提督ですが、人類は滅亡してしまったようです。   作:クソザコナメクジ

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4頁目.正体

 翌日、私、漣はワゴンに乗せた雑多な資材を造船場まで運んでいた。

 

 資材を確保する為には、外海に出なくてはならない。

 今ある資材では数度の出撃が限度、今ある戦力ではエリートクラスに攻め込まれると太刀打ちできない。あと燃料があれば、鎮守府備え付けの発電機を使うことができるのは確認済み。電気があれば、ろ過装置も使える。電気給湯器でお湯も沸かせて、お風呂にも入れる。インフラが壊滅しても機能を維持できるように改築された鎮守府は伊達じゃない。

 という事情により今は、兎にも角にも安定した資材調達が急務である。

 

 しかし周りは海ばかり、人類。少なくとも日本が滅亡してしまったことは間違いない。

 つまり待っていれば定期的に送られてくる資材もない、ということだ。勿論、遠征は考慮にすら入らない。そこで案として出てくるのはオリョールクルージング――はさておき、海域で出る資源を調達する方法だ。横須賀鎮守府と同じように他の鎮守府も孤島として残っているかも知れないが、ここと同じように資材が残っているとは思えないし、最終決戦時に戦力になる艦娘は全員、横須賀鎮守府に集められたので艦娘の屍体が見つかる可能性も低い。海域の資材集めは効率が悪いが陸地がない以上、他に案がない。

 艦娘五人の合意を以て出撃を決めた後、資源調達の海域の設定から、もうひとつを実行する為に造船所へと急いだ。

 

 提督が居れば妖精さんは手を貸してくれる。妖精さんが居れば、新しい艦娘を造れる。

 全員の装備が初期状態に戻ってしまった為、そして変化してしまった海域における敵戦力が分からない為、少しでも戦力を整えておこうと思っての話だ。出撃一回分の資材を投資することは痛いが、しかし前提督は資材をケチって被害を出すなら多少の無理をしてでも豪勢に資材を使うべきだと主張するような人だった。

 資材投入は全て30単位の最低限、せめて軽巡洋艦が出てきてくれればと思っている。

 

「それでは、お願いするのです」

 

 ゴクリと唾を飲み込んで、電が持ち出した資材を全て妖精さんに預ける。

 妖精さんが、合点承知之助! といった感じで親指を立ててみせた。おう、頼りにしてるぞ。余談だけど、どの艦種が建造されるかは妖精さんにも選ぶことはできない。最初に器を作った段階で軍艦の霊的な何かが宿り、それに合わせて妖精さんも建造するようだ。つまり運ゲー、妖精さんは悪くない。羅針盤の妖精さんも悪くない。何度も航路を間違えた時はギスギスするけど、妖精さんの羅針盤も深海棲艦に反応しているだけなので悪くない。十回連続で航路を間違えた時の妖精さんは泣きながら羅針盤を操作していた。

 さておき建造を終えるまではやることがない。

 建造に関わらない妖精さん達も退屈なようで、食事中にマリー・アントワネットごっこをしていた。缶詰が嫌ならケーキを食べれば良いじゃない。といった感じで缶詰の模型を踏みにじった妖精さんは無事にナポレオン妖精さんの手によってギロチン送りになった。大砲の代わりにダンボール連装砲ちゃんを並べていたのが可愛かった。

 前提督の時と比べると随分、はしゃいでる気がするなあ。

 

 それから一時間程度が過ぎた頃合い、提督に妖精さん達からの呼び出しがあった。

 呼び出しまでかかった時間からして駆逐艦ではなさそうだ。意気揚々と提督を連れた六人で新しい艦娘を出迎えに行くと、そこには一体の艦娘が椅子に座らされていた。あの特徴的なツインテールは五十鈴だ、まだ眠っている。電が提督に視線を送り、場を譲る。提督は不安げに電を見つめ返し、電は小さく頷き返した。提督がおずおずと前に出る、そして、その手を握りしめる。

 五十鈴がゆっくりと目を覚ます、そして開口一番にこう言った。

 

