数日前、悲願であるうちはイタチとの戦いの最中意識を失い、やがて目を覚ました時何もかもが変わってしまった事をうちはサスケは思い出す。
うちはの旧アジトで戦っていたはずが目を覚ました時には薄暗い地下室…そしてそこに居たのは自身が葬り取り込んだはずの大蛇丸。
そして傍に白い布を被せられ安置されていたうちはイタチの亡骸だった。
腕を胴体ごと縛り上げられた自分自身も含めてどういう状況なのか、理解が追い付かなかった。
いや、今にして思えばイタチの亡骸を確認した瞬間からもう既に理解する気さえなかったのかもしれない。
覚えている限りでは奥の手の"麒麟"さえも防がれて追い詰められたはずだが、何であれイタチは死んで望んだ形ではなかったが悲願の復讐は終わってしまった。
「好きにしろ…もう俺の目的も、生きる意味も全て終わった」
だからもう何故か蘇った大蛇丸がこの身体を乗っ取るつもりだとしてもどうでも良いとさえ思っていた。
「いいえ、何も終わってなどいないわ。貴方の復讐も、生きる意味もね…いや、それどころか始まってさえいないとも言える」
だが大蛇丸の言葉は予想したものとはかけ離れたものだった。
「貴方は知らない…といっても無理はないのだけどね。木ノ葉の上層部も私もその方が何かと都合が良かったのだから貴方にだけは知られないよう徹底していたからね…うちはイタチの真実を」
それから語られたのは16年前の九尾の妖狐襲来から始まったうちは一族と木ノ葉の里の確執。
うちは一族のクーデター計画…そしてイタチに下されたうちは一族抹殺の命令。
己の一族を皆殺しにするという非情の任務、それをイタチは里の為…そして何も知らない弟である自分を守る為に引き受けたのだということを。
そんな話、到底信じられるはずがなかった。
目の前で両親を殺され、何度も殺されかけた…何よりそれを語るのが大蛇丸だということ…全てが信じるに値しない。
──それなのに、あの夜の日に見たイタチの涙を思い出す。
目の前で覚めぬ眠りついたイタチの穏やかな──まるで全てをやり遂げたかの様な笑みが強く訴えてくる──大蛇丸の語った事が真実なのだと。
「…嘘だ…嘘だ…」
脳が理解した事を必死に拒絶する。
記憶の中で蘇る優しかったかつての兄の姿を振り払おうとしても無くならなず、呼吸さえも荒くなっていく──しかしそんな中でさえ両眼が熱くなっているのを感じる。
俺の写輪眼が変わろうとしている…それがどういう意味なのか──はっきりと分かってしまうのを首を振って振り払う。
「大蛇丸! お前が言っている事は何もかもが信用できない! それが本当の事だとどうやって証明できる!?」
「証拠なんてないわ。もっともたとえ私がどの様な証拠を提示しようと他でもないアナタがそれを信じようとしないもの」
「くっ…」
「──けれど、証拠に迫る道は教えてあげる…道案内も含めてね。うちはイタチの真実に最も近い存在…ダンゾウの下にね、そこでアナタ自身が自分が信じたいものを導き出せば良い」
──既に答えはその眼に出ているようだけれどね。
最後にそう付け加えた大蛇丸はかつて自分の身体を狙っていた頃とどこか雰囲気が変わっていた様だが──そんな事を気に留める余裕さえなかった。
ただ、その時から懐疑心を抱きながらも大蛇丸との行動が始まり──今に至った。
目の前の忌々し気にこちらを睨む隻腕の老人──"根"の首魁ダンゾウ。
イタチに一族抹殺の命令を出したとされる男がそこにいた。
「…一応礼は言っておく、大蛇丸。今更だが…何故アンタは俺にこんなことを?」
「少々、新しい生き方というのを私も考えてみたりしていてね。風車も時には素直に風に当てて回すのではなく指で無理やり動かしてみたくなるでしょう、狂った様にね」
言葉の意味は分からない、何なら今までのこの男の凶行を本人は狂っていないと認識している事に不快感さえ覚えるが今はもう良い。
そんなことよりも確かめるべき真実が、それを知る者が目の前にいることが全てだった。
「──ダンゾウ、アンタに問う。アンタを含む木ノ葉上層部がイタチにうちは一族の抹殺を命令したというのは本当か?」
ダンゾウの背後に控えた部下の連中がざわつく中ダンゾウは一瞬大蛇丸へ視線を向け、すぐにこちらへ向き直る。
「…それはイタチが言ったのか? 大蛇丸の吹き込みか?」
「大蛇丸の吹き込みだ…だが俺はこの男を信じているわけではない──だからこそアンタに直接問うているんだ」
当の大蛇丸は「つれないわね」などとボヤいている様だがどうでも良い、肝心のダンゾウは考え込む素振りを見せてやがて口を開く。
「自己犠牲…それが忍の本来の姿だ。決して日が当たらぬ影の功労者…それはイタチだけではない、多くの忍がそうやって死んでいったのだ」
「つまりそれは──本当だったと言うことか!」
「綺麗事だけで回らん、全ては木ノ葉の平和を守る為──イタチの真実を知ったのならばうちはの企てていた愚行も知っているはずだ!」
「…黙れ」
うちはの企てたクーデター…それも本当なのだとしたらこの男の言い分にも筋はある──だが…
「平和を守る為だと…今まさに木ノ葉の里が襲われている中、こんな場所に隠れている貴様がそんな綺麗事を口にするな!」
うちはのクーデター…それによって起こるであろう他里の侵略、それらから平和を守る為にイタチに一族を抹殺させたのならば何故今木ノ葉が受けている侵攻に対して逃げ隠れる。
こんな男がうちは一族の抹殺を決めたのか? イタチに一族の抹殺を強要したのか? 腹の内側から激しい憎しみが沸き上がりこの男の首を今すぐにでも跳ね飛ばそうとするのを必死に堪える。
「自分の命が惜しいわけではない。だが、木ノ葉を…この忍の世を変える為万が一にもワシはこんなところでは死ねん…ワシはこの忍の世を変える唯一の変革者となる者」
「もういい、お前の言葉は何一つ信用出来ない…死ね!」
写輪眼にチャクラを集中した瞬間に配下の連中がダンゾウを守るべく割って入ってくる──この連中も、ダンゾウの世迷言を本気で信じ変革者とやらに本当になるとでも思っているのか?
