提督ですが、人類は滅亡してしまったようです。   作:クソザコナメクジ

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この辺りから本番


7頁目.資材回収/記録2.オカアサン

▼7頁目.資材回収

 

 艦娘の運用に提督が必要とされる理由の大半は、妖精さんにある。

 艦娘と妖精さんの関係に主従はなく、上下もない。同僚、という言葉が近い気がする。艦娘と妖精さんは互いに互いの領分を全うする為の協力者になる。故に妖精さんが私達に対価を求めるような真似はせず、もし仮に何かを求めることがあれば、その標的は提督に向かうのが常だ。例えば、秋になると大量の秋刀魚を要求してきたり、ハロウィンで仮装した妖精さんがお菓子を強請ってきたり、クリスマスイベントを開催する為に飾り付けを要求してきたり、といった可愛らしいものばかりだ。尚、これらの要求を無視すると妖精さんはストライキを起こす為、どれだけ忙しい時期であったとしてもイベントは消化する必要がある。

 そんな妖精さん達の性質に振り回されたのだろうか。私達が近海の調査から帰って来た時、涙目になりながら魚拓を取らされている提督の姿があった。

 

「頼りなくて情けない子だったけど、提督としての最低限の役割だけは果たしているようね」

 

 傀儡の提督程度にはなれそうだ、と私、叢雲は安堵の息を零す。

 得られた戦果を持って、そのまま船渠に入る。

 

「……出迎えてくれるくらいしても良いんじゃない?」

 

 船渠にて、提督は資材の後ろに隠れながら遠目に私達を眺めていた。

 しかし彼女の周りには常に数十体の妖精さんが付き纏っている。迷彩服を着込んだ妖精さんが匍匐していたり、段ボールの箱に隠れていたり、提督と同じように資材や彼女の足に隠れてみたり、隠れもせずに彼女の肩や頭に乗ってたり、うじゃうじゃしているので直ぐに分かる。相変わらず、もの凄い慕われっぷりだ。最も妖精さんに慕われる男と言われる前提督の時ですらもここまでじゃなかった。

 基本的に妖精さん達は気紛れで精力的だ。前提督の時ですらも何度もデモ活動が起きたし、待遇改善のストライキが勃発した。余りにも陰鬱とした日々が過ぎると妖精さん達が間宮さんが作ったパイを盗んで、黒い笑顔を浮かべながら切り分けたりする。お主も悪よのお、いやいやお代官ほどでは、とかやり始めたら黄信号だ。赤信号はちょび髭の妖精さんがプルプルと震えた手で眼鏡を取り、三人を残して他を退出させた時なんかになる。

 そんな妖精さんを宥めるのが前提督は得意だった。しかし、彼女は妖精さん達に宥められる提督だった。

 

 今だってほら、数名の妖精さんがピョンピョンと跳ねながら提督に姿を現すように促されている。

 

「うぅ……行けば良いんでしょ……分かってるよう……」

 

 おずおずと姿を表せば、頭の提督帽に乗っかった妖精さんが提督の頭を撫でる。

 

「お、お帰り……なひゃい……」

 

 視線を逸らしながらビクビクと告げる。相変わらず、頼りない子だ。そう思いながらも彼女を安心させる為に「ええ、ただいま」と余裕綽々に告げる。五十鈴、吹雪、電、五月雨、漣と続いて返事をする中で妖精さん達に回収物を受け渡し、「再出撃するから装備の変更をお願いするわ」と彼女に群がる妖精さんに告げる。

 

「え、まだ出撃するの?」と提督が驚きを隠せずに問いかける。

「ええ、明日、またあるかどうかも分からないから今の内に回収しておきたいのよ」と返す。

 

 妖精さん達に頼んだのは輸送用ドラム缶だ。

 前提督の時に最終決戦までの戦闘で、予備も含めたほとんどの装備を使い潰してしまったが、戦闘に使えない輸送用ドラム缶だけは倉庫に残っていた。これを数珠繋ぎにして、私、電、五月雨、漣の四人に装備させる。五十鈴と吹雪は護衛役だ。

