例え組違い賞が当たってたとしてもPCの方が高いということに気付くべきだったと300円を受け取ってから思いました。
刹那的な生き方は良くないなぁ…
トビさんと直接的な繋がりがあることを明かした鬼鮫さんから語られる彼らの真の目的、空に浮かぶ満月に写輪眼を投影し人類全てに幻術を掛ける規格外の計画…その名も"月の眼計画"。
全て人間はトビさんの幻術の管理下に置かれ、その代わりに世界からは争いも偽りも、絶望さえも消えてなくなるのだという。
果たしてそれは善と讃えられるのか、悪と断じられるのか、計画のあまりの壮大さ自体に戸惑う今の私の脳ではその判断など出来るはずもない。
ただ分かることはこの"月の眼計画"が成されれば誰もが己の理想に沈む平和の世界が訪れる…正しく夢の世界が切り拓かれるということだ。
──だが…
「その、正直…意外でした、鬼鮫さんがこんな世界全てを揺るがすようなことに賛同されるとは。勝手な認識ですが鬼鮫さんは戦闘を楽しむ一方で手堅く、冷静な線引きをしている印象があったので」
「柄ではないとは思っていますよ…しかしそれを言うなら貴女はどうですか? ペインさんの理想そのものには然程でも、その壮大さには感動していたでしょう、ならこの計画も貴女好みの大計画では?」
「…そうですね」
鬼鮫さんの言葉に目を閉じてこの"月の眼計画"について先程明かされた情報を改めて脳内で反芻する。
世界中の人間全てに幻術を掛けるというその計画の果てしない大きさは実に好みだ。
それにどんな願望さえも叶う理想の世界の夢を永遠に見れるというのも決して悪い話ではない。
自らの手で実現が可能な夢ならばともかく、最早叶うことのない願いを抱える人を私は何人も見てしまった。
例えば重吾さん。
彼は突発的に湧き出る殺人衝動に苦悩し続けている…今でこそ殆ど制御出来るように見受けられるがそれでもやはり力を使えば荒々しくなってしまう、その苦悩から解き放たれるとしら?
それに何より彼は君麻呂さんという親友を亡くしている…もしも夢の世界で再会を果たせるとしたら彼はどう思うのだろう。
そしてそれは何も重吾さんだけではない。
カブトさん、小南さん、サスケ君、この忍の世で大切な人を失った人は何人もいる…一応水月も兄である満月さんを失っている身ではあるが…まぁ本人もそこまで気にしていないから除外していいだろう、あとは…変わったところでは角都さんもだろうか?
何だか対抗意識を持っているらしき亡き初代火影様にリベンジする機会を得られるのは望むところかもしれない。
彼らのような叶わぬ理想を抱える人達ならばこの計画に一体何を思うのだろうか…少なくとも私は──
「素晴らしいと思います! この計画が実現すれば数多の実力者達が幻術により無防備無抵抗に…素材の取り放題! 正しく私の夢の世界が実現するということ!」
「…は?」
「あ、でも素材はとれても秘伝忍術の様な特異な能力については本人にその特性教えてもらえないとアプローチのしようがない、素材だけが手に入っても…」
幻術に掛けて相手の持つ情報を吐かせるのは忍世界の常套句だがあくまで理想の世界の夢を見る人達に質問をしたところで望んだ情報は得られるのだろうか?
