霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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呆気ない最期

 五影会談の最中、突如姿を現したうちはマダラを名乗る男が明かした尾獣の正体と六道仙人の神話、そして"月の眼計画"。

 空に浮かぶ月に自らの眼を投影し、世界中の人間全てを幻術に掛けるというその恐ろしい計画に影達は皆絶句しながらもはっきりとそれを拒絶する。

 

 世界をたった1人が支配するという危うさ。

 全ての人間に幻術を掛け、幻の中で築く平和の空虚さ。

 あらゆるものが方向性は違えど今日まで自らの里の、国の平和を維持しようと模索していた影達には到底受け入れられない事だった。

 

「ナルトは貴様らなどに渡しはしない」

「当然、弟は渡さんぞ!」

 

 既に多くの人柱力を奪われながらも今なお生きている八尾、そして九尾の人柱力であり自分達にとって特別な存在でもある者達の為にも綱手とエーは彼らを引き渡せというマダラの要求を毅然とした態度で跳ね除ける。

 尤もマダラ自身もその返答は分かり切っていた事だった、故に五影達を前に涼しい態度で座り込んだまま世界を揺るがす宣言を告げるのだった。

 

「──良いだろう、ならば今この時を以てここに第四次忍界大戦の宣戦布告をする」

 

 これまでの忍界大戦とは規模が違う、五大里全てを敵に回すという正気を疑う宣言だがその場のノリで行動していたら似た様な状況になっていた狂人の話をしていた事もあって影達は冷静にその宣言を受け止める。

 

「…戦争か、確かに貴様ならば五里全てを相手取れようが…貴様本当にうちはマダラか?」

「なに?」

 

 そして冷静になればこそ、かつてうちはマダラと対峙したオオノキは目の前の男にどこか違和感の様なものを感じてしまう。

 確かにかつて岩隠れと木ノ葉が同盟を結ぼうとした際にマダラ個人の判断で自身と先代を襲撃し従えようとした様に自身の算段の為に強引な手段を平然と執る事があった。

 各里の人柱力を奪い尾獣を集めるのは確かにらしいと言えばらしいが…うちはマダラならば暁という組織など作らずともそれを実行出来たはずだ。

 

 極め付けば例の村雨という小娘の行動…うちはマダラの関係者としてはどうにも引っかかってしまう。

 

「クク…信じられないのも無理はない。だが、ならばどうするのというのだ? 俺がうちはマダラではないという可能性に縋りここで戦うか?」

 

 違和感がある…しかし目の前の男の言葉にオオノキは動きを止める。

 疑わしいところもあるがうちはマダラならば何らかの手段で生き長らえる事も出来るかもしれないのも事実…ならば振る舞いに違和感があろうとも目の前の男をうちはマダラではないと断定して戦うには今の状況は危険過ぎる。

 

 確かにこの場には影達に加え優秀な忍達が各里から2人ずつ護衛として居合わせているが、一方で相手の力量は一切不明、うちはマダラならば言わずもがな…そうでなくともこの場に前触れなく術も未だ未知。

 この場で戦い万が一にも影の誰かが深手を負えば事情を知らない里の者達が統率を保つ事は難しいだろう…里長を失ったばかりの者達に他里の長が協力を要請したとして皆が従うか? そんなはずはない、間違いなく今後の連携に支障をきたす。

 

 まだ正式に決まっている訳ではないが暁の真の計画を聞いた今、影達が考える暁に対する手段は皆同じだ。

 目の前の脅威を確実に倒す為には今不用意に動くべきではない。

 

 オオノキの視線に影達は皆頷くのを確認し、マダラもまたゆっくりと立ち上がる。

 

「──フ、ではな影共よ。次は戦場で会うとしよう」

「…待て」

 

 恐らく、何らかの時空間忍術で立ち去ろうとしているのであろうマダラを呼び止めたのは我愛羅だった。

 

「渦柘榴 村雨を刀匠として始末したと言ったな…ならば奴はまだ生きているのか?」

「さぁな。だが両腕を刀で何度も刺され出血多量の重傷だ、すぐに処置しなければそのうち死ぬとは思うが…仮に助かったとしてもあの傷ではもう両腕をまともに動かす事も出来ないだろう」

「あいつ…」

「無茶な行動ばっかするからだ…あのバカ」

 

