霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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開戦前の戦い

 雨が激しく降り頻る中、この世の悲劇を嘆き茫然と立ち尽くす。

 木ノ葉の里へと向かったサスケ君とハレンチ博士はともかく、サソリさんに角都さん、カブトさんに香燐さん…皆に山椒魚捕獲の為に協力を求めるも敢え無く拒否されてしまった。

 

「…私、思った以上に人望ないの?」

「それもあるけど、それ以前にこの大雨の中に山椒魚取りなんて皆やりたくないんだって」

 

 確かに雨天にやる事ではないかもしれないが雨隠れの里は雨の多い地域、晴れの日を待つ余裕はないのだから仕方ない、その分苦労を上回る成果を出して見せる自身はあるしその結果を出せる腕はあると…その信頼を抱かせる姿を見せていたつもりだったのに。

 

「…というか重吾はむしろ良く来たよね、断れば良かったのに」

「俺は刀など使えないからな、七人衆とやらに協力してやれない、代わりという訳ではないがこれぐらいはさせてくれ」

 

 重吾さんの言葉に胸が熱くなる。

 そうだ、確かにサソリさん達からの協力を得る事は出来なかったがそれでも協力してくれる人もいる…思えば小南さんも誘った際に「この大雨の中で山椒魚取り?」と疑うような反応をされたがその後「…帰って来た時に温かいお茶とお風呂を用意しておく」と言ってくれた。

 …正直山椒魚取りに加わるのが嫌でそれとなく断られたのでは…と思ってしまっていたがあれもきっと小南さんが思う1番の協力だったに違いない。

 

 ついつい自分に人望がないのでは? と不安になったが安心出来た、それでは早速重吾さんを加えて3人で頑張って山椒魚を──そう思った矢先、川の近くの木陰に入った重吾さんの頭上に何匹もの鳥が集まっている光景が

 目に映り呆気に取られる。

 時折彼の周りに小鳥が集まる事はあったが今回は普段の鳥より一回り大きい様だが狩猟を行う肉食性の鳥だろうか? …まさか──

 

「──そうか…彼らが言うには親鳥から手を出すなと言われた個体の山椒魚がいるそうだ。もしかしたらお前達の目当てのものかもしれない」

「ボクの苦労は何だったわけ!?」

 

 まさかこうもあっさりと手掛かりを見つけるとは…水月の嘆きも尤もだが万が一サソリさん達を無理やり連れてきた挙句こうなっていたら多分無駄足を踏ませたと怒られていただろうとゾッとする。

 断られたのが幸運だったという思わぬ僥倖とサソリさん達と違い嘆くだけで許してくれる水月に深く感謝しつつ重吾さんの案内に従い鳥達の噂の山椒魚の下へと向かうのだった。

 

 

 

 河川に沿って移動するがやがて川から少し離れた林の中へと入っていく。

 山椒魚という何となくのイメージで水辺の岩陰を探していたが生息地は河原だけとは限らないらしい、生物学のちょっとした豆知識が得られた事に充実感を覚える。

 

 長く戦争が続き荒れた雨隠れの里にとっては貴重であろう自然を極力荒らすまいと慎重に林をかき分ける、落ち葉や大きめの石を掘り返すと小さな虫に混じり数匹の山椒魚を見つけると、重吾さんはそのうちの一匹を指差した。

 

「身体の大きさは15cm程度、他と比べて黒い身体に僅かに掛かった紫色…鳥達に聞いた特徴からしてこいつがそうらしい」

「こんな小さいのが伝説の三忍と呼ばれる前とはいえ大蛇丸よりも強かったっていう半蔵が使ったっていう毒と同じものを持ってる訳?」

「特殊な個体だから全く同じかは定かではないけれど…捕食者側の鳥達が手を出さない以上何らかの毒を持つ個体であることは間違いないと思う。…後はカブトさん辺りに解剖してもらって毒性を調べてみよう」

 

 虫取り網を振りかぶりジッと山椒魚の観察、次の動きを予測する。

 カサリと山椒魚が落ち葉を踏み鳴らし、近くの虫へ接近した瞬間──今、と虫取り網を持つ右腕ではなく刀を持つ左腕を山椒魚の顔の前へと振り下ろす。

 

 こちらの攻撃に山椒魚が身を震わせる──毒を吐き出すつもりだろうか? 