それに世界全ての人が幻術に掛かっては私の衣食住が…それどころか刀造りにしても鉄の調達が採掘から自力ですることになってしまう、それはそれで楽しそうだが幾らなんでも無理が…
「あれ、世界全ての人が? …なら私も幻術に掛かるのでは?」
「むしろどうして自分は掛からない前提で考えているのか理解不能でしたよ」
「つい術が成立した場合の利点ばかり考えてしまって、恥ずかしい」
あまりにも単純な見落としをしながらあんなに盛り上がってしまうとは…だがそれならば話は早い。
「そういうことならば協力はしかねます、残念ですが」
「そういうとは思ってはいましたがね、一応理由を教えて頂いても?」
「どんな理想も叶う夢の世界…それはきっと優しい世界なのだとは思います。けれどそこに成し遂げることの喜びはない、準備も知識も技術も必要なく作品を創り上げたところでそれを愛することなんてきっとできないと思います」
「貴女らしい考えだ。しかし本当に良いのですか? 夢の世界ならばどんな素材とていくらでも思うがままに扱える…この世界でどれ程素材を準備をし、知識を集め、技術を高めても到底造り得ない最高の刀を造れるでしょうに」
確かにそうだ。
この忍の世には既に歴史の中に葬られ記述にしか残っていないものも数多い、きっとそれらはこの世界でどれ程頑張っても手に入らないのだろう。
この先どれだけ私が大成しようとも夢の世界で私が造る作品に勝る物は造れないのかもしれない。
「…それでもこの世界で挑み続けたいんです。成し遂げたいだけじゃない、見果てぬ高みへ挑戦し続けることこそが刀匠としての私の生き方です。それに──」
手元の小石を拾い上げて眼前に突き付けられたままで止まった鮫肌の切っ先を通り抜けると座り込んでいた岩から川へと降り、頭上の月へと視線を移す。
「昔、私の尊敬する人物が言っていたんです。動いている物を見るのは面白い、止まっているとつまらないと…」
それを語っていた時あの方がどんな心境だったのか…その言葉の真意が私と一致しているのかは今でも分からないが、それでも今は私もそう思う。
頭上で静かに輝く月からゆっくりと視線を降ろし、目の前で歪にぼやける光へと目を向ける。
夜風に揺らぐその光に向かって先程拾った小石を水切りすればパシャパシャと水面を跳ねた小石は光の中心で沈み、青白い光の輪を水面に走らせた。
「空に浮かぶ月をただ見上げ夢の世界に留まるなんて、どれだけ綺麗なものであってもつまらない。風に吹かれるだけで小さく揺らぎ、小石を1つ投じてあげれば激しく波打つこの"水に浮かぶ月"を見つめ、動かしたいと…今は思います」
「それが、貴女の答えですか」
徐々に小さくなっていく波紋を一瞥すると鬼鮫さんはそう言ってこちらを見つめる。
その目はどこか諦観を宿してる様に見受けられ、私の考えが揺らぎないということを確信しているのだとはっきりと分かった。
「…ごめんなさい。でも、鬼鮫さんは一体夢の世界に何を望むのですか? 何か取り返しのつかないものなのですか? ただ得難いだけのことならば私も皆さんもきっと協力を──」
「いいえ、もう結構」
その言葉と共に鮫肌の柄を握る手に更に力が加わった。
その意味を今更考える必要はない、咄嗟に敢えて前方に飛び退いて鮫肌の振り下ろしを避けて、転がる様に元の岩に着地する。
私の考えが揺らぎないように、鬼鮫さんもトビさんの計画への賛同を変える気はないのだろう。
互いの主張は完全に対立した、ならば私と鬼鮫さん…2人だけのこの場でこうなることは必然──鬼鮫さんは私を殺すつもりだ。
鮫肌の振り下ろしで巨大な柱の如く打ち上がった水飛沫に目を凝らしつつ岩影に隠しておいた"閃刀・黄華"を手に取る。
念のため先行している水月達に預けておいたもう一本の下へこれで一瞬で飛べる。
鬼鮫さんとまともに戦って勝てるはずもない、それに偶然だろうと彼らの本当の計画を知ってしまった以上皆に伝えなくてはならない。
残念だが、こうなった以上もう鬼鮫さんの勧誘は不可能だと判断し刀身にチャクラを流した瞬間、水飛沫の中から鬼鮫さんが鮫肌の突きと共に飛び出してくる。
