霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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奇襲

 島亀の背の上で雲と木ノ葉の忍達は先の干柿鬼鮫との戦闘の事後処理に奔走していた。

 開戦直前に情報の流出、隠すべき人柱力達の居場所の露呈、どちらも緊急を要する事態でありその対策に向け可能な限り全力を尽くしていた。

 

 既に本部にはそれらの報告を済まし増援を要請し、人柱力の居場所問題についても島亀自体が移動する上に周辺が濃い雲に覆われている為下手に動かすよりも安全であると踏んでいた。

 

 しかしその見立ては脆く崩れる。

 一先ずの対策を実行した後、まずは鬼鮫との戦闘で七門を開いた影響で全身の筋繊維が断絶したガイをアオバが宿舎へと運ぶのを見送ったヤマトとモトイは、暁の次なる襲撃に備え島亀に住む動物達を甲羅の中へ避難させつつナルトを彼らの生態調査という名目で匿おうとした矢先、彼らの目の前の空間が歪んだ。

 

 それが何か。

 先のサスケ捜索の際に一度遭遇したナルトとヤマトは目を見開いた。

 

「オ、オメーは!?」

「久しぶりだな…うずまきナルト」

 

 装いも、口調も以前とは違うがその正体が五影会談に乗り込み五里全てに宣戦布告を投げ付けた暁の真のリーダー、うちはマダラである事は既に彼らは知っている。

 何よりナルトにとってはつい先ほど、彼がかつて自らの誕生の際に父ミナトと母クシナの死の原因であると知ったばかりであった。

 

 だがその怒りを差し置いてもナルトは目の前の男の左目に視線を向ける。

 

「テメー…その眼は…」

「あぁ、これか? 長門の奴から少しな…」

「どこまでも他人を利用しやがって…」

「勘違いはするなよ。この眼は元々俺が奴に貸してやっていたものだ、奴も知らぬ事だったが…ただ返してもらっただけの事だ。そんな事よりも…」

 

 ちらりと右目の写輪眼がナルトから少し離れた位置で突然の襲来に戸惑うビーの姿を捉える。

 

「──八尾と九尾、残る二匹がここに揃っている。俺にとって重要なのはその一点だけだ」

 

 その一言にヤマトと雲のモトイはそれぞれ庇う様にナルトとビーの前に割り込む。

 

「ビー、ナルト! 俺達が時間を稼ぐ、ここから離れろ!」

「ダメです! こいつはマーキングもなしに時空間忍術を使う、居場所を完全に隠せない今離れるのは逆に危険だ! こうなっては全力で戦うしかない、ただしナルト、無暗に突っ込むなよ!」

「分かってる! "影分身の術"!!」

 

 本体を隠しつつ攻め手となり得る影分身、更にヤマトの木遁忍術が同時にマダラへと向かう。

 しかし回避する動作もなくその攻撃は全てマダラの身体をすり抜けていく。

 

「──やはり、以前の戦いと同じ…こいつは全ての攻撃をすり抜ける」

「けどすり抜けてる間はこいつも攻撃出来ねぇ! ──痺れ切らすまで攻め続けてやるってばよ」

「狙いは奴が攻撃する一瞬! カウンターで一蹴!」

「そういう事は口に出すなビー!」

 

 それぞれが互いの攻撃の隙を補いながら果敢に攻め続け、同時にマダラの能力の分析、攻略も試みるナルト達だが次々に繰り出す攻撃はいずれもマダラに触れる事なく空を切るばかり。

 そもそも主力であるナルトとビーに関しては然程分析に長けたタイプではなく、この場で最もそれが出来るヤマトも未だマダラが使う素振りを見せない輪廻眼の瞳術を不意に使われた際のケースを想定し警戒しなくてはならず、すり抜ける術のみを集中し観察することは困難を極めていた。

 

 一方、全ての攻撃をすり抜けるマダラも攻撃はナルト達の連携の隙を突いてクナイの投擲、手にした巨大団扇の薙ぎ払いでナルトの影分身を数体消滅させてはいながらも輪廻眼の瞳術を始め、大技の類は一切見せず単身乗り込んできたにしてはその攻撃はどこか消極的だった。

 

 それを不審がりながらも攻撃を緩めないナルト達、膠着状態が続いた戦闘は突如破られる。

 木遁の木々とナルトの影分身を通り抜けたマダラがその右手をビーに向けた瞬間、ビーの身体の一部を尾獣化させ出現した八尾のタコ足が吸い込みの為に実体化したマダラの胴体にぶつかりその身体をかち上げた。

 

(やるな…攻撃の瞬間に身体のサイズを変えてタイミングをズラしたか)

 

