霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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腐れ縁

雲隠れの里の会議室では五影会談での情報を踏まえての雷影と彼の秘書、そして上忍衆による会議が行われていた。

雲隠れが保有する戦力の確認、奇襲作戦を行うにあたり現状不明な敵アジトの発見をすべく偵察部隊の編成計画、その他様々な議論がそれを敵に盗み聞かれているのを知らぬまま飛び交う

 

五影会談から帰還する雷影と合流した事で同じく里へと連れ戻された八尾の人柱力、キラービー、彼の先の戦闘の戦利品である刀の内側で干柿鬼鮫は口角を吊り上げる。

 

(これで雲隠れの持つ戦力と動きは把握できた…八尾の人柱力がバカで助かりましたね)

 

自らと同じチャクラを持つ大刀・鮫肌に八尾を気に入らせる事で戦利品として持ち帰らせて里に潜入する。

感知タイプの忍にも決して見つからない潜入法は目論見通り成功、これであとは戦争前にどこかしらに隔離されるであろう八尾を改めて捕獲出来れば良し、それが難しそうであれば引き続き潜入で入手した情報をマダラに渡す、敵地に乗り込む形ではあるが最悪の場合でも後者は不可能ではないと鬼鮫は判断し、現時点で把握した情報を巻物へ書き写していく。

 

3日後に忍連合の合同会議を行うという雷影の宣言と共に長く続いた会議が終わると、巻物を一度飲み込んで再び息を潜めると共に万が一の際に鮫肌の内部に収納された刀の柄を手に取る。

 

(鮫肌に八尾を気に入らせるまでは良かったがまさかチャクラまでくれてやる様になるとは…おかげで、いざという時の頼りの武器がよりにもよってこれとは…どこまでも皮肉なものですね)

 

"試作・叢雲"

自身が鮫肌以外に持ち歩く唯一の武器であり、この刀を造り上げた少女の両腕を何度も刺し貫いた凶刃。

夢の世界に至る為…1人の職人の夢を断ち切ってなお因縁というのはどこまでも断ち切れないものだと実感させるには十分であり、同時に重症のまま逃げた村雨が生き永らえているであろうと予感させるにも十分だった。

 

(確実に仕留められる状況だったはずが…上手くいかないものですね)

 

上手くいかない…内心でそう悪態をついた事でもう一つ、余計なトラブルが起きている事を鬼鮫は思い出す。

 

八尾の人柱力を追い詰めた際に合流してきた雷影がどういう訳か村雨が奪い土影に渡したという八尾の一部を持っていた事だ。

それにより八尾は本調子に戻ってしまった挙句、戦争前に念の為八尾の一部を確保しておく目論見も不可能になってしまった。

 

(まぁ、良いでしょう)

 

しかしそんな状況を鬼鮫はそれでも構わないと受け入れる。

 

(可能とはいえこの月の眼計画、不完全な状態での実行など元より望んでいない。どうせ八尾を狩る事に変わりはない…そして──あの娘も同じ事、どこかで生き延びていようともまた目の前に現れたのならば今度こそ殺すまで)

 

かつて霧の里にいた頃何度も繰り返した様に冷酷に感情を殺し、手にした刀の柄を強く握り締める。

たとえこの先、誰が目の前に現れようとも即座に斬れる様に身構え、万全な状態で潜入を続けるのだった。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

雨隠れの里で村雨と合流した翌日、あの狂人は相変わらず妙に逞しいバイタリティを発揮し即座に刀造りを始めた──どの道それもろくでもない事を引き起こすんだろうなぁ…と至極真っ当な予感がしていたが今朝からは以前に造った"蛇刀・蝕"を改良するとか言って毒の専門家としてサソリが呼び出されていった。

 

おかげで少し前から強要されていた傀儡糸の修行も休み、村雨も鍛冶場に引きこもり、戦争目前にして束の間の平和が訪れたという事だ。

とりあえず貸し与えられた宿の一室で今度起こる戦争を如何にしてやり過ごすか、ゴロゴロしながら考えていると珍しい事にサスケが訪ねてきた。

 

