「ぐお…おおぉおおおッ!? ば、ばかな…別天神を自力で解くなど不可能なはず…」
地面に蹲り、潰れた右眼を抑えながら内心の狼狽えを露わにするダンゾウを見てサスケ君とダンゾウ、両者の戦いの決着を確信する。
もっとも死を直前にした兄、イタチから万全の根回しをされていたサスケ君と戦う前から全ての戦術を潰されていたダンゾウとでは結果は目に見えてはいたのだが。
本来ダンゾウが主戦術とするはずだったイザナギは村雨に、切り札の別天神はイタチにそれぞれ事前に封じられていたという事実には少々同情さえも湧くが、かつてうちは一族を戦いの前に葬った男がこの末路を迎えるというのもまた因果というやつかしらとある種の運命を感じ至る。
さて、勝負は着いた──だが、この先は果たしてどうなるか。
ある意味ではここからが本題だとサスケ君へと目を向けると彼は既に呪印状態から通常の状態に戻り、草薙の剣を手にダンゾウを見下ろし──その刀を鞘に戻した。
ダンゾウを見下ろすその視線にはダンゾウに対する恨みは感じ取れない。
「──それがアナタの答えかしらサスケ君?」
彼ら兄弟以外の何者も干渉出来ない精神世界にて、イタチの真実を他でもない本人より伝えられ復讐の道を捨てたのか──果たして彼の答えは?
「答えはまだ出ていない。兄さんは木ノ葉の忍であることを誇り、木ノ葉の平和を何より尊んでいたのだと分かった…だが兄さんの真意を理解すればするほど兄さんを苦しめた里への憎しみが際限なく膨れ上がっていく…」
血が滴り落ちる程強く握られた拳から、彼が先程まで抱えていた憎しみが再び醸し出される。
それに"イタチ"ではなく"兄さん"と──在りし日の呼び名に戻っている、それだけで彼にとってイタチの真実が残酷なものだったのか、はっきりと分かるというものだ。
「兄さんは、兄として弟の俺が里へ復讐をすることなど望まない。今はそれがはっきりと分かっている…だが俺も弟として、兄さんがどう望もうが止まれない」
「ではやはり──木ノ葉へ復讐をすると?」
「兄さんに一族抹殺という命令を下したのは木ノ葉だ…だがそこに至るまでにはあまりにも多くの存在があった。九尾の襲来、うちは一族のクーデター、木ノ葉だけでなく他里の存在さえもあった。一族とは何か? 里とは何か? そもそも忍とは何か? それが分からないまま木ノ葉を潰したところで俺は納得できないだろう」
「…一族、里…忍とは何か、ね。まぁ知る方法がない訳ではないけれど、それは場合によってはアナタの復讐の対象が木ノ葉だけには留まらないということになるわね、本当にそれでも良いのかしら?」
「──ふざけた事を…」
忍の里システム、ましてや忍そのものへ疑問を抱くということは即ちそういうことだ。
忍という存在さえも受け入れないというならばそれは今に至るまでの歴史全てへの反逆にさえ行きつく…その事について忠告のつもりすら含めた疑問に答えたのはサスケ君ではなくダンゾウだった。
貫かれた右眼から流れる夥しい程の血を意にも介さず彼は重傷の身体をよろめかしながら立ち上がる。
「もうお前や相談役を殺したところで俺の復讐が終わることはない、お前達個人などどうでも──ッ!?」
「…忍の世の為、木ノ葉の為…貴様らは決して生かしておかぬ!」
「これは『裏四象封印術』! サスケ君、ダンゾウから離れ──」
指示を出すよりも早く紫色の揺らめきが顔のすぐ横を通り抜ける。
