霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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あの日の取引

 それは自分がこうして蘇った日の事…即ちサスケ君と彼が苛烈な戦いを繰り広げた時の事だ。

 彼の幻術に敢えて掛かりその幻術にて取引を持ち掛けた。──そうする事であの戦いをずっと監視していたゼツの目を欺いた。

 

 故にこの取引だけは誰も知らない事だった。

 

『──という訳で、ここで死ぬアナタに代わり、私がサスケ君を暁から遠ざけてあげる。それはアナタにとって悪い話ではないでしょう…現に今もゼツはアナタとサスケ君の戦いを監視し続けているのだから』

『…かつてはダンゾウの部下だったお前だ。俺の事を知っていてもおかしくはないと思っていたがそんな取引を持ち掛けてくるとはな大蛇丸…取引の目的はなんだ?』

 

 元々はサスケ君を器とし転生を目論んでいた私がどういうつもりなのか…つまりは何かしらの目的が他にあることは明白であると、疑いながらも話を進めるその聡明さに舌を巻いたものだ。

 

『──私の目的はアナタの持つ"十拳剣"、それがあれば何かと楽しい事が起きそうだからね…だから、その刀を貰えるのなら代わりにサスケ君の安全を約束するわ』

『…渦柘榴 村雨か、まさかお前の腕が戻ったのは──そういう事か』

『不思議なものね…サスケ君が手に入るまでの暇潰しの存在が今やそれと同等の楽しみになっている。それもアレが今度はどんなやり方で楽しませてくれるのか…なんて、この世の全てを自らの中に蓄積し更なる完全な自分へ向かい生まれ変わってゆく今までの生き方にはなかった感覚でね』

 

 彼女は彼女で優れた才能の持ち主で、彼女が今まで培ってきた知識も技術も取り込んでしまう手段はいくらでもある。しかし取り込んでしまえばそこから生まれるのは"彼女を取り込んだ私の発想"でしかない。

 それは少し勿体ない、少なくとも今自分が楽しみたいものとは別のものになるのだと語った。

 

 …後に判明することだが、案の定彼女は写輪眼を8つもお土産として寄越してくるという奇行をやってのけた…色んな意味であれを取り込むのはやめようと思える出来事だった。

 ともあれ、その主張も相まって彼の信頼を得ることは出来た。

 何分、彼の嘘を見抜く真の意味での瞳力は右に出る者はいない…こちらが嘘を吐かない限りはこの手の交渉で誤解が生じることはない…まぁ本人も嘘を吐いている自覚のないまま話が進んだ場合は知らないがそれは置いておこう。

 

『幻術が解かれたら私はそのまま精神にダメージを受けたフリをして黒炎に触れるわ──勿論、完全に焼かれる前に変わり身とすり替えてゼツの目を欺く──奴が組織の連中に報告へ立ち去ったらサスケ君を回収する、でもその前にもう一つ、アナタに言っておくことがある』

『何だ?』

『サスケ君にはアナタの真実を全て話すわ』

『ッ!? それは…それも条件か?』

 

 彼の問いかけに頷いてはっきりと肯定を示す。

 サスケ君を器としない以上、彼が真実を知らないままというのは面白みに欠ける──彼もまた私と違う生き方を見せてくれるかもしれない、そんな予感をさせる存在なのだから。

 

『恐らくサスケ君が真実を知ればアナタの意志を継いで木ノ葉を守るか、それともその反対でアナタを苦しめた木ノ葉に復讐を臨むか…それは分からないけれど念の為にカカシが仕掛けた封邪法印を書き直しアナタのチャクラをそこに組み込む。彼が呪印状態2になろうとした時、彼の意識の中にアナタが出てくる様に細工をしてね──それでどうかしらイタチ?』

 

 彼は黙考するがやがてゆっくりと口を開いた。

 

『分かった──ただし、お前のその条件を呑む以上俺の方ももう一つ条件を出させてもらおう』

『ククッ、私はアナタの得になることをしてあげているつもりなのだけどね…まぁ良いわ、どれでどんな要求かしら?』

『…サスケの選択がどうであれお前とお前の配下の者は木ノ葉に手を出すな、それが条件だ』

 

 その要求は少し、予想外のものだった。

 

