霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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ギミックたくさんの武器は人類のロマン!!
…え?"兜割"や"縫い針"やらに対して"鮫肌"だけスペックがおかしい?
尾獣だって九尾だけスペック異常なんだし気にしない気にしない


第一部
狂人旅立つ


 見る者に知識がなければ不気味に感じるであろう床一面に術式が描かれた奇怪な家──厳密に言えば鍛冶場で少女は一人鉄を打ち続けていた。

 少女はかつて血霧の里などと呼ばれていた過去を感じさせない至って平和な学び舎であるアカデミーを2年前に卒業し一時は下忍となるも即座に忍びの道から降りそれからというもの年相応に遊ぶのでもなくずっとそうして過ごしていた。

 

 ガンッガンッと耳に響く鉄の音に混じる、誰かが近づく足音に少女はその手を止める。

 

「──依頼にない刀を造るのは止めろといったはずだ」

「大爺様の書庫を読み漁っていたら良いアイデアが湧いてきたから、発想が薄れる前に形にしたかった。もしも刀の依頼が来たらこれを渡せば良い、父さんが造る鈍よりよっぽど切れる」

 

 自らに近づく人物が自身の父であると聞こえた声で判断した少女、渦柘榴 村雨(かざくろ むらさめ)は15歳の少女とは思えない程冷たい声でそう言うと再び手にした鎚を振り下ろす。

──もっとも、彼女に近づく者など、客以外では刀集めが趣味の少し年下の親族の少年や眼鏡をかけた気弱な少年ぐらいしかいないのだが。

 

 村雨の父、渦柘榴 白雨(かざくろ はくう)は床に刻まれ青白い不気味な輝きを放つ術式に顔を顰める。

 

「…今度は何をした」

「雷刀 "牙"の真似事、私の性質変化を術式として刀に写して性質変化の力を持つ武器にした、もっとも私は水遁以外は使えないから"水刀"になる訳だけど。──水刀…すいとう…かぁ。名前の響きがいまいち…もっとカッコいい響きにしたい」

 

 自身の手で生まれつつある刀を眺めながら語るその声は先程の冷たい声とは違う年相応の明るい物で白雨は自身の子のそんな姿に眉間の皺を更に深める。

 

 彼の娘である村雨は刀を造ることに関しては天賦の才を持つ、それこそ自身の祖先であり天才と称された刀匠の再来と噂されるほどの──その娘が生み出そうとしている刀の詳細を聞き霧の忍とも繋がりの深い白雨は懸念を抱く。

 

 圧縮した水の切れ味に着目した水遁忍術には心当たりがある、しかしただ水を放出する術と違い圧縮という技術とより強い出力を要求されるその忍術は水遁の忍術の中でも高等忍術の部類だ、そんなものを刀で再現し技術の伴わない者であっても誰でも使えるようにしてしまえばどれ程の危険があるのか想像に難くない。

 

「必要以上の刀を造る必要はない、戦場は強い刀があれば勝てるものではない。もしもその刀が敵の手に渡ってみろ、霧の忍にどれ程の被害が出るか分からないだろう」

「鈍ばかり造る父さんに言われたくない、この間も半端な武器のせいで死んだ人が出た──」

「話にならん!!」

 

 鎚を振り下ろしていた手を止める。

 背後から手を打ち鳴らす音が聞こえた──父が印を結んでいる。

 

──水遁・水喇叭

 

 父が放った水流に造りかけの刀諸共飲み込まれる。

──即座に友達から教わった通りに身体を水へと変化させ水流と同化し攻撃を通り抜ける。

 やがて父が術の放出を収めたとき目に映るのは激流によって完全に壊され散乱した鍛冶台をはじめとした道具達。

 

「もう鍛冶屋は畳む! 二度とここで鎚を持つことは許さん!!」

「…本気? 父さん…」

「最早血霧の里と呼ばれた時代も過去のもの、今更鍛冶屋一つ無くなろうが誰も文句は言わんわ!」

「そう…じゃあ仕方ない──でも丁度良い、この里での刺激もなくなってきたし私は里を出る」

「何!?」

 

