霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

115 / 153
被害者の会(欠席多数)


狂人被害者の会

 五大里を率いる影達が集う五影会談。

 名立たる者達が集うこの場は決して穏やかな話し合いで済むはずもなかったが、今は彼らにとっても想定とは異なる意味で重苦しい空気の中最初に水影が口を開いた。

 

「渦柘榴 村雨は忍刀七人衆の持つ刀を作成した一族の末裔であり、その血を色濃く引いた天才児でした。性格は向上心が高い努力家…ただし政に一切の関心がなく突発的な行動を起こす事も多々ありいつしか『狂人』とまで称されるようになった。その異名に違わず3年程前の里抜けも計画性のあったものではなく父との言い争いの果ての家出の様なものでした」

「計画性がないだと…ならば簡単に連れ戻せるはずだ、何故貴様らはそうしなかった!?」

「それは…」

「砂漠を彷徨っていた奴の持つ刀を見て、当時里の軍縮を危惧していた先代の風影が砂隠れの里に迎え入れる判断をした。──本人が砂隠れの傀儡技術に興味があり更に里抜けで立場もない事から利用し易いと踏んだのだろう」

 

 エーの追及に口籠るメイに代わり我愛羅が先代の風影を考えを明かす。

 

「里抜け直後にまともな準備もなく砂漠に入る自殺行為のせいで結果的に追跡を躱した上に砂隠れの里に所属した事で霧の忍から完全に身を隠したという事だ」

「余計な事をしてくれたものだな」

「あぁ間違いなく父の判断ミスだ、だが今は話を進めるぞ。奴が砂隠れに所属して半年程後…木ノ葉の里の小隊が桃地 再不斬を倒したという情報が入ってきた事で奴は桃地 再不斬が持つ首斬り包丁目当てに木ノ葉へ向かった…その目的自体は失敗だったそうだが近く行われる中忍試験を見物しようと木ノ葉に留まることを選んだ」

「3年前の木ノ葉の中忍試験…それは確か」

「大蛇丸による三代目火影暗殺、木ノ葉崩しが起きた日だ」

 

 エーから向けられた視線を真っ直ぐに受け止めて綱手は応える。

 当時は里を離れていた綱手は火影となってから目を通した情報を口にする。

 

「あの娘は大蛇丸と三代目の戦いの場に偶然居合わせ、撤退する際には棺桶に押し込まれて拉致された…と、見ていた者は認識したらしい」

「待て、何故大蛇丸と火影の戦いの場に偶然居合わせる!」

「知らん、どうやったかは知らんが中忍試験会場の物見やぐらに隠れていたらしい」

「言っておくがあの女の経歴には常に偶然が取り巻いてくる、それに突っ込んでいたらキリがない、せめて全て終わってからにしろ」

「どういうことだ!?」

 

 至極真っ当な意見を述べるエーだったが綱手、我愛羅からあっさりとスルーされて絶句する。

 

「とにかく、その時は拉致されたと思われてた村雨だがその後大蛇丸と結託したのか何度も私たちの前に顔を出した、てっきり奴の配下になったものと思っていたが…」

「少し前、俺が人柱力として暁に一度拘束された時に、暁の二人組に混じってあの女の姿が確認されていた」

「どういう事じゃぜ? 大蛇丸と暁はとっくに決裂していたはずじゃぜ?」

 

 正確な時期こそ不明だが少なくとも大蛇丸と暁の関係が破綻したのはそんな近い頃の話ではない、だとすると暁の砂隠れ襲撃の時期とは合致しない。

 

「分からない。その砂隠れの一件の後でさえ渦柘榴 村雨とは大蛇丸のアジトでも遭遇し、暁のメンバーと同行している姿も確認している…対立しているはずの大蛇丸、暁、その両方との関係を築いているんだよあの女は」

「もしや…その村雨という少女が何らかの手段で大蛇丸と暁の間を取り持ち、再び手を組ませたと?」

 

 考えにくいがそれまでの情報を加味するならばとミフネはそんな仮説を半信半疑で口にするが綱手は静かに首を横に振る。

 

「いや、そうとも言い難い。天地橋でうちの小隊が大蛇丸と戦った際には居合わせた暁のサソリと大蛇丸が戦ったと報告があった、つまり大蛇丸と暁の関係は決裂したままと見て良い。だから状況的にはむしろ──」