木ノ葉を守るなどと言う名目でイタチに非情な任務を課してなお、今木ノ葉を見捨てるような男を守るというのなら──この連中も俺の敵だ!
「──"天照"!!」
もはや迷いはなくなった。
イタチの死によって目覚めた新たな瞳力をとめどない憎しみのままに解放する。
▼▼▼
チャクラの大半を使い果たし疲労困憊になりながらもカカシは周囲を見渡す。
ペインを包囲した仲間の多くが倒れ、意識不明…あるいは絶命、里内にはペインの1人が口寄せした巨大な口寄せ動物が何体も放たれ、爆発物を放つペインによってあちこちで火の手すら上がり出している…これでは民間人にすら被害が出始めているはずだ。
「──ヤマト、お前は里内に放たれた口寄せ動物を縛り上げろ。攻撃しても強くなる奴がいる以上お前の木遁で捕える方が被害の拡大を防げるはずだ」
「しかし先輩、ボクがここを離れたら尚更戦力が…いえ、分かりました…」
傍らに控えるここまで自分と共にこの戦場を維持していたヤマトに指示を出すと一瞬戸惑いを見せるもすぐに理解した。
状況は最悪…一度はチャクラの吸収やあらゆる攻撃を弾く2体のペインの隙を付いて特に被害を拡散する口寄せとカラクリの2体のペインを倒すことには成功したが、それまで攻撃に参加しなかった大男タイプのペインによって復活され、犠牲のみを残しふりだしに戻された。
幸い何体かのペインの能力はある程度割れたがもはやその情報を基に戦うだけの戦力がない。
既に倒すのではなく被害を最小限に抑えることを考えなくてならない程に手詰まりだ…。
ならば特に長くペインと戦い続け、その能力の直接目にした自分かヤマトのどちらかはここを離れ、戦えない者達を襲う口寄せ動物を抑えつつ態勢を立て直すまで生き残るべきだ。
例えば任務で里から離れているガイ班、そして今もなお修行を続けるナルト…彼らと合流し、ここまでのペインの能力の情報を基に対策を練ればまだ勝機はある。
「──そうはいかん。お前達2人は特に生き残られると厄介だ…ここで確実に葬らせてもらう」
「く…」
しかしこちらの判断を見てか、周囲を3体のペインに囲まれる。
どうやっても逃がす気はないということか…ならば残されたチャクラで何とか生き返らせるペインだけでも神威で仕留めて──
「そこまでだ!!」
死を覚悟しチャクラを溜めた瞬間に、鋭い警告が響く。
「──綱手様、何故ここに…自来也様は」
「テンゾウ!」
警告の主、綱手様の姿に驚いたヤマトが口にしかけた言葉を思わず彼のかつての名を呼んで慌てて制する。
今の木ノ葉の非常事態、その最中に綱手様がこの場に現れたこと…綱手様が火影様として、そして自来也様の同志として望まぬ決断を下したのは明らかだ。
何度も何度も突き付けられる自身の不甲斐なさを悔やみながら目の前で視線を交わす2人の動向を見守る。
本命とは違うが、目的の人物が現れた事で手を止めたペインを見て綱手様はすぐさま口寄せを行い、カツユを里中に走らせた。
「…先程までのお前への攻撃は私の代行の指示だ。だがもう話は着けてきた、ナルトはすぐにやってくる。だからこれ以上は何もするな」
「な、綱手様、それではナルトが!?」
自分達同様に動向を見守っていた忍の1人が綱手様の発言に驚愕する。
圧倒的な力量のペイン…こいつらの前にナルトを出すことは危険であることは明白、それでも──
「漸くその気になったか。やはり、痛みを伴わねば人は理解が出来ない──」
「おい、言っておくが──ナルトは強いぞ」
──それでも、綱手様はそれ以上にナルトを信じている、圧倒的なペインの力量に、痛みなどに臆してなどいないからこそ、躊躇いなくナルトをここに呼べる。
そしてそれは俺も同じことだ。
綱手様の判断に満足したのか近くの瓦礫に腰掛けるペインの様子からして、ナルトと話をしにきたということは本当なのかもしれないが、真意は分からない。
それに話をすることが目的だとしても話をして終わりになることは恐らくない。
ならばこの隙に少しでも体力の回復とチャクラを練り上げる…ナルトを信じているからこそ、あいつがここに来た後に自分が出来ること全うする為の準備を──