 自身の言葉に父が信じられないと言わんばかりに目を見開いているのを見て頭を掻く。

 

「私は大爺様の造り上げた"七刀"をも超える刀を造る。──その為に大爺様とは違ってこの里以外の技術を取り入れようとずっと思っていた」

「ふざけるな! 我ら一族は霧の忍にとって最重要機密の情報そのものだ! 里を出れば追い忍に殺される可能性とてあるのだぞ!!」

「──分かってる、だから自衛の手段は鍛えてきた。いつでも出れるように準備も万端…だからもう行く」

 

 自身が着ている藍色のつなぎのポケットから2つの巻物を取り出して父へと見せる。

 一つは最低限の生活の準備。それを再びポケットに戻すと残る一つをゆっくりと開き、描かれた口寄せの術式を起動させる。

 

 ガラガラと金属音を響かせる数十本に及ぶ刀達。大小様々な形状だがいずれも目利きのある者ならばそれが名刀、物によっては妖刀とさえ言える物だと気付くだろう。

 全て父から怒られながら、それでも父から隠れて造ってきた作品達の内の大半だった。

 

「これ、父さんに残していく。鍛冶屋の代わりを見つけるまでの資金にして──」

「待て村雨!」

「身体には気を付けてね…お父さん。──忍法・霧隠れの術」

 

 店に訪れる霧の忍達、その中でも"口の軽い部類の人達"に刀を売る際に代金の代わりに教えてもらった忍術の内一つを使う。

 視界を奪う霧の忍の代名詞とさえ言える忍術、"再不斬さん"の『無音殺人術』のように音を断つ技術はないし霧の範囲も大したことはないが忍ではない父から逃れるだけならこれだけで十分だった。

 身体を水へと変容させ家の前の水路へと飛び込む──そのまま里の外へと誰の目にもつかぬまま抜け出していく。

 

 数少ない友人である水月や最近漸く接客以外で話す様になった長十郎と会えなくなることにほんの少し感傷的になるがそれ以上に里の外へと出ていく高揚感に胸の高鳴りを感じていた。

 ──これから私は未知の忍具をいくつも見られる。そしてそれらを上回る忍刀を生み出すのだ。

 

 水路から川へ足跡一つ残さない移動法で里を抜け出すとそのまま森の中へと姿を隠す。

 これからは私──渦柘榴 村雨は抜け忍同様の存在となるだろう、しかしそれでも構わない。全ては大爺様の造り出した"七つの忍刀"を超える為、その為ならば他の何を捨てても構わない。

 

 雷を帯びた切れ味最高の一本、雷刀 "牙"

 どんなガードをも叩き潰す鈍刀"兜割"

 全てを突き刺し縫い合わせる長刀"縫い針"

 太刀筋に爆発の力を加えた爆刀"飛沫"

 人を切り裂き血を吸うことで再生する決して刃毀れしない断刀"首斬り包丁"

 チャクラを溜め、解放することで形状を変化させる双刀"ヒラメカレイ"

 そしてチャクラを喰らい持ち主と融合する意志を持つ最強の忍刀にして大爺様の最高傑作、大刀"鮫肌"

 

 それら全てを自らの刀で塗り潰すと誓い歩を進め──ふと止める、近くで"刀の音"が聞こえた。

 反射的に足にチャクラを巡らせ地面を蹴る。そのまま茂みに隠れて音の下へと駆け着ける。

 

 

 

 そこには案の定忍がいた、霧の額当てをした一人の男性と雲の額当てをした一人の男性。

 身体中から血を流し地に膝を着いた必死な表情で霧の忍が"雲の工作員を逃がすわけにはいかない"と言っていることからしてあの雲隠れの男性はスパイとして霧隠れの里に潜り込んでいてそれが彼にバレたのだろう。しかしそんなことはどうでもいい、問題は雲隠れの男性が持つ刀だ。

