霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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1月もほぼ終わりかけながら年内初の更新、かなり遅れましたが本年も何卒よろしくお願いします。


革命の狼煙

 小南さんの説教を無事に切り抜け正座で疲れた身体を休ませた後、着替えも素材の準備をばっちり整えて改めて私の戦争を開始する。

 借りものとはいえ鍛冶場という私にとって最も自然と一体になれる環境、そのエネルギーを体内に取り込んで自身の持つチャクラと、そして既に改造した腕にストックしてある仙術チャクラと混ぜ合わせていく。

 

 やがて体内のチャクラが安定すると感覚が急激に研ぎ澄まされ、雨隠れの里全域どころか他国の人の気配さえ手に取る様に伝わってくる。

 未だ五影会談の話が伝わっていないのか、その様子は皆平和そのもの──その平和が明日には開戦準備によって崩れ、戦争が始まれば過去のものになる。

 

 その避けようのない事実を一足先に知ってしまったが故の周囲との認識のズレを肌で感じると共に、かつて聞いたリーダーさんの言葉を思い出す。

 彼は今の世界の情勢を仮初の安定と語ったことがあった──尤も今の状況はあの方の危惧した大国同士の均衡や小国に残された痛み、忍の里システムの欠陥などではなくマダラさん個人の計画によるものであり、結果的には今の平和の在り方を危惧していたリーダーさんも、それを聞いていた私達もその計画に加担した事は事実だ。

 

 そう思うと、今こうして世界中の人々の姿を感知してしまうのはまるでこれから当たり前であるはずの日常が崩れゆく、その原因の一端は自分なのだとを突き付けられている様だ。

 

 しかし…不思議なものだ。

 確かに原因を担った自覚はあるのだが今を生きる人々の気配を感じ取ってなお重苦しさも、胸の痛みさえも感じない。

 

 ここに至って悔やんでも仕方がないと傲慢に割り切っている訳ではない。

 かといって決して無関係な人間がどうなろうと興味がないというわけでもない。

 

 ただそれ以上に目の前の極上の素材から感じ取れるその情報の渦に意識が奪われて戻ってこない。

 流石は忍の中でも極めて優れた一族、うちは一族の至宝"写輪眼"…ハレンチ博士が焦がれたのも今になって分かる。

 

 眼球という小さな部位にこれ程のチャクラが…素晴らしい。

 最近は他にも貴重な素材を使った事は多いが感知能力が今までの比じゃない領域まで研ぎ澄まされた結果目の前の素材の価値をより深く認識できるお陰か、その喜びも今まで以上だ。

 

「ふふ、本当に写輪眼とは素晴らしい眼ですね──サスケ君?」

「随分と楽しそうだな」

 

 仙人モードによって向上した感知能力は音もなく背後に接近していたサスケ君の存在をはっきりと認識させていた。まぁ彼に関しては私の作品も、草薙の剣も持ち歩いているのだから仙人モードに頼らずともその接近には気付けただろうが…

 

「一体どういった御用ですか? 今は少し忙しいので…"鳴神"か草薙の剣の調整でしたら構いませんがそれ以外でしたらまた後日にして頂けますと──」

「俺は大蛇丸からお前に渡すものを頼まれただけだ、お前に用は無い…だがその眼は一体どういう事だ? 何故お前が写輪眼を持っている?」

「半ば一方的ではありますが、この眼を持っていた人から貰っただけですよ」

「…言葉は慎重に選べ。お前が霧隠れから出た時期にうちは一族は既に皆、殺されている。だからお前がうちはの人間を殺した訳じゃないことは分かるが、そうでなければさっきの言葉の時点で殺していた」

 

 何故? 