木ノ葉上空に口寄せされた巨大蝦蟇3体と共にうずまきナルトが帰還したのはその暫く後だった。
▼▼▼
うずまきナルトが木ノ葉に帰還を果たした時と同じくして、渦柘榴村雨も自身の鍛冶場に帰還を果たしていた。
雲隠れの領域から村雨に与えられた鍛冶場までは本来かなりの距離があるが、国中に点在する暁のアジトには一部のアジト間で移動する為のマーキングが存在しており、村雨の鍛冶場は与えたばかりの頃から万が一裏切っていた時の為に即座に捕縛に向かえる様にどのアジトからでもその付近の竹林の中に飛べるようになっていた。
偽雨、そして再び村雨と合流し、色々な情報を知ってからは信用性は皆無だが、一応は裏切る意志はないという訳で最早必要のない仕掛けではあるがどういう訳か茶屋としても兼用している村雨の鍛冶場を有効活用という訳で残していたのだった。
──当然、村雨本人はそんな事情も知らず、元々所属して大蛇丸のアジトでも一定期間で各アジトを移動していたということもあって疑いもなく、角都の案内のままに移動を終え、今回の長期任務を完了したのだった。
「ただいま戻りました」
荷物を縁側に降ろしながらいつもの如く庭で傀儡の整備をしているサソリさんに声を掛ける──それにしても…サソリさんの傀儡整備も最早見慣れた光景ながら相変わらずそのストイックさには感服するばかりだ。
「お前達か、思ったより早かったな…八尾は?」
「逃げられました、一部は回収したので先にそれだけ渡してもう一度…と、思っていたのですがトビさんは不在ですか?」
「お前達と別れたあとどこかに行ったようだ、行き先は知らんがな──てっきりお前達の監視でもしているのかと思っていたが」
「少なくとも向こうからの接触はなかったですね。…まぁおでかけ中なら仕方ないですね」
それなら今すぐ再出撃しても良いかもしれないが、今頃雲隠れは警戒態勢を強めたはず…危険を冒して再度雲隠れに向かうならその前に回収出来た分は引き渡しておいた方が良いだろう。それに──
「水月達もサスケ君と行動してからずっと移動と戦闘続きだったでしょう、お茶淹れるから適当に休んでいて」
「気遣いありがとう…でもね──この意味不明な光景全ッ然落ち着かないんだけど!?」
意味不明な光景とは?
竹林を切り拓いて造られた静かな空間。
訪れた人が気兼ねなく入れる様に"茶屋・刀架"と大きな看板に飾られた鍛冶場兼茶屋となっている趣のある屋敷。
鯉や亀が住む生命溢れる池。
屋敷の傍に安置されながらも荘厳な存在感を放つクシナダ。
「…どこが駄目?」
「確実に君が関わったぽい2つかな!?」
「まぁ住めば都とも言うし慣れれば気にならないと思う…暁の皆さんからもご愛好頂けたし間違いない」
「嘘でしょアンタらここ使ってんの!?」
「──気が付けば不思議とな。…味は少し落ちたが」
皆さんの好みに合わせるというのも案外難しいものだ。
一応は気を付けているつもりなのだが…まぁ良い、とりあえず適当な茶菓子と一緒にお茶を運び全員に行き渡らした、一先ずはこれで私の仕事も終わり…後はトビさんかリーダーさんからの連絡が届けば八尾の一部を引き渡してその後は──
その後は彼らの判断を聞きつつ考えるとしよう。
八尾の力は三尾を大きく超えていた…再度挑むとなるとやはりクシナダを動かしたりしたいところだがその辺りのことも彼らの判断を仰ぎたい。
なんであれ、彼らの連絡待ちだ。
ならば久しぶりの余暇を過ごさせて頂くとしよう…水月達は一息着いたことでやはりここまでの疲弊が出てきた様子だし休ませて上げた方が良いだろうし…何より帰還直後にサソリさんの作業の様子を見てからというもの落ち着かない。
私も私で暫く移動続きで作業が出来なかったものだから…そろそろ限界だ。
水月達の休息の為に静かにしてあげたいところだがこればかりは諦めてもらおう──さて。
日数としてはそれほどではないのだろうがそれでも久方振りに感じる鉄と灰に満ちた鍛冶場の空気を吸い込んで仙術チャクラを練り込んでいく。
研ぎ澄まされていく感知能力でハレンチ博士のアジトから持ち帰ったままの素材の山の中からいくつかの素材を選び取る。
「久しぶりに刀造りを始めよう」