「五十鈴です。水雷戦隊の指揮なら……あれ? 山口提督?」

「ち、違いまひゅっ!」

 

 提督はバッと手を離すと、そのまま電の背中へと隠れてしまった。

 彼女のコミュ障は根強い。改善の見込みはあんまりない。

 

「……ふぅん? ねえ、多聞丸って呼んでも良いかしら?」

「だ、だだだ誰ですか、それ!? 私、多聞丸なんて知らないから! そんな珍妙な名前なんて持ったことないから!」

「まあ良いけど、それじゃあ素直に提督って呼ぶことにするわ」

 

 そういうと五十鈴はぐるりと周りを見やり、渋い顔で私達に問い掛ける。

 

「これってどういう状況なの? 詳しく聞かせて貰うわよ」

 

 最終決戦の時と現状を聞き終えた後で、五十鈴は頭を抱えて大きく溜息を零した。

 

 

「なるほどね」

 

 半壊した造船所を見た時から嫌な予感はしていたが、まさか人類が既に敗北しているとは思っていなかった。

 外と連絡を取る手段がない為、実際には何処まで深海棲艦の侵略が進んでいるのか分からない。可能性が高いのは日本列島は既に海の底に沈んでしまっている可能性が高いという話、実際に鎮守府の周りを見てみると海が水平線の彼方まで続いていることを確認した時は「いや、えっ? ほんと、まじかー」と額に手を叩き付けた。母国守護の為に目覚めたと思ったら、既に母国は海の底に沈んでいると何の冗談かと。それで先任の駆逐艦娘達が新たに守護対象として選んだのが目の前の少女だということだ。

 私が彼女を山口提督と呼んだのは、別に同一人物と見間違えた訳ではない。

 少し彼女のことを観察しただけでも性格がまるで違うし、顔付きや仕草に似通った点もない。そもそも性別すら違う有様だ。それでも、なんとなしに彼女から山口提督との縁を感じ取った。もしかしたら遠縁なのかも知れない。ちょっと気になるところだけど、電の後ろに隠れた彼女から話を聞き出すのは難しそうだ。

 まあ艦娘にとって提督は特別な存在だ、母国を護るのと同じくらいに提督を護るのは大切な事だった。

 

「よろしくね、提督」

 

 改めて笑顔で挨拶すると少女はおずおずと会釈を返す。どうやら私のことを嫌っている訳ではなさそうだ。

 

 処変わって食堂、大きな机の上に古びた海図を広げる。

 五人の駆逐艦娘は勿論、提督も一緒に座っており、その肩や頭には多数の妖精さんが乗っかっていた。机の上にも髭付きの如何にもな妖精さんが座布団を敷いて、心持ち真剣な顔付きで海図を睨みつけている。雰囲気作りの為か、パイプ型のシャボン玉を吹かしている妖精さんもいる。それにしても凄い好かれっぷりだな。今、彼女の近くに居るだけでも十数体の妖精さんがおり、食堂内には数十人を超える妖精さんが事の顛末を小芝居混じりに見守っていた。私は他の提督のことを知らないから比較することはできないけど、それでも基礎知識として妖精さん達に好かれるということが、どれだけ難しいのか知っている。妖精さんの方から接触を試みてくれるなら関係は良好と云える。常に二、三体の妖精さんが付き纏う程であれば、それは余程、妖精さんに慕われているという話になる。それが十数体ともなれば、どんだけ愛されてんのよっていう話だ。

 さておき資材調達が作戦目的、兎にも角にも欲しいのは燃料。次に弾薬、そして鋼材。最後にボーキサイトだ。

 

「ああ、でも今回の出撃では無理をするつもりはないよ」と吹雪が告げる。

「はい、横須賀鎮守府周辺の海域の哨戒、もしくは安全確保を今回の目的にするつもりです」と五月雨が続いた。

「周辺の地形が変わっている以上、海流が変わっているかもだし、陸地があった場所は実質的な新海域だよ」とは漣の言葉だ。

「新種の深海棲艦が出てくる可能性もあるわ」と叢雲が捕捉する。

「なのです」と電が相槌を打った。

 

