霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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開幕! 中忍試験本戦

 中忍試験本戦の会場に村雨は変化の術を用いて姿を変えて訪れる。

 外部の人間を招いて行われるこの中忍試験本戦、非同盟国である水の国の人達がいるとは思えないが用心するに越したことはないというのもあるがもう一つ理由があった。

 本戦準備期間が始まって数日後、突然テマリさんから「何も言わずすぐに砂の里に帰れ」と、普段以上に厳しい声で釘を刺されたのだ。

 

 どういう意図があったのかは分からないが何らかの事情があるのだと察することが出来た。

 ──しかし私にも七人衆の忍刀を越える忍刀を造るという目的がある、この中忍試験参加者や観戦者の中にはその足掛かりになる者達がきっといる……それ故に引き下がる訳にはいかなかった。

 しかし、もしも力尽くでもという事になれば私では流石に対処出来ない。それ故に彼女から代わりに幾らかの金と引き換えにその要求を飲んだということに表面上はしておいた。

 実際にはコテツさんの鍛冶場にずっと籠り刀造りを続けていたのだが、そういう理由もあり、今彼女と顔を合わせてはいけないのだ。そのため、あまり得意ではない変化の術を用いた上、髪色と頭身を変えておいた。

 少し罪悪感もあるが最終的に受け取ったまま手を付けていないお金さえ返せば何とかなるだろう。

 

 さて、会場の方へと視線を向ければここまで勝ち抜いた人達が整列しているのが目に入る。

 砂の姉弟にカカシさんの教え子さん、アスマさんの教え子さんとちらほらと顔を知る人が見えて関心する。

 白い目の男の子とサングラスの男の子は知らないがどちらも注目を集めてなお表情に変化が出ない辺りかなりの実力者なのだろうと察する。

 ──ところで……

 

「うちはサスケ君がいない?」

 

 準備期間中に刀を届けた黒髪の少年の姿がどこにもない。

 一体どういうことだ? 

 結局彼を待たぬまま本戦を開始するようだが……折角造った刀が使われぬまま彼が敗退となったら流石の私も取り返してやりたくなるのだが……いや、何せこの人の集まりようだ何らかの事情で遅れるという事も十分に考えられるのだ、あまり悪く考えるのは止そう。

 

 幸い参加者は皆観客席とは少し離れた場所で待機するそうなので変化の術さえ維持していれば多少動いてもテマリさん達に気付かれることもないだろう。

 ──よし、始めよう。

 

 カカシさんの教え子さん、名をナルト君というらしい金髪の少年と白い目の少年、ネジ君との試合が始まると同時に小蜃に隠す様にして貰い持ち込んだ巻物を取り出すと首から吊るした籠の中に刀を何本も並べる。

 そしてそのまま近くの観客席に座った各里の忍の人達に声を掛けていく。

 

「刀一本如何ですか? 脇差一本、背中に一本、おまけに懐に忍ばせ一本、合わせて3本如何ですか?」

「え? ……え? 何? 誰?」

「……刀一本如何ですか?」

 

 昨日頑張って考えた売り文句を口にして見たがいまいち反応が悪く若干めげそうになったが今は稼ぎ時だ、落ち込んでいる暇はない。

 こうして刀を売り歩き気に入ってくれた人がいればその人の持つ忍具や情報を収集する、様々な里の忍が一堂に会するこの場はその絶好のチャンスなのだ。

 ──おっと試合の方も盛り上がっている、全身からチャクラを放出しながら回転することで攻撃を弾くいなし技か……回る刀身のチャクラ刃は造ったがそれで攻撃を弾くという発想はなかったな……

 

 砂の姉弟といいあの白い目の少年といい、ここまで勝ち抜いた下忍とは霧の里の下忍より相当レベルが高いようだ。

 ……まぁ父から聞いた血霧の里の頃なら霧隠れ程下忍のレベルが高い里もないだろうがアレは例外という事にしておこう。そんな事より続きをしなければ……

 

「刀一本如何ですか? 脇差一本、背中に一本、おまけに懐に忍ばせ一本、合わせて3本如何ですか?」

「え? あ、じゃあ小刀一本」

「──っ!? お、俺も一本貰うぞ!!」

 

 改めて近くの滝隠れの額当てをした男性に声を掛ければ早速一本売れる──やった。

 と思ったのも束の間、男性のすぐ隣、草隠れの男性がそれに険しい顔をしながら刀を購入すると言い隣の男性を警戒するようにじっと見ている。

 ──まずい、これはやってしまった……

 

「君、ちょっといいかな?」

 

 いつの間にか背後に立っていたお面をした方、恐らく木ノ葉の暗部の方にポンッと肩を叩かれる。

 ……考えが甘かった、よくよく考えれば──こうなるのは当たり前だった……

 

 

 

「……ままならない」

 

 

 右手を掴まれ引き摺られるように会場の外まで運び出される。

 ……あぁ試合が盛り上がってきているというのに……凄い突き技の連打だ、ナルト君は大丈夫なのだろうか? 