「何だいサスケ? 君の方から訪ねてくるなんて珍しいね」

「昨日、村雨の様子が変だったんだがお前なら何か分かるじゃないかと思ってな」

「…その話をする前に様子が変じゃない村雨という存在について理解する必要があるね、少し長くなるよ」

「待て、俺の言い方が悪かった」

 

果たして"正常な村雨"というのは普段の刀絡みで暴走している一般論的には変な存在であるいつもの村雨を指すのか、それとも観光中やら他人の作品を真面目に観察している時などで極々稀に起きる刀が一切絡んでいない時の村雨の事を指すのか、それを理解しない事には"様子が変な村雨"について考えようもない。

恐らくかなりの時間を要するであろう議題について本気で頭を悩ませるところだったが幸いサスケが訂正を掛けてくれた。

 

何でも昨日、サスケが大蛇丸に頼まれて村雨に荷物を届けにいった時には写輪眼を素材に刀を造っている真っ最中だったらしく、一悶着もあったそうだがそれは何とか上手く纏まったらしい。

この時点で人の眼玉を刀の素材にするわ、それを親族のサスケに見つかるわ、何故かそれで見逃されるわととても正常とは思えない事件が散乱している気がするが一度置いておこう、正直聞いたところでどうしてそんな事になったのか理解できる気もしない。

 

何とか脇道に転がる意味不明な話から全力で目を逸らしながらサスケに本題を急がせれば──

 

『大切な人に報いる為に目的を持つのは結構ですが、"大切な人の命に釣り合う結果を求める"のはやめた方が良いですよ。──自分では困難な道だと思っても、それが案外簡単に成し遂げられてしまったら大切な人の命が酷く軽いものだった様に感じてしまうようになりますから』

 

サスケの今後の方針についてそんな妙な忠告をしたらしいのだが──

 

「何だいそれ? あいつがホントにそんな事言ったわけ?」

 

それが本当なら思った以上に本当に様子が変だ。

別に好き好んで人を襲う奴だとは思っていないが、それでもその気になれば人自体を刀の素材にするような奴だ、そんな人の命に関心があるような事を言うのは予想外だった。

 

いや、思えばあいつも大蛇丸の下へ来てからというもの五人衆やら実は生きていたとはいえ大蛇丸、それに暁の連中の何人かと何かと周囲で知り合いの死というのも多かった、何か思うところがあったのかも──

 

「いや、まさかねぇ。ないない」

 

だって唐突に香燐の腹ぶった切る奴だし、角都とかに死なない様に処置させてたとはいえ妙にしぶとい香燐でもなければ普通に死ぬしねアレ。

 

そう考えてみればサスケへの忠告も、死んだ人間の命ではなくあくまで生きている側の人間のモチベーションを重視しているだけの様にも受け取れる。

しかし、だとしても随分と経験則の様な言い方だ…あ、そういえば──

 

「──あいつも君と同じで親殺されたんだっけ、君と違って母親だけだけどさ」

 

確かずっと前、まだあいつと関わる前の頃に岩隠れから潜入した忍が村雨の家の鍛冶場を探り当てて売り物で置いてあった刀であいつと両親を襲ったという一件があった。

確か…接客で対応していた彼女の母親がまず真っ先に斬られ、そのまま彼女の父を狙った寸前に偶然そこに居合わせたボクの兄が返り討ちにしたとか何とか…。

 

「…妙だな」

 

かつての事件を語り聞かせればサスケはそんな感想を口にした。

まぁ確かに、単身他里に忍び込める程の奴が標的以外の人間がいる状況で殺しに掛かるというのは妙だが当時はボクの兄もまだ子供の頃だ、偶然居合わせた子供が後々七人衆の中でも指折りの実力者となる兄だったという不運な話であって妙という程でもないと思うけど──

 

「あの女の一族は本来里への外出も禁じられていたんだろう、他里から入り込んだ奴が安々と居場所を突き詰められるのか?」

「厳重に管理されていたとはいえあくまで鍛冶屋だからね。一番評判良い忍具屋といえばあいつの店なんだから簡単に場所は分かるでしょ…考えすぎじゃない?」

 

自分の経験故なのか、事件の裏を感じ取っているらしいが正直ボクからすればそんな複雑なものを感じはしない。

サスケの、うちは一族のケースなんて稀な事…暗殺なんて本来はもっとシンプルな話で敵国にいる厄介な一族を殺そうとして阻まれた、これはそれだけの事──そう思っていた。

 

