霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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天使と悪魔の狭間にて

 ペインの本体、長門の所在を巨木に偽り隠していた無数の紙を散らすと小南は長門の亡骸をそれらの紙を利用し包み込むと、自身の師であり奇跡的な生還を果たした自来也ではなく、その隣に立つ人物へと視線を向ける。

 

「それで──お前は何故ここにいる大蛇丸?」

「あら、嘗ての仲間に随分と冷たいじゃない」

「お前の行動理由が分からない。何故先せ…自来也をここに連れてきていたの?」

 

 輪廻転生の術を長門が使い、自来也を運び込んでいたのでは明らかに間に合うはずがない…ならば輪廻転生の術が使われる前に亡骸であった自来也を運んでいたと見るべきだ。

 

「うちは一族と千手一族について調べる中で輪廻眼について能力も含めていくつかの仮説が生まれて、その能力の中に死者を復活させる方法が存在すると推測していてね…可能であればその術でとある者達を復活させてもらいたくてアナタ達の下に向かっていたのだけど、途中でこの男の死体をたまたま拾ったからついでに持ってきただけよ」

「ある者達?」

「弟子の1人の希望でね…生贄の出る穢土転生の術は拒否しているから難儀しているのよ…もっとも輪廻眼の能力も結局は術者が生贄となる必要があったみたいだから…叶わない目的だったようね」

 

 肩を竦めてやれやれとワザとらしいポーズを見せる大蛇丸に小南は顔を顰める。

 

「何故お前がそんなことに協力する。私が知る頃の…暁に所属していた頃のお前はそんな事をする性格ではなかったはずだ」

「そうね。でも人は変わるものよ、若しくは変わらないまま死んでいくか…。それで言うと私はもう1人の手の掛かる方の弟子のおかげで色々と考え方を変える様になってね。でもそれはそこの彼も一緒だったのでしょう、おかしな奴と関わってから…」

「……あぁ、そういうことか」

 

 大蛇丸の言葉に小南はどこか納得したかの様に頷くとそれ以上は何も言わず、自来也へと声を掛ける。

 

「──これから弥彦の亡骸も運びます。アナタも良ければ…」

「勿論だ。案内してくれ、あの子のところへ」

「……はい、先生」

 

 先程まで対立、一度は重傷を与える程まで追い込んでしまったことの引け目か、小南と自来也のやりとりは互いにどこか躊躇いがちではあるが、それでも少しずつ蟠りが解消されつつあった。

 

 そこに1人の影が降り立つ。

 

「ッ! サスケ!?」

 

 木々の奥から大蛇丸の傍に降り立った人物の姿を見てナルトは声を張り上げる。

 

「──どうやら終わったようだな」

「ついさっきね、刺された傷は大丈夫かしら」

「お前には関係のないことだ」

 

 いつも通りの傍若無人な態度に大蛇丸はこれといった反応はわざわざ取らず、穴の開いた服の先を確認するが傷口はしっかり塞がっており、誰かしらから医療忍術を受けたことは明白だった。

 そんな自分を観察する大蛇丸からあっさりと視線を外すとナルトの方を向きサスケは口を開く。

 

「今木ノ葉では死んでいた連中が次々に蘇った…カカシやヒナタもな」

「ほ、ホントかサスケ!」

「…今頃全員、里の救世主としてお前の帰りを待っている──早く帰ってやるんだな」

 

 長門の言葉を今更疑っている訳ではないがそれでも実際の報告を受けてナルトは顔を綻ばせるも、サスケの口振りに違和感を覚え、その疑問を口にする。

 

「サスケ、やっぱり里には戻らないつもりなのかよ?」

「言ったはずだ、俺は木ノ葉を崩す道も選択肢に入れているとな」

「どうしてだ、お前の復讐は終わったんだろ! それなのに何で──」

 

 ナルトのその言葉にサスケの目が僅かに吊り上がる。

 その冷たい視線と共に結ばれる印は複雑な印を覚えられないナルトにとっても記憶に焼き付いてるものだった。

 

