霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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思い出話

 それは数時間前の事、"蛇刀・蝕"の改良を行うべく有識者としてサソリさんの指導を受けていたのだが──

 

「この刀を強化するなら毒を強化より毒霧を噴射する部分を追加した方が良いな」

「毒霧…ですか?」

「お前の造った今までの刀、必殺の力はあるがそれも当たらなければ意味はねぇ…ふん、毒を扱う傀儡師にとっても最後に行き当たる課題だがな」

 

 武器が掠りさえすれば勝ち…けれど優れた実力を持つ忍と比べて傀儡の操作の為に一瞬だけ攻撃が遅れる傀儡師にとってそれは永遠の悩みなのかもしれないとサソリさんの言葉に頷く。

 

「こいつは剣ではあると同時に中、遠距離として扱える武器だ。広範囲に毒霧を散布しても使い手を巻き込む心配もない…新生忍刀七人衆とやらで行動する時にも陽動、詰め…どちらのパターンにも繋ぎやすい、集団戦闘なら役割の違いは持たせるのは基本だ」

「なるほど…」

 

 サソリさんの言葉に再び感心と共に頷く。

 今は数珠つなぎにした刃の部分にそれぞれ毒蟲を宿し、それをチャクラで分離させ伸縮させる事を可能にしているがそこに毒霧を噴出するパーツを組み込む事自体は然程難しくはないはずだ。

 

「そうなると後の問題は肝心の毒霧をどういったものにするかですが…液体ならばイメージしやすいが気体の毒となるとどう調達すれば? 有毒のガスか何かを発掘してきましょうか?」

「その無駄に行動派な発想はやめろ、調達に何日かける気だ」

「より良い作品造りの為なら何日であろうと惜しみません」

「戦争間近だ、納期を考えろ」

「それは…おっしゃる通りです」

 

 ごもっともな意見に納得し手に持ったシャベルを壁に立て掛けるとならば…と思案する。

 地中に眠る有毒ガスなどの調達は時期的に不可能…ならば所在がある程度は分かるもの…何らかの液体を気化させるとか…

 そう思った瞬間、ふとある事を思い出す。

 

「ハレンチ博士の血…確か空気に触れると気化する毒液だったはず…よし!」

「よしじゃない、そのシャベル握り直して大蛇丸様になにする気だい!?」

「ちょっと血を分けて貰おうかと」

「せめて注射器使おう」

 

 かつて白大蛇の亡骸に触れて全身が麻痺した事を思い出してシャベルを握り直した瞬間、即座にカブトさんにストップを掛けられる。

 確かにどうにかハレンチ博士から血を採取させてもらおうと衝動的だったが、いくら親しくさせて頂いているといっても急にシャベルで殴り掛かったら普通に返り討ちにされる気がする。

 

 …仕方ない何か別の素材を考えよう。

 

「そういえば…昔ババアの毒物リストに山椒魚の毒についての資料があったな。あれは確かこの雨隠れの──」

「山椒魚の半蔵ですね。貴方達のリーダー、ペインによって殺された旧雨隠れの里長だった男。彼は確か幼少の頃に毒を持つ黒山椒魚の毒袋を身体に埋め込まれ…その毒は普段彼が扱う武器や口寄せ動物が吐く毒より更に強力な物だったとか」

「いってきます!」

 

 …

 ……

 ………

 

「という事があって今に至る」

「その無駄に行動派な発想はやめろってさっきの回想の中でもう既に言われてたよね!?」

「地中のガスを掘り当てるよりは生息地が分かっている山椒魚の方が見つけやすいと思って」

「まず何で発掘かトカゲ取りかの二択なんだよ! もっと楽に薬品の調合とかで作れないわけ!?」

「サソリさんやカブトさんがいるから間違いなく出来るとは思うけど…その黒山椒魚の毒袋の原液のものはサソリさんが見た資料に書かれていた毒よりも遥かに強力なものらしいから手に入るならそっちが良い。何より折角現地にいるんだったらそっちに賭けた方が楽しそう」

「楽しそう…って、君ほんとさぁ」

 

