霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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制作秘話は明かせない

 宙に浮かび揺らぐ炎──否、斬り落とされた魂の一部を見て歓喜する。

 遂に…遂に3年間も思い描き続けた作品が完成したのだと漸く実感し喜びが溢れて止められない。

 

 チャクラの怪物、尾獣の魂さえも引き剥がし切り裂く霊剣、"魂刀・屍鬼切"。

 その刃に斬られた八尾のタコ足の一部は焼け爛れたかの様に変色し、ダラリと水に浸かっていた──間違いなく、かつてのハレンチ博士の両腕と同じ症状だと見て取れる。

 

 …ハレンチ博士と言えば角都さんが無事な事からしても"例の仕組み"は上手く働いているようだ。

 

 思い出すのは謹慎生活の最中、屍鬼封尽の力を宿す器を造っていた頃のこと。

 

 あの時はハレンチ博士の隠し部屋で屍鬼封尽の情報を得た時…いや、もっといえば屍鬼封尽の術を使い命を失った三代目火影様を直接見た時から分かっていた欠陥、即ち術者が死ぬというリスクが存在することに頭を悩ませていた。

 

 だが、ふと考察すべきは術者の死が確定するのは"どこか"という点だということに気が付いた。

 

 死神を呼び出した時

 死神が術者に憑依した時

 死神に相手の魂を引き出させた時

 死神が相手の魂を斬り落とした時

 それとも死神が封印対象と術者の魂を喰らった時

 

 あらゆる可能性があるがあの時、三代目火影様はこう言っていた。

 

『屍鬼封尽は術の効力と引換えに己の魂を死神に引き渡す命を代償とする封印術』

『封印が終了したと同時にワシの魂も食われる』

 

 その発言からして術者が死ぬのは死神を召喚した瞬間に確定するのではなく封印を施した時だと考えることもできる。…と言いたいところだが、謎の多い術だ、私の推測だけでは確実に安全とはとても言えない。

 確実にそれを判断するならば屍鬼封尽の術を発動し、誰も封印せずにチャクラ切れを起こし術が途切れた場合術者がどうなるのか等、特殊なケースを何通りか確認出来れば良かったが残念ながら屍鬼封尽の術を解除する方法は分かっても屍鬼封尽の術を発動する方法は分からず叶わなかった。

 

 …しかし別段問題はなかった。

 死神を憑依させた時点で術者が死ぬのであれば香燐さんに憑依させる時にでも確かめることは出来るのだから…そしてその結果死神を憑依させ腕を斬り落としても香燐さんは死ぬことなく全ての工程を終えた。

 即ち屍鬼封尽の術で術者が命を失うのはやはり魂を引き抜いた後"死神に魂を食べられる時"である可能性は高い。

 

 

 ならば腕と小刀のみを奪った"魂刀・屍鬼切"に持ち主が死ぬ危険性は限りなく低い。

 そしてもう一つ、万が一の為の保険もある。

 

 

 そもそも本来の屍鬼封尽の術には抜け穴があった。

 三代目火影様は影分身の術を併用し、1人の魂で初代、二代目火影様の魂とハレンチ博士の腕を封印した。

 術者の魂を引換えに1つの存在を封印する術としては完全な抜け穴だ。

 

 ここで重要なのは影分身と同様に同質のチャクラを持つ存在ならば死神を誤魔化すことが出来るということだ。

 恐らくだが本体と分身の関係である影分身の場合、分身のみに封印を使わせたところで本体もいずれ死ぬことだろう…勿論三代目火影様がチャクラ量の限界があったから2体までしか造れず、やむを得ず自らも行ったという可能性もあるにはあるが、それならばチャクラを消費する前にもっと早く影分身を使い3体分身を用意するはずだ。

 

 影分身はダメ──ならば"象転の術"ならば? 