「ごちゃごちゃとうるさい奴だ…そういや前にも言ったよな、一流の忍同士なら拳を交えただけで互いの心の内が読めるとな」

「ッ!」

 

 バチバチと激しい音を鳴らし帯電する千鳥を構えそう突き放すサスケにナルトも螺旋丸を作り出す。

 

「おい、ナルト!」

「──いいのね、サスケくん?」

 

 静止する自来也、確認する大蛇丸を通り抜け、ナルトとサスケは互いの術をぶつけあう。

 高密度のチャクラの衝突に激しい衝撃と閃光が周囲に走り、両者は互いに後方へと弾き飛ばされる。

 

 受け身も取れない勢いで飛ばされるサスケを大蛇丸が腕から召喚した蛇が、ナルトを動けない自来也の代わりに無数の紙へと分散した小南が受け止める。

 

「……やめだ、さっきまでの戦いでお前のチャクラはほぼ空の様だな」

 

 自身の身体を取り巻く蛇を払いのけながらサスケは立ち上がるとナルトに背を向けてそう告げる。

 

「お前だってそうだろ、写輪眼の反動だかで限界なんじゃねぇのかサスケ…それに──お前の言う通り直接ぶつかって今は色々分かった。理由は分かんねぇけどお前が憎しみだけで動いちゃいねぇってこともな…俺達は一流の忍になれたってことだ」

 

 

 拳を交え、互いの心の内を理解した両者は真の決着を付けるべく再戦を誓い道を分かつ。

 

 うちはサスケは大蛇丸と共に木ノ葉の領域の外へと向かう最中、大蛇丸が保管するうちはイタチの亡骸からその両眼の移植を決断する。

 木ノ葉への復讐を果たすつもりならば、そしてそれ以外の道を選ぶのであっても木ノ葉の意志と対立するならば最初に立ち塞がる自身の友と語る男を全力で倒す為に、新たな力を得る為に。

 

 そしてうずまきナルトは自身の師と共に里へと帰還する。

 里を救った英雄として、多くの人達から認められ迎えられたナルトはその心の内に僅かに黒い感情が芽生えながらも今は皆からの祝福と、師との再会に本心から笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 ──彼が木ノ葉復興が進む途中、班員のサイからペイン襲撃の最中にうちはサスケに上司であるダンゾウが襲撃を受けたという知らせを受け、自来也、綱手の計らいで相談役のホムラとコハルからうちはイタチの真実を知るのはその暫く後の事だった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 雲隠れの領域から撤退しアジトへの帰還を果たし暫く後、リーダーさん、もしくはトビさん辺りからの連絡のない事に違和感を覚えながらも八尾捕獲再挑戦の為の準備というある種の休暇期間を満喫していた。

 九尾ことナルト君の確保が成功した場合、九尾の前に八尾の封印をしなければいけないという都合上八尾捕獲は後回しにすべきではないのだが…ここにきて作品のインスピレーションが次々に湧いてくる。

 

 八尾捕獲と同様に後回しにしつつあった水月からの4万本の刀の発注もいい加減仕上げなくてはという事もあって作業に集中し過ぎて時間を忘れてしまった。

 …とはいえ流石に暁という組織の正規メンバーである自覚がないという訳ではない、こうしている間にも重吾さんが意志疎通した動物達によって八尾の居場所は割り出してある。

 

 とある森の中で壮年の男性と巨大なアライグマと一緒にいるらしく、その気になればいつでも向かうことが出来る状況だ。…三尾の甲殻の一部を利用した特別性の一刀も完成したことだし、そろそろ挑んでも良い頃合いかもしれないと思うが、さて肝心の水月のコンディションはどうかと刀造りの手を止め、庭の方を見ると──

 

「──お前才能ないな、死ね」

「もう少しまともな指導は出来ないわけアンタ!?」

 

 お世辞にも平和とは口に出来ない言い争いが聞こえてきた。

 クシナダの所有はサソリさんに任せてあるのだが、歴代の忍刀七人衆の中には水月の兄、満月さんの様に自身が持つ刀以外の物も扱う例がある。

 