 着々と準備を進める中で、ちょっと待って、と提督が慌てて問いかける。

 

「せ、せめて、報告……外は、どうだった? 大丈夫? き、危険はなかったの?」

 

 提督の質問に「大丈夫なのです。この程度なら海の上なら電達は無敵なのです」と電がグッと腕に力を込めて告げる。その誤魔化すような返答に呆れて、私が彼女の代わりに報告する。

 

「深海棲艦と会敵したわよ、駆逐イ級が三体。ただ思っていたよりも弱かったわね。あの程度なら練度が初期化された私達でも悠々と勝つことができたわ」

 

「叢雲……っ!」と電の咎めるような声に「大丈夫よ」とあっけらかんと答えてやる。

 

「提督は、ずっと教本を読み漁っていたのよ? 自分が置かれている状況程度は理解しているはずだわ」

 

 これ見よがしに提督を見ると、彼女はあうあうと身を縮こまらせる。そんな彼女に溜息を零す。

 

「あと資材を大量に発見したから回収をするのよ。単位にして各資材が100程度もあったわね」

「他にも海面付近に漂流している資材も結構あったかな?」と吹雪が付け加える。

「陸地が海に沈んだとはいえ、山があった辺りは海が浅い場所が多かったわよ」

 

 とりあえず燃料が入ってそうなドラム缶だけ先に回収しており、残った弾薬、鋼材、ボーキサイトの回収に向かうことになる。艦娘の弾薬は規格が統一されている。というよりも艤装の中に規格化された弾薬を詰め込むと、装備にあった銃弾や砲弾、魚雷が発射される仕組みになっている。理屈はよく分からない、ひと昔前の研究者が匙を投げた妖精さんパワーによるものだ。

 

「昔よりも海で拾える資材が多かった、かも?」とは五月雨の言葉だ。

「私は昔のことを知らないけど、それでも不自然だとわかるほどに資材が転がっていたわ」

 

 五十鈴の言葉を聞き届けた提督は考え込み、そして真剣な顔で問いかける。

 

「えぇっと、交戦したん、だよね……? それって、深海棲艦……に私達の存在、知られたってことじゃないの?」

 

 そこに思い至るのは当然と云えば、当然の話。私達は一様に彼女から目を逸らす。

 深海棲艦の生態については解明されていない点が多い。最初は、ただ単に野生動物のように海を漂っており、手近な船を攻撃するだけだった。しかし深海棲艦との戦闘が続くに連れて、奴らの行動に戦術や戦略といったものが見え隠れするようになった。最終的には規律を以て進軍してくるようになり、その物量を前に圧倒されるようになる。

 ただ遭遇した駆逐イ級に、規律は感じられなかったので野良だとは思う。だからといって楽観視はできない。

 

「……その時はその時よ。その時の為にも、回収できる資材は回収しておかないと」

 

 そう言って、私は妖精さん達の手によって艤装に繋がれたドラム缶を見やり、皆に出発を促した。

 

 

▼記録2.オカアサン

 

 霊長類には人間の他に、猿といった獣も居るように深海棲艦にも種類はある。

 中でも駆逐イ級と呼ばれる存在は野生動物も同然だった。生命活動を維持する為に魚なんかを主食とし、自身の修復や装填の為に弾薬や燃料、鋼材を食い漁る。しかし駆逐イ級には犬並の知性は持っており、きちんと躾をすれば、簡単な作戦行動に追従させることは可能だった。これは人型に近ければ近いほどに高い知性を持っていると考えれば良い。きちんと表情を確認できる個体ともなれば、簡単な会話もできる程に知性が高い。

 