 だがもう遅い、山椒魚の退化した目を補う為に発達した嗅覚を白刃から発する白米の匂いが刺激する。

 チャクラによって操作されるその匂いに嗅覚が脳へと達した瞬間、匂いに乗せた陰遁チャクラが食欲を睡眠欲へと誤認させる。

 

 瞬時に山椒魚の身震いは収まり、その動作を停止する。

 当然死んだ訳ではなく睡眠欲求に導かれるまま眠りについただけだ。

 

「そのバカみたいな刀が役立つの何か納得いかないなぁ」

「霧隠れの追い人衆にもある程度通用した実績がある傑作になんて事を…とはいえ、白米の匂いでは山椒魚の食欲を刺激する事は出来ない、今回は近くに捕食対象の虫がいたから幸運だった。…もう少し汎用性を持たせた方が良いかも?」

「いや別に山椒魚の相手するのなんて今回っきりだけだと思うけど…ってか今更だけど山椒魚って天然記念物じゃなかったっけ? 捕まえていいのかな?」

「良い刀は国宝にだってなる、だから私が使う分には問題ない」

「動物は大切にしなね、本当に」

 

 勿論私としても生き物を蔑ろにするのは本意ではないがそれを言ったらハレンチ博士のアジトで活動している内に人体実験にマムシ酒、暁の方でも五源龍などなど今更な事だ、決して軽んじるつもりはないがそれで止まる理由はない。

 

「そもそも必要なのは毒袋なんだろう、カブトなら死なない様に摘出することも可能なんじゃないか?」

「それは確かに、引き渡す時に念押ししておこう」

「……絶対山椒魚解剖した経験とかないだろうに、天然二人に無茶振りされるの微妙に気の毒だねアイツ、いやでもアイツも山椒魚取りボク1人に押し付けてたんだし同情とかいらないか」

 

 その後は3人でカブトさんに摘出お願いしますと頭を下げた後に小南さんが用意してくれたお茶でお腹の内から温めた後に、同じく手配してくれたお風呂で冷えた身体を労わるのだった。

 

 お風呂出たらカブトさんが準備してくれた毒袋を使って刀造り頑張るぞ! 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 村雨が山椒魚捕獲を終え、温かい風呂に風呂上がりの一仕事に思いを馳せながら温まっている頃雲隠れの里近くの海域を泳ぐ巨大な亀──島亀の背の上ではこの先の戦争の行方を左右する激闘が決着を迎えようとしていた。

 

 事の発端は八尾の人柱力、キラー・ビーが干柿 鬼鮫を打ち倒した戦利品として持ち帰っていた大刀・鮫肌、そこに潜んでいた本物の鬼鮫の存在に九尾のチャクラを得たナルトが気付いた事だった。

 

 特殊な変化分身によって自身の死を偽装し雲隠れに潜り込んだ鬼鮫は既に後の戦争に向け雲隠れの里が持つ兵力を完全に把握し、更には雷影が忍連合軍全体の情報さえも多く盗む事に成功していた。

 しかし一方で鬼鮫とってもそれ程の情報を得たにも関わらず、今このタイミングで自身の存在を気取られる事は全くの想定外であり、不幸の事態であった。

 

 更には自身の最大の武器である鮫肌がビーに懐いている事、更に敵が人柱力2人に木遁の使い手であるヤマト。

 万全でない上に3体1の状況では旗色が悪いと即座に撤退を図った鬼鮫であったが九尾の力によって桁外れの速度を得たナルトの光速の一撃を受けながらもその場を離脱した鬼鮫を待っていたのは木ノ葉の上忍、マイト・ガイの勘違いしながらも繰り出された不意打ちであった。

 