 と、思ったが確かにさっきの言い方では私がうちは一族の人から眼を奪い取った様だ、これは確かに私の言い方が悪かった。

 以前にハレンチ博士のアジトでサスケ君と一夜を共にし経歴やら目的を語った事があったがそれのお陰で誤解が生じずに済んだとは…やはり他人とのコミュニケーションは大切な事なのだと実感せずにはいられない。

 

 ともあれ私の紛らわしい言い方に冷静に対応してくれたサスケ君に感謝し、詳細に話そう。

 

「この写輪眼は木に実っていた、より詳細に言うと幹に埋まっていたのを抉り取っただけですよ」

 

 瞬間、首を思い切り締め上げられ息が奪われる。

 仙人モードでサスケ君が動こうとしているのは分かって避けようともしたのだが瞬く間に首を捕らえられた。

 この速さ、見切りよりも更に上、これが写輪眼の先読みかと感心する。

 

「言葉は選べと言ったはずだ、俺をおちょくるのはやめろ」

「凄いですね、それが写輪眼の更に上、万華鏡写輪眼でしたか?」

「聞いているのは俺だ、さっさと──」

「…ダメですね、満足していたつもりでもいざ目の当たりにするとこの眼を持っていった方には少々申し訳ない言い方にはなりますが…これもその眼ならより良い素材になったのと思うと実に残ね──ぁぐ!?」

 

 首を締め上げる強さがより一層増して意識が奪われそうになる──仕方ない。

 仙人モードを維持するために無駄なチャクラを使いたくはなかったが水化の術を使いサスケ君の手から逃れる。

 

 残念ながら間合いをとってもサスケ君は容易に私を捕らえることが出来る、ならば抵抗は諦めて敢えて彼の目の前に立ち万華鏡写輪眼と真っ直ぐに目を合わせる。

 

「ケホッ…誤解がないように言っておきますが、おちょくるつもり等毛頭ありません」

「黙れ、写輪眼が実る木なんて適当な話で──」

「私自身も未だに信じられずにいるので信じ難いのは理解していますが本当の事です。木ノ葉の里で会ったダンゾウさんという方の右肩からニョキニョキと生えた木に写輪眼が」

「待て、ダンゾウだと?」

「え、あ、はい」

 

 今までずっと不機嫌だったサスケ君が目に見えて様子を変えた事でむしろこっちが戸惑った声で返事をしてしまう。

 しかしそういえば以前にカブトさんがサスケ君とイタチさんの関係にダンゾウさんが関わっている様な話をしていたがそれと何か関係があるのだろうか? 

 

「…ダンゾウが写輪眼を…右目だけではなかったって事か」

「ダンゾウさんはどうやら初代火影様の細胞を培養して作った腕に写輪眼を埋め込んでいたようです」

「それを早く言え! 何が写輪眼が実る木だ!」

「当時の私は初代火影様の細胞については知らぬままの拝借したものですからその時の認識に沿った方が良いものかと…それにそんな人体改造をしてダンゾウさんが何を目的としていたのか未だに分からないので余計な説明は省いた方が紛らわしくないと思ったのですが…ダメでしたね」

「この…」

 

 サスケ君が渋い顔をして眉間に指を当てている…どうやらとことんまで呆れさせた様だ、相変わらず言葉足らずで申し訳ない。

 

「──ともあれ誤解は解けた様で何よりです。それでは私は作業に戻ります」

「待て、話は何も終わってない」

「あぁ、そういえばハレンチ博士から何かお届け物があるのでしたか、わざわざすみません」

「違う、こっちの話をしてんだよ」

 

 サスケ君が正に先程まで話していたダンゾウさんから拝借した写輪眼。

 自らの一族の写輪眼をどの様にして刀に活用するのか興味がある…なんて意図での発言ではない事は明白だった。

 

 作業台から写輪眼の入った容器を手に取って彼にその眼を向ける。

 