 実際には彼の内側でマダラの術を観察していた八尾の入れ知恵ではあるがそれを知る由もないマダラはビーの妙手に弾き飛ばされながら感心する──が、それまで一切の攻撃が通用しなかった反動か、この一撃にほんの少しだが互いへの意識が途切れたのをマダラが見逃すはずがなかった。

 

 空中に投げ出されたマダラの周囲が彼がここに出現した時と同様に歪むと無数の杭が打ち出される。

 

「ッ! ──"木遁・木錠壁"」

 

 即座に腕から生やした樹木で近くにいたナルトを手繰り寄せつつ同時に生成した木遁のドームに自らと共に身を隠したヤマトは木の壁に無数の杭が突き刺さる不快な音に顔を顰めながら庇い切れなかったビー、モトイの動きに耳を澄ます。

 

「モトイ!」

「うぐ! ──ビー!?」

 

 2人の不穏な声に杭の音が止むと即座に木の壁を縦一直線に開きビーとモトイの様子を窺うと幾本もの杭と杭の間に上手く身体を差し込んだビーと、攻撃の範囲の外で倒れ込んだモトイの姿があった。

 両者の間には八尾のタコ足一本が切断された状態で落ちている事からしてビーがモトイをギリギリでマダラの攻撃の外へ弾き飛ばしたのだとヤマトは把握する。

 

「ビーさん、八尾は!?」

「タコ足一本はすぐ生えるゥ! この程度で狼狽えるんじゃねぇよバカヤローコノヤロー」

 

 一先ず負傷は軽度で済んだ事に安堵するヤマトとナルトだったが、同時に地面に着地したマダラを見て歯噛みする。

 何とか一撃くれてやる事は出来たがこれでまた振り出し…先程の様な不意打ちも二度は通じない、それにさっきの杭の攻撃からして──

 

「…念のため様子を見ていたが、やはりこの島にもう他の手練れはいないようだな。お前達の動きもそろそろ読めた──こちらも本腰を入れるとしよう」

 

 やはり、とヤマトは歯噛みする。

 先程までのマダラの妙な手加減…増援の有無を確かめるのに加え自分達の連携も写輪眼に観察をされていた…そしてマダラの言葉が事実ならばこの短時間でそれらを見切られた。

 そしてそれは間違いなく本当だとヤマトは判断する。

 観察眼として最上位の写輪眼、それにそもそも自身とナルト、ビーとモトイの二組はともかく、この島亀に来て初めて顔合わせした四人での連携などそう大したものではない。

 

 果たして自分達だけでマダラを倒す事が出来るのか、怪しくなりつつある戦況に表情には出さないようにしつつも内心焦りが募り出したヤマトの視界の端でオレンジ色のチャクラが炎の様に揺らめいた。

 

「舐めんじゃねぇぞ──今までの動きが読まれたってんならさっきよりもっと速く動いてやる」

「…それが九尾の力をコントロールした姿か」

「ナルト! それは…」

 

 全身が炎の様なチャクラに覆われたナルトの"九尾チャクラモード"。

 通常状態の比ではない速度を持つ形態ならば確かに先程よりもマダラのすり抜けを攻略できる可能性もあるかもしれない、しかしナルト自身その桁外れのスピードのコントロールをまだ出来ていない。

 手詰まりであったとしても今ここで"九尾チャクラモード"に頼るのは無謀な賭けだとヤマトは静止を掛ける。

 

 恐らくナルトの賭けは失敗する。

 しかしだからといって通常の状態で戦わせてもやはり勝ち目はない、極僅かな可能性に託すなど慎重派の自分らしくないと思いつつもヤマトは腹を括り、いざという時に即座に動けるように集中し──

 

「そこまでじゃぜ!」

 

 ──突如、頭上から聞こえた声にマダラも含めその場にいた全員が顔を上げる。

 

「…土影か。思っていたよりも増援が早かったな」

 

 小柄の老人、五影の1人土影オオノキが彼の護衛の黒ツチと赤ツチを伴い空中に浮かんでいた。

 そしてオオノキが組んだ両手の内側に半透明の立方体を形成している事に気付いたヤマトは驚愕に目を見開いた。

 

「あれはまさか…ここで塵遁を放つ気か!?」

 

 血継限界の更に上、血継淘汰と言われる今や忍界においてオオノキのみが扱える特別な術、触れたものを分子レベルにまで消滅させる塵遁について多少なりとも知っていたヤマトはマダラだけに留まらず自身も、戦争で最も重要となる護衛対象であるナルトやビーさえも巻き添えを厭わないオオノキの暴挙に愕然とする。

 