『本当にそれで良いのかしら?』

『俺はここでサスケに殺されることで新たな力を与え、英雄として木ノ葉に帰るだけの功績を与え、そしてお前をサスケに刻まれた呪印と共に切り離し封印するつもりだった、だが今はこうしてお前と取引を結んでいる、それはつまり俺の目論見は失敗したということだ』

 

 まぁ、それに関しては私自身も予想なんて出来なかった事だ。

 改めて随分と大きな異物が混入してしまったものだと密かにため息を吐く。

 

『今になって実感した、俺は俺1人の力を過信し全てを1人で成そうとして肝心のサスケ自身を信じてやれなかった…だから今度こそちゃんと向き合う。それに俺の様な嘘つきよりも確かな友があいつにはいる事が分かった、これ以上はもう必要ない』

 

 憑き物が落ちた様な──年相応というにはまだまだ不釣り合いではあるが穏やかな笑みを一瞬浮かべ、すぐさま鋭利な視線がこちらに向いた。

 

『だから後は木ノ葉のうちはイタチとしてお前とその仲間が里に余計な事をしない様にしておくだけだ──あの狂人が十拳剣を手にしたら何をしでかすか分からないからな』

『私としてはそれこそ期待することなのだけど…まぁ良いわ、アレが口約束を守るかは分からないけれどその要求を吞みましょう』

 

 

 こうして私とイタチの取引は成立した。

 

 

 その後は幻術を解かれた後に掛かり続けるフリをして八岐の術で造った巨大蛇の身体を倒し黒炎に触れさせ燃やした…そして黒炎が私本人にまで回って来る直前に変わり身とすり替わることで死を偽装した。

 その場に残った意識を失ったサスケ君と、勝利を目前に力尽きた様を装った彼──イタチの姿を見たゼツが目論見通りその場を立ち去ったのを確認し、全ての手を打った。

 

 やがて意識を取り戻したサスケ君には──私なりには中立の視点で語ったつもりだが、その成果は果たしてあったのか、憎しみを宿しながらも木ノ葉への攻撃の前に全ての首謀者であるダンゾウの下へと赴いた。

 

 

 

 計算外だったのは折角昔提供してあげた柱間細胞で作成した片腕をダンゾウがあのバカ娘によって奪われていたことだった。

 おかげでイザナギが使えない状態に陥れられていた以上仕方ないといえば仕方ないが、サスケ君が呪印を使うよりも先に再発動まで十年近くの時間を要する"別天神"を使ってしまうことになるとは──

 

「自分を火影に伸し上げる為の手段をこんなところで使うなんてね…文字通り手が無い様ねダンゾウ」

「黙れ大蛇丸、今地上では暁のリーダーが里を襲撃している…最早綱手姫の時代も僅かなものよ…"別天神"がなかろうと火影の座を手にする手段はいくらでもある」

「どうだかな、お前の手駒は俺が全て焼き尽くした、自分の息の掛かった連中を失ったお前を支持する連中が木ノ葉にいるのか?」

 

 追い詰められ、とっておきを使わされたことは明白だというのに相変わらず尊大な物言いに呆れていると、同様にサスケ君もくだらない世迷言を一蹴する様につまらなさそうに呟いた。

 

 ──それは幻術に掛けられた素振りのない実に自然な、まるで術が失敗だったかの様な光景だ。

 しかしダンゾウはニヤリと口角を吊り上げた。当然だ、ついさっきまでダンゾウを仕留めんとしていたサスケ君が攻撃の手を止めて会話に参加しているのだから。

 

「──心配はいらん、丁度今新たな手駒が手に入ったところだ」

「どういうことだ? いや、そんなことよりその右目の写輪眼は一体どうした?」

「これか? …そうだな、教えてやっても構わんが、その代わりに奴を始末しろ」

 

 ダンゾウの視線がこちらに向く。

 その視線に促される様にサスケ君の視線も動く。

 

 "別天神"

 幻術を掛けられた本人がそれを認識することさえ出来ない究極の幻術だ。

 その特性上幻術に強い耐性を持つ写輪眼を持つ者でさえ幻術を解く解かない、或いは耐えられるか否かという問題ですらない。

 

 アレを掛けられた以上サスケ君は完全にダンゾウの操り人形だ。

 だが、それならそれでやり様はある。

 