 私のチャクラで他人の身体を上書きし生まれた私の同一体である"偽雨"は影分身以上に独立した1人の存在の様だった。

 恐らくだが偽雨が屍鬼封尽の術を使えた場合魂を奪われるのは偽雨だけ…若しくは彼女に上書きされてしまった生贄の人なのではないだろうか。…もっともそれは当時、偽雨とのリンクを殆ど感じなかったが故の発想だったが、実際には彼女の消滅を感じ取れた辺りどうなったかは分からない。

 

 ともあれ結論としては同一のチャクラと魂を持つ影分身と違い、同一のチャクラを持ち異なる魂を持つ存在を用意出来るならそちらに死神を憑依させればオリジナルには何のリスクもないのだと考えた。

 

 そんな都合の良い存在を用意する仕組みこそが"ハレンチ博士の魂"だ。

 仙術を身に着ける為に重吾さんに呪印に纏わる話を教わった際に一つ面白い話が聞けたのだ…それは重吾さん自身の話ではなく彼の親友である君麻呂さんから聞いたという話であったが、呪印を宿してからというもの自分の中に大蛇丸様の意識を感じるのだと語っていたらしい。

 

 ──使えるかもしれない。

 

 今なら絶対しないが当時はまだハレンチ博士とは互いに利用し合う関係と認識していた事もあってそう思い、謹慎生活が始まってからというもの、定期的に行うアジトの移動の度に重吾さんに呪印適合者の状態の調査という名目である聞き込みをしてもらった。

 

 結果は思った通りだった、何人かの適合者は『自分以外の存在を感じる時があったか?』という問いにYESと答えたらしく、呪印のオリジナルである重吾さんに頼った事もあってかあのサスケ君からも「子供の頃の自分の皮を被った何者かが力を求める様に囁いてくる夢を見た」と答えたという報告を貰えた。

 

 …そう、それは恐らく呪印適合者をより自分好みに育てる様に呪印に仕組まれたハレンチ博士の精神だろう。

 そして呪印とは適合者のチャクラを増幅させる力を持つものだ、それを利用すれば刀を持つ者のチャクラを増幅させ、死神の憑依と魂を引き抜き斬り落とす為の膨大なチャクラを補いつつ、死神との取引に使う術者の魂はハレンチ博士の魂で行えるという仕組みが完成すると考えた。

 

 勿論、この方法には重大な問題がある。

 もしもオリジナルのハレンチ博士…仮にハレンチ博士Aとすると、そのハレンチ博士Aが呪印に宿る意識であるハレンチ博士A´と繋がっていた場合、ハレンチ博士A´の魂と一緒にハレンチ博士Aの魂にも何かしらの悪影響が及ぶのでは? という大問題だ。

 

 しかし考えてみれば呪印が刻まれた四人衆の方々と一緒にいた際に私がサソリさん、デイダラさんと出会った事をハレンチ博士Aは把握していなかった。即ちハレンチ博士A´の情報はハレンチ博士Aに直接伝達されている訳ではない。

 

 考えてみれば当然だ、呪印適合者などハレンチ博士のアジトには何十人といる…自分の分身を造るだけならともかく、他人の精神の中に自分の意識を潜り込ませ、その情報を常に受信していてはハレンチ博士といえども情報量に耐えられるはずがない。

 

 つまりはハレンチ博士A´は"分身という存在"ではなく"分離した存在"だという事だ。

 勿論ハレンチ博士Aからハレンチ博士A´への情報共有の繋がりはあるかもしれないが、ハレンチ博士A´に掛かる影響がハレンチ博士Aに向かう心配ないだろうという結論に至った。

 

 その後、以前ダンゾウさん由来の呪印を刀に移した時と同様に…今回はハレンチ博士由来の呪印のオリジナルである重吾さんの肉体移植の能力で協力してもらい、伸びしろが無いという理由で他の素材と一緒に持ち込まれた呪印状態1止まりの人の肉体の一部を抉り取り、大元である"霊剣・飛過刀"に呪印を転写する事に成功した。

 

 

 

 そして今、死神から奪い取った腕はその呪印に宿るハレンチ博士A´に憑依させる仕組みは完璧に作用している。

 即ち"魂刀・屍鬼切"は完全に完成を果たしたということだ! 

