「なんだってばよ、これ…」
全身を覆う紫色の炎の様な揺らめきにナルトは思わず声を漏らすがそれがサスケが木ノ葉の地下から飛び出て来た時に纏っていたものと同一のもの気付き隣に視線を向ける
「ッ! サスケ! お前──」
「奴を倒す為には戦力が必要だっただけだ。別にお前を助けるつもりはない、勝つ為だ。──それに、くだらないことに気を向けている場合じゃなさそうだぞ」
「ッ!? ──そんな!?」
舞い上がる砂煙が晴れた瞬間に見えた光景にナルトは目を疑った。
里の"半分近く"が更地と化した光景に頭の中が真っ白になっていく。幸い、事前に里中の人間にカツユが付いていたことで殆どの者の命が助かっていることは仙人モードで研ぎ澄まされた感知能力で分かっているが、全ての者がその限りではなかった。
「じいちゃん仙人…ばあちゃん仙人…ガマオヤブン…クソ!」
自分と同様にペインの前に出て戦っていたフカサクやシマ、ガマブンタを含む3体の巨大ガマはカツユの保護を受けておらず、その命が奪われたことがはっきりと伝わっていた。
「…まさか、これほどの術を持っているとはな…──ッがはッ!?」
立ち尽くすナルトの傍で冷酷と言える程に冷静に周囲の状況を見渡し、ナルトとは違い崩壊した木ノ葉の里の光景に歯噛みした瞬間、激しい痛みが全身に走りサスケは吐血と共に膝を着く。
「サスケ! どうした!?」
「それが"須佐能乎"の反動か、実際に見るのは初めてだがやはりリスクも重いようだな」
「ッテメ──ぐあッ!」
音もなく降り立ったペインが放つ黒い杭が肩に突き刺さったナルトは出血以上にチャクラが乱されることによる硬直に焦りを抱く。
「お前達との戦いも終わりだ。そろそろ九尾を頂くぞ」
「クソ、こんなもん!」
「…俺の縛りに抗うか、仙人モードの力も大したものだな、なら──先にこちらを消しておこう」
動けないナルトの全身に次々と杭を刺し続け完全に動きを封じ込めると襟首を掴もうとするペインだったが、その手を止め、そのまま大きく振り払い足元で眼から黒い血を流し万華鏡写輪眼の視線を自身に向けるサスケへとナルトに使ったものと同じ黒い杭を投げつける。
「クソ…」
「これで天照も使えないだろうが…念には念だ」
チャクラを乱し身体の硬直させるだけでも十分行動を封じることは出来るがペインにとってそれで手を緩める理由はなかった。行動を封じるならば殺してしまった方が確実──そんな冷酷な判断と共に黒い杭をサスケの眉間へと投げつけた。
「やめろ──ー!!」
サスケへと迫る無慈悲な死にナルトの悲痛な叫びが周囲に響くが黒い杭が止まることはなく真っ直ぐにサスケに向かい──放物線上に生まれた空間の歪みに飲み込まれ消滅する。
「これは──」
「カカシ先生の!」
「「ッ!?」」
黒い杭を消し去る時空間忍術にナルトはその術の使い手に思い至り視線を向ける──が、ナルトもナルトの視線を追ったサスケも目の前の光景に目を見開いた。
「──そんな顔するなナルト、サスケ…波の国の任務の時言っただろ。俺の仲間は絶対、殺させやしないよ…って」
にっこりと笑うカカシのその顔はチャクラ枯渇による重度の衰弱が目に見えており、その弱々しい笑顔にナルトは言葉を失った。
「…ナルト、お前は強くなった。仙術をマスターし、自来也様を越え木ノ葉の誰よりも強くなった。だから自分を信じろ。そうすればきっと…答えは見つけられるはずだ」
「カカシ先生!」
「──サスケ、事情は分からないが…また、お前達が一緒に戦ってくれて…嬉しかったよ」
既に朦朧とした意識の中で言葉を紡ぐカカシにサスケも目を逸らさずにいる内に黒い杭に縛られ動けない身体を腕を掴まれ引き上げられる感覚に自身の腕を掴む相手に目を向ける。
「──後は…頼むぞ、サクラ…」
「…傷は後で治す、まずはここから離れるわよ2人とも!」
カカシの言葉に両目から涙を流しながらサクラは頷くと震える両手でナルトとサスケの腕を掴んでペインから距離と取る。
「…サクラ」
「サクラちゃん、出てきちゃ危ねぇってばよ!」
「大丈夫、アイツの術にはインターバルがある、こんな木ノ葉を滅茶苦茶にする程力を使ったなら──」
「その通りだ、確かにこのペイン天道の力は暫くは使えん──が、動けない人間を2人も抱えた人間1人を相手に術などいらん」
一瞬でサクラの目の前に飛び移ったペインはその黒い杭の刺突をサクラの腹へと容赦なく走らせる。