 …ならば水月には是非クシナダも使える様になってもらわなくては──と、丁度クシナダの改造・整備も一区切りついて自身の傀儡造りを進めていたサソリさんにご指導をお願いしたところ呆気なく拒否された為、仕方なく砂隠れ所属時に齧った程度の知識で水月に指導していたのだが、自身の作業の傍らで中途半端な知識で傀儡の術を語られているのが我慢出来なかったサソリさんが指導を受け持ってくれたのだった。

 

 ──折角なら私も講義を受けたかったが本来の仕事が溜まっている事もあり今回は断念したこともあって進捗を確認していなかったのだがどうやら芳しくはないらしい。

 

「大体ボクは斬る専門なんだよ、こんなちまちました糸の操作なんかやったことないんだよ」

「だったら今すぐやめろ、俺はその方が無駄なことをしなくて済んでお前も出来もしないことをやらずに済む…お互い都合が良いだろう?」

「その場合このクシナダを実用化の為にボクの新生七人衆のメンバーの1人が必然的にアンタになるんだよ、絶対ヤダ!」

「こいつをその七人衆の忍刀に採用しなけりゃいい話だろう、安心しろ俺が責任を持って引き取ってやるさ」

「アンタが独占したいだけだろソレ! ってかそうなったら大蛇丸に隠れてまでアンタら暁なんて危険な連中に接触した苦労が水の泡なんだよ!!」

 

 言い争いを繰り広げながらもサソリさんから練習用に借りた簡素な傀儡を傀儡糸で動かす水月だが、やはりその傀儡の動きはどこかぎこちないものだった。

 一方、少し離れたところでは角都さんが素振りを続け少しずつ刀に慣れようとしてくれているのを見て胸が熱くなるのを感じる。

 その能力もあって長く生きる中で忍具の類いは暫く使っていなかったそうだが、それでもやはり今よりも更に苛烈な戦争を生き延びたこともあって武器を扱った経験も決して浅くはないようで、見る限りでは今の状態でも実力不足は微塵も感じない…それどころか腕を切り離し伸ばす特異な身体は他にはない独自の刀の使い方で実に興味深い。

 

 実に良い流れだ。

 水月とサソリさんは衝突しているがその内容自体はどちらもクシナダを使う事に前向きなものだ、水月はサソリさんの新生七人衆加入に否定的な発言もしているが実際のところ既に完成している忍具を最も有効に扱える人材を逃すなんて事はしないだろうし、角都さんも誰に言われるまでもなく刀を扱おうとしてくれている…夢の新生七人衆の結成が近づいている確かな手応えを感じた瞬間に庭に設置した腰掛けに座っていた香燐さんが跳ね起きた。

 

「ッ! 誰だ!!」

 

 鋭い警告に皆手を止めて臨戦態勢を取る。

 そこら中から無数の折り紙の蝶々が集まり、やがてそれが人の形になると現れたのは見覚えのある人の姿だった。

 

「小南さん! ──そちらは…リーダーさん!?」

 

 リーダーさんの腹心である女性、小南さんの突然の訪問に驚くもひとまず敵襲でないことに安堵する。

 そして安心したことで小南さんが運んでいた亡骸に気が付いてしまう。2人の内1人は心当たりがないが、もう1人は間違いなくリーダーさんのお姿だった。

 

 木ノ葉を襲撃し、敗れたのか? 

 詳しい能力を知る訳ではないが伝説の輪廻眼を持つリーダーさんが敗れるとは思いもしなかった…しかし、小南さんから告げられた言葉はそれ以上に思いもしない言葉だった。

 

「──サソリ、角都、そして村雨…暁はこれより大きく変わる。だから──私に協力してほしい」

 

 そこから語られたのは暁結成のお話とそしてリーダーさんの最期についてだった。

 平和を目指した行動の末に裏切られ、今の暁を結成するに至ったリーダーさんはナルト君と戦い、本来目指したかった選択をすることが出来たという。

 それは喜ばしい話ではあるが…彼の組織の方針に従い今や五大国全てから追われる存在となったサソリさん、角都さんにとっては話は別だろう。

 

