崩落した雷雲峡から幾分か離れた廃墟に身を隠し、一息吐くと同時にここまでの経緯を説明すると香燐さんは漸く安堵できたらしく大きく息を吐いた。
「…じゃあつまり、サスケは無事で大蛇丸様と一緒にいるんだな」
「ハレンチ博士が言うには…ハレンチ博士はサスケ君を器として狙っていたから本当に無事かは分からないけど…仮にそうならわざわざ私に説明する必要なんて無いから多分大丈夫だとは思う」
もしも相手が香燐さん、若しくは木ノ葉の忍達だったらサスケ君の安否を偽るメリットもあるだろうが、私に対してそんなことをしても意味はない…勿論、同じアジトで過ごして私の作品も使ってくれている人だから無事であるならそれが一番だとは思うが。
「…ってことはあのマダラが言った事は全くの嘘ってわけね。ボクらをタダ働きさせて最後にはお払い箱にする気だったって訳だ…気に入らないね」
「タダ働きどころか、八尾の力量を見るに俺達を捨て石にして雲隠れを刺激するのが目的だった様に俺は感じるな」
憤慨する水月に対して冷静に推測を口にする重吾さんも少なからず不快感はあるのだろう、当然ではあるが穏やかな心境とは言えないようだ。
「…つくづく、俺の知るマダラとは違和感があるな」
「あぁ、ハレンチ博士もその様な事を…トビさんの事を本物のうちはマダラであることを疑っているようでした」
壁に背を付けて、記憶を反芻しながら呟いた角都さんの言葉にハレンチ博士との会話を思い出す。
「俺が知るマダラは苛烈な男だった。力を以て敵を平伏させ従える…思慮に欠けているのではなくただそれが出来るだけの力があった…千手柱間を除いてな。柱間に敗れ力を失ったとしてもお前達の様な連中を欺いて利用する様な回りくどい手段を取る様なことをするとは思えん」
在りし日のうちはマダラという人物を知る角都さんがそうまでいうのならば、いよいよあのトビさんの正体がうちはマダラであるという事自体が疑わしいものになってくる。
ただそれならばトビさんは何故うちはマダラの名を騙る?
自らの正体を偽りたいのであればそんな大物人物の名を敢えて選ぶ必要なんてないはずだ、うちはマダラの名でなければ出来ない何かを企んでいるのは確実か…。
「皆、これからどうする? ハレンチ博士とサスケ君は何か目的があるらしく暫くは身を隠しつつ行動するといっていたから今から合流するのは難しいと思うけど」
「な!? お前大蛇丸様の行動予定聞いてねぇのかよ! それじゃサスケと合流出来ねぇじゃねぇか」
「てかアイツ今何してんの? うちはイタチを倒したんなら何だってまだ大蛇丸なんかと一緒にいるわけ?」
それは全くの謎だ、ハレンチ博士との会話から鑑みるに何かしらあったことは間違いないのだろうが…
「サスケの事も気になるが…当面は俺達自身について考えた方が良いだろう。大蛇丸とすぐに合流が出来ないなら次にマダラが接触して来る前に行動を決めておいた方がいい」
一理ある。
重吾さんの言う通り、やはり今は私達自身の安全の確保が優先だろう。
幸い八尾の一部は確保できた、これを前払いとして渡して八尾狩りを続行するといえば有益性を示せはするか…一部しか回収出来ないのなら力不足だと言われる可能性だってある。
ハレンチ博士の力を得られたならば心強かったのだがそれも出来ないのなら念の為の手は必要か…。
「…ふん、要らぬ心配だな。お前達を助ける様に言ったのは暁のリーダーだ。マダラの名を騙るあの男とリーダーの力関係は知らんが、リーダーがお前達を受け入れるつもりである以上今回の八尾確保の命令の様に遠回しでやるしかないだろう」
「でも話を聞くかぎりアンタらのリーダーと偽マダラだと偽マダラの方が立場上っぽいじゃん?」
「だとしてもだ。何のつもりかは知らんが正体を偽りたい者が己の隠れ蓑にしている組織とそこのリーダーとなっている相手に末端の処分如きで表立って対立することはしまい。既に暁は多くの尾獣を狩って目的は達成間近であるが、それ故に敵も増え始めた…今更組織内での揉め事など奴にも起こせん、お前達が裏切る素振りでも見せない限りはな」
「…なるほど」
角都さんの言葉は確かにその通りだと思えた。
各里に存在した人柱力、その9人中7人を狩り、今回雲隠れに手を出したことで少なくとも私が知る限りでも砂隠れと雲隠れを刺激、そして木ノ葉隠れも暁の情報を集めていた。
確かに一つの組織が敵に回すには大き過ぎる勢力だ、そんな中でトビさんが暁という組織を崩壊させるような真似は──
「…待って? 雲隠れと砂隠れ、そして木ノ葉隠れと敵対? …私そこに霧隠れも加わる…」
「知らないよ急になに!?」
1つの組織が敵に回すには大き過ぎるだと言ったが、1人の身でそれ以上に敵を増やしているんだが何で私はこんな事になっているんだ?