「君の言う様に裏があるかどうかは知らないけど、そういえば霧隠れの狂人なんて通り名が広まったのはその辺りからだったかな? ボクもその異名を聞いて興味を持った訳だしね」

 

今となってはやめとけば良かったかな? と思わなくもない当時の行動を思い出して微妙にもやもやしてくるが、それでもその行動のお陰で強力な刀が集まりつつある…自分の判断は間違っていないのだと必死に言い聞かせ自己暗示が解けない内に話を戻す。

 

「ま、その事件に裏があろうがなかろうがボクらが気にする必要なんてないでしょ。そりゃまぁ傍から見れば不幸な事件かもしれないけど別に本人も普段から気にしてる素振りないし」

 

例えば家族の死に嘆く様子か何かを見せているのなら違う対応もなくはないかもしれない、しかし当の本人は普段から世界で一番活き活きと過ごしている…あれに同情しろと言われても無理な相談と言うものだ。

しかし、それでも相変わらず自らの予感のせいで尾を引いているらしいサスケの様子に思わず肩を竦める。

 

「なんていうかさ、前にも言ったけどやっぱ君木ノ葉出身だね。甘い…ていうか繊細過ぎるよ」

「……そういうお前は随分と無関心だな、あの女と付き合いが長い分気になるかと思ったが」

「そりゃまぁ確かに村雨がそんな事言い出すとは思ってなかったけど、別に唐突な言動してくるのは今に始まった事じゃないし」

 

たとえ村雨の狂った原因が過去の事件だとして今の本人がその狂気を楽しんで、次々に強い刀を造ってくれている、だったらボクらにとってはそれで良い。

無関心やら薄情と言われたらそうかもしれないが、それで言うと仮にも命の恩人であるはずのボクの兄が死んだ時に葬式に来なかったあいつもお互い様だ。

 

「まぁ結局のところ里を抜けようがボクらは霧の里の価値観、君は木ノ葉の里の価値観が根付いているという事なのかな──いや、君は木ノ葉へ革命仕掛けるつもりなんだっけか?」

 

先の村雨が言ったという忠告を聞くにあたって説明された今後のサスケの行動目的を思い出して面倒くさい反応をされそうだから自分の発言を訂正する。

 

「木ノ葉だけじゃない、忍世界全てが俺の革命の対象だ」

「…一応聞いておくけどさぁ、マジで言ってるのそれ?」

「俺が冗談を言うと思うか?」

「──どうかしてるよ。言っとくけど革命成功したって君碌な事にならないよ」

 

村雨ではないがあまりにバカな、命知らずの目的に苦言を呈するが当然こっちの忠告なんて聞き流すだけ、復讐でイタチを追っていた時とそういうとこだけは変わらないとため息を吐く。

 

「…別に君がどうしようと勝手だけど、その革命? っての始める前に一回木ノ葉の里でも顔出してみたら?」

「何だ突然?」

「いや、案外故郷帰ったら心変わりするかもしんないし? 一応、君が里抜けした切っ掛けってボクがボコったからだし、気が付けば取り返しのつかなくなってたって後味悪いじゃん」

 

ボクらは霧の里、サスケは木ノ葉の里の価値観が根付いている。

だからどうも物事の感じ方が一致しないけど、少なくとも"蛇"として動いている際に大蛇丸のアジトの囚人を解放したり、対峙した相手の急所を避けたりするなど時折サスケから窺えた甘さは──悪い印象はなかった、少なくとも霧隠れや大蛇丸の下にいた時と比べて陰鬱さはなかったから居心地は良かった。

 

ま、ボクはサスケの見てないとこで何人か殺しているがそれはそれ──というか殺した中に角都の部下いたけどバレてないか今更ながら不安になってきた。

ともあれ、何だかんだ満喫していた部隊の隊長がほぼ確実に破滅の道を選ぶ事に若干の哀れみもあってらしくない忠告をしてやったが、どうせ今回も聞き流されるだけ──そんな予想に反してサスケはほんの微かに笑みを浮かべた。

 