弾ける様に噴き出した赤い血がナルトの頬にまで当たり、その瞳を大きく揺るがす。
「な、なんで…ヒナタ! なんでアンタまでこんなところに!?」
最初に戸惑いの声を上げたのはサクラだった。
自身とペインの間に飛び込んで黒い杭に刺し貫かれた同期の少女の姿に気が動転する。
「お願…い、今の内にナルト君を…」
「お前…なんでこんなことを!?」
「私はナルト君が──大好きだから」
黒い杭が脇腹に刺さり大量の血を流しながら、それでも優しい笑みを浮かべるヒナタ──その身が更にもう一本黒い杭に貫かれたのはその直後だった。
「──丁度こんな風だったな。俺の両親も俺を逃がそうと木ノ葉の忍の前に飛び出して俺の目の前で殺された」
「ウ…ウウウゥゥウ…」
「ッ!? ナルト、待って!!」
「愛情があるからこそ犠牲が生まれ、憎しみが生まれ──痛みを知ることが出来る」
「くっ! ごめん2人とも!!」
溢れ出す九尾のチャクラが天地橋で一度見た姿と重なったサクラは一瞬の迷いを振り切りナルトの手を離すとすぐに目の前で助けたヒナタの襟元を掴み直し2人の身体を引き摺りながら急いでその場から離れる。
「うォガアアアアアアアア────!!!」
六本の尾を生やし禍々しいチャクラに覆われた怪物と化したナルトの叫びが響いた。
▼▼▼
木ノ葉から幾分離れた高台の上で様子を眺めていたトビは九尾の力を解放したナルトとペインの戦いを見て、更には木ノ葉の里で治療を受けるうちはサスケを見て不満気に鼻を鳴らす。
「あのペインがここまで追い込まれるとはな。それにうちはサスケが木ノ葉の側に付くとは…少々予定と違ってしまったな」
それにペインの里への襲撃も最初から攻撃を仕掛けず、先程の"神羅天征"も本気でやれば里を丸ごと壊滅させることも可能なはずなのに何故か半壊といったところで留めていた。
勿論それはうずまきナルトが死なない様に、そして天道のインターバルを軽減する為の調整だった可能性もある。
実際今は九尾の力を暴走させるナルトを相手に呼び戻した餓鬼道、畜生道を瞬く間に潰されたもののその間に天道の力が復活し、対等に戦っていることからして結果的には良かったかもしれないが…どうも気にかかる。
うちはサスケにしてもイタチを倒し、目的を終えて木ノ葉に帰還したにしては本人も周りの人間の反応もどこか違和感がある。
どちらとも何かしらの外的要因の影響があったことは確かか?
ペインとサスケ、両者ともに接触する相手は限られている…その中でも彼ら両方に干渉し、自分の筋書きに存在しない人間といえば答えは絞られる。
「…奴がイタチと戦った後のサスケと接触する素振りはなかったと思うが、さて、どうしたものか」
気に留める程ではないというには影響が大きかったのかもしれない。
連中の八尾狩りの出来次第ではあるが、場合によってはやはり消しておいた方がいいやもしれない。そんな考えが浮かんだ時、ナルトがいる場所の空中に黒い球体が放たれた。
「"地爆天星"…これで決めるつもりか、長門」
巨大な引力が周囲の地面を抉り取り、土塊や木々諸共ナルトを引き寄せ閉じ込めた。
あれに閉じ込められてしまえば脱出は不可能…これで九尾捕獲は達成──いや…
地爆天星によって造られた岩石の星を突き破り巨大な怪物が這い出てくる。
未だ不完全ではあるが先程までの辛うじて保っていた人の姿さえも失くした巨大な妖狐…九尾の姿だ。
うずまきナルトの意識が塗り潰され、九尾の復活がここまで…
まだ地爆天星から抜け出すことは出来ない様だが完全に九尾が復活したら今の衰弱した長門のチャクラの方が先に持たなくなるかもしれない。
「──ならば」
周囲に人の目がないのは確認済み、仮面を剥がし地爆天星から這い出た九尾を捉えると大きく息を吸う。
「──火遁・爆風乱舞」
「ッ!? グォオオオオオオオ──!!」
地爆天星の吸引力、そして自身の能力による空間の歪みの影響で口から放出した炎は異常な拡大を起こし、巨大な渦となって動けない九尾の顔を燃やす。
その猛烈な炎を勢いが肉体の構成が不完全な九尾の肉体を焼き切り、獰猛に剝きだされた牙を1つ破損させる。
傷付けられた九尾はその刺激に更に荒れ狂う素振りを見せたかと思えば急に動きを止め、その姿を消して元のナルトの姿へと戻っていた。
あれ程暴走が深刻化した状態でナルトが自力でコントロールしたとは考えにくい…ならば九尾封印の際に四代目が封印術式に何か細工していたか?