「大蛇丸と暁、両方を都合よく利用しているというのか!?」

「あくまで可能性だ、それにどうせその通りだったとしても本人はそこまで考えていないはずだ」

 

 ある意味ではここまで五影会談を混乱させる相手を軽んじる綱手の発言にメイと我愛羅は無言で頷く、それほどまでに3名の中で村雨の計画性に対する評価は低いものだった。

 そのちぐはぐな評価が村雨との接点が少ないエー達を尚更困惑させる。

 

「えぇい! そいつと大蛇丸や暁の関係が分からんのならばそいつの目的は何だ!? ろくでもない連中と関わって何をしているか少しも掴んでいないのか!?」

「目的は明白…作品を造る事です。かつて名を馳せた忍刀七人衆の刀さえも上回る究極の作品を造ること、彼女の目的はそれだけです」

「作品造りで里抜けか…どこぞの青二才を思い出すわい。で、その成果はあったのか?」

 

 オオノキの問いに我愛羅、メイ、綱手は一斉に渋い顔を浮かべ順番に口を開く。

 

「俺が戦った時は人の顔が打ち上がる爆発刀を造って自爆した…」

「私の部下達が交戦した時には白米の匂いで幻覚を掛ける刀を」

「うちの小隊の報告では…巨大傀儡に乗って空を飛んだとかどうとか…」

「…念の為聞いておくが貴様ら示し合わせて適当な事を言っている訳ではないだろうな?」

「疑う気持ちは分かるが適当な話をするにしても私達からそんな愉快な話が出てくると思うか?」

「ぬぐぐ…」

 

 頭の痛くなる情報に半ば現実を直視するのを避ける様に問いかけるも容赦なく圧倒的な根拠を突き付けられた事で小さく唸る事しか出来なくなったエーに最早全員が同情的な視線を向けだす。

 

「理解し難いとは思うが全て事実だ、そしてそんな奇抜な発想で的確に逃げられているのもな。雷影、確かにアンタの言う通り奴をここまで好きにさせているのは対峙した上で出し抜かれた俺達の責任だ」

「うむ、聞く限りでは破天荒な行動に意識が奪われそうになるが今までの話をまとめるとその少女は実に巧妙に組織を立ち回っているのは事実…霧の里を抜けて同格の砂の里へ取り入り、砂の同盟国である木ノ葉へ…そこから悪しき者達に降り更に知識と力を貪る──里と里、大蛇丸と暁…各組織の力関係や時代の流れを読んでその隙を大胆についた正しく狂人の所業と言えよう」

 

 果たして力関係や時代の流れを読んでいたかは定かではないが概ね間違いではないし指摘していてはまた話が拗れるばかり、村雨を良く知る者達はミフネの評価に小さく頷く。

 

「しかし、だとするならば土影様がその村雨という少女から八尾の一部を押し付けられたという話も信憑性が出てくるが…その場合彼女は既に暁を抜けたという事になる、そして──」

 

 これまでの村雨の行動で既に頭痛に苛まれていた彼らにその言葉はあまりに耐え難いものだった。

 自分達で奪っておいて八尾の一部を土影に押し付けるという暴挙…最悪雲と岩で戦争を起きる可能性もあった事を思えば到底許されざる事だ。

 

 だが、それはそれとして土影の情報が確かならば村雨は暁を抜ける際に他のメンバーを連れていた。

 土影の目撃証言と今まで遭遇した木ノ葉の情報を照らし合わせればサソリと角都、小南、そして元はサスケが集めていた"蛇"という小隊のメンバーだ…彼らが皆強者ばかりなのは交戦した木ノ葉が良く知るところだ。

 

 そのうち小南に関してはナルトとの対話で暁と袂を分かつ意思を口にしていたが他のメンバーは間違いなくこの先戦わなければならなかったはずの者共だ…そんな彼らを引き抜いて暁の戦力を大きく削いだとなればその貢献はあまりに大きい…が、色んな意味でそれを認めたくはない。

 

 こっちが暁掃討に散々苦労しているというのに好き勝手立ち回った結果暁の一部メンバーを引き抜いて独立するという理不尽さは勿論、その目的も今後起こすであろう行動も決して平和的なものとはかけ離れている事は想像に難くない。