地下にも拘らず強風が吹き荒れたのかと思ったそれは封印術の術式を全身に浮かばせたダンゾウが何らかの力によって遠くへ弾き飛ばされた故だった。
遅れて目で追えば、遥か後方に突き飛ばされ誰一人捕えることなく膨張し切ってしまう封印術の中心でダンゾウは呆然とこちらを見つめ続け、やがてその意識を途切れさせた。
己の死に際に周囲の者を道連れにする封印術…正しく最期の抵抗であったそれが呆気なく外された絶望…憐れではあるがそれも当然か。戦う前から全ての術を失いサスケ君を消耗させることも出来ず、更にはサスケ君はもうダンゾウ個人に向ける憎しみを超越し新たな視点を持ち始めた…冷静に、広い視野を得た今の彼に闇雲な抵抗が通じるはずもなかった。
封印術は彼の周囲の柱や床のみを飲み込んだ末に消滅すると、事切れたダンゾウを空中に投げ出す。
真下の足場がなくなったことでダンゾウの亡骸はこの地下より更に下層へと落ちていく。
"根"の首魁として木ノ葉を守らんと貢献も暗躍も行った男が終ぞ陽を浴びることなく、今度は光さえ届かない地下の底へと落ちていく光景は似合いの末路と嘲るには少々皮肉が過ぎていた。
碌でもない手段ばかりを取る男ではあったが、それでもかつては自身の上司として幾度と顔を突き合わせた男の最期に陰鬱さを感じながらもサスケ君に目を向けると彼もどこか空し気にダンゾウの落ちた位置を眺めていた。
しかしそれも激しい地鳴りに掻き消されるまでの一瞬の事だった。
「これは──地上の方からね」
地震とは異なる感覚に頭上を見上げようと首を動かした瞬間、再び紫色の揺らめきが視界の端に映り目を奪われる。──紫の揺らめきはサスケ君を中心に広がってやがて人骨の形を形成していく。
それはイタチが最後の瞬間にサスケ君に見せた万華鏡写輪眼の第3の瞳術──"須佐能乎"。
▼▼▼
木ノ葉地上でのナルトとペインの戦いは苛烈を極めていた。
仙術を習得し忍術、体術共に強化したナルトと輪廻眼の能力を駆使するペインの戦いは序盤はナルトが優勢であり修羅道、人間道と呼ばれる個体を倒す事に成功した。
畜生道の口寄せ動物の大半も共に口寄せされた巨大ガマ達が抑え、チャクラを吸収する餓鬼道も仙術を活用した体術"蛙組手"によって倒せるはずだった──しかしペイン6体の中でも中心的存在である天道の能力だけは防ぐことが出来ず、弾き、或いは引き寄せの能力に翻弄され始めていた。
そして問題はもう一つあった、それに気付いたのは仙術習得の為ナルトとずっと修行をしていたフカサクだった──
「ナルトちゃんの動きがおかしい…勝負を焦っておるようじゃ、そのせいか仙術チャクラの消耗が早いし動きに精彩が欠けておる…」
「どういうことです!?」
「仙術をマスターしたナルトちゃんの本来の力はもっとキレがあった…しかし今は…」
「…先程のペインとの問答で迷いが?」
思わぬ展開にカカシは息を飲む。
先程までの優勢状態ならばなんとか押し切れる可能性に賭けるという選択肢もあったが、フカサクの言う通り精彩さに欠けた直線的な動きは既に見切られ始めている…このまま戦いが続けばむしろ逆に押し切られるか、そうでなくとも仙術チャクラが切れてしまうかだ。
かといって既にチャクラの切れかけた自分やヤマトが介入したところで足手纏いになる可能性もある…そうなればナルトが更に動きにくくなる。
どうするべきか迷う最中、餓鬼道、天道に挟まれるナルトを他所に撃破された他の個体に最後のペインが密かに近づいているのが目に映る。
(アレは──復活させるペイン!)