もっとも今となってはどうでも良いことだ。
長門の妙な変化、うちはサスケの予想と違う行動…思い描いていたシナリオにならなかった事に対する保険は確保出来た。
どうやら九尾暴走の負荷もあって長門側が地爆天星の維持が出来なくなったらしく岩石の星が崩落し、瓦礫の雨と化していく。
うずまきナルトとペイン天道の戦いは存外ナルトの勝利になるやもしれないが、それならそれで先程切り離した九尾の一部を回収すれば良い。
出来れば完全な状態で計画を進めたい、その為にはここで自分も参戦しナルトを確保するのも手ではあるが増援が近づいている気配もある。
何より今はまだ八尾の確保も確認出来ておらず、満月の日も遠い…"うちはマダラ"として本当の計画を始めるにはまだ少し早い。
ならば万が一に備え、不完全な形でも計画を始める為のピースを安全に確保する方が良いだろう、そう結論付け、地面の中へと身を隠す。
ペイン天道の敗北を確認したのはその少し後のことだった。
▼▼▼
最後のペインを倒し、ペイン本体長門の居場所を仙人モードの探知力を以て見つけ出したナルトは単身彼と彼の傍で控える小南の下へと赴いた。
そこで義憤に駆られるまま戦うのではなく今一度長門達の過去について知り、その上で今度こそ答えを出したいと訴えた。
ナルトのその嘆願に長門も応え、自らの過去を、自らが抱えた痛みについてを明かした。
大国の犠牲となる小国、自分達を守りたいという愛情の為に他人を殺すことで生まれる憎しみの連鎖…忍の世界に存在する呪いを幾度も体感した長門の話にナルト彼の事は決して許せないままであっても、戦わない道を選んだ。
憎しみの連鎖へのナルトの答え。
それは自分自身が忍世界の呪いを解き平和を掴んでみせること、即ち自分自身と自来也の教えを"信じる"ことだった。
そしてそれはかつての長門が自来也に誓った言葉でもあり、それが自来也が書いた小説として残されるということはかつての自来也が長門のことを信じていた何よりの証だった。
戦いの最中に、そして昔の修行の日々の中で自来也から告げられた"信じている"という言葉が、自分をこの世界の救世主だと死の直前であっても信じてくれたかつての友の言葉が記憶の中で蘇り、今目の前に立つ己を、そして師の言葉を信じる真っ直ぐな男の姿に諦めていた選択肢を選ばせた。
──外道・輪廻天生の術。
術者の命を引換えに死者を蘇らせる輪廻眼の能力。
ナルトを信じ、本当の意味で平和の実現の願いを託すと決めた長門は自らが里に来て以降死した者達全てを蘇らせていく。
やがて長門の赤い髪が白く変色し、呼吸も荒くなって死が迫っているのをナルトも小南も察して言葉を詰まらせる中、長門は息を絶え絶えになりながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「戦いとは…双方に死と傷と痛みを伴わせるものだ。だが皆…大切な人ほどその死を受け入れられず死ぬはずがないと思い込む…特にお前達の様な…戦争を知らない世代は仕方がない。死に意味を見出そうとするが…あるのは痛みとどこにぶつけていいのか分からない憎しみだけ…ゴミの様な死と、永久に続く憎しみと、癒えない痛み…それが…戦争だ」
「──そうだ、木ノ葉も関与したあの戦争もそうだった」
ふと、その場にいた誰でもない人間の声がした。
それはナルト達3人が良く知る人間の声であり…その誰もがもう聞く事もないと思っていた人物の声だった。
「親を奪い、友を奪い、平和を奪い…そして癒えない傷を与えてしまった──それでもお前は憎しみを乗り越えて木ノ葉の忍の命を返してくれた」
「──バカな…何故…」
「やはりお前は…あの頃ワシが信じた通りの優しい子だった──長門」
片腕を失い、長い昏睡状態で衰弱した弱々しい姿だが、その力強い視線ははっきりと長門の姿を捉えていた。
戸惑う3人に事情を明かすのは彼の背後から音もなく姿を現した長い黒髪の人物──大蛇丸だった。
「意識不明の重体のまま木ノ葉に運び込まれてからずっと綱手の延命治療を受けていた様ね…もっとも木ノ葉襲撃に対して綱手が火影として出向かざるを得なくなったことでさっきまで死んでいたらしいけど、一度死んでさっきの術で蘇ったのが逆に意識を取り戻す切っ掛けになったのかしらね」
