霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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余談ですが最初期案では本作の主人公は男の子で名前も性格も全然別物でした。
今回はそんな初期案をボツにした人物がオリ設定付きで登場します(主に名前被りが原因)。



本戦準備

 謎のハレンチ博士と遭遇して数時間後──いや謎ではないな、元木ノ葉の伝説の三忍で現抜け忍の大蛇丸さんだ。まぁそれはともかく数時間後、すっかり日の暮れた頃に旅館に戻ると砂の姉弟もまた試験が一区切り着いたのか旅館の部屋に戻ってきていた。

 

 しかしその空気は別れる前以上にどこかピリピリと張り詰めた緊張感に満ちていた。

 ──この独特の空気感……この感じは恐らくだがこの中の誰か一人だけ試験に失敗したのだろう。それで後2人は気まずくて何も言えず場が凍り付いてしまったのだと推測できる。

 ……部屋に入って僅か3秒でここまで推測できる辺り我ながら中々なものだ。一楽の店長さんに勝るとも劣らない目利きが身についたのかもしれない。

 

 さて、こうなると後は誰が落ちてしまったのかだが……。

 

 まぁ順当に考えてテマリさんだろう。

 私の刀を大量に買ったのだ、カンクロウが下忍に負けるという事はまずありえない。

 我愛羅君も多分大丈夫だろう。

 だとしたらやはりテマリさんだ、別に彼女の力を過小評価しているわけではない。むしろ一般的な下忍と比べ彼女の得意とする風遁の忍術はかけ離れた強さを持っている。──しかしここは火の国の木ノ葉の里だ、恐らく火遁の性質変化の忍が多いであろうこの場でそれはむしろ逆効果だ。

 性質変化の相性はそう簡単に引っ繰り返せるものではないのだからこれは仕方のないことだ。そう言えば私達が使う水遁は土遁に相性が悪い上、水だけあって雷遁にも相性が悪いのだが、これは理不尽ではないだろうか? 

 やはり忍術などより至高の域までに研ぎ澄まされた刀を持つに限る! というわけで掛けるべき言葉は決まった。

 

「テマリさん刀要りませんか?」

「帰って来て一番にそれか!? というかこんな時間までどこほっつき歩いてた!?」

「……少し大人の世界を体感していた」

「何をしていた!?」

「おいテマリ」

「っ! ……村雨、とにかく今は大人しくしていろ」

 

 カンクロウの耳打ちにテマリさんが急に声を落とした。

 そして彼らの視線は会話に入っていない末弟の我愛羅君へと向けられていた。

 

「何かあった?」

「……今あいつは気が立ってるんだ、頼むからあまり今の我愛羅を刺激するなよ」

 

 カンクロウの言葉に少なからず衝撃を受けた。──まさか試験に落ちたのが我愛羅君だったとは。

 確かに私もアカデミーを卒業し下忍までには至った身だ、忍の世界の試験が厳しいことは分かっているがよもや彼ほどの実力者まで落ちようとはかくも厳しいものだとは……。

 とはいえ試験に落ちたのならばいつまでも引きずっていても仕方がないだろう。私も、造った刀が理想と乖離していた時などは、何もかもどうでも良いやという気分になることは確かだがそうして腐っていては先はない。

 

 ……まぁ、自分達は受かっていて受かっていない人に何かを言うのも難しいのだろう。彼らの代理として、部外者で身軽な私が力になるしかないだろう。

 

「我愛羅君、鉄は……そして刀は打たれる程に研ぎ澄まされ強くなる。人も困難に打たれる程強くなり……、……、来年頑張ろう」

「……何の話だ?」

「試験に落ちた人の話」

「何がしてぇんだテメェはっ!!」

 

 脳天に拳が振り降ろされた、凄く痛い。

 

「試験に落ちた我愛羅君に声援を送ろうと思った……。経験がなかったから話がちょっとまとめられなかった」

「ちょっとどころか全部投げ出してたじゃねぇか!? あんなもんただの宣戦布告じゃん!?」

「……というかそもそも誰も試験に落ちてないっての……」

 

 カンクロウの説教と共に聞こえてきたテマリさんの言葉に状況を理解する。

 どうやら早とちりだったらしくただ私の壊滅的な語彙力を披露しただけだった様だ……酷く恥ずかしい。

 しかし皆試験を突破出来たというのは良い話だ。

 

「おめでとう、明日は応援に行く」

「俺の話もちったぁ聞けじゃんこの刀馬鹿……あぁもう良い、相手すんのも疲れる」

「あと試験は明日じゃない、一ヶ月後だ」

「…………一ヶ月?」

 

 何やらおかしな言葉が聞こえた。

 本戦が一ヶ月後? これだけ待たされた挙句にまだ待たされるのか? 