ナルトが駆け付ける前に自分とヤマトで倒したはずのペインを復活させた個体だ。
奴が今他のペインを復活させてはマズい、形勢は確実に逆転し巻き返しは不可能になる。
「ヤマト、ナルトを頼む!」
「先輩!? まさか──」
迷っている時間はない、フカサク様は相方であるシマ様と共にナルトの援護の為幻術を掛ける準備に掛かっている。それが上手くいけば良いが通用しなかった場合はやはりナルト自身を立ち直らせることが絶対だ。
担当上忍、先生として自分がそれをしてやれないことは残念だが、いま自分がナルトの為にしてやれることはあの復活能力を持つペインだけは葬ることだ。
残された僅かなチャクラで確実に仕留める…時空間忍術"神威"によって奴の首を異空間に飛ばして跳ねる。
今のチャクラでそれをすれば自分は確実に死ぬが──それが木ノ葉を、ナルトを救う為の最善の選択であるならば迷いはないと左眼の"万華鏡写輪眼"にチャクラを送る。
絡繰のペインに手を伸ばす個体にカカシが自身の目線のピントを合わせたその瞬間だった──地面が割れ、紫色に揺らめく巨大な骸骨が出現した。
「「何だ!?」」
「これは──"須佐能乎"というやつか?」
突然の新手の出現、それは劣勢である木ノ葉の者達は勿論、ペインにとっても想定外の事態であり地獄道の動きも止めてしまう。
いやむしろ、その骸骨が如何なる存在なのか知るペインの方が驚きは大きかった。
うちはイタチの切り札"須佐之乎"。
イタチを従える際にマダラから寄越された情報の一つにその術があったが、イタチは既に亡き者だ…そしてマダラもまたかつての力を失っているらしく、今やその術を扱える者は1人としていないはず。
唯一可能性があるとするならば──揺らめく骸骨の中心に目を凝らせば、思った通りの人物がそこにいた。
「お前は…うちは──」
「サスケ!?」
「何!?」
ナルトが、そしてカカシも驚愕に目を見開く。
どうしてサスケが今こんなところに!? 目的は一体!?
ずっと捜索をしていたかつての仲間が突然が現れ喜びなどよりも戸惑いが溢れ言葉に詰まる。
「サ、サスケ、お前、何で──」
「うちはサスケ…お前の行方は俺の仲間が追っていたがまさか木ノ葉に来ていたとはな。イタチへの復讐を終えて木ノ葉の側に戻る気か?」
戸惑うナルトを無視し、鋭い視線と共に問いを投げるペインにサスケは平然と口を開く。
「──勘違いするな。俺は今2つの道を選んでいる最中で、その内の1つは木ノ葉を完全に潰す選択肢だ」
「な、サスケ、お前何言って!?」
「もっとも、今すぐにそれをしたところで俺自身が納得することは出来ない。その選択肢を選ぶ前に俺は知らなければならないことがある──そしてそれによって俺はもう一つの道"革命"を成す道を選ぶかもしれない」
「革命だと…一体何を企んでいる?」
「お前に語る必要はない、だがいずれにしても俺が行動を起こす前に木ノ葉を潰させるわけにはいかない──俺の木ノ葉崩しも俺の革命も俺だけのものだ」
その言葉と共にサスケは腰に差した草薙の剣とは別の、手首に巻いた口寄せ札に収納したもう一振りの刀を呼び出し握る。
槍を思わせる風変わりな様相のその刀、"雷刀・鳴神"はサスケの雷遁チャクラを受け刀身を回転させ、磁力によって電撃を増幅させていく。
「その刀…村雨の刀か」
異様な刀にペインはその出所に目星を付ける。
そもそも村雨はサスケと同じく大蛇丸の組織に属していた人間だ、彼らの間に武器を譲渡するやり取りがあるのは自然なこと──もっとも厳密には村雨もサスケも大蛇丸の下に所属する以前から既に譲渡されていたのだが。
しかし譲渡のタイミングこそ推測とは違えど、うちはサスケが村雨の刀を持ち今自分の敵となっていることはペインにとっても頭が痛くなる事態に他ならなかった。
そもそもうちはサスケはイタチと殺し合いをする以前からマダラが目を付けた存在だった。
イタチと同等、或いはそれ以上に成長する可能性を秘め、同時に純粋さ故に手駒になり得るとマダラは踏んでいた。──そのはずがこれだ。
(マダラの計画が少しずつだがズレ始めているとでも言うのか?)