 思わぬ怨敵との遭遇と予想外の攻撃に戸惑い、更には彼と共に居合わせた忍達からの追撃を受けながらも辛くも包囲を振り切った鬼鮫に唯一追い付いたガイ。

 片や膨大なチャクラ量から成る水遁の大技と片や忍術さえも超越する体術、正しく正反対の両者は激闘を繰り広げ、その果てに鬼鮫は――満身創痍の状態で、しかしボロボロに刃毀れした刀を片手に立ち続け、右肩から夥しい量の血を流しながらも鬼鮫から奪い取った巻物を握り締めたガイと睨み合っていた。

 

「昼虎とやら…実に…恐ろしい体術でした。千食鮫も、大鮫弾も搔き消され…私自身もこのザマとは…直撃していたらどうなっていたか…ククッ、その正拳を打ち出す右肩が負傷していたのは残念でしたね」

 

 ナルト達の攻撃を振り切った鬼鮫へガイが繰り出した出会い頭の一撃"木ノ葉壊岩升"──鬼鮫にとっても重い一撃ではあったが、同時にガイも致命的な傷を負っていた。

 鮫肌がビーに懐き、自らの最大の武器を失っていた鬼鮫は自身に残った最後の武器"試作・叢雲"を常に握り続けていた。

 

 故に自らの眼前に鋭い肘撃ちが迫った瞬間、咄嗟に鮫肌の奥からその切っ先をガイへと向けていた。

 

 体術を主体とするガイにとってその傷は決して軽いものではなかった。

 包囲を振り切った鬼鮫に追いつくべくビーの協力を得て行った投げ飛ばされる形での空中移動、更には巻物を持たさせた鮫を追って水中に潜った事でその傷口はより大きく開き、果てには身体に負担が大きい八門遁甲、その第七驚門を開いての大技──ほんの僅かにだが放つ瞬間にその激痛によって拳の軌道がブレ、弱まった。

 

 広範囲に広がる拳圧はそれでもなお鬼鮫が放った大量の鮫を殲滅し、"試作・叢雲"の刀身もボロボロに風化し鬼鮫自身にも絶大なダメージを負わせるも倒し切るには至らなかった。

 

「…どうやらその巻物を奪い返す事は…今の私には無理そうですね。──また借りが出来てしまうのは…口惜しいですが…記憶した情報だけでも十分、この場は…退かせて頂きます」

「逃がすものか!」

 

 睨み合い、右腕を負傷しながらもまだ相手に余力があると見立てた鬼鮫は再び水中へと身を隠すとガイもそれを追って水中に飛び込む。

 両者共に深い傷に海水が沁み込み激痛に見舞われるがそれだけでは卓越した忍である両者の動きは止まらない──故に勝敗を分けたのは地の利だった。

 

「──"口寄せの術"!!」

「おのれ!」

 

 追撃に迫るガイだったが目の前に何匹もの鮫が放たれ歯噛みする。

 血の臭いに反応し出現と同時に活性化する鮫達の鼻柱、エラに拳や蹴りを放ち撃退していくが全ての鮫を倒した時ガイの視界に鬼鮫の姿はなかった。

 

 止まる事なく水中に流れていく血、迫る八門遁甲の反動にこれ以上の追跡は不可能であり、それよりも密偵が存在し逃げられた事を本部へ報告、奪取に成功した巻物から敵が欲しかった情報の確認が先決だと判断し、ガイは傷口を抑えながら仲間達へ急ぎ戻るのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 海に続く鍾乳洞の洞窟に鬼鮫は半ば打ち上げられる形で上半身だけを水面から出す──深刻なダメージに加え休みなく水遁の術で水中を移動し続け既に海から全身を上げる力すら残っていなかったのだ。

 しかしその手を掴み、マダラは彼を水中から引き上げる。

 

「ご苦労だったな鬼鮫──お前の潜入が気取られるとはな」

「うずまきナルト…九尾の力を…コントロールした結果でしょうか、奴はチャクラではなく人の悪意を…感知する様です…恐らく、ゼツでさえ…」

「なるほど、戦場に出られると少々厄介だが──大した問題はない…それよりも──」

 