 

 結局のところ村雨一行の暁脱退など究極的には罪人同士の戦力争いに他ならない…こんな事で彼女が振り撒いた混乱の罪は帳消しなどなるはずがない…ただ問題は──

 

「──そして、暁のリーダーがうちはマダラであるという彼女からの情報もまた信憑性が増すという事になるのだが…」

 

 問題はそれまで誰も知る由もなかった極めて重大な情報を寄越してきた事だ。

 

 勿論作り話の可能性も考慮した、しかし暁のメンバーの中には写輪眼を持つ何者かがいる事も木ノ葉の小隊がうちはサスケ捜索の任務で確認していた…その男の正体がうちはマダラならば村雨の情報と合致する。

 

 当然、うちはマダラが生きている可能性と比べると別のうちは一族の生き残り、或いは写輪眼を何らかの方法で手に入れた者がいたという可能性の方がまだ高いが、仮にマダラの生存が真実ならば未曾有の危機となる…決して捨て置くことは出来ないこの情報を五影会談が始まる直前に与えてくれた、それはあまりに大きな功績だ。

 

「…あのうちはマダラが生きているなど本当にあり得るのでしょうか?」

「分からん、しかしあの男は常識で計らん方が良いのは確かじゃぜ。そしてあの男が万が一にも生きて暗躍をしておるというのならば──最大限の警戒が必要となろう」

「その村雨という奴も土影が遭遇した位置から多少の居場所は割り出せるはずだ、もっと詳細な情報を得る為に今すぐ捜索を出すべきだ!」

 

 この場で唯一うちはマダラと直接対峙した経歴を持ち、この情報を一足先に与えられていたオオノキは焦りを露わに、それでも何とか冷静さを保ち見解を述べる。

 高齢でありながらも影の名を背負い続けるだけの実力を有するオオノキが、それでもなおそれ程警戒するという事実に皆が深刻な表情を浮かべ雷影は情報元である村雨を捕えるべきと意見を述べる──そんな中我愛羅が「いや」とそれまでの流れを変える話を切り出す。

 

「村雨から情報を得ようとするのはあの女と関わる上で避けるべき行為だ──そもそも村雨が何故うちはマダラという正体を知ることができたのか、俺にはそれが疑問に思えてならない。同じ組織に加わったとはいえあの女を相手にわざわざ面で正体を隠す男が自身の顔を晒すとは思えん。むしろ奴を同じ組織に置いていたらそんな余計な情報を与えるなどしないはずだ、絶対にな」

 

 村雨という少女が組織という枠組みの中で信用出来ないのは先程の情報整理で皆深く理解したところだ。

 仮にうちはマダラが生き延びて暁を組織したのだとしたら自らの正体は絶対に隠し通したい情報のはず…それをあんな不確定要素ばかりの存在に明かすというのは確かに考え難い。

 

「…これはあくまで渦柘榴 村雨という女と多少の関わりを持った身の上での見立てでしかないが…あの女の行動に偽りはない、だから暁と袂を分かち身を隠そうとしているのは本当の事だろう。…だがその一方であの女の言葉は偽りだらけだ。奴自身が人を騙すつもりかどうか以前に本人が勘違いや深く考えないままそうだと思い込んだことをそのまま口にするからだ。つまり暁のリーダーがうちはマダラだという情報は事実確認をしないまま話している可能性が高いと俺は思う」

「か…風影殿、あの若さで何という…大した方だ…」

 

 ある意味では刀造りへの狂気以上に村雨の厄介なところを完璧に言い表す我愛羅の言葉に上階にて話を聞いていた青は思わず感嘆の声を上げていた。

 尤も青本人からすれば心からの賞賛であるが、それを耳にしたカンクロウやテマリからすれば自分達の長であり弟が変なところで評価されるせいで曖昧な表情を浮かべるしか出来なかった…。

 

 そんな部下達の一幕を知らぬままメイは我愛羅の見解に頷く。

 

「確かに、彼女は思い込んだらそのままひた走る傾向がありました…風影様の認識に間違いはありません」

「それで言うならワシの知るマダラもあんな小娘を引き連れる様な男ではない。──やはりうちはマダラが生きているというのはただの出鱈目か?」

 