 村雨にとってそれがどれ程絶望的なことなのか、彼女の事を知るカンクロウやテマリはとっくに敵と割り切ってなおその事実に思わず抱くやりきれなさに声を漏らす。

 

「火影…貴様ならばまだ治せる可能性もあるだろうが──五影会談を投げ出し今まで貴様らに散々煮え湯を飲ませた女を捜しに行くか? クク、それならそれで俺は止めんぞ」

「……」

 

 マダラの言葉受けてなお綱手は微動だにせず聞き流す。

 個人的な確執以前にこんな状況で火影である自分が里外の者の為に動けるはずもない…居場所も分からず、貴重な情報源ではあるが今までの経験からしても情報源として扱えるかも不明、助けたところで味方となるかも分からないとあっては助ける選択は選べない。

 

 そんな綱手の判断にマダラは微かに、それでいて「そうこなくては…」と言わんばかりに満足そうに仮面の奥の眼を細める。

 

「さて、今度こそ話は済んだ。ここらで失礼させてもらう」

 

 その言葉を最後にマダラの姿は何もない空間に吸い込まれる様にして消えていった。

 残された影達は突如訪れた戦争の前触れに今度こそ暁対策の会談を始めるのだった。

 

 仮面の男がうちはマダラであるか否か、渦柘榴 村雨の生死…気になる事は多く残りながらも進められた会談の末、暁の狙いであり戦争の鍵となる尾獣2体内の1体、八尾を完全にコントロール下に置いたキラービーの存在と暁に漏れた情報が最も少ないであろう事、何よりマダラが立ち去った後会談を再開してから中心として議論を進めていた事を考慮し、雷影エーを大将とした忍連合軍の結成が正式に決定した。

 

 全ての議論が終わった後、影達は各々の国の大名に話を通すべく解散となり自里へと急ぎ足で戻ることとなった。

 当然、風影である我愛羅も護衛役であるカンクロウ、テマリと共に自里である砂隠れの里へ戻るところだったのだが、城を出た際に背後から不意に呼び止められその足を止めた

 

「一つ、お前に聞きたい事がある」

「──何だ?」

 

 不意に自身を呼び止めた人物、オオノキの言葉を意外に思いながらも我愛羅は彼の言葉を待つ。

 

「八尾の一部をワシが持っていた件で雷影の奴がワシに食って掛かった時、何故止めた? あの時はまだ例の娘の名も上がっていなかった…つまりはお前とは一切関係のない状態だったわけだが──何故ついこの間まで戦争をしていた相手であるワシを庇った?」

「…仮にアンタが暁を利用して雲の八尾を奪ったとしてこんなところにわざわざ持ち込む理由がない、何らかの理由があったのだと想像は出来る」

「だとしても…砂の里にとって目の敵であるワシを庇う理由はなかろう? 雲と岩が戦争となれば部外者の里には本来その2里に向けられた仕事を始め多くの利益が舞い込んでくる…里の安定と発展を望むなら里長として選ぶべき選択は静観じゃぜ」

 

 狡猾、無情、しかし確実な利益を見込める土影の言い分に我愛羅は静かに首を振る。

 

「他者の犠牲の上で得る利益は確実であっても一時のものでしかない、雲と岩が争えば周辺国とて疲弊し、大きな遺恨が残り…やがては他の国にも戦争の火種は燻り出す。今の俺にとってそんなやり方は受け入れられないものになった。他者と争うのではなく信じ合い分かち合う本当の意味での里の安定、その為にまずアンタを信じる事にした」

「──難しい事を平然と言う。それで里を治められると思っておるのか? そんな綺麗事で…若い衆はともかく自里の上層部のジジイ共とて抑えられんぜ?」

「それでも俺は己を捨てない──風影となる事を目指した時からそう決めている」

 

 それが自らの判断の全てだと、言外に告げると我愛羅は"風"の字が刻まれた傘を被り直し護衛の2人と共にその場を立ち去る。

 

「己を捨てぬ──か、フン…若造がのう…」

 

 オオノキは暫く、我愛羅が立ち去った方向を見つめながら自分がこうも頑固になった理由を思い出す。

 圧倒的な強者に信頼を反古にされ、そんなものは当てにならないとそれまで秘めていた意思を手放した…だが、今時代とともに何かが変わろうとしているのだとしたら…。

 それを確かめ、かつて捨てた自分を拾う為には本物か否かは分からずともうちはマダラという存在は乗り越えるべき相手に相応しい。

 