鮫肌は状況に応じ伸縮、屈折などその形態を変化させるが…もうチャクラは溜まった、こちらの時空間移動の方が一瞬早い。
そう思った直後鮫肌の切っ先の口が上下に割れ、その内側から巨大な人影が吐き出された。
(──あ…)
それに気付いた時には全てが手遅れだった。
水飛沫の中で水分身を作り、その分身にオリジナルが内側に潜んだ鮫肌を握らせたのか…
仮に鮫肌を含めて水分身を作ったのならば刀の気配で真偽の判断も出来たのだが鬼鮫さん本人の感知は私には出来ない…。
一手遅れた私は鮫肌の中から飛び出した鬼鮫さんに首を掴まれそのまま背中から地面に叩き付けられた。
ゴツゴツとした石だらけの河原の地面に倒された痛みと衝撃で"閃刀・黄華"も手から離れ僅かに離れた場所に落ちて重い音を奏でていた。
「あ…ぐ…」
激しく頭を打ち付けて頭から血が流れるのを感じるがそんな事を気にする余裕もない。
鬼鮫さんの次の手がくる前に水化の術でこの首を掴む手から逃れなくては──
(あぁ…駄目か)
しかしそれをするよりも早く鬼鮫さんの背後から投げられた鮫肌が仰向けに倒れる私の身体の上に落ちてきた。
身体に触れる刀身にチャクラが一瞬で吸い上げられて意識が朦朧としていく。
水化の術は使えない。
閃刀・黄華も拾えない、何とか拾うことが出来たとしても時空間忍術を使うだけのチャクラは残らない…手詰まりか。
「…え?」
打つ手なし、それでも何か手はないかと模索していると鮫肌が鬼鮫さんに持ち上げられて身体から離れる。
チャクラが吸われる苦しい程の脱力感も首を掴まれることもなくなったのは助かったが一体どういうつもりなのかと鬼鮫さんを見上げる。
「私を、殺さないのですか?」
「…言ったでしょう、私も貴女を信じてみましょうと…何故私が貴女に計画を話したか分かりますか? 貴女ならきっと我々の計画に賛同してくれると思ったからですよ」
「…?」
計画に賛同してくれると思ったから?
確かにそれで計画を明かすだけなら分かるが私はさっきその計画を拒否したからこうなっているのでは?
「確かに今の貴女は我々の計画に興味を持たないでしょうが──」
淡々と言葉を続けながら鬼鮫さんは鮫肌の口の中に手を入れて中に収納していた一本の刀を引き摺り出した。
"試作・叢雲"…昔私が鬼鮫さんに渡した特に仕掛けもなく、切れ味のみに特化した作品。
尤もそれも当時の私の中での話、今見ればまだまだ拙いところのあり、思い出の一作として愛でるならともかく常用されるなら造り直したい刀だ。
敢えて鮫肌ではなくその刀で一体何を──真意を図りかねた私に、その答えはすぐに訪れた。
無言で振り下ろされたその切っ先は私の右腕に突き刺さりブチブチと筋肉、神経が断ち切れる酷く耳障りな音と嫌な感触が襲ってきた。
それはまるで未来へ繋がる糸が切られたかのような感覚で──痛みは遅れてやってきた。
「う…ぁ…あ"あ"あ"あ"あ"!?」
「──こうすれば、少しは考える余地も生まれるでしょう?」
喉の奥から吐き出された掠れた叫びが鬼鮫さんの言葉を埋もれさせる。
現実を受け入れることを本能が拒否し右腕に力を入れるが激しい痛みが走るだけで腕は上がらず指先が僅かに震えるだけ…それはかつてない程の絶望だった。
「なんだ、まだ少し動くようですね…なら」
「っ!? い、いや!」
腕に突き刺さった"試作・叢雲"の柄を握り恐ろしい言葉を口にする鬼鮫さんの意図を今度ははっきりと理解し声を震わせるが、一切の抵抗の出来ないままその刀を引き抜かれ、今度は僅かに震える右の掌に深々と突き刺された。
「ぁ…あぁ…」
「ふむ…右腕はこれでもうよほどの医療忍術でもなければ使い物にならないでしょうね、まぁ貴女なら片腕でだって今まで通り生きてみせようとするやもしれませんし、念のために──」
「ぅう"う"──あ"あ"っ!!」
右の掌から"試作・叢雲"を引き抜いて次に左腕に視線を移す鬼鮫さん、その一瞬の隙をつき、僅かに残ったチャクラで左手から傀儡糸を伸ばす。
「なに!?」
傀儡糸を繋げるのは私の壊れた右の腕。
血に塗みれた右腕を傀儡糸で無理やり振り抜いてその溢れる血で鬼鮫さんの両目を潰すと同時に痛みによって脱力感がなくなった身体を強引に跳ね起こす。
「あ、あは、ハァ…ハァ…あはは…」