「…何だかよく分からないけれど私とトビさんの状況は同じということか、お互い思う様にはいかない」
「よく分からないのはこっちのセリフだけどボクがトビって奴なら君に同類扱いされることは非常に不服だと思うだろうね」
「で、結局どうすんだよこれから?」
「とりあえず私の今の鍛冶場に戻ろうと思う。八尾確保を続けるにしてもアレの相手は今のままだと難しい…角都さんの"魂刀・屍鬼切"もどうやら魂の引っ張り合いに慣れている様だったし相性が悪い…といっても手傷は与えて、それもこの鞘に納めた魂を取り戻さない限りは決して癒えない。あとはサソリさんの協力も得てクシナダも動かせば多分大丈夫」
「あくまで八尾狩りは続けるつもりなのか?」
重吾さんの問いに小さく頷き肯定する。
確かにサスケ君の人質は嘘だった上に私達を使い潰すつもりだったと思われるトビさんに対して協力する義理は全く無い、だが尾獣狩りはリーダーさんの目的でもある。
少なくとも、そちらの方には個人的に協力したいとは思っていたことだ、それでトビさんを裏切るつもりが無いとアピール出来るのならば好都合だ。
「──でも、勿論それは私個人の考え。水月達は自由だけど」
「俺は何があろうともお前とサスケに協力するつもりだ…今はサスケとの合流は難しい様だが、お前と大蛇丸の会話の通りならまた会うつもりはあるそうだからな、一緒にいた方が合流の機会もあるだろう」
「…じゃ、じゃあしょうがねぇな、ウチも早く合流してぇし…ッ! も、勿論大蛇丸様とだぞ! 勘違いすんなよコラ!」
「誰も何も言ってないし、ちょっと前にもう口滑らしてたっての…はぁ、正直嫌だけど新生七人衆の忍刀に加えるつもりのクシナダってのが実際に戦ってるとこまだ見れてないし、次に大蛇丸と合流すれば十拳剣ってのも貰えるらしいし…あーもう、絶対後悔するんだろうなぁ…」
何やら水月だけブツブツと呟き歯切れが悪いが3人共同行してくれるらしい。
良かった、八尾確保に向かった時から然程日は経っていないがあの時は嘘ではあったがサスケ君の人質という事情もあったが故のものだったが今度はそういったものも無い、本当の意味で漸く元通りになれた気がした。
「あ! いけない、忘れるところだった、水月…ん」
ふとある事を思い出して水月の前まで寄って両腕を斜め下に広げる。
「一応聞いておくけど何のつもり? …何か前にもあった気がするけど」
「首斬り包丁傷入ってたから…ばっちこい」
「ばっちこいじゃないっての! ホント怖いんだって君のそういうとこ!」
「言っとくがウチはもうぜってーお前だけは治さねぇぞ…」
「そんな…あ、じゃあ角都さんお願いします」
「何が"じゃあ"だ…何なんだお前達は…」
角都さんは何故か…は、まぁ無駄に能力を使わせようとしているのだから当然なのだが呆れた様だった…それにしても、トビさんの行動の予測にしても八尾との戦いにしても彼がいてくれて本当に助かった。
角都さんは勿論、彼に協力を要請して頂いたリーダーさんにも深く感謝しなくては…
リーダーさんは…木ノ葉に向かうと言っていたが、果たして今どうなっているのだろうか。
▼▼▼
村雨がリーダー、ペインの動向を案じた頃、既に事態は大きく動いていた。
6体のペインの内の1人にして中心的個体であるペイン天道は畜生道の口寄せ動物の巨大な鳥に乗り、木ノ葉の里全体を覆う結界より更に上空から火影の塔へと単身降り立った。
突然の侵入者に結界班より報告を受けた多くの忍達が塔の屋上を包囲する中、ペインはそれらを意に介さずただ自らの要求だけを口にする。
「うずまきナルトは何処にいる?」
「人柱力狩りか…まさか暁のリーダーが1人で堂々と里の中心に降ってくるとはね」
「…その写輪眼…コピー忍者のはたけカカシか、会えて光栄だが──少々誤解があるようだな」