 それぞれの想いを胸に秘めながらも影達は一つの方向に向かって遂に動き出すのだった。

 

 

 

 

 一方、五影への宣戦布告を終えたマダラもまた、自らの時空間忍術によって鉄の国の外で控えていたゼツと合流を果たしていた。

 

「ちょっと危うかったけど上手く戦争の流れに出来たね」

「五影共からしてもあの小娘への信頼が想像以上に低かった──岩と雲が勝手に戦争してくれればそれが一番だったのだが…まぁ今更そんなもしもの話はいい、鬼鮫の方は?」

「八尾と戦闘中だよ…どうやら里抜けの際にサムイ小隊って連中に護衛兼監視役を追わせていたみたいだけどむしろ巻き込むのを恐れて尾獣化出来なくなっているみたいだよ」

「本来ナラバ陽動、援護役ハ十分務マル実力者ダガ…術ガ広範囲ナ上二鮫肌ヲ持ツ鬼鮫ガ相手デハ人数モ然程意味ハ無イカラナ」

 

 膨大なチャクラ量から繰り出される術は狙った相手以外の周囲も纏めて飲み込み、チャクラを喰らう鮫肌からすれば相手が多いという事はそれだけ餌となる存在が多いと言い換える事も出来る。

 人柱力の護衛を任される忍を侮るつもりは無いが雷影とキラービーを除けば雲隠れ一番の腕利きは五影会談で雷影の護衛をしているのは確認している…ならば鬼鮫ならば特に心配はない、唯一懸念があるとすれば雲隠れへ向かっている雷影一行が合流する事だが聞く限りでは現時点で鬼鮫が優勢…ならば"潜入の仕込み"をするには時間の余裕はあるだろうとマダラは判断する。

 

「八尾の件はこのまま鬼鮫に任せる。少し予定より早いが俺は輪廻眼を取りに行くとしよう」

 

 うちはマダラの名によって五影を戦争に乗らせる事は出来たものの、村雨が信用なさ過ぎるせいかマダラ自身が明かした情報まで疑わしいものになってしまった。

 場合によってはかつてのうちはマダラを知る土影辺りが自身の正体に違和感を持って想定よりも早く動かすように持ち掛ける可能性もあり、悠長に構えている暇はなかった。

 

「念には念だ、必要なものは早めに集めておくとしよう」

 

 そう言い残しマダラは再び何もない空間に吸い込まれる様にその姿を消すのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 五影達が自里への帰還を急いでいる頃、村雨と別れた水月達は雨隠れの里へと辿り着いていた。

 激しい雨と異様な街並み、雨隠れ独自の景観に面食らいながらも神の使い、天使として里の者達から崇められる小南が見知らぬ者達と一緒にいることで余計な混乱を招くのは避けるべきと早々に里の外れにある霊堂へと足を進めるのだった。

 

 人のいない霊堂にここまで無数の紙で包んできた長門と弥彦の亡骸を弔い、漸く彼らは一息を吐く。

 苦手な長距離移動に草臥れた水月に至っては霊堂の石階段にそのまま座り込んで休息をとる程だが、他の者達も警戒を張り巡らせての移動はそれなりに神経を擦り減らす事ではあった為、一つの山場を越えた事に安堵していた。

 

「…後は、村雨と鬼鮫が無事に来れば良いのだが…」

「そうあってほしい…けれど…」

 

 重吾の言葉に小南は顔を少し顰める。

 鬼鮫の勧誘は村雨本人が望んだ事であり、彼女の選んだやり方が長門を無事にここまで運ぶ為に都合が良い事もあって任せてしまったがやはり彼女1人に危険を押し付けてしまったと後悔する。

 

 無事に彼女が鬼鮫を連れて辿り着いてくれれば一番良い。

 偶然とは言えど恩人であることは紛れもない事実…何事もなくあって欲しいし、鬼鮫が味方に加わるのも有難い事だ。

 

 …だがもしも彼女がここに付かなければ──その時は…

 

「──もしもあの女がいつまで経っても来ないなら、鬼鮫の奴はマダラ側の人間と見て良いだろう。だがその場合マダラとしても鬼鮫という密かに握っていた手駒を明かすという事になる…つまり仕掛けてくるならそう遠くはないぞ?」

 