やった。
傀儡糸でならこの腕だって動かせる。
鬼鮫さんの言う通りだ、左腕だけでだって今まで通り生きてみせるつもりだし右腕だってやり方次第で動かせる。
諦めなんかするものか…
咄嗟の目潰しに両目を擦る鬼鮫さんが動き出す前に河原からすぐ傍の森へ向かう。
水化の術が使えない以上川に流れたところで鬼鮫さんにはすぐに追い付かれる。
ならば茂みに隠れてポーチの小瓶に入れた"選栄蛇酒"で仙人化し、その感知能力で水月達と合流する。
そうすれば…香燐さんの能力で傷の治癒だって出来る。
右腕だってきっと元通りに…
痛む身体を必死に動かしながらそんな可能性に縋るが、突如目の前の空間が歪む。
それは激痛や出血による視界の霞みなどではない、その言葉通り空間が歪んでいるのだ、そしてそれは既に見たことのあった。
「俺の手で片をつけるつもりだったのだがな、すまなかったな鬼鮫」
「まぁ危うく逃がすとこだったし、むしろ間に合って良かったかな?」
「…まさか貴方達も来るとは、それこそ私だけでケリをつけようと思っていたのですがね」
目の前に突如出現したトビさん。
その傍らからの地面からゼツさんも生えてきて…背後の鬼鮫さんももう目の血を拭ったのか鬼鮫さんも平常な調子で受け答えをしている。
試しにもう一度だけ右腕に力を入れてみるが二の腕だけでなく掌も貫かれ、もはや指もまともに動かない。
それにさっきの傀儡糸でチャクラももうほぼ空だ…今度こそどうしようもない。
ズキズキと絶え間なく響く右腕の痛みが呼び覚ますのは古い記憶だ。
──外の世界に目を奪われるのは分かるが目に映る全てのものが己の糧になるとは限らない。
──刀造りを何よりも尊ぶのは良いが、その過程で他者の道を踏み躙ることの意味をよく考えておくことだ。
かつて、おでんの屋台で自来也さんに言われた言葉が、偽雨の活動記録に残されていたイタチさんからの忠告が脳内に蘇る。
…あぁ、そういえばそうだった。
ハレンチ博士とは不思議と仲良くなれたから忘れてしまってたけどずっと無茶していたのかな?
サソリさんや角都さんの勧誘が何故か上手くいったからかな…昔馴染みの鬼鮫さんのなら多分なんとかなると思っちゃったのかな?
許してもらえたけど…香燐さんの腕を一度斬っておいて自分の時は治してもらおうなんて勝手だったかな?
今になってそんな事を次々に考える。
どれも今になってはもうどうしようもないことだが…もっと早く気付いていたら何か変わったのだろうか、そうだとしたら残念だ。
…残念といえば、ハレンチ博士と次に会えたら"十拳剣"を譲って貰えるという話だったけれど、あれももう叶わないのかな?
「…やだなぁ」
最後にポツリとそう呟いた直後、急激に意識が遠退いていく。
トビさんの写輪眼の幻術に掛けられたらしい…すぐに殺さずにそんなことするとは…小南さん達と戦う際に私を人質する気だろうか?
それとも何か情報を得ようとしているのか…どちらにしても自決してでも防がなくてはいけないが…どうやらそんな抵抗も果たせないようだ。
意識は──完全に途切れてた。
▼▼▼
「やれやれ、こんな小娘にここまで手を焼かされたとはな」
幻術を受けて右腕からドクドクと流れる血にさえ気に止めず呆然と立ち尽くす小娘──渦柘榴 村雨の姿に思わず自嘲気味に笑ってしまう。
この小娘の影響で裏切る可能性自体は考えてあった長門、小南どころかサソリと角都までもが離反する想定外の事態になった。更には関与があったのかは不明だが、或いはうちはサスケの行動も…。
本当に舐められたものだ。
本腰を入れて処理に臨めばうちはの瞳力1つでこんなあっさりと片がつく小娘1人にだ、もはや自分の方が間抜けに思えてしまう。
だがそれももう終わりだ。
"月の眼計画"発動の為の最後のピースを返してもらうとしよう。
「さて、渦柘榴 村雨…貴様が回収した八尾の一部…あれは我ら暁のものだ、死ぬ前にそれを返してもらおう。それとも小南辺りにでも預けたか? 今はどこにある?」
幻術に掛けられた以上、最早この小娘に抗う術はない。
ゆっくりと唇を動かして言葉を紡ぐ…さぁ八尾の一部は今どこに──
「土影様にあげちゃった」
舐めんなよ小娘!?