 後の戦争の主戦力であるゼツに対して対抗策が持たれた事を受け止めつつマダラは鬼鮫を丁度良い岩に凭れさせると、そのゼツへと視線を向ける。

 

「鬼鮫を回復させておけ」

「勿論…だけどこの傷じゃあ戦争開始に間に合うかは微妙だよ?いくらボクでも鬼鮫のチャクラ量を完全回復させるには今の状態じゃあね」

 

 戦争に備え白ゼツの数を増やした結果大本である尾獣達のチャクラをだいぶ使ってしまった。

 他の人間からチャクラを奪ってきたならまだしもゼツ本人のチャクラだけで鬼鮫の回復には少々時間が掛かるだろうという見立てにマダラは「構わん」と短く応える。

 

「鬼鮫、話せる程度に回復したら情報をゼツに伝えておけ」

「…行クノカ?」

 

 指示を出しながら自らは岩に立て掛けていた巨大な扇子を手に取るマダラの背に黒ゼツは問う。

 

「鬼鮫との戦闘で人柱力の護衛役であるマイト・ガイが負傷、人柱力を隠した島亀の位置が掴まれた…この時点で忍連合は増援を出す必要があるが、同時に雲隠れ中枢に密偵が入り込んでいた報告が入り本部は作戦の立て直しを余儀なくされ急に動かせる戦力は極僅か…状況はこちらに傾いた」

 

 ならば最早マダラにとって開戦を待つ必要はない。

 元々戦争をちらつかせた時点で戦争用の兵隊達とは別に人柱力2人が最低限の護衛と共にどこかに隠されるというこの状況を作る事もプランの一つだった。

 それこそ真っ向から戦争を行うよりもずっと本命のプランである。

 

「八尾と九尾を捕りにいく」

 

 時空間忍術を宿すその右目にチャクラを込めながら告げたその言葉を静止するものは誰もいない。

 

 あるいはただ1人、何かが違えばマダラを止めて代わりに自分が行くと提案する者もいたかもしれない。

 しかしその人物は今雨隠れの里で殺さない様に気を付けつつ毒袋の摘出よろしくと渡された黒山椒魚という未知の存在と向かい合い、ほんの少しでも手元が狂い毒袋が破れればそこから漏れ出した毒で解剖する側の自分が死ぬという事の重大さ、危険を一切考えず任された任務に息を詰まらせていた。

 

 故に──マダラを止める者は誰もいない。

 何もない空間に吸い込まれる様に消えていくマダラを見送った鬼鮫は重い負傷に震える腕を動かし握り込んだままだった折れた刀を目の前に掲げた。

 

 

 "試作・叢雲"

 

 

 昼虎の拳圧を受けてその刀身はあちこちが欠け落ちて次に全力で振るえばその刀身はあっさりと折れてしまうとはっきり分かる程に損傷していた──しかし、もしこの刀がなかったら、恐らくその一撃は自身に直撃していたのだろう、そしてその場合果たして自分はこうして生きていただろうかと自問自答する。

 

(まさか、本当にこの刀に命を救われる事になろうとは…殺そうとした、あるいは本当に殺したやもしれない娘の作品で生き永らえるとは…つくづく、ろくでもない)

 

 こんな結果になろうとは…果たして自らの浅ましさをどこまでも突き付けようとしているのか、それともこれはあくまで『己の敵を己の作品が救う』というあの娘への天罰なのか。

 答えの出ないその問い掛けに、しかし鬼鮫はどちらであってもろくでもない人間にとっては実に似合いの結果だと自嘲気味に笑うと使い物にならなくなった刀をそれでも折れてしまわないように足元にゆっくりと置いて目を閉じる。

 

 果たして自分は後何度こうして目を閉じて、開く事が出来るのか。

 人柱力を捕獲に向かったマダラさんが上手く二匹を捕らえたならば──あるいは自分が次に目を開いた時はもう夢の中なのか。

 そうであったならば──そんな風に思いを巡らせたまま鬼鮫は意識を手放すのだった。

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