「うちは一族の写輪眼…好き勝手に使われるのは許容出来ませんか?」

「分かっているならさっさと寄越せ」

「…写輪眼は本来うちは一族のもの…肉体の一部さえ戦利品と成り得る忍世界とはいえ、親族の方がいるならお返しするのが道理だとは私も思いますが…しかしサスケ君はこれをどの様に扱うおつもりですか? 移植しますか? それとも今の眼の予備に?」

「…その写輪眼をただの道具の様に語る物言いをやめろ、不愉快だ」

 

 優しい人だと思った。

 最初に"忍世界では肉体さえ戦利品となる"と前置きをしてもなお写輪眼を道具と見做す事を否とするその在り方はある意味、道理を踏み躙るのが定石であるこの忍世界に合っていないとも言えるが同族を思うその気持ちは否定されて良いものではない。

 しかし一方でそんな忍世界に似つかわしくない思想を持つ事を不思議に思えた。

 無論、同族の肉体の一部を好き勝手に扱われるのは気分の良いものではないだろうが、それにしてもサスケ君の反応は嫌悪というよりも憎悪に近い様に感じた。

 

「何故それ程写輪眼を使われるのを拒むのですか? 勿論、サスケ君にとっての敵が利用するのならばその反応も当然ですが、私と貴方は現状共闘関係であると思うのですが?」

「…その写輪眼は木ノ葉に殺されたうちはのものだ、それ以上弄ぶな」

「木ノ葉に? うちは一族は確かうちはイタチさんに殺されたという話でしたが…いや、それがイタチさんの真実という事ですか」

「ッ!? お前、イタチの事を知っていたのか」

 

 知っていた訳ではないが、カブトさんがほんの少し口にしたイタチさんとダンゾウさんの名やかつてイタチさんを殺そうとしていたサスケ君と今のサスケ君の様子の違い。

 諸々の状況から推測するに木ノ葉の中でもダンゾウさんを含め、上位の立場にあった人達の誰かがイタチさんにうちは一族抹殺の濡れ衣を着せる、或いは一族抹殺の実行を強要させたという推測するには十分だった。

 

 そしてそういう事ならばイタチさんを倒した後にサスケ君が木ノ葉に帰らずハレンチ博士と行動を共にしているのにも納得は出来る。

 ただ分からないことは今のサスケ君の立場だ。

 

 それならばサスケ君は私達でなくトビさん側についた方がよほど都合が良いはずだ。

 かつてはイタチさんを倒す為ならば自らの身体をハレンチ博士の器とするのも1つの手として考えていた程、目的の為ならば他の全てを対価として捧げる事が出来る人なのだから本来ならばそうしたはず、だがそれをせず今は私達と共闘関係を受け入れている…これはつまり──どういうことだ? 

 ある程度の事情は察する事は出来るが、推測すればするほどサスケ君の今の立場が分からない。

 

「事情をある程度察する程度には…ただし、サスケ君が何故木ノ葉への復讐を躊躇しているのかまでは分かりません」

「……分かった、この際お前には全て聞かせてやろう。俺が躊躇っているなんて思い込まれるのも、半端な認識をされるのも不愉快だ」

 

 そこから語られたのは凡そ予想通りな真実だった。

 里と特定の一族の関係の歪みなど、別に珍しい事ではない。

 霧の里は血継限界を持つ者を、砂の里は化け物を宿した我愛羅君を迫害した過去があり特殊な力を持つ一族、或いは個人には時折降り掛かる悲劇であり、木ノ葉の里も例外ではなかったというだけの事。

 

 ただ一つ、違う事があるとすればその中心にいたイタチさんは木ノ葉の忍であることを誇りとし、里の平和と弟であるサスケ君を愛していたという事。

 イタチさんの死を以てうちは一族に幕が降ろされれば本当に忍世界では時折ある歪みの1つとして終わったのかもしれない…しかし、彼は里の平和を守ると同時にサスケ君を生かす道も選んだ。

 

 

 

 だからこそ…苦しんでいるのはサスケ君の方だ。

 

 

 