自らを包囲する忍達の中で最も自分に近くに位置する…即ち最も自分に対抗出来ると判断されたこの部隊の隊長格であろう忍、はたけカカシに視線を向けるとただ彼の言葉を訂正する。
「誤解だと?」
「少し九尾の人柱力と話をしてみたくなってな」
「…そんな言葉を信じられるとでも?」
「当然の反応だな。だがここに俺が"1人"で来た事はお前達への誠意のつもりだ…自来也からの情報でその意味を理解しているのならそれを酌んでほしいな、お互いの為にもな」
その言葉にはたけカカシが僅かに考える素振りを見せる。
やはりペイン六道の能力は少なからず自来也の蝦蟇経由で割れている様であり、それ故にこちらの行動と互いの立場を理解した様だ。
6体のペインの内たった1人しかいないこちらにとって圧倒的な不利な状況…一方でその気になれば里の外に待機させている残る5体をすぐに集めることも容易であり、そうなってしまえば木ノ葉の優位などすぐに崩壊するだろうということに。
「…分からないな。一体何故ここにきてお前がナルトと話を望む」
「さてな…我ながら気でも狂ったのか。ともあれお前達にそれを説明する義理はない…うずまきナルトをここに呼べ」
「…一介の忍である俺にそれを決める権限はないよ」
「それもそうか、では五代目火影…綱手姫に伝えてくれるか?」
輪廻眼と写輪眼、特異な瞳同士が交差する。
一瞬、しかし長く感じる沈黙の後はたけカカシは意を決して受け応える。
「──五代目様は今手が離せない。日を改めてくれるか?」
「自来也の治療中か? まさか本当に生きて里まで届けられるとはな──しかし、それを待つつもりはない、火影が不在ならば代わりの者がいるはずだろう。例えば相談役辺りか?」
「……分かった、少し待っていろ」
カカシの指示で1人の忍が火影塔の中へ入って行く…が、カカシの反応、何より火影代理が相談役であろうことからして──木ノ葉は答えは決まっているようなものだろう。
火影塔の手摺りに腰掛けて周囲を見渡せば緊張の面持ちで待機する忍達…はたけカカシはどこか達観したかの様な表情だが、どちらにしても彼らも既にこの後に起きる事を理解しているのだろう。
数分後──音も立てず周囲の忍達が一斉にクナイを抜いた。
クナイの一斉投擲より一瞬早く跳躍し宙に上がると火遁を始めとした中、遠距離タイプの様々の術が追撃を仕掛けてくる。明確な徹底抗戦…それが火影代理、相談役の連中の答えだろう。
落胆などはない、我ら暁に尾獣が渡ればどうなるか…それが想像出来ないほど愚かではない、だから相談役の判断も、この攻撃とて当然の事だ。だが、だとしても──
「残念だ」
折角生かしておいた師の命も、何の因果か関わることになった狂人によって引き起こされた気紛れも…今度こそ終わる、それだけがほんの少しだけ惜しく感じるがそれも最早無意味なものだ。
「──"神羅天征"」
数多の忍術、忍具を弾き飛ばすだけに留まらず、自身を包囲する忍の半数近くを周囲の建物諸共薙ぎ払うと、それと同時に待機させていた畜生道が投げ込まれ、口寄せにより残るペイン達を招集する。
「…ここより、世界に痛みを」
▼▼▼
地下に築かれた根のアジト、そこに自身の配下の者を集めたダンゾウは地上から伝わる地響きに鼻を鳴らす。
以前渦柘榴村雨の取り調べを邪魔をし、取り逃がす原因を作ってしまったという理由で綱手により一定期間の謹慎を命じられ監視下に置かれながらも"根"の構成員でありつつ表の部隊に配属されているサイから常に情報は仕入れていた為凡その事態は読めており、そしてそれが自分にとってこの上なく好都合であることで心の内で算段を付け始める。
暁のリーダーの居場所を割り出した自来也は単身雨隠れに乗り込むも、多くの情報と引換えに重傷を負い意識不明となった。
それにより唯一助けられる綱手姫が自身の腹心であるシズネを始め、解析班に暁のリーダー、ペインについて自来也の持ち帰った情報解析を任せ、自来也の治療に集中する様になった。