 試合の続きが気になるが──私の観戦はここまでだ。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 会場の外に摘まみ出されると暗部の人と数人の木の葉の中忍らしき方々からそのまま事情聴取を受ける事になった。

 変化の術で等身を12~13歳程度まで低くしていた事もあり他里から観戦ついでに刀を売りに来た世間知らずの子供ということで決着したらしく厳重注意と試験中の会場立ち入り禁止で決着がついた。

 どうにも甘い印象を受ける、何より事情聴取も簡単な質問ばかりで暗部の人も早々に会場へと戻っていった事も気になる──まるでもっと大きな何かに警戒して私等に構っていられない様子だった。

 

 しかしそれならば好都合、流石に会場に再び入ろうとすれば何らかの感知に引っかかるだろうからそれは不可能だ。残念ながら会場での情報収集は不可能だろうし刀売りなどもっと無理。──だが、観戦ならば可能だ。

 砂の姉弟以外の木ノ葉の方々の戦い振りから何らかの創作アイディアが湧くかもしれない以上見逃す手はないし、何よりカンクロウやまだ来ていないがサスケ君の2人は私の刀を持っているのだ。実戦での私の刀の輝く姿など滅多に見ることが出来ないのだからジッとなどしていられない。

 

 密かに親指を小型の刃物で軽く切る──痛い……けど悪くはない……

 それはそれとして口寄せした小蜃に幻覚を発生させその間に水分身と入れ替わり中忍の方々の監視を振り切る。──掌サイズの口寄せ動物というのもこういう時は気付かれにくく便利だ。

 

 もっとも極小範囲しか作れない蜃気楼だ、ボロが出ない様にゆっくりと歩き会場へと向かう。

 ──2代目水影、幻月様が契約した『蜃』ならばそれこそ水分身などと併用せずとも『蜃』自身が生み出す蜃気楼で欺く事ぐらい容易いのだがその差は私の実力不足による契約資格の無さなのだからあまり好き勝手は言えない、むしろ"精度"だけならそれと遜色ないのだから十分過ぎる程心強い。

 

 あらゆるチャクラ感知や視覚強化さえも通用しない透過幻術だ、物理感知をされなければ見つかる心配はない……が人が多い観客席は誰かと接触する可能性があるため少し危険性が高い。

 何より先程の人も含め暗部の方が数人いたのが見えた、他里の人間を招くという事もあって警備をしてらっしゃるのだろう。次彼らに見つかると流石に容赦もなくなることだろう。

 

 という訳で蜃気楼で姿を隠したままチャクラによる吸着を用いて壁をよじ登りそのまま一番高い物見やぐらの屋根に登る。

 うんうん、中々な見晴らしの良さだ、会場の様子が良く見える。

 どうやらナルト君とネジ君の試合は思った以上に長期に渡り続いていた様だったが、横たわったネジ君と会場に満面の笑顔を向けているナルト君の姿が見えた。

 

 観客席で見ていた時とは逆転した光景に肝心なところを見逃したと口惜しい気持ちになるが仕方ない、早まった行動して見つかってしまったら一巻の終わりなのだから慎重に動くのは絶対だ。

 それに誰一人としていないこの屋根の上に登りきった時点で蜃気楼を解かない限り絶対安全なのだからむしろ見逃したのはたった1試合で済んだことを喜ぼう。

 

 何せ次は私にとっても特別な試合……我愛羅君と私の力作を持ったサスケ君の試合だ。

 あの砂の絶対防御を果たして貫く事が出来るのか……実に楽しみだ。

 さっきの試合もだいぶ長引いていたし流石にサスケ君ももう着いた頃だろう。

 

 

 

 …………おかしい、試合が始まらない。

 観客席の方々もいい加減痺れを切らしたのか「試合はまだか!?」「いつまで待たせるんだ!?」等と怒声が上がっている。

 まったくもって私も同意見だ、早く私の刀の晴れ舞台を見せて欲しいのだが一体いつまで待たされるのだろうか。

 そもそもどんなトラブルがあれば忍の方がこれ程遅れるのだろうか? 下忍と言えども忍者、これ程遅刻するなんてよっぽどのトラブルがなければ在り得ない。

 

「何か危険に巻き込まれた? ……まさか」

 

 まさかとは思うが私が渡した刀を特訓で無茶な使い方をしたのではないだろうか? 