 木ノ葉を巡って創作意欲ばかり刺激されていい加減鍛冶場に戻りたい、造りたい刀のアイディアが溜まっているし一楽の店長さんの包丁やカブトさんのメス等注文も色々入ったのだ。

 ──いや、それ以上に。

 

「前に泊まっていた旅館の宿泊費に行きつけのラーメン屋や団子屋、この民宿のお料理にその他色々出費が重なってこれ以上は厳しいのに……」

「俺らが試験で命賭けてる間に随分食旅行楽しんでるじゃん……」

「砂の国より環境が良いからご飯が美味しい」

「挙句に他人の故郷に喧嘩売ってきやがった……」

 

 そうは言われてもカカシさんから頂いたお代もつい食べ歩きしながら刀の情報や良い素材を買ってを繰り返すので既にほぼ無くなったしこのペースだと今日のカブトさんから受け取ったお代も一瞬でなくなる。

 せめて自作の刀をもっと売れれば収入も見込めるが用意した忍具屋の物も売り払っておかなければ言い訳の材料が無くなってしまう。

 

 生活費が既に危うく、刀を造れない事で精神安定もかなり危うい。

 何とか解決しないと取り返しのつかない事になりかねない……ちなみに一度里に戻るという選択肢はなしだ、無駄に砂漠を往復する回数など絶対に増やしてなるものか! 

 

 そう決意しつつ一日を終える。

 明日には少し危険な行動を起こさねばならないかもしれない。そんな算段を付けながら眠りに就くのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

「という訳で鍛冶場を使わして頂きたいのですがお力添え頂けませんか?」

「色々疑問はあるけど何で俺の居場所分かっちゃったの?」

「……? 上着のポケットの中の巻物に収納されてらっしゃる『大刀・鰐喰い』の匂いで分かります」

「嘘でしょ……え、ホントに?」

 

 翌日の早朝、テマリさん達に見つかる前に旅館を抜け出してから数時間後、カカシさんを見つけて交渉を持ちかけると困惑したような声が返ってきた。

 ちなみに基本的に睡眠をとらないという非健康家の我愛羅君には気付かれたが、特に会話も何もなくここまで来ることができた。

 

 一ヶ月も刀を打てないなど冗談ではない。さりとてここまで来て中忍試験を見ずして砂の里に戻るというのも面白くない。ならばやる事は一つ、木ノ葉の里の鍛冶場を間借りさせてもらう他ない。

 そのためにも上忍であり、他里まで名を轟かしていることから顔が利くであろうカカシさんに仲介してもらうという手段を望んだのだ。

 ──そして木ノ葉の里に来て思い付いたアイディアを基に造った刀であれば売ってしまっても"砂の里の刀匠としての私"が他里の者に刀を売ったことにはならない!……うん、実に苦しい言い訳だ。でも実際もうカカシさんに売っちゃった訳だし、言い出したらもう既に取り返しがつかないのだ。然して気にする事もない。

 

「うぅん、とは言えねぇ……他里の君にホイホイ木ノ葉の施設を貸し与える訳にはいかないしなぁ」

「この場で造った刀は全てこの里で売買します! もしも売れない物があった場合木ノ葉に無償でお渡し致します! 決して砂の里に持ち帰りは致しません!」

「……それ言っちゃうと君の刀は絶対に買わないように根回しだって出来ちゃうんだが?」

「それは……構いません。例えそうであっても買わずにはいられない刀を造るだけですので!」

「──つくづく……大した職人気質だねぇ……」

 

 カカシさんは目を閉じて顎に手を置く。熟考して頂けていると考えて良いのだろうか? 