 村雨が到着しないなら自分達は鬼鮫を黒と見做して警戒を強める。

 そうなったら村雨1人を事前に殺したところでマダラにとっての本命である輪廻眼奪取が不利になるばかり…不意打ち、奇襲は素早く、立て続けに行わなければ効果は薄い。

 

 本人に自覚があるかどうかは定かではないが…村雨は自らの命を危険に晒す事でマダラの動きを絞り込む事に成功した──マダラが来るとしたらそろそろなはずだ。

 

「──奴の狙いはこいつの輪廻眼なのだろう。ならこの死体をさっさと処理しておけば良い…と言いたいところだが、せっかくの輪廻眼を焼き払うってのが惜しいのは分かる。どうだ、一先ず俺がこの死体を傀儡にして迎撃用の仕込みを──」

「やめて」

「チッ」

 

 マダラ襲撃の前に身内から良からぬ提案が上がりため息を吐く。

 勿論、提案の極端さはともかくサソリの言い分も正論ではある…マダラが輪廻眼を手にしたらその危険性は想像を絶する。

 万が一を想定するのならば、長門の死体は完全に処理するのが妥当…彼が夢見た世界をうずまきナルトが実現するまではこうして見届けさせて上げたいと彼を遺すのは極めて危険な我が儘だ。

 

 だからこそその我が儘の責任は果たす。

 例え自らの命を引き換えとしてもうちはマダラは確実に葬る、その決意と共に小南はその為の準備をすべく霊堂の外へ出て──目の前の空間が歪む光景に目を見開く。

 

 声を掛けるより先にチャクラの出現を感じ取ったのであろう香燐の指示と共に霊堂の中にいた水月達も一斉に飛び出す。

 

「──小南、それにサソリに角都…お前らが揃っているという事は長門の死体はその奥か」

「ッ!?」

 

 歪んだ空間の渦から出現したうちはマダラの姿。

 彼がここに来る事はついさっきも予想していた事であり驚く事ではない…だがそれでも水月達は皆目を見開きマダラが自身の足元に落としたものを見つめた。

 

 それは右腕と左右掌に3ヶ所、刀が深々と突き刺さったであろう傷口から夥しい程の血を流し、気絶をしているのか幻術を掛けられているのか意識がない村雨の姿だった。

 

「…村雨」

「鬼鮫といたはずのそいつをお前が連れてきたという事は…やはり鬼鮫は貴様側だったという事か、うちはマダラ?」

「さて、どうだろうな…案外こいつを庇った鬼鮫諸共処理しただけかもしれんぞ?」

 

 角都の問いに対するマダラの答えは内容こそ誤魔化すものであってもそれを語る態度は嘘を隠そうともしていない軽薄そのものだった。

 見下す態度は気に入らないが本物かどうかは定かでなくともうちはマダラならばそんなものだろうと判断し、角都は背後に控える香燐へ視線を向ける。

 

「おい赤毛の小娘、貴様は確か感知タイプだったな…鬼鮫のチャクラは近くにあるか?」

「いや…あんな馬鹿デカいチャクラならすぐに分かる、それを感じないって事はここには来てないのは間違いない」

「──そっか鬼鮫先輩はいないか。…ならついでにボクからも聞くけど…あの傷は治せそう?」

 

 水月の問いに香燐は目を凝らしてマダラの足元の水場に浮かぶ村雨の姿を観察する。

 両腕の傷はあまりに深く、負傷してから時間の経過は感じるがろくな処置を受けていないのか水に浸かって血が流れ出ている。

 

「…傷口を塞ぐ程度にはな。けどあれはもう無理だ…確実に後遺症は残る、少なくとも今まで通りに刀造りなんて無理だ」

「あっそ、言わんこっちゃないよあのバカ」

 

 ある意味では予想通り、散々他人を振り回した果てに相手から裏切られ致命的なしっぺ返しを貰ったそのらしくない姿、呆気ない最期に水月は呆れた様に悪態をつく。

 

「この女には何かと手を焼かされたのでな、それ相応の報いを受けてもらったが──ふ、案外しぶといものでまだ生きてはいるらしい。刀造りなどはもう出来まいがそれでもお前らが要るというのなら返してやっても良いぞ?」

「刀造りが出来ないならそいつに価値ないでしょ?」

「な、水月!?」

「クク、随分な言いようだな。──それが本音か、試してみるか?」

 

