提督ですが、人類は滅亡してしまったようです。   作:クソザコナメクジ

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12頁目.秘事

 舞鶴鎮守府に行く為には、多くの課題が残っている。

 横須賀市から舞鶴市まで移動するには休憩なしで片道十五時間もかかる上に、舞鶴鎮守府が残ってない可能性も考えると地獄への片道切符も同然だ。無駄足になる事も考えると、このまま神に祈りながら資材集めに勤しむしかない。いずれは二部隊から三部隊へ、三部隊から四部隊へ、同時運用からローテーションを組めるようになるまで、果たして、どれだけの時間が必要になるのか。

 食料の生産率に合わせて艦娘の数も増やしていくつもりだが、しかし、この絶望の世界に仲間達を再び生み出し、絶望の中に死なせることに何の意味があるのか? もし仮に地球上に存在する人類が提督一人だけだったとして、彼女を守る為に勢力を広げる事に何の意味があるのか? 繁殖することは出来ず、ただ死に行くだけの命であるならば、せめて真っ当な生を送れるように尽くすことが常道だと私、漣は考える。その場合、艦娘の数は多く揃える必要はない。日本列島を取り戻したとして、そこに住む人が居なければ、意味なんてない。

 今の私達には、戦うべき理由はあっても勢力を広げる理由がなかった。

 

 それでも、叢雲が積極的に外海に手を出そうとするのは、まだ外に希望を持っているからだ。

 数を増やしたいと考えるのは姫級や鬼級に備える為だ。今の私達には逃げる場所がない。その上、鬼級や姫級の一体でも出てくれば、手も足も出せずに蹂躙されることは間違いない。だから戦力を増強しようと彼女は考えているし、五月雨も少ないよりも多い方が良い。と安心感を求めて賛同している。

 五十鈴と龍驤は割り切った考えをしている。生きるのに最善を選んだ結果、戦艦は勿論、多種多様な艦娘の数を揃える必要がある。その為に拠点を増やすことは賛成しているし、私が考えている事に対する結論も「考えるのは全てが分かってからの話」と後回しにする賢しさを持っていた。川内は知らない。近頃、真っ暗な夜の中で眠れなくなった。とボヤいていた。

 やるべきことは残っている。自暴自棄にでもなれば、やるべきことも極端に少なくなるが、しかし生きようと思えば、やるべきことは多かった。

 それこそ余計なことも考えずに済むほどに仕事は多くある。

 

 ルーチンワークとなりつつある資材集めの後、

 いつもの様に汗を流そうと浴槽まで向かっている最中、廊下で吹雪とすれ違った。

 ごめんね、と頭を下げる吹雪に――僅かな違和感を感じ取った。

 思い返しても誤差の範囲内、ちょっと焦っているような、上擦っているような?

 気になりはしたけども、まあいっか。と放っておくことにした。

 

 今日の私は秘書艦で、この後に日報を書かなきゃいけないのだ。

 ああでも、そういえば――死んで目覚めてから、あいつの付き合いは悪くなったな?

 いや、別に、それがどうしたという訳でもない。

 

 ただちょっと気になっただけだ。

 

 

 船渠内の各所には、まだ瓦礫の山が残されており、隠し場所には困らなかった。

 両手に持つのは資材調達から帰った後、戦果を確認する前にチョロまかした少量の資材だ。少し前までは深夜に船渠まで運び入れていたが、ここ最近、提督と川内さんが夜中に訓練をしているので、深夜に船渠まで隠れて行くのが難しくなった。というのも足音を少し立てるだけで提督に気付かれる、最近だと川内さんも気付くようになってきた。

 なので日中の人気の少なそうな時間帯に資材を船渠まで運び入れている。

 貯めに溜め込んだ資材は単位で100を超えている。いくら隠し場所に困らないとはいえ、何時、誰かにバレてもおかしくない量にはなってきたので、そろそろ計画を実行に移す必要があった。

 朝方、提督と川内さんが眠った後、少しだけ時間がある。

 

 その時間を活用して、妖精さんに頼み込んで造船を開始させる。

 少なくとも一人は建造できる時間は確保できる。そこからは時間が許す限り、妖精さん達に艦娘を造って貰う。

 資材単位は全て30。私が狙っているのは戦艦や空母じゃない。

 駆逐艦だから、それで十分だ。

 

「……悪いこと、考えてる?」

 

 不意に話しかけられた。

 後ろを振り返ると艶やかで黒く長い髪、提督の帽子を被った少女が恐る恐るといった様子で私を見つめてくる。嘗てはボサッとモサッとした風貌は今や見る影もない。電と五十鈴は頑張って身嗜みを整えさせた成果だろうか。部屋に篭る提督を引っ張り出して、毎日のように風呂に放り込んでは嫌がる猫にするように体を洗っていれば、そうもなる。

 しかし、どうして、提督が此処に? この時間は何時も部屋に引き篭もっているはずだった。

 

「えっと、漣が……なんか、その……様子がおかしいって……」

 

 視線をあちらこちらに向けながら告げる。

 それから船渠内の一角を見やり、呼び止める間もなく、そそくさと足を運んで行った。

 隠してあった資材が露見し、おやおや、と口に手を当てる。

 

「……川内の事、みんな知ってたよね? 今の川内は……あの時に生まれたけど、先代の川内も居たんだよね? 調べた……うん、調べてみた。夜戦で駆逐艦娘を助ける為に、囮になったまま帰って来なかったと書いてあった……」

 

 提督は資材を取り分けると、それをプールの前に並べる。

 資材単位で30ずつ、何をするつもりのか? 薄々と気付きながら彼女の様子を見守っていると、その視線に気付いたのか、提督は所在なさげに視線を左右に泳がせた後、誤魔化すように、はにかむように笑みを浮かべて、プールの脇に並べた資材を放り込んだ。ひょこっと妖精さんが一人、そして、また一人と姿を現した。今日は悪巧みが好きそうな鍛冶親父スタイルだ。ハンマーの長い柄で肩を叩きながら、ニヒルな笑みを浮かべてみせる。

 とりあえず艦娘を一人。照れるような、申し訳ないような、そんな調子で提督が人差し指を立てると妖精さん達は、それぞれの仕草で頷き返した。

 

「縁……って関係あるんだよね?」

 

 少女は云うと、私に鋼鉄のインゴットを放り投げる。

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