「…それもお前が最後にワシにトドメを差さなかったからだ…長門、お前はあの時──」
「フ…あれは本当にただの気紛れだった。アンタと戦う直前に…おかしな奴と話したせいで余計な事を思い出してしまっただけだった。──あの時は本当にそれだけだった」
掠れた声で振り絞る様に長門は語る──その双眸からは涙が流れ、自来也にとってその姿は弟子になったばかりの頃の泣き虫だった頃の彼と重なった。
「──ただの気紛れだったのに…もう一度だけ、アナタの言葉を信じたくなった今、最期にアナタに会えるなんて…思いもしなかったよ、自来也先生」
「…長門」
微かに笑みを浮かべ、そう告げると長門の視線はナルトへ向かう。
「フン…こんな奇跡が起ころうなんてな…だがナルト、お前がこれから立ち向かう事になるものはこんなものではない…人の死というのは本来覆るものではないのだからな」
「ぅッ…分かってる…ッてばよ…。俺、絶対忘れねぇ! アンタから譲り受けた"痛み"を俺は絶対忘れねぇ!」
「──あぁ、それで良い」
師の生還に涙を零しながらも拳を握り絞めて真っ直ぐに誓う弟弟子に満足そうに笑うと長門はその瞳を閉じる。
「…まったく、本といい…お前といい…まるで本当の神の仕業のようだが…まさか殺したはずの師まで蘇った上にここに居合わせるとは、あまりに出来過ぎているな──ともあれ、俺の役目はここまでの様だ、ナルト…お前だったら…本当に──」
最後に自身の願いを弟弟子に託しながら長門は穏やか表情を浮かべ死を迎えた。
里の半分近くが崩壊し、傷も痛みも多く残るものの全ての者が生還しペインと木ノ葉隠れの里による長い戦いは終結した。
▼▼▼
光の届かない闇の中、1人の男が目を覚ます。
木ノ葉地下の底まで落ちた男──ダンゾウは自分は死んだはずだと戸惑いながらも右目に走る激しい痛みが生を実感させる。
「──ワシは…」
復活した影響なのか未だに痺れが残る身体を必死に動かして柱に足を付けるが、何度試そうがチャクラ吸着が上手く出来ずにいた。
それは麻痺している身体同様に復活直後で本調子でないというだけではなく柱間細胞で造られた右腕も、うちはシスイを始めとする多くの写輪眼も全て失い、決死の思いで放った最期の封印術式さえもうちはサスケに一蹴されたという事実が重く圧し掛かっているが故だった。
火影の座を求め暗躍を続けた果てが搔き集めた力を全て失った挙句、光どころか根すらも届かない地下の底とは失意の余りに最早乾いた笑いさえ出てきてしまう。
「ワシは結局、火影になれなかった…どこまでいってもお前には追いつけなかったよ、ヒルゼン」
地上でのペインと綱手側の連中の戦いがどうなったかは分からない、仮にペインを退けた後に今回の一件で綱手が火影を解任されることがあってももう忍としてやっていく力もない自分が火影になることはない。
ここを出たところで夢には届かない。
そう思ってしまえばこの闇の中から這い出る力など湧くはずもなかった。
失意のままに目を閉じようとした時、不意に光が差すと共に覚えのある声が聞こえた。
「──ダンゾウ様!!」」
それは"根"の中でも最も優れた感知能力を持つフーの声だった。
彼は自分より先にうちはサスケの前に立ち"天照"を受けて死んだはずだったが──自分と同様に何らかの要因で生き返ったと言うのか?
半信半疑のまま視線を上げれば懐中電灯を頼りにこちらに近づく墨の鳥の背に乗るフーとサイの姿があった。
ペインとの戦いを切り上げてきたのか、それとも完全に終結したのかは分からないがサイの身体は傷だらけで地上での戦いの後に無理をしてここに駆け付けているのは明白だった。
「良かった、やはり我々同様にダンゾウ様も復活されていた!」
「すぐに鳥を降ろします、少しお待ちください」
木ノ葉の地上で失われた命が戻ってきた奇跡に皆が歓喜し笑い合っている頃、時を同じくして闇の中を歩み続けた男の下にも深く強く伸びた"根"が届くのだった。
大蛇丸様の謎の行動についてはまた次回
あと村雨も再始動(予定)