そしてその間、火影代理として相談役の2人にその他の指示を任せていたそうだが…連中が里を大きく動かせるよりも先に暁の連中が動き里が攻撃され始めた…。
これならば全てが済んだ後には綱手姫には火影たる者が"伝説の三忍"といえど1人の忍にかまけて里の有事に対応出来なかった責任を取らせることが出来る。
そして相談役の連中とて邪魔になるようなら今回の一件を失態として黙らせることが出来る、後は自分と自分の手勢をここで温存しておけば確実に実権を握る事が出来る…。
以前村雨を追い詰め、幻術を掛けようとした後急に意識を失い気が付いた時には片腕を奪われていて、終ぞ最後のチャンスを失ったかと思っていたが、ここにきて火影になる為の道が見えてきたのだと残された片手を強く握る。
その瞬間にカツンカツンと暗闇に染まる通路の奥から何者かの足音がした。
「──誰だ?」
"根"の者達は謹慎を命じられる以前から里外に出ている者とサイを除いて全て招集済み…残る者達がこの非常時に"根"のアジトに帰還する様な不用意をするはずがない。
部下の連中にはこのアジトの場所を容易に明かすぐらいならば己1人死ぬ様に徹底して覚悟させてきた…そして暁の者が入り込んで僅かな時間にこの場所がバレるとも考え難い、足音の主が一体誰なのか見当が付かずに暗闇の奥へと目を凝らすと想像もしない者達がそこにいた。
「貴様…大蛇丸! それに──」
1人は綱手、自来也と共に伝説の三忍と謳われ、かつて"根"にも所属していた大蛇丸。
このアジトに入り込めたのも、暁の連中と違い結界班から何の報告もなかったのも全てこいつの仕業であり、暁襲撃の混乱に乗じて忍び込んできたのだと理解するが、一方で理解出来ずにいたのはもう1人の存在だった。
「うちは…サスケ」
うちは一族の生き残りであり木ノ葉の抜け忍の男。
だがこの男は自身を器に狙う大蛇丸と殺し合いをしたはず…仮に大蛇丸が何らかの手段で復活したとして、この2人が何故今になって結託し自分の前に現れる?
戸惑うこちらを他所に鬼気迫る表情を浮かべるうちはサスケと対照的にどこか呆気に取られた様子の大蛇丸が口を開いた。
「久しぶりねダンゾウ、私としては案内で来ただけなのだけれど…」
訝しむ様にこちらを見つめる大蛇丸、その視線の先は失った右腕。
元々あの腕は大蛇丸の考案した物であるが故にそれを失っている事の異常さに真っ先に気が付いたのだろう…だがそれにしては大蛇丸の表情は非常に歯切れの悪いものだった。
「…あの2つをまとめて入手するなんてもしかしたらと思ったけど…まさかホントにダンゾウから奪ったなんてね、つまり再会の祝いなんて言っておきながら確実に自分用に2つは取っているわね…つくづく可愛げのない子ね」
眉間を軽く抑え、何やら小声で一言二言呟いた大蛇丸はやがて顔を上げ──ゆっくりと背後の部下達へ指差す。
「…さて、悪いけれど貴方達の上司には少しこの子に付き合って貰わないといけないから、下がっていてくれるかしら? ──もしも従わないなら…分かるわね?」
眉間を親指と人差し指で抑え、そこから真っ直ぐに部下達へ指を向けるごく自然な動作…それが大蛇丸の両腕の封印が解けた何よりの証拠だった。
そして、その大蛇丸が視線で指し示すうちはサスケの容貌も徐々に変化する。
基本巴の写輪眼から曼荼羅の様な、通常の写輪眼と異なる異質な模様──万華鏡写輪眼へ。
激しい憎悪を宿したその瞳は今にも視線に映る全てを焼き尽くさんと禍々しく揺らいでいた。
ボツネタ
大蛇丸「(念の為に聞いておくけど)…どんな敵にくれてやったの、その右腕」
ダンゾウ「(忍でもない奴に奪われたなんて言えん)…新しい時代に懸けて来た」
腕が左右逆だし、誤魔化しにしても絶対にダンゾウが言わないセリフなのでやめました(笑)