 心底呆れたという様子だが勿論楽しそうだからという気分屋な考えだけで行動をした訳ではない。

 実際、水月の言うように薬の調合なりで作っても十分強力なものが造れるはずだが…それならそれで後で造れば良い話だ。

 結局のところどっちを先に造るのかという話ならば一時滞在という形でしかいられない雨隠れの里の固有の生き物の回収を優先するのは当然の帰結という事だ。

 

「──それと水月」

「なに?」

「……一応、三択」

「大蛇丸をスコップでぶん殴るのはそもそも論外だから!!」

 

 雨の波紋が絶え間なく広がり続ける川の水面に立ち、ここに至るまでの経緯を説明したのだがものの見事に水月から怒涛の勢いで怒られる結果になった。

 しかし、つい勢いで恩師に対してとんでもない無礼を働く寸前だったのだからその反応も尤もだ。

 

「でも、例の山椒魚が見つかればハレンチ博士から血を拝借する必要もないわけだから頑張ろう」

「嘘でしょ、ボクあの変態を人質に取られて山椒魚取りするの? どういう状況なのコレ?」

「出来なかった時の条件を決めておく事で本気で物事に取り組めるようになる…自分ルールというやつ」

「知らないけど君のそれは絶対違うと断言出来るね!」

 

 そんな取り留めのない会話を挟みながらも河原の石をひっくり返して影に隠れた山椒魚を探してみるがこれが中々見つからない。

 

「大雨の中山椒魚探しなんて私や水月の様な水の身体でなければ身体を冷やしてしまうから遠慮したけどサスケ君は誘わなくて正解だった」

「その配慮ボクにもしてほしかったな…って、そうだ、サスケと言ったら君なんかアイツに変な忠告したらしいじゃん」

「え? うん…余計なお世話だとは思うけど、つい」

「君の母親が殺された経験から?」

「──うん、そうだよ」

 

 私が言えた事でもないが遠慮がない水月の問いかけに苦笑と共に肯定しながら当時の事を思い出す。

 

 

 

 生まれたばかりの赤子から物心ついた子供になる時点で刀という存在が傍にあった私にとって刀造りを始める事は一族の伝統という事を差し引いても自然な事だった。

 

 それでもあの頃の私はまだ恐れを知らず──

 

「まるでさも今の自分は怖いものを知っているかの様な口振りだね?」

「え?」

 

 水月から思わぬツッコミが入り呆気に取られる。

 自分でもまともとは思えない話をするとは思っていたが何の変哲もない導入の時点でツッコミが入るとは思わなかった。

 しかし全くの想定外の口出しであったが故に返答のしようもない、ここは話を続けさせてもらおう。

 

 

 とにもかくにも、怖いもの知らずだった私は父や先代の作品、果てには里外の作品の資料を見てはとても再現し切れていないにも関わらず胸を張ってそれを父に内緒で売り物にしていた…鬼鮫さんが今も持っている"試作・叢雲"もその中の一つ。

 

 ただ、そんな私でも自分の作品が父達の作品と比べて何かが劣っているのははっきりと感じとっていた、だから躊躇う事なく私はそれが何か父に聞いてみた。

 どうすれば父や先代様達の様な作品が造れるのか? と──父は困った様に問い返してきた。

 

『お前は刀が好きか?』

 

 その問いに私は『刀造りは好き』と答えた。

 そしてそれと同時に当時の私の造る刀に何が足りていないのかがはっきりと分かった。

 

 良い作品を造れば父や母が褒めてくれて、刀を買いにくる人達も喜んで、何よりも繰り返す度に上達を感じられる"刀造り"を楽しいと感じていながらも私は刀そのものに対して好きという感情を抱いていなかった。

 

「そんなバカな」

「…水月は私が生まれた瞬間から理由もなく刀が好きだったとでも思っていたの?」

「まぁ…うん、何て言うか…本能的なものか何かかと」

 

 時々水月は私の事をどう思っているのか不安になる──いや、自分の印象というのは自らが思っているものと他人が実際に感じているものでは異なるのが常、あまり考えても仕方がないか。

 しかしだからといって誤解されたままというのもあまり良い傾向とは言えない、今後はもう少し積極的に行動して自己表現をするとしよう。

 