 最愛の兄に一族を殺めさせた木ノ葉を恨みながらも、里を想うイタチさんの気持ちも無碍に出来ず自らの選択を出す事が出来ずにいる。

 いや、選択を出すことが出来ないというのは彼にとってあまりに失礼か。

 

 サスケ君は既に選択をしている。

 木ノ葉への復讐を選ぶのか、それとは別の答えを出すのか──それは全ての始まり、里とは何かを知った上で決めるという選択を。

 

 その為の方法が初代火影、千手柱間様と共に里造りを成したうちはマダラさん。

 彼から里の始まりについて話を聞くつもりだったらしいが、同時に彼もまた木ノ葉と同様にうちは一族抹殺に関与している疑いがあるらしく元より信用は出来ない以上、倒した後で聞き出すつもりだったらしい。

 

 つまりは今のサスケ君にとってマダラさんと組んだ上での木ノ葉への復讐という選択肢は初めからなく、この先の事は全てを知って、自分で考えた上で答えを出す、そう語るサスケ君の様子は以前アジトで見ていた頃の彼とはまるで別人の様だった。

 

「──イタチさんの事、そしてサスケ君の目的の為にもマダラさんの確保には共闘関係として微力ながら尽力致します。ただし──」

「協力の見返りとしてその写輪眼を使わせろ…とでも言う気か?」

「いえ、2つの選択を決める為行動しているのは理解しました…しかし、"まだ自らの道を決めていない立場"なら私の邪魔はしないでください」

 

 サスケ君の行動理由は理解した、自らの恨みさえも飲み込んで忍の里の始まりを知ろうとする決意も協力したくなる程に気高いものだ。

 だが、それでも自らの道をまだ決め兼ねているのならば…最後まで刀造りに全てを捧げると決めた私の道を譲る必要はないとはっきり告げる。

 

「これだけは言っておく、お前がその写輪眼を利用したら俺がこの先どちらの道を選ぼうともお前は必ず殺す」

「構いません。"写輪眼を利用したら殺す"…という事でしたらそれは作品が完成した後の事。作品が完成したのなら私が仮に殺されようとも精一杯生きた意味はある」

 

 写輪眼の入った筒を作業台に置いて、鍛冶場の壁まで歩み寄るとそこに飾ってあった刀を手に取る。

 

 私が造った作品ではない、ここを本来使っていた男性の作品なのだろう。

 使っている鋼はお世辞にも質が良いとは言えない、刀身の仕上がりも…厚みが少々薄く脆さを感じる。

 熱して引き延ばす際に必要以上に鎚を入れたのだろう──何度も何度も刀身を叩き、鍛えようとした痕跡…それはきっとこの雨隠れの里の為、そして里の長であるペインさんの為、自らが造る刀を少しでも強い物にしたかったのだろう。

 

 "刀"としては良いとは言えない、これを造った本人もそう思ったからこそ店に並べず壁に飾って置いていたのかもしれない…それでもこの"作品"は好きだ。

 

「ここは長門さんが世界を平和にすることを夢見て治めた里、長門さん自身が亡くなられても今もこの里の人達は彼を慕い暮らしている。死を越えて残る行い…正しくあの方が生きた意味がそこにはあるのだと私は思います──そしてだからこそ、この里という作品を守りたいと切に思います」

 

 この里に住まう人達は今もペインさんという神の存在を心の支えにしている、もしも長門さんの死を知ればこの里の平定もやがては崩れ去ってしまうかもしれない。

 そうなった時この里、そしてこの刀は今と違う、悲しい作品に変わってしまう──それは長門さんの人生を象徴する作品と言うにはあまりに見合わない。

 

「──サスケ君も、そうでしょう。憎く思おうともイタチさんが命を懸けた木ノ葉の里の全てが無駄であるとも思いたくはない。だから復讐以外の選択肢が貴方の中にあるのでしょう…イタチさんの生きた意味を無にはしない為に」