 

 

「──果たして、それはどうだろうな」

 

 最悪の可能性の存在が薄れていく最中、その場の誰のものでもない声がした影達が一斉に立ち上がり彼らの護衛も再び自身の長達を守るように降り立つ。

 声の方向へ目を向ければ橙色のお面で素顔を隠し、暁の装束を見に纏った男がいつからかそこに立っていた。

 

「静観を続けても良かったのだが随分と不毛な会議をしていた様子だったのでな…いっそこちらの計画を明かし理解してもらった方が話が早いと俺は考えた──だから最初に教えておこう」

 

 面に唯一空いた右目の穴に不気味な光が灯る。

 そこから窺えるのは暗闇に光る赤い瞳、うちは一族のみが持つ写輪眼だった。

 

「その眼…まさか、貴様が!?」

「俺の名はマダラ、暁の真のリーダーであり…貴様ら話していた渦柘榴 村雨は俺の部下が始末した…少なくとも刀匠としては、な」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 村雨との一件の後、五影会談開催に合わせて鉄の国に潜入し五影会談の成り行きを観察していた。

 ペインにしろ村雨にしろ派手に動き過ぎた結果五影共もいい加減動き出すと思ってはいた。その方針の確認に来たのだが…気が付けば議題が村雨に乗っ取られていた。

 

 過去の行いの羅列はともかく、本当に八尾の一部を土影に押し付けていたことで一触即発の空気となり、上手くいけば影共の協力関係を崩せるかと僅かに期待したが、流石にそこまで陥る前に軌道修正されてしまった。

 

 然程期待はしていなかったが、一瞬だけ良い流れになった事もあって無駄な肩透かしを食らったが、それどころか今度は勝手にうちはマダラの名を広められて五影共が明確に協力関係を築き始めた。

 …元よりこちらもそのつもりであり、この程度何の問題もないとはいえ勝手にこちらの情報を流されるのは忌々しい、やはりもっと早く消しておくべきだったと思うばかりだった。

 

 ともあれペインや村雨が派手に動いた事もあって五影もいい加減暁掃討に本格的に結託するやもと思ったが、過去の確執以前にあの小娘の奇行に注意を割かれるとは…気持ちは分かるが、それならそれでこちらとしては都合が良い。

 

 逃しはしたが両腕を潰し、もはや何も出来やしない小娘が五影共を惹きつけてくれるというのは思わぬ収穫だ、上手くいけば村雨を回収したと思われる大蛇丸も五里の連中が相手をしてくれるやもしれない。

 期待し過ぎるつもりはないが、これならばまだ大きく動く必要はないかもしれない──そう思っていたのだが…

 

『…これはあくまで渦柘榴 村雨という女と多少の関わりを持った身の上での見立てでしかないが…あの女の行動に偽りはない、だから暁と袂を分かち身を隠そうとしているのは本当の事だろう。…だがその一方であの女の言葉は偽りだらけだ。奴自身が人を騙すつもりかどうか以前に本人が勘違いや深く考えないままそうだと思い込んだことをそのまま口にするからだ。つまり暁のリーダーがうちはマダラだという情報は事実確認をしないまま話している可能性が高いと俺は思う』

 

 風影、我愛羅のその発言で会談の流れが変わってしまった。

 村雨の暁離反に信憑性が増した結果優先度が落ちるどころか、うちはマダラの存在さえ疑われ始めたことでこれ以上はダメだと判断した。

 

 小南から輪廻眼の回収とそれを移植し身体に馴染ませるには時間が必要だ。

 更に"月の眼計画"は満月の夜でしか成せない…今すぐに五影共に暁掃討に動き出されると次の満月の夜が訪れるまで延々戦い続けなければならなくなる、八尾、九尾の封印の手間を考えるとそれは現実的ではない。

 

 それならばうちはマダラの名を明かし宣戦布告をし、奴らに最大限の警戒と戦争の準備をさせる事で次の満月が訪れるまで戦いを先送りさせる事がベストだ。

 そしてその戦争準備の期間中にこちらも輪廻眼の回収とこれまで集めた尾獣共のチャクラで白ゼツの戦力を整える。

 

 

 

 そしてこの世界は終わらせる。

 その決意と共に五里の長共へ宣戦布告を切り出すのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。