 それで…何故当時の私が刀そのものに関心が薄かったのかについてだが…まぁそれは後にするとして、刀そのものが好きでない事が私の刀造りに足りない事なのかと思った私は父に聞き返してみた。

 

『お父さんは刀が好きですか?』と、それに対する父の答えは──正直意外だった。

 

『私は…あまり好きではないよ。私も村雨と同じ年の頃に刀造りをしたものだが先代、先々代を知る者達は揃って比べては悪く言う…今以上に他の国と戦っていた時代の人達だからそれも無理はないが…中々楽しいものではなかったよ』

『…だったらどうして刀造りを続けているんですか?』

 

 思っていたのと違う答えに驚きながも続けた問い掛けに答えたのはそれまで隣で静かに聞いていた母だった。

 

『それはね、好きだからよ。刀じゃなくて私と村雨、そして私達がいるこの里が…でしょう?』

 

 悪戯っぽく笑いながらも普段通りの穏やかな母の声に父は少し照れ臭そうに頷いた。

 親として私達に不自由のない生活の為好きとは言えずとも家業を続けてくれている父とそんな父の不器用さをフォローしてその難しい内心を伝えてくれる母、二人の愛情を感じ心が温かくなったのを今でも覚えている。

 

 そして上達の喜びばかりで刀造りを続けるのではなく父と母の言葉通り、何の為に、誰の為に造るのか…それを見出そうと自分なりに考えてみて暫くして…あの事件が起きた。

 

 …さて、ここで少し前の話に戻って何故私が刀そのものに対して関心が薄かったのかと言うと──単純な話、幼い身で刀を造り続けていた私だったが実は一度も刀が実際に使われているところを見た事がなかったのだ。

 

 勿論鍛冶師として模擬戦などを見学して学ぶ機会は何度も得ていたのだが──かつて再不斬さんが行ったというアカデミーでの殺戮行為もあって未だ過激な時代であった霧の里でも自里内で刃物を持ち出しての実戦の光景なんて見る機会はなくなっていた。

 

 

 

 ──だから、私が初めて刀の"本来の姿"を見たのは母が斬られた時の事だった。

 

 

 

 岩隠れの額当てをした男性が売り物の刀を母に渡された瞬間、彼は一瞬にして母を左脇から右肩へと斬り上げた──それは今でも目に焼き付いて離れない光景だった。

 目の前の出来事が信じられない、現実である事を疑う程に──美しいと感じて息を飲んだ。

 

「…は?」

 

 一切のブレの無い太刀筋、舞う鮮血、赤と銀に輝く刀身──使い手の腕以上にそれらを実現せしめた父の作品は私が造る刀とはまるで違うのだと本当の意味で理解した。

 

 男性の眼がこちらに向くのを意に介さず頭の中で何度も何度も何度も直前の光景を反芻し続け、命を奪う強さと恐ろしさ、斬るという鋭さと刹那の美、血に塗れても輝く刀身の完全さと揺るぎなさ…刀の本来の魅力に心を奪われていた。

 

 …気が付いたら男性はその場に居合わせた満月さんが背後から心臓をクナイで刺し貫いて──この事件はそれで終わった。

 

「──で、残ったのは親の死に一切無関心な親不孝娘って訳?」

「別に母の死に何も思わなかった訳じゃない」

 

 他里の額当てをした男性が里の重要一族を襲撃したという事件ではあったけれど、余計な混乱や他里への影響を鑑みて事の重大さの割には粛々と執り行われた葬儀の場では母の死に喪失感も、犯人への憤りだって感じていた──本当だよ? 

 

 …でも、うん…親不幸娘っていうのは事実かな。

 葬儀の最中でも私の頭の中にはずっと刀の事があったのだから。

 

 でも葬儀や母の遺品整理が終わって、日常に戻らなくてはならなくなった時…父の刀造りは全くの別ものになっていた。

 父は刀造り自体が好きな訳ではないと…その言葉の通りの人物だったと初めて理解出来た。

 軽蔑はしない、理解出来たのだから、刀を造る理由であった母を自らの刀で殺され、それでも私を養う為に刀を造ってくれる父に感謝していた。

 

 ──でも、違う。

 それから父が造る刀は母を殺した刀よりも遥かに劣化した鈍ばかりだった。

 理解はしていても納得は出来なかった。

 

 あれ程美しい刀を造れるのに。

 母の死の悲しみのせいで父が磨き上げた技術は無駄になってしまうのか? 