 

 ──酷い。

 

 弱い鉄で造られ弱い力で打たれたものだと見て取れる鈍。

 刀で切られた母の遺体を見た時からまともに刀を造れなくなった父が造ったものより更に数段劣るそれは見ていて悲しみや怒りの感情が湧いてくる。

 

 しかしこちらの心情など知らぬと雲隠れの忍は加虐的な笑みを浮かべると共に手にした刀を自身の顔の近くで掲げ──その刀身をペロリと舐めた。

 

 巻物の中から父に渡さず残した僅かな刀の内の一つ、1本の長刀を取り出すと共に衝動的に茂みの中から飛び出し、雲隠れの忍へと切り掛かる。

 無意識の内に放った一閃は雲隠れの男に触れる直前に男が手にした刀によって防がれる。

 

「っ増援か!?」

「あ、貴方っ! 人前で刀を舐めるなんて…何て淫らな! 貴方のような方に刀を持たせるわけにはいきません!! すぐにその刀を渡してください!!」

「は?」

「5秒以内にその刀を置いてください! さもなくば貴方の両腕諸共奪い取ります!!」

「──な、何訳の分からない事ほざいてやがる!! ガキが邪魔するんじゃねぇよ!」

 

 男が怒りを宿した言葉を口にすると同時に刀にチャクラを纏わせる。

 どうやらこちらの指示に従うつもりは毛頭ないらしい。

 刀が纏うチャクラはやがて雷へと変容しその切れ味を高める──しかしそんなものは関係ない。

 

「──成敗!!」

 

 先程の淫らな行為に思考放棄したものとは違う──自らの意識全てを捧げた俊足の太刀を放つ。

 

 

 

 霧隠れの男は自身の目を疑う。

 謎の少女が放った一閃により雷遁を纏った雲隠れの男の刀の刀身が断ち切られると共に彼は両腕を切り落とされ血が噴水の如く噴き出す。

 それは鉄の国の侍達の中でも手練れのみが使える剣技『居合』、しかし技の精度は遥かに劣る、にも関わらず雷遁のチャクラを纏った刀を容易く切り捨てるほどの業物の刀に男は目の前の少女が何者かを理解する。

 

 霧隠れの里において忍でないにも関わらず二代目水影の血筋である鬼灯一族と並ぶ程の崇高な一族、かの忍刀七人衆が用いた忍刀の創造者、渦柘榴 村正(かざくろ むらまさ)の末裔たる少女。

 その天賦の才により生み出す恐ろしい"凶刃"と今の如く時折見せる謎の言動故にいつしか里の者から『霧隠れの怪人』『霧隠れの鬼人』同様に恐れられる『霧隠れの狂人』渦柘榴 村雨。

 

 両腕から夥しい量の血を噴き出し地に伏した雲隠れの男の傍から男の刀の残骸を奪い取った少女はその刀身部分を掲げ値踏みするかの如くあちこちの角度から刀を見つめる。

 

「やはり酷い出来の刀…雲隠れの忍は雷遁によって刀の切れ味を増幅できるが故に半端な忍には多少質の劣る刀を支給すると聞いたけれど──あまりに酷い、この様な姿で生み出されるなんてあまりにも可哀想…」

 

 刀をまるで痩せ細った子供のように哀れみギュッと抱きしめる少女の姿に霧隠れの男は目の前の少女に対し「やはり…渦柘榴 村雨か」と確信を抱く。

 しかしだとするとこの状況はあまりに重大な事件だ。

 七忍衆の忍刀は既にそのほとんどが里の外に出て行った物ではあるが未だに霧隠れの最重要機密であり最優先回収対象である──その作成者の末裔ともなれば現水影様であっても知らない知識さえも持っている可能性がある。