「…つまらんハッタリはよせオオノキ。その位置から塵遁を放てばこいつらも巻き込むぞ?」

「土影殿、マダラはあらゆる術をすり抜ける! これではマダラを倒せずビーとナルトが死ぬだけだ」

「フン…じゃがマダラ、その場合八尾、九尾は死んで貴様も計画を尾獣復活のタイミングまで延期せざるを得なくなる。木ノ葉と雲の戦力を削ぎ貴様の目論見も崩せる。──残念ながら貴様に裏をかかれた今の状況なら、ワシにとってはそれが一番良い選択じゃぜ」

 

 モトイの必死の訴えに煩わしそうに鼻を鳴らしてそう言うとオオノキは冷酷な視線でナルト、ビー…そしてマダラを見据え土影は塵遁の光をより強くする。

 

「くそ、ナルト! ビーさんだけでも抱えて全力でここから離れろ!」

 

 両天秤のオオノキ、その頑固さからくる悪評も知るヤマトは最早説得の余地はないとせめてもの思いでナルトにそう指示を出す──が、それより先にマダラが動いた。

 構えていた巨大な扇子を力なく下ろし戦闘の意思を無くしたのだった。

 

「…見え透いた嘘だが…まぁ良い。この場は退いてやる──八尾も九尾もこの先の戦争で狩れば良いのだからな」

「戦争だと!?」

「何だ、聞いていないのか? ──ナルト、貴様の九尾は今に貰い受ける…その為の、戦争だ」

「テメェ」

「さて…だがなオオノキ、お前のつまらん演技だけ見て帰るのでは少々物足りない。手打ち料ぐらいは貰っていくぞ」

 

 そう言ってマダラは地面を蹴って一瞬で駆け抜ける。

 その先には──杭に切断された八尾の尾足が落ちていた。

 

「ッ! させん!」

 

 その意図に気付いたオオノキが両手の内の塵遁を消し、拳に岩を纏いつつ急降下するが一瞬早くマダラの手が八尾の尾足に触れ、そのまま尾足諸共、空間の渦に吸い込まれる様に姿を消した。

 オオノキの拳はマダラがいた位置で虚しく空を切り──島亀の背の上での前哨戦は幕を閉じるのだった。

 

 マダラが立ち去った後ナルトはヤマトに詰め寄った。

 

「ヤマト隊長、戦争ってどういう事だってばよ!?」

「…君とビーさん、正確には九尾と八尾を手にする為マダラは五里に宣戦布告をした。今、各里では戦争の準備を始めている」

「ッ!? だったらオレもこんなとこにはいられねぇ! 今すぐ木ノ葉に──」

「ならん! この戦争、貴様らがマダラの手に渡れば忍世界はお終いじゃぜ」

 

 既に隠し通せる状況ではないとヤマトは現在の状況を明かす。

 当然、それを聞いて大人しくしているはずもないナルトの言葉を遮ったのは土影だった。

 

「暁の連中はオレの中の九尾を狙ってんだ! オレがこんなとこに隠れてなんかいられねぇってばよ!」

「それで貴様が戦場に出て何になる!? お前が戦場に出れば皆がお前の守りに意識を割かねばならん、かえって邪魔になるだけじゃぜ…現にさっき貴様がマダラに何かを出来たか?」

「く…」

 

 感情ではなく戦場における事実を、ましてや先程の戦いの無力さを突き付けられてナルトは言葉を詰まらせる。

 

「…ナルト、お前が納得しない事は分かっている。だが土影様の言う事は尤もだ」

「だけど!」

「──マダラがしたのは宣戦布告だ。そしてその宣告を囮にした今回の奇襲が失敗した時点でマダラはいよいよ戦争を起こすだろう。だがそれにはそれなりの準備をしてくるはずだ…まだ開戦まで時間はある、だったらお前がすべきことはその九尾の力を完全にコントロールする事だ! ここにはその為の師匠だっている、今…君が木ノ葉に帰る事は貴重な時間を無駄にするだけだ…違うかい?」

 

 ヤマトの言葉にナルトは悔し気に唸るがゆっくりとビーの顔を見て頭を深く下げる。

 

「ビーのオッチャン! 今すぐオレに尾獣チャクラの使い方を叩き込んでくれってばよ!」

「…忘れたか? 俺への挨拶はそんなんじゃねぇだろ?」

「…あ! へへッ」

 

 ビーのその問いにナルトは漸く笑みを取り戻し真っ直ぐにビーに拳を付き出した。

 

「了解だバカヤローコノヤロー! まずは尾獣の必殺技についてだ、泣き言言わず着いて来い」

 

 拳を突き合わせ笑う二人にひとまず彼らの暴走は避けられたとヤマトは胸を撫で下ろすと続けて慌ててオオノキへと頭を見合わせる。

 

「申し訳ございません土影様、助かりました」

 