「…そうかもな、確かにお前の言う通り…俺は兄さんの成した事を無かった事にしたくはない。…だが、そんな風に思えば思う程兄さんを苦しめた木ノ葉への憎しみは膨れていくばかりだ…お前が言う様にこの雨隠れの里が長門という奴の作品だと言うのなら…木ノ葉の里という作品とやらは一体何だ? 一体木ノ葉の里とはどれ程の存在だというんだ?」

「さて? 少なくとも木ノ葉の他に霧、砂、音で過ごし各里の知識豊富な私の体感ではあの里は忍の里の中でも特に剣吞とした空気も薄く、あらゆる人にとって居心地の良い里と感じましたが…今のサスケ君にとってはそれはイタチさんの命を対価に得た偽りの平和として映ることでしょうね」

 

 サスケ君は否定も肯定もしない。

 つまりはサスケ君にとって木ノ葉の平和とはイタチさんが齎したものという意味では尊ぶものであり、イタチさんの犠牲で造り上げたものという意味では唾棄すべきものとなってしまう。

 

「──だったら、サスケ君が新しく造って…いえ、改めて造り直してしまいましょう、今の木ノ葉の里が許せないのならば許せるようになるような里へと変えるんです──木ノ葉の里の長、"火影"として」

「俺が火影だと?」

「それならばイタチさんの守った里を無にするのでもなく、そしてイタチさんの犠牲を良しとする在り方を葬る事も出来る。復讐ではなく改善を、許しではなく矯正を、妥協ではなく洗練を、その為に火影として木ノ葉の里を統べてしまえばいい…だって貴方は、イタチさんが木ノ葉の里と同じく必死に守ろうとしたあの方が生きた意味そのものなのだから」

 

 暁に正式に加入した際に頂いた網笠を巻物から取り出して手元の紙に"火"と書いてそれに貼り付けると今度はそれをサスケ君に被らせる。

 やっておいてなんだがすぐに払い除けられると思っていたが、案外黙ってそれを受け入れたサスケ君はどこか思うところがあったのか、里とは何かという今の彼にとっての本題とは別の疑問を口にした。

 

「イタチは一族を抹殺し、俺を巻き込まない選択をした事を悔やんでいた──俺が、父や母を…うちはを変える事が出来たかもしれないと…お前は、俺が木ノ葉の里を変えられると思うか?」

「容易だとは言えませんが、不可能だとは思いません。──だって意外と…というのも失礼ですが、似合っていますから」

 

 一族の為に、兄の為に…思えばサスケ君の行動はいつも誰かを思ってのものばかりで、彼の心の奥底の愛情の深さの何よりの証拠だと思えてならない。

 …その結果が里抜けや復讐と危うい行動が多いのは気掛かりではあるがそれは私が言えた事ではない。何より里の長となればそんな行動を抑え、支えてくれる人もきっといるはずだ。

 

 ナルト君やサクラさんなどはサスケ君の為にハレンチ博士のアジトに潜入してくる程彼の事を慕っているし、或いは香燐さんや重吾さん…もしかしたらハレンチ博士もこっそり協力するかもしれない。

 ──水月みたくつい勢い余ってしまった時に止めてくれる人がいるなら案外なんとかなる事は他でもない私が証明済み…だからきっと大丈夫だと笑って伝えると──サスケ君は僅かな沈黙の後に目元を覆い隠した網笠を上げた。

 

 再び見えた彼の両眼は黒く写輪眼を解いた、通常の眼であり先程まで感じていた冷たい気配も消えていた。

 

「答えは出ましたか?」

「あぁ、だがお前の言う様に木ノ葉の里を変える為に火影になる気はない」

「…そうですか、少し残念ですがサスケ君の選択ですから──ではどの様に?」

「俺はこの忍世界そのものを変える為に火影になる。敢えて言うなら──革命だ」

 