 その為彼女達渦柘榴一族は護衛無しでの里の外への外出は禁止されているのだ。──それがたった一人でこんな場所にいるのはどういうことだと戸惑い、何とかボロボロの身体を起こす。

 

「そ、それにしても…人前で刀をペロペロするなんて…何て不作法な…まったくこれだから男性は情緒というか、雰囲気を重んじないというか…」

 

「お、おい? 村雨──お嬢様?」

 

 プルプルと身体を震わせ長い空色の髪の端から見える耳を真っ赤にした少女の背中に声を掛ければ少女はびくりと肩を跳ね上げた。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 何てこと…あれ程慎重に里を出たというのにこんなところで見つかってしまうとは…

 雲隠れの男の刀と男の行動に冷静さを奪われてつい暴走してしまった…おまけに少々妄想の世界に浸ってしまっていた──悪い癖だ。

 

 そもそも雲隠れの忍が刀を主軸にした戦闘スタイルだったから刀の差で勝てたものの、相手が忍術主体、あるいは戦闘が長期化していれば間違いなく自分は負けていただろう。あらゆる意味で迂闊な行動だった。

 

 いや、この際それらは今はどうでも良い、問題は自身の背後の男性だ。

 もしもこの男性に捕まり里に戻されれば最早里の外に出る機会は少なくとも十年は訪れないであろう──ましてや今戻っても既に鍛冶屋を辞めた父の下で刀に触れることが出来ずに生きるなどそれこそ自分は発狂してしまうだろう。

 

「…ままならないものね」

 

 つい愚痴を漏らしてしまう。しかし最早道は一つだ、相手は手傷を負った忍一人。

 数分前に自身の目的の為ならば他の何を捨てても構わないと覚悟したばかりでありそれは今も揺るぎない。

 

 少しずつ近づく男──しかし幸い男の目に背を向けている私の手の動きは映らない。

 

「水牢の術!」

「──っ!?」

 

 球体状の水が男を捕らえその動きを封じる。

 霧隠れの術と並ぶ霧隠れの里の忍の代名詞、水であるが故に壊すことが不可能な水の牢屋を造り出す忍術。

 

「ごめんなさい…私は里を出ます──里を出て至高の刀を世に生み出す。だから──」

 

 少女は手にした刀をゆっくりと男性へと向け──水牢の中へゆっくり入れると男にそれを手渡す。

 

「せめてものお詫びです、今後はそれをお使い下さい…私の水牢の術は後40秒程で解けます──…ごめんなさい、頑張って下さい」

 

 そう言い残しすぐにチャクラを足に纏わせ跳躍する。

 いずれあの男性は応援を呼ぶ、そうして自分は遠くない未来に指名手配されるだろう──ならばその前に水の国の国境を超える。

 

 この日の為に水月や店の客に里の周辺の話を教えてもらいある程度の地形は頭に叩き込んだ。

 雲隠れの男のせいでとんだ出発になってしまったが今更悔やんでも仕方がない。

 今はとにかく走るのだ、私を、私の生み出す刀達を更なる高みへと導くものが待つ広い世界へと、そして必ず大爺様の造り上げた忍刀を越える忍刀『新忍刀』を7刀造りあげてみせるのだ──

 

 

 

 この日『霧隠れの狂人』と呼ばれる一人の少女が解き放たれたのだった。

 




・渦柘榴 村雨(かざくろ むらさめ)
ナルト達より2つ上の15歳の少女。
忍刀作成者の末裔にして刀造りの天才。
刀を餌に一部の者達から忍術を教わったことで忍術もそれなりに使うことができるが本人は刀匠として道以外に興味はなく忍術もまたその道を歩む為の物でしかない。

人付き合いの経験が極端に少なく"刀が絡まない限り"言動は途切れ途切れ。
刀や忍具に強い関心を持ち時々奇行に走る。
それらの特徴故に忍ではないにも関わらず里の者達からは『霧隠れの狂人』と『怪人』『鬼人』と並び称されている。
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