「──ふん、人を従えておいて勝手に木ノ葉の味方をした挙句に死ぬとはな」

「これで俺達は暁の残党として狩られるのを待つ立場という訳か」

「…新しい職場に勧誘されたと思ったら崩壊したんだけどボクらどうなる訳?」

 

 …あぁ、言われてみれば水月達も似たようなものか。

 確かに、組織の長として長門さんの行動はあまりにも無責任な心変わりと言えるだろう…それでも──私はそれで良かったのだと思う。

 長門さんが本当に望む選択がナルト君を、自来也さんの教えを信じることであり、それに命を捧げることを厭わない程の覚悟ならば…私はその行動を尊いと思う…あと無責任な行動について私がとやかく言える立場ではないだろう、かれこれ何度所属を変えたことか分かったものではない。

 

 さて、私の事情はともかく、このままでは暁という組織の枠組みさえなくなり、サソリさんや角都さんとの関係性まで完全に崩壊しかねない、ひとまずその問題を解消しなくては。

 

「──リーダーさんの突然の行動は驚きですが、元よりは私は霧、砂、木ノ葉に追われる身ではありましたのでこれまで庇護下に置いて頂けた恩だけでも感謝するばかりです、それで…小南さんに協力というのは?」

 

 そう、私は元々暁という犯罪集団に属する前から犯罪者…そしてそれはサソリさん、角都さんとて同じこと。

 ならばリーダーさんの勧誘を受けた末に五大国から追われる立場になったなどと彼を恨むのは筋違いというものだと…お2人を怒らせたりしないだろうかと内心ドキドキしながらも言外に伝えつつ小南さんに話の続きを促す。

 

「長門の死を以て暁のリーダーは本格的にマダラになる」

「マダラ…あの面の男か、奴は本当にマダラなのか? 俺には到底そうは思えんがな」

「彼の正体が何であれ、彼の思想は長門とは別のものであることは間違いない」

「クッ、くだらねぇな…お前らが勝手にうずまきナルトの事を信じようと思っただけで元々はトビの計画に乗っていたんだろう? 奴の思想がお前達と別のもの? お前達の方が離反したんだ、当然だろう」

「そうね…あるいは正統性がないのは私の方かもしれない。…それでも私も長門もうずまきナルトの中に光を見出した、だからもう平和への道を彼の闇に委ねることは出来ない」

 

 サソリさんの厳しい追及を真っ向から受け止めて小南さんはそう言い切る。

 そしてその上で最初の彼女の言葉を考えるに──

 

「つまり小南さん、私達にナルト君側について…トビさんを裏切れと?」

「冗談じゃないな」

 

 私の確認に小南さんの返答より先に角都さんがそう失笑した。

 …まぁ角都さんからすれば死の寸前まで追いやられ、トラウマの初代火影様の細胞を埋め込む原因になったのだから当然か…埋め込んだのは私だが。

 

「別にナルトに協力をしろとまでは言わない…ただし、マダラが主導となる暁からは袂を分かってほしいというだけのこと」

「結局のところ、俺達に流浪の身になれと言うのだろう? リスクが大きすぎるな…ましてやあの男が仮に本当にうちはマダラならば──五大国が相手だろうとこっちの方が勝ち馬だ」

 

 慎重派の角都さんがそれ程まで断言するとは…改めてうちはマダラという伝説の存在に息を飲む。

 しかし、これは完全に平行線だ…サソリさん、角都さんは小南さんの懇願に否定的な様子だ、勿論今の彼らの立場を思えば今更暁という組織から離反するリスクは計り知れないのだから当然と言えるが…

 

 しかし、小南さんとてこうなる事を考えていない訳ではないはずだ。

 既定路線だと諦めて帰るのか…本格的にマダラさんと組まれる前にここでお2人と戦うつもりなのか──仮に戦うのであれば場合によっては輪廻眼を手に入れるチャンスとも考えられるが…

 