「──お前、案外お節介だな…あの女に振り回されるのが何となく分かった」

「うっさいな。言っとくけど君にも結構振り回されてるの我慢してたからね?」

 

思えば"蛇"の居心地の良さは半分ぐらいは自分の努力で何とかしていた気がしてきた。

復讐以外眼中にないサスケ、そんなサスケに変なアプローチを仕掛ける香燐、不本意だが村雨のお陰で暴走こそなかったが微妙に空気の読めない重吾との旅も今にしてみれば良く空中分解しなかったものだ。

そして村雨のバカに付き合わされてるせいでそんなメンバーでの旅が平和に感じる程自分の感受性が麻痺していた事に今更ながら気付いて眩暈がしてくる。

 

「ホント、何でボクの周りってまとな奴が1人もいないんだろ?」

「俺からすればあの狂人に付き合うお前も十分変人だがな」

「やめろよ、霧隠れの変人なんて異名定着させたらマジで殺すからね?」

 

異名というのが何が切っ掛けで定着するかなんて分からないというのはどっかのハレンチ博士を見てれば分かる、いや厳密には1人にしか定着していないがまかり間違っても狂人の世話をする変人なんて称号は絶対にいらない、僅かな可能性も残してはならない。

 

「あー…もういいや。とにかく夢や目的の為に生きてたら何かと苦労する事はボクを見てりゃ分かるでしょ? 革命なんてとんでもない事する気なら精々後悔しない様にしなよ」

 

気が付いたら確かに忍刀七人衆復興とそのリーダーになるという夢が叶う目前にはなっているが、大半のメンバーが大罪人だらけの魔の巣窟に放り込まれたりとか…何が起こるか分からないのが忍の世の中だと、ボク以上に大それた目的に挑もうとするサスケに最後にそれだけ忠告してやる。

 

「後悔はしない──今度こそ、この目的だけはな」

 

復讐だけを目的に生きて…大蛇丸の下にまで行き付いて──その目的が歪められたものだと知って、その後どれだけの考えを巡らせたのかは知らないが漸く辿り着いた決断に拳を握るその姿は忍世界の革命なんて途方もない夢を抱いた男の姿にしては随分と身近な存在に見えた。

夢や目的の為に生きる──自分と、あともう1人、そんな狂人が近くにいるせいか、親近感…なんて言う気はないが、とにかく珍しさは感じなかった。

 

「それならいいや。ま、革命なんて言ってもこの戦争を切り抜けない事には始まらない訳だし、暫くはこの束の間の平──」

「水月、山椒魚捕まえにいこう」

「何もかも吹っ飛ばして訳分からない事言わないでくれる!?」

 

束の間の平穏を楽しもう、そんな事を言おうとした矢先突如部屋の扉が開き暁の衣装に上から透明な合羽と虫取り網を装備した村雨が訪問、いや、襲撃してくる。

 

束の間の平穏なんて言葉を口にする暇さえボクにはないのか? テロリスト共の衣装をこの世の誰よりも平和ボケした着こなしをする奴にそんな悲しい悟りを啓かせられる事に涙を流しながら叫ぶ。

 

山椒魚? 刀を造っていたはずが何でそんな事になったんだこのバカは? 

いやどうせ刀造りの素材になるとでも思ったんだろう、そんな思い付きで龍を狩りに付き合わされたのが2年近く前にもあった。

絶対に今回も碌な事にはならないとこの場を共にするサスケに目を向けるとサスケは小さく頷いた。

 

「…俺はお前の忠告通り一度木ノ葉を見に行く。水月──じゃあな…」

 

物凄く邪悪な顔してボクを見捨てる事を即決したサスケの顔が気絶した熊の上で不適な笑みを浮かべる幼い頃のサスケの顔と重なる。何だこれは? 全く見た事のない光景だ。

 

恐らく幻覚の類であろう光景を振り払い、少し前に口にしたサスケに木ノ葉を抜ける決断をさせるべく大蛇丸の指示で彼をボコボコにした日の事を思い出す。

 

 

(もう一度…あの時の顔にさせてやろうかなコイツ…)

 

 

そんな完全に八つ当たりの感情を抱きながら「はい」と手渡しされた虫取り網を力なく握り締めるのだった。


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