 素晴らしい。

 それが果たしてどの様な形で成すものなのか、想像もつかないがそれは後の楽しみとしておくとしよう。

 

「俺の革命に"月の計画"の阻止は絶対だ…だから、その写輪眼はこの戦争が終わるまでは預けておく。だが、うちはの犠牲を弄ぶのなら相応の覚悟はしておけ」

「少なくとも、無駄にしないことは約束します」

 

 写輪眼を返すつもりも、素材にすることをやめるつもりもないがそれだけは約束出来る。

 その言葉に許しはしなくとも一時的な見逃しはしてくれたのだろうサスケ君は踵を返し、この場から立ち去ろうとして──振り返らないまま巻物を一本こちらに投げ渡してきた。

 

 仙人モードでなければ危うく落としていたところだが何とか手に収めればその巻物は一緒に血の入った小瓶が括られている他、随分と高度な封印術が刻まれたものだと分かる。

 一体中に何が入っているか想像もつかずサスケ君に「これは?」と尋ねる。

 

「大蛇丸の奴からお前に渡せと言われたものだ。次に会った時に渡すと以前に約束したものだとな」

 

 その言葉にドクンと心臓が跳ねる。

 

 十拳剣。

 次に会った時に渡す。

 ハレンチ博士がそう言ってくれた物はそれ以外にない。

 

 それにしても、それを入れた巻物を直接手に取ってもその存在に気付かなかったとは…本当に高度な封印術を用いたものだ。

 中に眠る名刀を目に出来るという期待感に心が震える一方で少々悔しくなってくる。

 

「言っておくが──」

「大丈夫です。この刀はイタチさんの形見の様なもの…この写輪眼同様に決して無駄には致しません」

「…なら良い、開く時は"辰・子・巳・戌・寅・酉・丑・辰"の印の後その血を術式部分に垂らせばいいそうだ」

「はい、ありがとうございますサスケ君。──ハレンチ博士にもお礼を言っていたとお伝えください」

 

 こちらを振り返らないサスケ君には見えてなどいないだろうが深々と頭を下げてお礼を言う。

 一時はどうなるかと思ったが写輪眼を使う事への一時の容認と十拳剣を頂けた上に、サスケ君も目的が定まったのならこの問答も良いものだった。

 

 よし、忍世界の革命という壮大な目的を宿したサスケ君に負けない様に私も今一度気持ちを新たに刀造りを再開しよう──あぁ、でもそうだ、つい忘れていたがサスケ君にこれだけは伝えておいたほうが良いかもしれない。

 

「すみませんサスケ君、最後に一言だけ──」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 写輪眼を今暫くは預けておく…うちはサスケのその言葉に鍛冶場の外で聞き耳を立てていた小南は安堵する。

 村雨への説教を終えて鍛冶場を立ち去ろうとした矢先、サスケが鍛冶場に入っていくのが見えて妙に嫌な予感がして思わず聞き耳を立ててみれば案の定、ものの見事に無自覚な煽りを繰り返し殺される一歩手前まで発展していた。

 

 この里こそが長門の生きた意味であるという"死に意味"を見出そうとして苦悩した彼への賞賛の言葉を送ってくれた事を差し引いても、仲裁をすべきかどうかを躊躇う程に酷い口振りだったが何とか自力で上手く纏めてくれた。

 いや、それどころか、うちはサスケに何やら大きな決断の切っ掛けを与えてみせた。

 あの流れから何でそんな風に着地を成功させるのか、意味が分からないが既にそんな経験が何度かある事を思い出して辟易する──しかし…

 

「…これがお前の目的か、大蛇丸?」

「ええ、彼女が写輪眼を隠し持っているのは知っていたけど…サスケ君にとってはある種の地雷だからね、戦争が始まる前に処理しておいてもらいたかったのよ」

 

 屋根の上で自分と同様に2人の会話を盗み聞きしている存在に声を掛ければすぐ傍に降りてきてそう答える。

 