「──1つだけ確認したいのですが、マダラさんの目的はなんですか? 以前にリーダーさんから世界征服という夢は聞きましたがその際にその手段である今の計画はマダラさんの発案だと聞きました…ではマダラさんの目的も世界征服なのですか?」

「…分からない。彼は私達と初めて会った時に輪廻眼を持つ長門に勝者だけの世界、平和だけの世界、愛だけの世界を創ることが出来ると言い、輪廻眼を持つ長門を正しく導くことが自分の使命だと言っていたけれど」

 

 なるほど…そういうことならば──

 

「小南さん、私は小南さんの事を信じます」

「はぁ!? じゃあマダラを裏切るってわけ!? そりゃ確かにそんな世界を作れるなんてが嘘くさい話だけどさぁ!」

「…確かにそんな世界を創れるというのならそんな壮大な作品にも興味はあるけれど…でも長門さんを正しく導くというのなら彼は長門さんが望んでいた"信じる選択"が出来る様に導くべきだった…だってそれが"長門さんにとっての正しい道"でしょう?」

 

 それを敢えて痛みによる平和へと導いたというのならば──それは"マダラさんにとっての正しい道"だ。

 別にそれが悪いと言うつもりはない、それが本当に長門さんの夢である世界征服を成せるというのならそれも正しいのかもしれないが──それでも自分自身でナルト君を信じて命を賭した長門さんと、その彼の意志を酌んで行動している小南さんの方が私は信じたいと思えた。

 

「…ごめんなさい、サソリさん、角都さん…でも良ければ──」

「ふん、まぁいい。あの後ろに立たれるのを嫌うマダラが誰かを導くというのもおかしな話だ…それに、平和だけの世界を創るだの何だのと、宗教染みた面倒な話はもう聞き飽きている」

 

 …マダラさんって確かうちは一族の族長だったような…そんな認識でいいのだろうか? 

 

「サソリさんは?」

「はぁ…マダラだかトビだか知らんがそいつに付き合って五大国の相手なんざ御免だ。要は奴が五大国を倒すかその逆か…それまで大人しく傀儡を作ってりゃ文句はねぇんだろ?」

「あ、それでしたらその間に水月に傀儡のご指導もお願いします」

「え!?」

「チッ…まぁ良い、どうせ大人しくしてなきゃいけねぇなら碌な素材も手に入らねぇんだ…精々暇潰しになれ」

「えぇ!?」

 

 うん、角都さんサソリさんとも仲違いせずに済んだし、水月の修行期間が出来た…結果的に凄く良い形に纏まったというわけだ…あ、そうだ、トビさんに協力しないのなら回収した八尾の一部も提供する必要がなくなったのでは? 

 …やった! 

 

 密かに喜びを噛み締めているとどうやら小南さんの手配で雨隠れに拠点を移す事で話が纏まったらしい…偽雨が遺したこのアジトを去るのは少々負い目を感じるがここはトビさんの知る場所だ、袂を分かつ以上は仕方ない。

 むしろ、ここを戦場にしなくて済むと言えるのかもしれない。

 

 移動に伴いサソリさんと角都さんはそれぞれ傀儡や大金の入ったケースを纏めに取り掛かっており、水月や重吾さんも然程多いわけでないが準備に掛かる様子だった。

 

 私もサソリさん同様に荷物は多い方だ、早速準備に取り掛かるとしよう

 …あぁ、そうだ、それはそれとして鬼鮫さんにもこの事を話しておかなければ。

 最早暁という組織は完全に崩壊する以上鬼鮫さんも雨隠れの里に身を隠しておいた方が良いはずだ…トビさんに気付かれない様に気を付ける必要はあるが、何とか早めに接触しなくては。

 

 ものの試しに鮫肌の匂いがしないだろうかと鼻を鳴らすが当然ながら近くにはいないらしい、まぁ雨隠れまでの移動中に重吾さんや香燐さんに捜索をしてもらおう。

 そこで見つかれば最良、そうでなければ雨隠れで安全を確保した後に良い方法を模索しようと段取りを組んでいると小南さんが目の前に近づいていた。

 

「…ありがとう村雨」

「え? …いえ、サソリさんも角都さんも私の説得というわけでは──」

「そうじゃない、アナタのお陰で長門は最後の最後で踏み止まれた…彼に奇跡を与えてくれてありがとう」

 

 …私がリーダーさんに? 

