提督ですが、人類は滅亡してしまったようです。   作:クソザコナメクジ

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12頁目.おら死んじまっただ。

 周りから提督と呼ばれる匿名希望の私は今、正座をしている。

 目の前で私を見下ろすのはしかめっ面を見せる五十鈴の他、叢雲と漣。呆れたように笑うのは龍驤で、電と五月雨は私よりも私の後ろの方が気になるようで体をモジモジとさせている。川内は面倒臭そうに、手頃な木箱の上に腰を下ろしていた。そして私の隣で私と同じように正座をしていながらも妙に満足げな顔を浮かべているのが吹雪になる。

 それで電と五月雨が気にする私達の背後には、新たに建造した四人の艦娘が並んで椅子に座っている。長い黒髪が特徴的で電と同じ暁型の一番艦、暁。金髪で特徴的な語尾を持つ白露型の四番艦、夕立。おどおどとした態度で妙に親近感を覚える少女は綾波型の十番艦、潮。そして、妙に気怠げな態度を取るおかっぱ長髪の吹雪型、その三番艦である初雪。ものの見事に駆逐艦ばかりを引いた顔触れに「せめて軽巡洋艦を引いていればなあ」と龍驤がぼやいた。

 それはそれよ、と五十鈴が龍驤を睨みつける。

 

「限りある資源を勝手に使われたら溜まったもんじゃないわよ」

「……えっと、私って偉い? ……だっけ?」

「ちゃんと将来の展望を見据えた上で資材回収用の編成を組んでローテーションを回してくれたら考えるけど?」

 

 ご尤も過ぎて言葉を返せない。

 とりあえず、と五十鈴に片手で私の頭を掴み、照準を額に合わせたでこぴんの構えを取る。ぎゅうっと引き絞られる中指を前に、そういえば艦娘の膂力って常人の数倍じゃなかったっけ? と電の鯖折りを思い出す。うん、これは駄目な奴だ。そう察するや私はでこぴんから逃れようとしたが、私の頭を掴んだ五十鈴の手が万力のように私を掴んで離さない。

 いや、ちょっと待って、それ、たぶん私の意識が飛ぶや――パァン、と衝撃と共に脳にあった意識が後頭部から吹き飛んだ。

 

 

 提督が白目を剥きながら仰向きに倒れている。

 それを介抱するのは電で、あちゃ〜、と龍驤が気の毒そうに提督の顔を覗き込んだ。

 私、漣は彼女達よりも、後ろにいる潮の姿を見つめ続ける。そっか、私の知るあの子は死んだんだなって。運だけで生かされていたような子だったから何時かは死ぬだろうな、とは思っていたけども――本当に死んでいる姿は想像することができなかった。情けなく泣き喚きながらも、ちゃんと家に帰ってくる。そんな子だった。他の誰が死んだとしても彼女だけは生き残っていると、少なくとも私なんか生きているんだから彼女もきっと生きているんだろうなって、それがあり得ないと分かっていながらも、そう思わせてくれるような不思議な子だった。

 そうか、潮が死ぬほどか。響も雪風も、ちゃんと死んだんだなって今になって実感する。二人とも建造されなかったから何処かで生きているんだろうと勝手に思っていた。気付けば、死んで蘇り、実感が薄かったものが急に込み上がってくる。失ったものがあるんだって、此処で私達は負けて、私達以外の皆は死んで居なくなったんだって、そう感じたら目頭が熱くなってきた。

 五十鈴から気づかれないように距離を取る。その時、提督と視線が合ったのに気付き、逃げるように船渠を出る。

 その裏で壁を背に三角座り、声を押し殺して睨むように前を見る。

 潤んだ視界の先に、姉妹達との思い出が浮かんで消えた。

 

 翌日、潮達は目覚めさせることになった。

 死んでいた私たちとは違って、彼女達は眠りながらも生きている。脈はあるし、体温もある。生命活動を続けている以上は餓死する危険性があるとし、とりあえず目覚めさせることで決まった。