 断崖絶壁今何処、何処かの海域で私、戦艦レ級は駆逐イ級と戯れている。

 駆逐棲艦は知性ある深海棲艦の間では人気になっており、強い個体に飼育することがステータスにもなっている。時に駆逐棲艦同士で戦わせる大会が開かれることもあり、これが知性ある深海棲艦の娯楽にもなっていた。まあ私は自分が可愛がった駆逐棲艦を戦わせるなんて野蛮な真似をさせたいとは思わないし、ひとつの生命に対する責任を取る覚悟もできないので飼うこともない。あくまでも戯れるだけだった。

 最初は私だけだった知性ある深海棲艦、それが一人、また一人と増え続けて、今や数え切るのが難しい程に個体を増やしている。

 昔は全ての知性ある深海棲艦に鬼とか姫とか呼称を付けていたが、今となってはただ単に強さを示す指標みたいな感じになっていた。私は個体として名乗る程に強くはないので戦艦レ級、その原型だからマザーと呼ばれることもある。原初の姫と呼ばれる五人の面倒を見てきたのも私だったりするので、ママとか、お母さんとか呼ばれたりもする。戦艦棲姫とか極稀に、ママ、とか呼んでくれるので可愛い。抱きしめて撫でたいけど、顔を真っ赤にしてめっちゃ拒否される。悲しい。

 今はみんな立派に親離れを果たしたので、ちょっと寂しい。反抗期が続いてそうな子も何人か居るし。

 

 それからも後に姫と呼ばれる子達と多く関わってきた。

 中には憎たらしい子も居たし、多くの面倒をかけさせられた。それでも、みんなみーんな私の可愛い子供達なので、いつまでも健やかで幸せになって欲しいものだ。海底にある岩の上に腰を下ろして、ふんふん、と鼻唄を口遊んでいると遠くから眼鏡を掛けた姫級の深海棲艦、集積地棲姫が物凄い形相で泳いできた。

 またなにかいざこざがあったようだ。

 

「カアサン、聞イテクレ! アイツラ、ナニモ分カッチャイナインダ!」

 

 そう言うと集積地棲姫が身振り手振りを交えて、怒りの程を訴えてくる。

 どうやら他の姫級が物資を無駄に浪費しているという話だ。兵站の大切さも理解せずに、次々に戦線を広げては追加の補給を要求する。そもそも補給ワ級は数が不足しているし、それを指揮する深海棲艦も不足している。前線で暴れる姫級は物資を無意味に浪費することもあり、紛失した、とか、いつの間にか消えてた、とか、そんな報告が上がることもあるようだ。

 今にも血管がはちきれそうな集積地棲姫を胸に抱き寄せて、よしよし、と頭を撫でる。

 

「集積地チャンガ頑張ッテルッテ、知ッテルカラ」

「ソウダヨ! 頑張ッテルンダヨ! ソレナノニアイツラ裏方トカ、根暗トカ! チョット資材ニ傷ガ入ッテタカラッテ、勝手ニ捨テタリスルンダ!」

「ンー、ソレハヨクナイナア」

 

 どうしよっかな、と首を傾げると、右薬指に付けた指輪がキラリと輝いた。

 

「カアサン、ソレ、綺麗ダケド何処デ手ニ入レタンダ?」

 

 集積地棲姫が私の胸元から顔を上げて問いかける。

 

「物心ガツイタ時カラカナ?」

「欲シイナア」

 

 じいっと見つめてくる集積地棲姫に私は笑顔で「コレハアゲラレナイヨ」と告げる。

 ちぇっ、と口先を尖らせる集積地棲姫によしよしを頭を撫でてあげた。

 

 私は他の戦艦レ級よりも、より高みまで成長することができた。

 私の実力は鬼級にも匹敵すると言われている。そんなことは流石にないと思う。戦艦レ級はあくまでも戦艦レ級、駆逐艦娘が軽巡洋艦娘や戦艦娘と真っ向からの殴り合いで勝てないように、艦種の壁を越えることはできない。

 少なくとも私に鬼級や姫級の子達の火力を出すことはできないのだから。

 

 でも、それはそれ、ご飯を残すのは悪い子がすることだ。

 悪い子は分からせに行かなきゃいけない。

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