 ならば父にとって大切な存在とは一体何だったと言うんだ? 

 母の死は、母の命は父の刀造りを奪うものだったのか? 

 

 そんな恐怖を宿した疑問が渦巻いて私を駆り立てた。

 母の死を、母の生きた意味を示す、その為には母の命を奪ったあの刀よりも優れた作品を造らなくては──そんな使命感と共にこれまで見てきた技術を継承し、これまで学んだ教えを脳内で繰り返し、あの刀の美しい光景への衝動のままに私は新たな刀を造り始めた。

 

 記憶を頼りに母を斬った刀の長さ、厚み、重さを推測しそれと同じものになるように素材を選んで火に溶かし何度も何度も叩き続けて…その結果は、失敗だった。

 形は歪で切れ味は劣る──でも学ぶものはあった。

 

 だから次に造った時には前回の作業の反省を生かして鎚を振り下ろす力をより強く、より多く…形状もより繊細に、よりしっかりと整えて完成させた刀は父の作品と比べても遜色ない仕上がりになった。

 

 そうなるともう止まらなかった。

 母に報いる事が出来る喜びもあったがそれ以上に望むままの刀を造り上げる事の喜びが私を満たしていた。

 父の『刀が好きか』という問いにその時にはもう間違いなく『はい』と答える事が出来ただろう──母が刀で斬られたにも関わらず、それ程までに私は刀の魅力に憑りつかれていた。

 

 上手く出来たところはそのままに、更に気付く事の出来た改善点を意識し今度は父の作品とは異なる新しい刀を造ってみて私は自分が天才なのだと気付いた。

 

「…え? ここで自慢入れるの?」

「別に自慢でもなんでもない。挑戦と改善と再挑戦、たった3回の刀造りで私は人生を捧げてでも成し遂げると誓った事を達成した…そんな天才だったというだけの事」

 

 尤もそうやってあっさりと達成した事は決して良い事ばかりではなかったが。

 母の死を無駄にしない様に、母の命を奪った刀よりも優れた刀を造る──そんな誓いはたった3回の試行錯誤で終えてしまった。

 …つまり私の心境的にはともかくとして、私の技術からすれば父の作品も母の命もその程度のものだったという事だ。

 

 達成感は特になかった、だからといって虚しい訳じゃなかった…それまでの挑戦で思い描いた刀を造り上げる喜びを改めて認識する事が出来たのだから。

 それどころか、次々に湧き上がる刀のアイデアに導かれる様にもっともっと造り続けて──父と母の思い出をあっという間に通り過ぎてふとした時に漸く思い出した。

 

『この程度の事なら──どうして母の死にもっと悲しんであげられなかったのかな?』

 

 その気になればここまで簡単に出来た…だったらあの時私が涙さえ流さなかったのは──どうしてだろう。

 そんな疑問が脳裏を過り…答えは出なかった。

 ただそれ以来悲しさや怒りというものがどうにも曖昧になっていた…別に無感情な訳ではないけれど、例えば刀を乱雑に扱う人なんかを見たら我慢出来ないけれど反省してくれたならそれで良いかな…なんて嫌な気持ちが長続きしない様になった。

 

 しかしそれも別に不都合ではなかった。

 負の感情が希薄になれば夢の道がより明確になる。

 母の命と釣り合う結果という目的はなくなったけど優れた刀を造り続けるという理想は消える事なく私の中で燃え続けていた。──だから果てのないその夢の道を愉しみ続ける事が出来た。

 

「──でもそれで他人の気持ちについても曖昧で全く考慮してないのは勘弁してほしいんだけどね!?」

「…? あぁ、時々誰かと話してる時に価値観に違いがあるな…って思う時があるけどもしかしてそれが原因?」

「間違いなくね! あと時々どころじゃないからね!?」

「そう? でもデイダラさんと話している時とかは全然──」

「多分相手はそう思ってないか、もしくはそいつも価値観おかしい奴なだけだよ!」

「そうか…デイダラさん、独特な人だったのか…確かに癖の強いところはあった…」

「改めてホントに嫌なとこだけ前向きだね君…あーもう!」

 