 生まれたばかりの私よりも余程、しっかりと考えている駆逐艦娘達。彼女達がいう最終決戦を経験した艦娘達だ、私が想像するよりも過酷な経験をしてきたに違いなかった。

 

「それで指揮は誰が取るの?」

 

 と何気なしに私が問いかけてみれば――、

 

「五十鈴さんでしょ?」

 

 ――と全員が私の方を見つめた。

 

「やっぱり私達は何処まで行っても駆逐艦娘なんだと思うのです。こうやって経験を積むことはできても、やっぱり自分のことで精一杯なのです。だから、できれば旗艦はお姉さんの五十鈴さんにお願いしたいのです」

 

 そんな電の言葉に全員が相槌はせずとも否定もしなかった。

 ただじっと私のことを見つめてくるばかりだ。水雷戦隊の指揮なら確かに私の基礎知識として植えつけられている。しかし、誰かを引っ張るのであればまだしも、こうやって無垢の信頼を預けられるのは少々荷が重く感じられた。

 生半可な覚悟で頷いてはいけない気がする。

 

「まあ、これから先、今までの経験が通用するとも思えないしね」

 

 笑みを浮かべながら軽い調子で言ったのは漣だ。「演習ができないのが残念です」という五月雨の言葉に「それも込みでの出陣になるわよ」と叢雲が答える。どうやら彼女達の中で私が旗艦になるのは決定事項のようだ。覚悟を決めないといけない。小さく深呼吸をして、意識を切り替える。やると決めたからにはやってやる。

 

「……た、戦うなら、私も行く……行きます…………」

 

 私が静かに拳を握りしめた時、それまでだんまりを決め込んでいた提督からそんな言葉が零れる。

 

「私だけを置いていくのは嫌だ、私だけを置いてかれるのは嫌だ。みんな居なくなっちゃう、気付いたら私だけが立ってる。私以外のみんなが倒れてる。敵も味方も関係なくって……誰も彼もがみんな平等に、無差別に死んじゃうんだ……助けようって思ったのに、助けてって言われたのに、ありがとうって言われたのに、ほんの数秒前まで暖かった体が次の瞬間には冷たくなる……ほんの数秒前に笑いかけてくれた顔が次の瞬間には吹き飛んでた……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……絶対に嫌だ、もう嫌だ、これ以上、私に背負わせないで……これ以上、私に託さないで……私に関わるとみんなみんなみーんな死んじゃうんだ……みんな、そう言って死んでいっちゃったんだ……」

 

 提督が急に顔を青褪めさせてガタガタと震え出した。

 隣に座っていた電が抱き寄せる。大丈夫なのです、と言い聞かせていたが、あまり効果はなさそうだ。叢雲が妖精さんに水を持ってくるように告げる。五月雨は動揺で動けず、漣は二人の様子を静かに観察していた。彼女は戦場に何かトラウマでも持っているのか? それとも深海棲艦の侵略で何かをされてしまったのか? そんなことを考えるよりも先に落ち着かせようと思って、提督の両肩を掴んで安心させようと微笑みかけた。

 私達は大丈夫だから、と。

 

「嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ! そう言ってみんな死んでいったじゃないか! 笑ってみんな死んでいくんだ! 私が死ねば良かったのに、死神の私が死ねば良かったのに! 私が真っ先に死ぬべきだったのに!! どうせ、生に未練なんてなかったんだからさあ!」

 

 いよいよを持って暴れ出そうとする提督に「ごめんなさい」と電が提督に首に腕を巻き付けて、キュッと締め上げた。提督は白目を剥き、だらり、と全身を脱力させた。あまりにも手際が良すぎる電に全員が押し黙っていると「前にも似たようなことがあっただけなのです」と苦笑し、提督を軽々と御姫様抱っこで持ち上げる。

 

「……その子、何があったの?」

 

 私の問いに誰もが私から目を背け、唯一、電だけが困ったように答えてくれた。

 

「こんな調子だから私達も聞くに聞けないのです」

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