の五月雨がめっちゃ顔を赤くしていた。え、なにこれ、私が悪いの?
繋いでいた手を乱暴に振り払われた。ひえっ、こわひ……
▼日報.戦果報告
春月 3日(晴)
本日の秘書艦を務める五月雨です。
叢雲は適当な季節を月に当て嵌めたようですが、星座が春のものだったので正確に今は春だと言えます。
澄み渡る快晴は絶好の出撃日和。
朝方にちょっとした事故はありましたが、怪我なく無事に一日終えることができました。
とはいえ今日もやった事と云えば、資材集め。艦娘の燃料で発電機を動かすことは知れましたが、まだまだ余裕がある訳ではありません。消灯時間には発電機を止めて節約三昧、艦娘二人を建造して減った資材を回収する為にも頑張ってドラム缶を牽引しています。
そういえば今日、初めて観測機を飛ばしました。旗艦の龍驤さんが居てくれたおかげで探索範囲は大幅に向上、浅瀬にある資材のあるなしも分かるので無駄な行動が減った。おかげで回収できた資材の量は過去最高です!
ふふん、ふふふん♪(可愛らしくデフォルメされた龍驤が艦載機を飛ばす絵)
おかげで海域の探索も捗り、近々舞鶴鎮守府の方まで足を運べるようになるのでは? という話も出てくるほどです。
でも、その場合は日帰りでは済まなくなるかも知れない。その時はきちんとお弁当を用意していかないといけないかな? 妖精さんに頼んだら作ってくれるかな? そういえば、前の提督さんの時は妖精さんは家事とかしなかったけど、今はきちんと炊事に洗濯、掃除と家事を頑張ってくれている。今の提督さんの人望? いや、妖精さん望? さておき、今の妖精さんが前の時よりも働き者なのは違いなかった。良いことです。
そういえば今日の出撃で駆逐イ級を一体、倒しました。やったあ!
日に日に領地も増えてるし、食料事情も改善されつつある。
昨日よりも今日、今日よりも明日、明日よりも明後日、私達は少しずつ前進して行っている。
漣は難しい顔をしているけど、きっと明日は今日よりも素敵になっている違いない。
そうなると信じて、私達は今日を頑張って生き抜いていくのだと思います。
著者.白露型6番艦駆逐艦 五月雨