 

 

 

 …ここまでは良かったのだが、色々対策を考えながら造ったお陰で"どういう原理でリスクを回避出来たのか"は結局分からず終いになるという事に今になって気が付いた。

 

 死神を憑依させても魂を食べさせない限りは術者は死なないという考察が当たったのか。

 はたまた単純にハレンチ博士A´に負担がいっているだけなのか。

 それとも利用しているのが死神の身体の腕のみに過ぎない事でそもそも負担自体かなり薄くなったのか。

 

 こればかりは今となっては分からない為、事前に角都さんには"死神は刀に憑依させている為危険はない"とだけ伝えておいて良かった。

 まさか刀の中にハレンチ博士A´の魂を組み込んだ上でそれに憑依させているなんて明かして、もしハレンチ博士Aにバレたら多分怒られると思って伏せておいたのだが、どういう原理で安全になったのか分からない等と言ってしまっては角都さんが不安になる、持ち主本人にリスクが1つもないのならそんな事は知らないままの方が良いだろう。

 

 

 

 そんな色々な経緯を経て造った"魂刀・屍鬼切"の詳細を纏めると以下の通りだ。

 持ち主のチャクラで刀身に組み込んだ呪印を活性化させ、チャクラを増幅し死神の右腕をその呪印の中のハレンチ博士A´に憑依させる。

 その後はチャクラによって死神の右腕を操作し対象を掴み、魂を引き摺り出して切断する。

 そうすれば斬られた対象はハレンチ博士の腕の如く焼け爛れた様な症状が表れやがて動かすことも出来なくなる。

 

 加えて大元である"霊剣・飛過刀"の能力も引き継いでいる為、霊体化させ感知不能にする事も依然可能だ。

 残念ながら霊体化していると呪印へのチャクラ供給が出来ず死神の右腕の召喚が出来ず、更には物理的な干渉も起こせない為攻撃の際には封印剣としても通常の刀としても実体化が必要になってしまう欠点はあるが、それを補って余りあるスペックを誇る名刀だ。

 

 ちなみにあまり纏めたくない項目だが、いつかは各方面に謝罪すべきだから纏めておこう。

 まず死神を素材とする為何かと迷惑を掛けてしまった木ノ葉の方々。

 実は死神を憑依させた時点で死ぬか否かも試す対象にしていた香燐さん。

 そして現在進行形で死神を憑依させる依代と分裂体を使わせて頂いているハレンチ博士。

 …他にもいる気はするが思い出していたらキリがない気がしてくる、主なところはこのくらいだろう。

 

 正直どう謝ったものか分からない、いっそ墓まで持って行こうという良からぬ考えが頭を過ぎる為この場は深く考えず目の前の事柄に集中しよう。

 

 直立姿勢が故か三尾以上に巨大に思える怪物、八尾は魂の一部を引き剥がされた事で悲鳴を上げ…ながらも残された七つの足を全身に巻き付けていた。これは防御姿勢…ではなさそうだ。

 

「ッ! お前達、すぐに離れろ!」

「ウオオオオオ──ーッ!」

 

 巻き付けていた足を一気に振り払い、規格外の衝撃波と足元から巻き上げられた水が激流となって襲ってくる。

 幸い水遁系であるが故に問題ないが香燐さんや重吾さんは大丈夫かと自身を飲み込む荒波に抗いながら周囲を見渡すと水化の術で水と同化した水月が体内に2人を格納しているのが見える。

 

 あれなら流され続ける心配はないが当然呼吸はままならない、安全が確認が出来次第すぐにでも解放した方が良いだろうが八尾は…

 

「──逃がしたか…激流で視界を塞いだ瞬間に尾獣化を解き、水の流れを利用して逃げた様だ」

 