 あっさりと村雨を見限った水月にマダラは思わず失笑するが、それでも重吾や小南など僅かに躊躇う素振りを見せる者がいる事を確認し、手元に風魔手裏剣を出現させ村雨の首元にその切っ先を突き付ける。

 

「──何が望み…かは聞くまでもない事ね」

「あぁ、長門の輪廻眼を寄越せ。そうすればこの小娘は返してやる。──尤もこの女と輪廻眼が釣り合うとは俺も思ってはいないがな。断るならそれはそれで構わんぞ?」

「その村雨がゼツでない保証は?」

「勘違いするな、釣り合う取引ではないが俺とお前らの立場は対等ではない。俺の気が変わらない前にすぐに決めることだな」

 

 静止を掛ける小南にマダラは容赦なく答えを強要する。

 

「──くだらねぇ」

 

 それを冷淡な声で誰かが吐き捨てたの同時にパシャッと水が跳ねる音がし、鮮血が舞う。

 

「なに!? チッ!」

 

 体格に優れた角都の影に隠れてサソリが密かに水中に忍ばせた杭付きロープが

 意識を失った村雨の身体を貫いて水中から飛び出しマダラの脇腹に突き刺さる。

 

「斬烈水鉄砲の術!!」

 

 同じ組織の者としてサソリの手の内を知るが故に杭付きロープに仕込まれた毒を即座に抜こうと村雨に向けていた風魔手裏剣を自身の傷口に当てがった瞬間──即ち毒抜きの為に実体化せざるを得なかった瞬間に首斬り包丁の破片が混じった水の弾がマダラの胴体を捉えた。

 

 体内に打ち込まれた破片は血を吸い不完全ながらも刃を再生し、体内からマダラの腹を貫き、食い破る。

 全身を刃に刺し貫かれ、崩れ落ちるマダラの姿を横目に重吾は自身の腕を変化させ、マダラの傍で倒れる村雨へと手を伸ばす。

 

 ただでさえ重度負傷に加えてサソリの仕込み武器に腹部を貫通され、仕込み毒も含めて確実に致命傷だ。

 すぐに香燐を噛ませて回復をさせなければ死んでしまう。ただしその前に──

 

「これは──」

 

 村雨に触れた瞬間に以前に大蛇丸の指示でやった様に呪印仙力を注ぎ込めば村雨の身体は崩れ、白い男、ゼツの姿へ変貌する。

 

「…偽物の様だな。水月、お前は分かっていたのか?」

「まさか、分かってたのはあいつを助ける必要なんて無いって事だけ。刀が造れないんじゃ生きてる価値ないからさ…あいつにとってね」

 

 肩を竦めて呆れた様にそう言うと水月は視線をサソリに向ける。

 

「──尤も、アンタの判断は知らないけどね。足手纏いになったら切り捨てるってやつだったりする?」

「人質なんざこうしてゼツで誤魔化せるんだ、奴らがわざわざ生かしておく理由もないと思ったまでだ…仮に本物だとしても介錯してやるのが2度目になるだけだしな」

 

 どうせこの場で生き残ったところで両腕を完治させる事が出来ず刀造りが出来なくなるのならそれは彼女にとって死と絶望以外の何物でもない。

 水月は不本意ながらも長い付き合いで、そしてサソリは実際に一度目の当たりした事でそれを何よりも理解していた。

 

 しかし、そんな意図の下マダラ諸共葬った村雨は偽物だった。

 果たしてオリジナルの村雨は既に殺されたのか、何らかの方法で生き延びているのか…良くも悪くも読めないなと水月がぼやくのを聞き流しながら角都は力なく水面に浮かぶマダラの死体をジッと見つめる。

 

「奇妙だな…うちはマダラがこの程度か? ──柱間との戦いで力を失った…にしても呆気なさ過ぎる、こんなものなはずが…」

 

 水月が、サソリが村雨の精神性を理解している様に、角都もまたうちはマダラという傑物の実力を深く知っている。

 幾ら有利な立場での取引中に不意を打たれたからといって…いや、そもそも不意を打たれるという事実が、もっと言えばこんな回りくどい取引を持ち掛ける事自体が違和感でならない。

 

 そんな角都の懸念を裏切る様にうちはマダラの命は確実に散り、その象徴たる写輪眼も力なくその瞼を閉じていく。──仮面の穴から窺える写輪眼とは逆の、常に"隠されていた側の写輪眼だけ"が力なく瞼を閉ざし、その光を永遠に失うのだった。

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