「──残念ねサスケ君、アナタにまた刃を向けられるなんてね」

「随分余裕だな大蛇丸、また復活の段取りでも組んでいるのか?」

「クク、あの時と違って今は両腕があるからね…今のアナタと本気でやり合うのもそれはそれで楽しそうじゃない? ──だから本気で来なさい」

「ふん、後悔するなよ」

 

 その言葉と共にサスケ君の左肩から全身へ黒い紋様が広がっていく。

 

 相応のリスクはあるが本人の力を10倍近く跳ね上げる本気の形態"呪印状態2"。

 こちらの誘いに応じその呪印化を行うつもりなのだろうが──それがこちらの狙いだ、いやむしろ結果としてより良い状況になった。

 一度使えば十年間は使えない"別天神"を使わせた上で"サスケ君が呪印状態2になろうとする"という封印術に仕組んだ細工が発動する条件を満たした。

 

 

 

 ──あとは、彼ら兄弟達が自分達でどの様な結論を出すのか…一応臨戦態勢を装おうとした瞬間、それよりも早くサスケ君の千鳥刀が万華鏡から通常の巴型の写輪眼に戻ったダンゾウの右目を貫いた。

 

 幻術を解く為の手段の一つ、それは別の幻術で上書きすること。

 即ち呪印解放によってサスケ君の精神空間に出現したイタチによって"別天神"は上書きされたということだ。

 そしてそれは同時に精神空間にてサスケ君は他でもないイタチ自身の口から真実を語られたということに他ならない。

 

 双眸から涙を流しながらも強い力を宿したその瞳には闇と光、果たしてどちらが色濃く見えているのか──この先もとくと見せてもらうとしましょう。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 木ノ葉の里で繰り広げられる2つの戦いの内の1つが終結へと向かい出した時、同じくしてそれは完成した。

 

 

 

「出来ました、ツルギ・ミスミさんの能力を転用し従来の伸縮する能力を持った刀に更に屈曲能力を持たせ長さ、角度を自在に変化する変幻自在の刀──その名も"ツルギの剣"」

「なんだと! そんな物が…貸せ!」

「どうぞ!!」

 

 この刀の素晴らしさを即座に理解し、慌てた様子のサソリさんに二つ返事で手渡しする。

 いやはや…造り出す子達は皆自信作であるし、その性能を理解して頂ける様に解説や実演なども妥協はしないことを信条にしているがそれでもこうして即座に称賛して頂けることは何よりも嬉しい物だ。

 

 造って良かったと心が温かくなる至福の瞬間。

 素材を提供してくれたツルギさん並びにハレンチ博士、素材を活かし最高の品質で造り上げる自分の腕、強く美しく完璧な状態で生まれてきてくれた刀…ひいてはそれら全てを包括する世界そのものに感謝を──

 

 さて、サソリさんは一体どの様な傀儡にこの"ツルギの剣"を搭載するおつもりで──

 

「この傀儡の腕の分離をもっとスムーズにする為に内側部分にもう少し掘り込みを入れたくてな…他にもいくつか調整したい作品がある…暫く借りるぞ」

「工具!?」

 

 扱いが完全に工具のそれだ。

 便利だと思って頂けるのは有難いが違うんだ、その子の用途はそうじゃないんだ…。

 

 手際良く傀儡人形を次々と調整していくサソリさんの技術は相変わらず素晴らしいものだ、いつもは眺めているだけで心が弾むのだが不思議と今は微塵もそんな気分にならない。

 何もかもに、それこそ世界に裏切られた様な気持ちになりながらも必死に首を振って悪い感情を振り払う。

 

 そうだ、"ツルギの剣"は作成者である私でさえ思い至らなかった更なる運用方法が発見されただけだ。

 優れた点が見つかることはなんら悲しいことではない、刀としてだけでなく工具としても優秀と評価され重宝されるならば素直にその事実に胸を張ろう。

 

 双眸から涙を流しながらも強い力を宿したその瞳で前を向く。

 次の作品はもっと凄い作品で正統な評価を勝ち取ってみせる、そんな決意を胸に三尾の甲殻の一部と左近さんの細胞を作業台の上に叩き付けるのだった。




一ヶ月ぶりの更新が前話だと流石にマズいと2話連続投稿、なおそのせいで3日程遅れた模様。
…本末転倒だな。
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