 暫くの沈黙の中、カカシさんの答えを待っていると、やがてカカシさんがゆっくりと目を開いた。

 

「じゃあ俺がどこかの鍛冶場に口添えするから、報酬に刀を一本造ってくれないかな?」

「構いませんがどういった物をお望みですか? また教え子さんの物ですか?」

「ま、そんなとこかな。そうだ、前に団子屋で話してた雷遁の刀、アレがいいかな」

「承知しました、ご期待以上の物をお渡しする事を約束します」

 

 想像以上に都合良く話が進んだ。

 何とも有難い話だ。カカシさんと最初に会った時には諸々のやり取りの結果、恨みに近い感情を抱いてしまっていたが今では最早足を向けて寝れない。そんなことを思いながら、「そうと決まったら早速行こう」と言うカカシさんの後を付いていくのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 カカシさんに連れられたまま里を歩いているとやがて目に付いたのは小さな鍛冶場。

 景観からして人の出入りはあるが鍛冶場としてはもう何年も使われていない様だ。

 ──そしてカカシさんから連絡を受けてやって来たパッと見たところカカシさんより少し若い男性、目と鼻の間に巻かれた包帯が特徴的な人物だ。

 

「や~急に呼び出してすまないねコテツ、一応先伝えといたけど彼女に一ヶ月ほど鍛冶場を貸して欲しくてね」

「別に構わないですけど暫く使ってないですからね、道具は一通りありますけどまだ使えるかは分かりませんよ?」

「整備は慣れているのでご心配なく、不躾な願いではありますがどうかお願いします」

 

 話しからしてコテツさんという方がこの鍛冶場の所有者なのだろう。

 最初の印象を損なう訳にはいかないと大きく頭を下げる。

 

「はは、まぁ一応俺が継いだ鍛冶場ではあるけどこの通り忍が本業でね、碌に使ってねぇから好きに使ってくれや」

「ありがとうございます!」

「良かったね、それじゃ、俺はこれで失礼するよ」

「はい! ありがとうございましたカカシさん!」

 

 片手を振りながら去って行くカカシさんの背に向かって頭を深々と下げる。要望の刀は何としても最高品質に仕上げお届しよう。

 

 続いてコテツさんに先導されながら鍛冶場の中に入る。

 使っていないとは言っていたが埃っぽい訳ではなくある程度の手入れはされている。何より外見の小ささに比べて内装は立派なものであり少なからず驚く。

 

「流石に型は少し古いですが良い道具が揃っていますね……これ程充実していて何故使わないのですか?」

「まぁ……元々ここは親父が使っていた鍛冶場だったんだが……俺が技術を教えてもらう前に逝っちまってね、売っちまおうとも思ったんだが……どうにも気が引けて使えもしねぇのに形だけ残してんだよ」

「その様な場所を使わせて頂いて良かったのですか?」

「むしろお陰様でやっと親父の奴も浮かばれるってもんさ、遠慮せずに好きに使ってくれや」

「……感謝します」

 

 コテツさんの言葉に深く頭を下げると鍛冶場の設備を1つ1つ確認する。

 致命的な損傷などは一つもなくすぐにでも作業を始める事が出来そうだった。

「それでは早速お借りします」と断りを入れ、鉄や術式用の巻物、愛用の鎚など道具一式を並べるのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 村雨をコテツに任せその場を後にしたはたけカカシは今なお入院が続く自身の部下、うちはサスケが退院した後に予定している修行の準備を進めていた。

 性質変化を調べる為の感応紙を一枚手に取り力を込めると紙全体に皺が入る。

 

(俺の勘じゃサスケも恐らく火以外に雷の性質変化を持っている──だから……)

 

 自身の代名詞たる忍術『千鳥』の伝授。

 大蛇丸に目を着けられた彼にせめてもの自衛の手段、そしてかつて全てを奪われた彼がやっと得ることのできた大切な者達を守る為の力を与える為にそう考えていた。

 

 そんな折りにあの刀匠の少女と会えたのはある意味幸運であった。

 力を望めば大蛇丸の呪印が彼の身体を蝕む。いざというときに何かしら強力な忍具があればそんな物に頼る可能性も少しくらい減るだろう。

 忍術、忍具どちらであっても彼に呪印以上に頼れる物があるならば或いは──そう思い彼女に刀を依頼した。

 