 水月はどこか怒った様に虫取り網を投げ置いて近くの岩に濡れるのもお構いなしに勢いよく腰かけた。

 

「とりあえず君の話を聞いて思った事だけどさぁ! …君がサスケに共感出来るポイント何もないからね!」

「そう? イタチさんや一族の人達の事で色々考えている様だったから私みたいに命に釣り合う結果を求めたりしないか心配したけど…」

「目の前で母親斬られて刀に目を奪われる君と一緒にされるとかサスケからすれば堪ったもんじゃないだろーよ!」

 

 …言われてみたらそうかもしれない、というかさっき価値観が独特という話をしたばかりだ。

 状況が似たものでも私とサスケ君では考え方もまるで違うかもしれない…あぁいや、そもそも状況自体全然別物なのか? 何であれ私の杞憂だったという事か? 

 

「…まぁ、それなら良かった。ごめんね水月、意味もなく長い話に付き合わせてしまった」

「長いっていうかさぁ…あぁもう、なんか調子狂うなぁ、結局君、悲しんだかどうかはともかく母親が死んだ事には何か思う事はある奴って事でしょ?」

「え? …うん、そうかも」

 

 雑にまとめられた気もするが、雑にまとめてしまえば結局のところ私も家族の死は嫌だったという、普通の人という事だ。

 そう思うと別に難しく考える事は何もないのかもしれない。

 

「──ありがとう水月」

「はいはい。にしてもとっくに殺されたとはいえどっかのバカのせいでこんな変な奴が出来上がってボクの苦労が増えたんだと思うと岩隠れの連中にもちょっとは反省してほしいもんだね、戦争するってんならどさくさに紛れてこっそり岩隠れの連中ぶっ殺してやろうかな」

「…あ、それはやめた方がいいと思う」

 

 突然物騒な発想に思い至った水月にちょっとビックリして慌てて静止を呼びかける、確かに母を殺した相手は岩隠れの額当てをしていたが別に岩隠れの里の人達が悪い訳ではないのだから。

 

「そもそも水月に苦労を掛けている事自体は否定しないけれど、今回の件に関して新生・忍刀七人衆の一振りの為なのだからリーダーの水月が働くのは当然の事」

「いやでもそれを使うのはカブトなんでしょ!? せめて本人は手伝わせようよ!」

「…それは確かに…、そうだ、だったらいっそ部隊運営の練習として現メンバー全員でやってみる? リーダー権限という名目で皆に招集を──」

「やっぱボクだけで良い…」

「あれ?」

 

 ハレンチ博士とサソリさんだったり関係性に不安に残る人達の親睦を深めるのに丁度良いかもと思ったのだが…まぁ肝心な水月がノリ気でないのならまた次の機会にするとしよう。

 

 それにしても…初めてこんな身の上話をしたが改めて言葉にすると懐かしさが込み上げてきた。

 目的を終えた後、私はただ歓喜と衝動のままに刀を造り続ける日々を送っていた…その日々はそれまで以上に刀造りに傾倒していき、やがて気が付けば"霧隠れの狂人"と呼ばれる様になっていた。

 

 ──しかしその一方でその刀工には父から学んだ"何の為に"そして"誰の為に"という前提はなくなっていた。いや…厳密には"何の為に"かについては私自身の楽しいからという理由はあったとも言えるが…それも結局は私1人の世界でしかなかった。

 

 そんな日々も特に不足はなかった。

 しかし更なる充実を得る事が出来たのは──"忍刀七人衆"が後継者不足やら刀の喪失などで完全に崩壊した後…そして"霧隠れの狂人"という名が広まり続けてからの事だった。

 

『君が"霧隠れの狂人"だとか言われてる刀匠?』

『貴方は──あぁ、確か…満月さん? あの時助けて頂いた刀匠です』

『それボクの兄! 仮にも助けて貰ったのなら相手の顔ぐらい覚えてなよ!』

『あの時は刀と母ばかり見ていたから…ごめんなさい』

『別に良いけどさぁ…ボクには関係のない事だし──そんな事よりも、君良い刀造るんだってね?』

 