 一早く水面に立った角都さんの言う通り、周囲に私達以外の人影は一つもない。

 あの巨大な尾獣の姿は勿論、それを宿した人の姿もない…ただここから少し離れた位置から徐々に遠くへ向かう刀の気配がある…恐らくそれだろう。

 

「この刀の異質さを見て逃げの一手に切り替えたな…思った以上に冷静な奴だ」

「魂を引き抜く際にも多少抵抗していたようでしたね。"魂の綱引き"に慣れを感じました──あ、それより3人とも無事?」

「まぁ、何とかね。…そっちこそ、霧隠れの追い忍共相手した癖に随分元気そうだね」

「ゲホッ…そんなことよりも、早くアイツを追わねぇと!」

 

 互いに目立った負傷がないことに安堵し合う内に水の中から解放された香燐さんが口から水を吐き出しながら必死にチャクラを感じる方向を指差しながら叫ぶ。

 その鬼気迫る表情からは焦燥感を強く感じさせるが──

 

「香燐さん、サスケ君は大丈夫です」

「…え?」

「とりあえずこの場を離れましょう…戦闘が激しくていつ人が来てもおかしくない」

「…盗み癖が悪化したせいかそういう判断は利く様になったよね君、いよいよ泥棒が板についてきたんじゃない?」

 

 水月は後で怒ろう、何か首斬り包丁に亀裂入れられているし…。

 

「角都さん、ここに浮かんでいる八尾の魂の一部を回収しておきます。鞘をこの魂に向けて下さい」

「こうか? …鞘に魂が吸い込まれた、これが封印か?」

「はい、死神に食べさせる代わりの封印手段です。当初は死神の腕を斬り落とした後に封印手段として何とか首も落とす方法を考えていたんですが、クシナダを造っている際にサソリさんから制御パーツに使う傀儡から要らなくなったと言って吸引と封印術の仕込みを頂けたのでこっちの方が何かと都合が良かったのでそちらに変更して造っておいたんです」

「なるほど…しかしサソリが余りとはいえそんな物を寄こすとは随分と気に入られたものだな…」

「待てコラ、元は首を落とすつもりだったってお前その仕込み貰えてなかったらウチどうするつもりだったんだオイ?」

 

 会話の雲行きが雲隠れの領域だけに怪しくなってきた…水月への申し立てなんてしたらむしろ私も多方面から申し立てされそうだ、余計な事はしないでおこうと決意しながら崩壊した雷雲峡を後にするのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 水月達が八尾と戦っていた場から幾分か離れた場所から戦況を窺っていた二人組の雲隠れの忍は戸惑いに顔を見合わせていた。

 

「キラービー様が逃走を…あいつ等何者なんです?」

「…装束からして暁のメンバーだろう。相当な手練れだとは思うが…それ以上は分からんな、家紋か何かでも確認出来れば違ったんだろうがな」

 

 望遠鏡で見る限りでは彼らを暁の者だということ以外は分からない。

 だがどうやら連中も逃げたビー様を追うつもりはなさそうだ…暁の行動としては不審だが、ビー様の尾獣化に気圧されて撤退を選んだということなのだろうか? 

 

「…連中もまだまだ余力はありそうだな。俺達が出しゃばるよりもすぐに雷影様に報告した方が賢明だ」

「ビー様は逃げられた様ですが、弟が襲撃を受けた以上あの雷影様…黙ってませんね」

「それに早くしないと暁から逃げる建前でビー様がどこに行ってしまうか分からん…急ごう」

 

 本来ならば自分達がビー様に追いついて静止すべきだがあの人がそんな事を聞き入れるはずがない、それに未だ暁の連中は近くにいる、焦って見つかっては恐らく太刀打ちできないだろう、ここは慎重に──

 

「ちょっと待てよ!」

「何です?」

「──何故か今…俺が助かった様な気が」

 

 不思議な感覚に戸惑いを残したまま雲隠れの忍、ジェイは雷影の下へ急ぐのだった。

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