 あぁ、そういえば最期に会った時にリーダーさんは自来也さんを殺さなかったと言っていた…そうか、リーダーさんがナルト君を信じると決めた以上あの時自来也さんを殺さずに済んだのは僥倖だったということか。

 しかし、それもただ私の主張や記憶がリーダーさんの思いと偶然噛み合っただけのこと──それを私の手柄だと感謝されるのは些かばかりくすぐったい。

 

「…アナタには返しきれない程の恩が出来た。…せめて、私に出来る事なら何でも言いなさい。刀造りにも協力は惜しまない」

「本当ですか!?」

 

 小南さんの言葉に思わず小南さんの身体を凝視する。

 ここに現れる際に見た人から紙へ、紙から人へと変化する特異な忍術…私や水月の水化の術に近しいが系統が近しいだけに性質の違いに興味が惹かれる。

 

 液体故に物理的な攻撃に強い私達の術と比べて小南さんの術は機動力に優れている様だった。

 紙であるが故に火や水に対して脆さがないかという点に不安は残るが、雨隠れで活動されているという事からしてただの水に対して弱いという事はないだろう…そして火に対しても"燃える"というのは使い方次第では利点になる。…仮に紙となり分散した一部が燃えて無くなってしまったとしても他の紙がある程度残っていれば全身を再構築できるというのならむしろ応用性が出てくるというものだろう。

 

 

 うん、やはり素晴らしい。

 他ならぬ小南さん自身から協力を申し出てくれたんだ、素直にお言葉に甘えてその特異な術をお身体をじっくりと調べさせて頂けないか頼んでみよう。

 

 

 

 

 

 

 ──いや…

 

 

 

 

 心の奥底から滲み出した欲求に突き動かされた瞳がギョロリと蠢いて、小南さんの後ろで無数の紙に包まれ浮かぶリーダーさんのご遺体を捉える。

 何度かお会いした橙色の髪の男性の姿ではなく真っ白な髪の痩せ細り、生前痛ましい程に衰弱していたのが見て取れる男性…リーダーさんの本体のご遺体に今なお確かに宿る輪廻眼…やはり最も優先するべきなのはそちらだろう。

 

 死者を冒涜するというのは好ましくはないがハレンチ博士から頂いた素材の山を思えば既に何度もやった事──何より忍の世界では常であるのも事実。

 むしろ折角の稀有な能力を文字通り死に腐らせるというのもあまりに嘆かわしい話だろう。

 私などが輪廻眼を譲り受けられる程リーダーさんにとって特別な存在などと思っているわけでないが、輪廻眼を最も有効に扱える技術を持つという意味では特別な存在であると胸を張って主張出来る。

 

 

 

 ──だから、その両眼は今度こそ私が頂こう。

 

 

 

 そう口にしかけた瞬間背後から鋭い手刀が脳天に放たれ視界が揺らぐ。

 思わず意識が飛びそうになるのを必死に堪えて後ろを振り返ると赤い髪を逆立たせ、悪魔の如き様相でこちらを睨む香燐さんの姿があった。

 

 

「お前今何言おうとしてやがった? やっぱウチの時の事反省してねぇよな絶対?」

 

 悪魔を彷彿させるとさせる圧倒的な威圧感と共に放たれた彼女の言葉は至極真っ当なご意見だった。

 マズい、私としてはその件に関しては深く反省しているつもりなのだが…しかし私が今口にしようとしていた要求は香燐さんにとってはその反省を疑わしく感じさせるものだろう。

 

 全ては身から出た錆…過去の自分の行いが自らの首を絞めているのだと真摯に受け止め、香燐さん及び小南さんにどうすれば悪印象を抱かせずに輪廻眼を要求できるのか、その方法を模索する。

 極めて難題だ…それでも私は諦めない!

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