 では増えた食い扶持はどうするか? この解決案のひとつとして出されたのが、前々から話題には出ていた舞鶴鎮守府への出兵になる。拠点が増えると出来ることが増えるし、領土が増えるとそれだけで食料の生産率が向上する。もし仮に道半ばで死んでしまうことはあっても、それはそれで食い扶持を減らすことはできる。最後のは誰も口にはしなかったけど、この程度のことは思いついて然るべきだ。

 舞鶴鎮守府への出兵に選ばれたのは龍驤と五十鈴、そして吹雪の三人だ。何が起きるのか分からない遠征、龍驤が持つ高い索敵能力は必須と云える。吹雪が選ばれたのは懲罰的な意味合いが込められているし、この事に吹雪も異論はなかった。それに数日間にも及ぶ遠征である為、出来るだけ経験が豊富な面子で固める必要もある。川内ではなく、五十鈴が編成に加わっているのもより経験を積んでいる方が選ばれた為だ。残る枠に立候補したのは叢雲と私だ。叢雲の意図は分からない、私はまあ深い意味はない。この辺りで死んでおくのも悪くないかなって少し思っただけだ。他よりも生きる意志が少ないのであれば、残るよりも半ば死にに行く為の航海に加わった方が良い。そう思ったからに過ぎない。

 本来なら、あと一人、此処に加える予定だったが、提督の為にも電は残しておく必要があり、五月雨は遠征を怖がったので五人編成となった。

 

 それで今は遠征の準備をしている。

 数日分の食料と弾薬、それから燃料をドラム缶に詰め込んだ。

 舞鶴鎮守府のある場所に、ドラム缶を使い捨てる予定だ。

 

「……あの、少しよろしいですか?」

 

 準備中の私に潮が話しかける。

 部屋にも入らず、出入口から顔を半分だけ出してモジモジとしている。このもどかしくって苛立つ感じが、実に潮だった。

 同じ顔に、同じ声。懐かしくって嫌になる。これで別人っていうのは詐欺でしょう?

 

「帰ってから話そうよ、それまでに心の整理を付けとくからさ」

 

 帰って来れるか分からないけどね、その心の中の呟きを読み取ったかのように私の知らない誰かは告げる。

 

「待ちます、信じます」

 

 ギュッと下唇を噛んで、私のことを見つめてくる。

 この極稀に見せる力強さもまた、潮らしくて嫌になる。嫌になるから嫌なことは後回しだ。そうして首が回らなくなるまで逃げに逃げて逃げ続けて、直視せざる得なくなるまで逃げ続ける。そうしていれば、いずれは事は有耶無耶になる。逃げれば勝ちとは、つまり、こういう事だ。

 幸いにも今の私には逃げる為の口実があった。




 此処は何処彼処、場所が分からないって訳じゃないのだけども。
 流れ着いては辿り着き、数体の妖精さんに頼んで大破撃沈した艤装の修理を頼んでいる。黙って首を横に振るような惨状だったが、それでも拝んで平伏して、どうにかこうにか請け負って貰った。それから私は一年以上、この鎮守府のある孤島で釣りに勤しんでいる。塩はある、醤油もある。缶詰ばかりだと飽きるから魚が釣れた日は焼いて食べる御馳走だ。はふっはふっはむっと食べれば、今日は幸せ晴れ日和、だからきっと今日か明日には良い事あるに違いない。
 妖精さんも焼き魚の匂いに釣られて……ん? なになに? こっちに来て欲しいって?
 鬼さんこちら手の鳴る方へと妖精さんの後を歩いていけば、あの日から壊れた艤装が置いてあった。しかし、微かに残っていたはずの加護の残滓は消えており、瀕死だった艤装は完全に抜け殻になってしまっていた。えっ、嘘? これってもう戻らな……ポスンと要請さんに何かを被せられる。被せられた帽子を手に取ってみると、それは提督さんが被っていたものとよく似ていた。妖精さん達を見返すと、妖精さん達は何か苦渋の決断を強いられたかのように眉間に皺を寄せており、なにか情けないものを見るような目を私に向けていた。
 えっ、嘘? えっ? どゆことー!?
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