 ただ、懸念があるとすれば……

 

(とんでもない物が来なければいいが……)

 

 ないとは思うが、流石にないとは思うが……呪印以上にとんでもない物が届いたとしたら──いや、考えるのは止そう嫌な予想というのは総じて的中してしまうものだから。

 妙な胸騒ぎに頭を抱えながらも流石にそんなことはないだろうと結論付け今なお入院中の部下の退院を待ち愛読書に耽るのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 木ノ葉の里内の鍛冶場、そこを貸し与えた少女が造り上げた刃にコテツは戦慄する。

 研ぎ澄まされた刃は眩い輝きを放ちそれが並々ならぬ切れ味を誇るのだと主張する。

 

 自身の父が健在だとしてこれ程の物は絶対に造れないだろうという確信を抱かせる。──抱かせる……のだが……

 

「何で包丁!? カカシさんの要望は刀だったぞ!?」

「こちらは一楽の店長さんのものです! 焼豚やネギ、麺、その他あらゆる食材を形を崩す事なく完璧に切る最高品質の業物です! ──早速明日にはこれを届けてこの包丁で造った最初の一杯を……」

「何この食旅行ガチ勢!?」

 

 わざわざ他人の家の鍛冶場を借りてまで作品を造りたいという少女に鍛冶場を貸してよもや最初に造るのが包丁とは思わなかった。

 何やらカカシさんが『雷遁の刀』とか言ってたからきっと凄い物が造られるんだろうなと思って楽しみにしていたらこの結果、コテツは意味がわからなかった。

 

「お前刀造りに来たんじゃないのか?」

「いえ、ただカカシさんの依頼より先に包丁を造る事を約束していたので……今のところ他の依頼は要望の切れ味やサイズを聞けていないので次はカカシさんの依頼に取り掛かります」

「上忍の依頼よりラーメン屋の店長の依頼を優先する事自体よっぽどだっての──ってぇ何故そこで寝る!?」

 

 依頼に取り掛かると言いつつ周りの道具を退けて空きスペースを造ったと思ったらのそのそと身体を横に寝転がる少女に何事かと問うと視線だけこちらに向けて答える。

 

「『雷遁刀』を造るからにはただの業物程度の物は造りたくもないので……ただあまり良いアイディアもないので……悩んでいます」

「そこで寝るな! 鉄粉やらで汚いし危ない!」

「慣れているので大丈夫です……それに刀造りで出た鉄粉にまみれるのは好きです」

「意味分かんねぇ! というか今日会った相手の前でそんな無防備になるな! はしたない!」

 

 村雨は着ていたつなぎ服の上半身部分を降ろし腰に巻き付け薄い肌着を露出させている。

 鍛冶で熱が籠ったのだろうがあまりに無防備極まりない。

 まったく、もしもこんなところを見られたら自分がどう思われるか──

 

「おーいコテツ、そろそろ飯食いに行くんだが一緒にどうだ──えっ?」

「イ、イズモ!? 待て! 誤解だ!!」

 

 嫌な予想というのは何故的中してしまうのか。

 気が付けば自分の相棒とも言うべき幼馴染のイズモがドアを開けて入ってきた──そしてその顔を凍り付かせていた。この後数十分に及ぶ必死な説明を行いながら、それをまったく意に介さず自身が生み出さんとする刀を夢想する少女を一ヶ月もの間面倒を見なければならないのかと、カカシさんからの依頼を聞き受けた事を僅かに後悔するのだった。

 

 

 

 そしてその予感は的中しコテツ、そして彼の道連れでイズモの2人は村雨の奇行と試作の雷遁刀のテストに巻き込まれ実に過酷な日々を送ることになるのだった。

 ──唯一彼らにとって救いと言えるのはせめてものお礼として村雨から刀造りの技術を教えられ自分達でも折角の鍛冶場を多少は使えるようになったことぐらいだろうか……

 

 そうして2名の尊い犠牲の下、村雨は中忍試験本戦の日を迎えるのだった。

 

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