 突然店に押し掛けてきた上に既に他の忍具屋のものよりよっぽど優れた完成度を誇る売り物の刀に一切目もくれずにそんな事を言ってのけた少年にほんの僅かに興味が湧いたのを覚えている。

 

『良い刀ならいくらでも並べてあるけれど…それでは不満? だったら要望に合わせて造ってあげる』

『…忍刀七人衆、名前は知ってるよね…君の一族も関わってんだしさ』

 

 思わぬ名が出てピクリと眉が動く…当然知らないはずもないが、その組織は争いの最中に起きた刀の紛失が原因で半ば崩壊の最中のはずだが…と少年の真意が読めず視線を向けた。

 

『あの部隊を復活させたいんだけど肝心の刀がなくってさ、見つかればそれで良いんだけど他の里に持っていかれたりしてたら望みは薄いでしょ。だから元の七刀に見劣りしない強い刀が欲しいんだよ』

『…あの刀達は大爺様の作品の中でも最高傑作達…それに匹敵する刀を私に造れと?』

『別に今すぐ造れって話じゃないさ、出来るとも思ってないしね。ボクがいずれ新世代の忍刀七人衆を再興させる時に元の七刀がなかった時に代わりに造ってほしいなって話』

 

 "出来るとも思ってない"、"代わりに"…この少年はどうやら図々しい上に失礼な性格らしい。

 しかし忍刀七人衆の七刀がそれ程までに優れた傑作であることを理解し、それでもなお匹敵する物を求める姿勢はむしろ好ましく思えた。

 

『──いいよ、貴方の忍刀七人衆の復活という夢…私も協力する。えっと…満月さんの弟さん?』

『水月だよ! 名前ぐらい普通に訊けっての!』

 

 

 

 …その時の私は、至高の刀を造るという理想はあれど成し遂げようと思った目的を既に終えてしまっていた反動だったのか、予期せず得た新しい目的に更なる作品造りへ掻き立てられるような衝動が溢れ出し、その日の翌日には今まで以上に強力な刀を造る参考にするべく突き動かされるかの様に私は先代の水影様の巻物を盗みに入り鬼鮫さんに捕まるが何とか見逃してもらい、更にその翌日それを報告して水月に怒られたりした。──本当に懐かしい思い出だ。

 

 …そういえば、ここまでその夢を実現するのに夢中で考えた事もなかったが七人衆復興も半ばとはいえ叶いつつあるのも事実…さて、もしも全てを成し遂げた後、私は次に何を目的にすれば良いのだろうか? 

 

 いや、考えるまでもない事だ。

 たとえどんな目的を定めようとその為に私がすることが刀造りであることに代わりはない…ならば夢を果たすまではそれ一つに全てを捧げるべきだろう。

 

 …夢、か。

 思い出に浸るあまり世界全てを夢に閉ざす戦争間近だという事を思い出す。

 気が付けば雨脚も一層強くなりこれ以上の山椒魚捜索は危険性も高い上に時間が掛かり過ぎるだろうと判断する。

 

「水月、残念だけど──」

「撤収だね、その言葉を待ってたよ!」

「無理そうだから皆にも声掛けよう」

 

 大雨の中河原を駆け回るのは危険だが人が多ければ助け合える、命綱を繋いでやるなりすれば多分問題ないだろう。

 おまけに人数が増えれば山椒魚もその分早く見つかる…雨の中私達の様な特異体質でない人達を付き合わせるのは心苦しく残念だが仕方ない。

 

 夢に描いた新生・忍刀七人衆最初の任務として山椒魚探しを本格的に始動するとしよう…聞いた話では木ノ葉では下忍就任直後は迷子の飼い猫探しなんかもやるそうだし、新部隊結成を機に初心に立ち返るのも悪くはないだろう。

 

 

 

 ──気が付けば水月の顔を水が伝っている…やはり雨が強くなっているのだろう、早く山椒魚見つけないと…。

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