「無茶を…危うく村雨が殺されていた…いや、これに関しては彼女の自業自得だが」

「何だか最近はアレを心配するのもバカバカしくなってね。試しに好きに語らせてみたのだけど──ククッまさかあのサスケ君に火影になってしまえなんてね」

「それこそ無茶だ、うちはサスケは木ノ葉の抜け忍だ」

「あら? 確かに実態はそうだけど現火影である綱手は彼を弁護している様だし、里抜け後も私を殺して囚人を解き放ったり、デイダラやイタチという暁の中でも木ノ葉と一戦交えたメンバーを倒し、貴女の相方が起こした木ノ葉襲撃の際にも里の救援に駆け付けてもいるのよ、何か不足があるかしら?」

「………一応聞いておくけど、そういう算段だったのか?」

「まさか。言うまでもないけれど私の本命は彼の身体を乗っ取る算段だったのよ。それが気が付いたらこんな事になるなんて──ある意味ではイタチの望んだ様に進んでいるとも言えるけど…彼もここまでは想像してなかったんじゃないかしら」

 

 気が付けばうちはサスケが木ノ葉の英雄となるレールが完成している様な現状に大蛇丸と共に若干納得がいかない曖昧な心境になるが、「あぁ、でも」と大蛇丸が何かを思い出したらしく声を上げた。

 

「彼、ダンゾウを殺してしまったからね。それがバレているならあの相談役の2人…黙ってないわね。尤もあの2人と和解する気などサスケ君にも毛頭ないでしょうし、何より彼の言う火影は今の火影とは違うものらしいから彼の目的には何の問題も──」

「待て、ダンゾウを殺したって──うちはサスケが木ノ葉に帰還した時の事か?」

 

 ペインとの戦いの最中突如乱入してきたうちはサスケ。

 しかしペインとの戦いで彼もかなり疲弊し、長門が死んだ後大蛇丸と共に立ち去るのも実際に見ていた──つまりあの後ダンゾウを殺す時間も余力もなかったはず。

 つまりダンゾウを殺したというのはペインとの戦闘──だとすると…

 

 大蛇丸も同様にそれが意味する事に気が付いて顔を顰めた。

 ペインとの戦闘を征したうずまきナルトとの問答の末に"輪廻転生の術"を使った長門、しかしペインとの戦闘の前にダンゾウが死んでいたという事は──

 

「ダンゾウも…生き返っている可能性が高い」

「私としたことが…つい失念していたわ。──あの老いぼれも中々悪運の強いものね」

 

 弥彦を死に追いやった男が長門の命を懸けた術で蘇るなんて、あまりに不条理な事がまったく知らないところで起こっていた事実に抑えきれない怒りが溢れてならない。

 今すぐにでももう一度殺しに行きたいと思えるほどに心が搔き毟られるが、戦争を控えたこの状況、木ノ葉への侵入など最早不可能だろう。

 

 理性で必死に怒りを鎮めようとした矢先、鍛冶場の中から再び村雨の声がした。

 

『すみませんサスケ君、最後に一言だけ──』

 

 ただでさえ頭が一杯になりつつあるのにこれ以上妙な事を口走らないで欲しい、そう思いながらもまた争いに発展しようものなら今度こそ止めないとマズいかもとまた聞き耳を立てる。

 

『大切な人に報いる為に目的を持つのは結構ですが、"大切な人の命に釣り合う結果を求める"のはやめた方が良いですよ。──自分では困難な道だと思っても、それが案外簡単に成し遂げられてしまったら大切な人の命が酷く軽いものだった様に感じてしまうようになりますから』

 

 聞こえてきたのは想像したものとは全く異なる程に寂しい声色。

 今まで見てきた村雨の振る舞いとはかけ離れたその声に先程まで溢れていた怒りさえも忘れ、呆気に取られるのだった。

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