提督ですが、人類は滅亡してしまったようです。   作:クソザコナメクジ

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6頁目.出撃/記録1.戦艦レ級

▼6頁目.出撃

 

 決して納得した訳ではない。

 今から出港する電達を見送る為に、私は船着場まで出向いていた。彼女達は艤装を背負って、私を置いて何処かへと向かう。

 名前なんて今更、どうでも良い。多聞丸という名前に良い思い出はないし、紅葉という名前も決して良い意味ではない。姓に至っては私を売った親のものなので名乗りたくもない。そもそも私の姉に至っては私の存在を知りもしないはずなのだ。

 私の為だと彼女達は云う、ならば私だって彼女達の為に何かしたかった。彼女達はきっと知らないのだ。待つ苦しみも、守られる苦しみも、そうして隠し事をされる辛さも、彼女達は分かってくれないのだ。守る側の方が楽だということを彼女達は欠片ほども分かっちゃいなかった。待つ者は信じざるを得ない、信じることを強制させられる。選択の自由なんて何処にもない。だから私は戦場に出る、戦場を駆ける。信じて後悔するよりも、何もせずに諦めるよりも、信じずに動き回って、その上で失敗した方がずっとましだ。

 八つ当たりにも近い想い、笑顔で送り出すなんて絶対にしてやらない。

 怪我のひとつでもしてみせろ、呪ってやる。

 

「不貞腐れないで欲しいのです、提督」

 

 膨らませた頰を指で突かれて、ぷすーっと空気が抜けた。それから頭を撫でられる。まるで子供をあやすように、そんなことでは籠絡されないぞ! と目一杯の抵抗として睨み返した。

 

「私よりも弱い癖に……」

 

 ポツリと呟いた言葉に「海の上では私達の方が強いのです」と電は笑って返す。

「そろそろ行くわよ」と叢雲が呆れ混じりに言ったから電は最後に私の頭をポンポンと叩いて私の側から離れていった。そのまま六人の艦娘が海上に白い線を刻みながら遠くなる。妖精さん達が、まるで今生の別れとでも云うように涙を流したり、ハンカチを振ったり、テープを持ったりしている。縁起悪いな、こいつら。

 もう互いの姿も確認できなくなった頃合い。もう今日は部屋に引き籠ろうと思った時、くいくいっと妖精さんに服の裾を引っ張られた。

 

「えぇ……なんなのお……私、もう今日は……頑張ったし……釣竿?」

 

 こくり、と頷き手渡される。

 ふと周りを見渡せば、数十人の妖精さん達が釣りの仕込みをしているところだった。

 NOと言えない典型的な日本人の私は釣りに勤しむことになる。

 昼までに三匹釣れた。

 

 

▼記録1.戦艦レ級

 

 断崖絶壁今何処、

 何処か水面付近にある拠点にて、私、戦艦レ級は肩の荷を重くしながらだらだらを潜航している。

 向かっているのは作戦室、本来、私のような量産型が足を運ぶような場所でもないんだけど毎度のように呼び出される。正直、面倒臭い。しかし前世の記憶が残っている為か、命令と言われると従わざる得なくなり、こうやって好き勝手に呼ばれては重い足を運んでいる。

 此処は些か殺風景だ。空から太陽の光が差し込むのは良いが、岩肌が露出しているし、それっぽい広間のある空間で拠点と言い張っているだけに過ぎない。そのまま奥へ奥へと進んでいけば、洞穴があり、そこを潜り抜けると縦に開けた広間へと出る。そして、そこには鬼級と姫級が一堂に会する場となっていた。

 定例会議、という名のお喋り会である。

 

「最古ノれ級ガ漸ク来タナ」

 

 来たばかりの私を見下ろすのは泊地棲姫、初めての姫級。嘗て、多くの艦娘を苦しめて、絶望の淵へと誘った存在だ。

 

「待タセナイデ、人間ノ言葉デ言ッテタジャナイ。確カ、五分前行動トカ?」

 

 そういうのは南方棲戦姫。彼女もまた初期からいる幹部級の一人であり、鬼級から順々に改装を刻んできた深海棲艦だ。他にも飛行場姫や戦艦水姫といった昔から猛威を奮ってきた顔ぶれが揃っており、その全てから睨み付けられる。毎度、毎度、嫌だなあ。と思いながらも律儀に足を運んでいる私はもっと褒められても良い。他のエリート級のレ級とか皆、バックれてるし。

 

「れ級〜、れ級〜♪」

 

 そんな緊迫した空気の中で、ちんまくてもちっとした生命体が泳いで寄ってくる。

 私の癒し担当の北方棲姫ちゃんだ。胸に飛び込んできた彼女をギュッと受け止めて、頭を撫でる。うん、可愛い。柔らかそうな頰を両手の指で摘んで、もっちもっちと思う存分に感触を味わった。

 和やかな雰囲気の中、こほん、と戦艦水姫が咳をする。

 

「ソロソロ良イカ?」

「サッサト初メテクレテモ構ワナイノガ?」

「ソウカ、デハ改メテ言ウゾ。オマエハ何時ニナッタラ本気ヲ出スンダ」

 

 北方棲姫ちゃんを元の席へと戻しつつ、戦艦水姫の言葉に肩を竦めてやる。

 

「ナンノコトダ?」

「シバラックレルナ。手ヲ抜イテイルコトハ知ッテイル」

「別ニ私一人ガ居ナクタッテ良イジャナイ」

「各所カラ楽シテバカリダト苦情ガ来テイル」

「ミンナ、真面目デ良イ子バカリダカラ何時モ仕事ガナクナッチャウ」

 

 ケラケラと肩を揺らせば、戦艦水姫が大きく溜息を零した。

 

「アナタガ真面目ニナラナイト規律ガ乱レル」

「規律? 難シイ言葉ヲ使ウヨウニナッタンダナ」

「全部、オマエガ教エタ事ダロウ」

 

 しかめっ面を見せる彼女に笑みを深める。戦艦水姫は真面目な生徒会長タイプ、格好良いところを見せたがるところが可愛かった。彼女はもちろん他の子もみんな私が面倒を見てきた可愛い子達だ。随分と立派になったもんで嬉しさ半分、寂しさ半分。順調に姉離れが進んでいる。

 

「モット上手ク手ヲ抜クヨ」

「手ヲ抜クナト言ッテイル」

「話ガ他ニナイノナラ、モウ行クケド?」

「……勝手ニシロ」

 

 御立腹と言った感じで腕を組む彼女に苦笑する。

 

「話終ワッタ? れ級、遊ボ〜」

 

 そう言って再び北方棲姫ちゃんが私の胸に飛び込んできたところで、この場は解散となった。

 北方棲姫ちゃんの遊びに付き合う為に広間を出る。

 私は戦艦レ級、私の中には雷と呼ばれていた艦娘の記憶が残っていた。




序章、完。
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