ペインにとってそれはあまり考えにくいことだが少なくともここでうちはサスケが邪魔をしにくるというのはマダラが想定したシナリオから乖離しているのは間違いないはずだと確信するには十分だった。
そしてもう一つ気付いたことはうちはサスケの参戦に触発され、うずまきナルトの顔付きが変わったことだった。
未だ答えは出ていなくともこの場は自分を倒すことに集中しているのだと迷いの無い瞳からはっきりとペインに伝わっていた。
「──いいだろう、来い」
特異な眼を持つうちはサスケ、そして特殊な能力を持たずとも強い決意を秘めた瞳のうずまきナルト…並び立つ2人がペインにはかつての自分と今は亡き親友と重なって見えていた。
だからこそ受けて立とうと武器を構え残っているペイン達に陣形を取らせる。
既に潰された修羅道、人間道は切り捨て地獄道を後方に戻し残る3体が前衛に立つと、既に雷遁チャクラを練り終えたサスケが一足先に、それに続く形でナルトが駆け出す。
「サスケ、前のでけぇ奴はチャクラ吸収すんぞ!」
「吸収か…させたきゃさせてやる」
「ッ! ──"神羅天征"!」
目前に迫ったサスケの雷の刃をペインは餓鬼道の吸収ではなく天道の能力でサスケ諸共弾き飛ばす──餓鬼道の能力では雷遁チャクラはともかく物理的な刃までは防げない以上そうする他なかった。
だからこそ、それに続くナルトの攻撃に対し天道の能力が間に合わず鋭い蹴りを腹部に受ける。
「いいぞ、そのまま奥の奴を倒せナルト!!」
「オッス!」
仙術チャクラを全身に巡らせ強化された体術に後方の地獄道より更に後方に蹴り飛ばされた瞬間にカカシの指示が飛ぶ。
突然の指示であろうとも自身が信頼する担当上忍の指示にナルトは戸惑うことなく応じ螺旋丸を掌に形成する。
「甘いな」
既に手の内を見せている以上地獄道が狙われることはペインにとっても想定内。
地獄道の傍の建物に張り付かせ、透明化させていた口寄せ動物カメレオンの舌で吊り上げさせ螺旋丸から逃れさせると同時に自身の武器である黒の杭を投げ付けるが──奥からヤマトが飛ばしたクナイによってそれは弾かれる。
「──流石に厄介だな」
能力を明かされることもそうだが、援護までされると放置しておくわけにもいかない…畜生道の口寄せ動物で露払いをしておくかと思案した瞬間だった──地獄道の全身が黒い炎に包まれた。
「ッ! これは、天照か…」
目視した対象を消えない黒炎で焼き尽くすイタチも有していた万華鏡写輪眼の瞳術。
ナルトの攻撃から逃れるべくカメレオンに吊り上げさせたことで他のペインの影に隠れていたはずがサスケの視界に入ってしまった。
地獄道は勿論、燃え移ったカメレオンももうダメだと判断したペインはそれ以上に気になることに意識を傾ける。
(うずまきナルトとうちはサスケの接触は暫くなかったはずだが…それにマダラの情報ではうちはサスケはイタチとの戦いではまだ万華鏡写輪眼を開眼していなかったらしい──仙人モードと万華鏡写輪眼、互いに目にするのは初めてのはずだがな──)
時間差で攻め立て互いの攻撃で生まれた隙を上手く突いてくる連携…それは道を違えた者同士とは思えない連携だった。
(地獄道を倒されるとはな…あのガマ仙人共もそろそろ幻術のチャクラを溜め終える頃か。これ以上長期戦は不利だな…仕方ない、あれをやるしかないか)
天道と餓鬼道はともかく畜生道に天照を防ぐ術はなく、仙人ガマ達の幻術を使われては全滅、うちはサスケの介入で劣勢になりつつあることを感じ取りペインはある決断と共に畜生道を餓鬼道によって里の外へと投げ飛ばす。
「──なに? 何のつもりだ」
突如里外へと逃走するペインをサスケは万華鏡写輪眼の視線で追うが、天照を使うより先に畜生道の姿は里外の森の中へと消えていく、それどころかそれに続いて餓鬼道も口寄せによってその姿を消す。
「くそ、何だか分かんねぇけどまずは残ってるこいつを!」
不審な行動に警戒しながらも特に厄介な天道のペインへ狙いを定めるナルトだが、攻撃を仕掛けるよりも先に最後のペインは上空へと舞い上がる。
「何を…──まさか!?」
突如空中に躍り出るペインの行動に戸惑うも、そのペインが持つ能力から次に起こる攻撃を直感した者達が絶望に顔を青ざめる。
「待て! ペイン!!」
「──ここより世界に痛みを」
──"神羅天征"