 ただでさえ不用意な使い方では危険が伴う設計なのだ、用途用法を守って使ってもらわないと本当に死んでしまうかもしれないのだが……。

 いやいや、確かに危険もある。でもその分使い方には十分注意させてあげて下さいとカカシさんに頼んでおいた……何といっても上忍の方が付き添っていたのだ滅多な事はないはずだ。──ならば……

 

「──逃げた?」

 

 聞いた話では予選の時点で我愛羅君は異常な程の強さを見せつけたという事だ。それを目の当たりにしてこの大観衆の前で戦おうと思うのは難しいのかも知れない。

 だとするならば仕方のないことだ。戦いを避けるのもまた大切な判断力の一つであることは理解している……しているのだが……

 

「……折角の観衆の前のアピールが」

 

 自身の今の全力を尽くし大爺様の『雷刀"牙"』に対抗した一振り、それをこれ程の観衆の前で使えば作成者たる私の名も箔が付く。

 名声などに興味はないが名が広まればより多くの人を惹き付け刀造りの為の知識をより高めることに繋がる。

 その為にもサスケ君には是非ともこの場で戦ってほしかったのだが──今もなお続く怒声、徐々に強まりつつあるそれに最早時間切れだと理解する。

 これ以上いない人を待つことは無理だ。──うちはサスケはここで失格。

 

『皆様! 次の試合の受験者が現在ここに到着しておりません! よって……この試合は後回しにし次の試合を先に始めていくことにしました!!』

 

 会場に立つバンダナの試験官さんの声が響き渡るとともにざわつきが聞こえだす。

 私も意外な処置に多少驚いたがサスケ君が失格にならないのならばひとまずは良しとしよう。

 後試合の組み合わせは2つ、それらが終わるころには流石にサスケ君も到着するだろう、私の刀達の晴れ舞台はまだチャンスがあるようで何よりだ。

 

 ──これで晴れ晴れしい気持ちで他の試合を見ていられるというものだ。

 思えば、遅刻一つで少し落ち着きが無さ過ぎた。

 冷静に考えれば例えサスケ君が遅刻していたとしても私の刀を持つ人はもう一人居るのだから、安心して試合だけを見ながら彼の到着を心待ちにしていれば良かったというのに……。

 

『では次の組み合わせ! カンクロウと油女シノ! 下へ!!』

 

 ──っ! そんな事を考えている内に噂の人物が! 

 

『……俺は棄権する!!』

 

 村雨は激怒した。

 必ず、かの邪知暴虐の傀儡師を除かねばならぬと決意した。

 

 ふざけるなふざけるな、一体何なんだ彼らは? 

 私の刀を持った人間は戦えなくなるというジンクスでもあると言いたいのか? 

 一人は試合開始時刻となっても現れずもう一人は戦わずして棄権、何なんだこれは? これ程酷い仕打ちを受けたのは初めてだ。

 ここが試験会場でなければ間違いなく自分はカンクロウに斬りかかっていた事だろう。

 

 込み上げてくる怒りを何とか抑えながら空を仰ぐ。

 私が一体何をしたというのだろうか? 

 里を抜け出した事か? 

 砂の里からの言いつけを破って木ノ葉の人間に刀を売った事か? 

 テマリさんの言いつけを破って木ノ葉に滞在している事か? 

 ……役満過ぎる、どうやら私はろくでもない人間だったらしい、鮫にでも喰われてしまえ。

 

 

 

 ……どうやら会場では続いてテマリさんとアスマさんの教え子さんの試合が始まったらしいがまったく内容が入って来ない。

 

 テマリさんの一方的な攻撃にただアスマさんの教え子さんが逃げ続けるだけ。

 やはり試験の前にアスマさんには『叢雲の剣・紫雲』を買って貰うべきだっただろうか。

 ──とはいえ流石に値が値、用意するのは簡単ではなかったのだろう……回数払いというのを取り入れるべきか? いやでも忍という人達はいつ死ぬか分からないからそれは少し難しいか……はぁ。

 

 

 

 ──あれ? 考え事している間にテマリさんが捕まっている? 何が起こったの? 

 え? 何かアスマさんの教え子さんが棄権した。

 さっきの試合は何が起こっていたの? 

 あまりにも一方的な展開だったせいで完全に気が抜けていた。もしかして私は凄くもったいない事をしてしまったのかもしれない。

 

 自作の刀の活躍は見れずその他の人の戦いは自分の迂闊な行動が原因で見逃す、私は一体何のためにここにいるのだろうか? 

 

 ──何だかもう疲れてしまった。こんな精神状態ではこの先の試合を見ていてもろくなアイディア等湧くはずがない……もう砂の里に帰ってしまおうか? 

 

 ……結局サスケ君も到着していない様だしそれでいいかもしれない。

 はぁ……と深くため息を吐いてゆっくりとその場を後にしようとして──突如会場の中心に木の葉が舞う。

 

 小さく穏やかな竜巻、やがてその中心に2人の姿が現れる。

 一人はここに来てから何度も顔を合わせた人物、マスクと額当てで顔を半分以上隠した木ノ葉の里の上忍、はたけカカシさん。

 そしてもう一人は……一族の家紋を背に刻んだ黒髪の少年。それが誰かは決まっている。

 

 

 

 待っていたぞォー!! サスケエェェ──ー!!! ……君。

 

 




漸く中忍試験本戦突入。おかしい、当初の予定では6話ぐらいで入るつもりだったのに…
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