 緊急の増援にしても、既に人柱力を失った岩隠れの長という立場を利用してのハッタリにしても人柱力達の護衛役として深々と頭を下げる。

 

「それは良いが、アイツらはここに置いておくつもりか? またマダラの襲撃が来るかもしれんが…」

「今からあの2人にはこの島亀の特別な部屋に移動してもらう…そこなら外界からチャクラも含めて完全に遮断される。島亀自体も雷影様の考案したルートに移動させるから下手に移動させるよりも安全なはずです」

「…その部屋に入れば彼らも地上の様子を感知する事は出来ないはず。戦争が始まったと知らぬまま修行の名目で軟禁を続けられる」

「…なるほど、上手く言い聞かせたもんじゃぜ」

 

 先程の説得からしてもしや人柱力を戦争に参加させるつもりかと思ったがしっかりと人柱力を閉じ込める方法を考えていたヤマトにオオノキは納得した様に頷くと改めて人柱力達へと視線を向ける。

 

「これは奴らを守る戦争じゃぜ、その調子で上手く隠してやってやれ」

「…ありがとうございます土影様」

 

 人柱力達の身を案じるような口ぶりの土影の、その頑固者という本人の噂とはまったく異なる様子にヤマトとモトイは面食らいながらも改めて礼を述べる。

 

「おーいジジイ、マダラの奴は逃げたんだろ? アタイらはいつまでここにいんだ?」

「機動力のあるワシらが先行したが追加の護衛役と見張り役が来るそうだ、それまでここで待機じゃぜ」

「マジかよ…こんなジャングルみてぇなとこに長居か~」

 

 ボヤく黒ツチにヤマトは苦笑いを浮かべながらオオノキが口にした追加の護衛兼見張り役の到着が早く訪れる事を内心で祈る。

 既にその追加の小隊の編制は済んでおり、その中の1人はいざという時に実力や自分の様な誤魔化しなどではなく心からの説得を以てナルトを止められる可能性がある人物であり、いつまで誤魔化し続けられるか分からない今、彼の存在はきっと必要になる、そんな確信というべき予想がヤマトの中に燻り続けるのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

「…こんなものかな? 当然といえば当然だけど少し物足りないな」

 

 作業内容を悪く言うような事を口にするのは好きではないがそれでも思わずそんな感想を呟いてしまう。

 カブトさんに摘出してもらった山椒魚の毒袋から取れた毒液を今度は巻物に封印し、"蛇刀・蝕"の数珠つなぎになっている刃の内いくつかを毒蟲の口寄せ術式を今度はその毒液用の口寄せに書き換える…つまりは刀そのものに改良は必要としなかった。

 

 勿論、以前造った刀が今も改良を必要としない出来というのは職人冥利に尽きるとも言える…言えるのだが、山椒魚取りがあんなにワクワクする体験だっただけに何だか物足りない気分になってしまう。

 

「…かといって必要のない改造で劣化させるなんてもっともっと許せないし…仕方ないか」

 

 私の満足感よりも大切なのは刀の完成度。

 今回ばかりは仕方ないと物足りなさを飲み込んでカブトさんに改めてお礼と刀の返却をしようと気持ちを切り替えた瞬間、背後の扉が開く音がした。

 

「…村雨、貴女カブトに何をしたの?」

 

 背後を振り返った私に対し、ハレンチ博士は開口一番そんな事を口にした。

 

「…えっと、その前にハレンチ博士、サスケ君と木ノ葉へ行っていたのでは?」

 

 確かに毒袋から毒液のみを口寄せする術式の構築にはサソリさんの指導があった上でもそれなりの時間を要したがそれでも雨隠れから木ノ葉を往復できる程ではないはずだが…

 

「流石に木ノ葉に直通とまではいかないけれど、その近辺までは何かと裏口を用意してあるのよ…今回は私とサスケ君だけだから大した手間もないしね」

「なるほど…ではサスケ君ももう?」

「えぇ、用意された宿に戻ったんじゃないかしら。元々彼も今の木ノ葉を一目見るだけのつもりだったから…むしろ私の方が待たせてしまったわ」

 

 待たせてしまった? ハレンチ博士も木ノ葉で何かやっていた…という事だろうか? 

 …いや、流石にハレンチ博士が木ノ葉でそんな自由に動けるとは考えにくいが…まぁ何故待たせたのか合わせて言ってくれなかった事からして聞いたところで多分答えてはくれないのだろう。

 

「…あ、それでカブトさんがどうかしましたか?」

「いや、私が用を済ましてサスケ君と合流した辺りで口寄せ蛇に括り付けてこんなものを送ってきたものだから」

 

 そう言ってハレンチ博士が投げ渡してきた紙切れには普段のカブトさんの綺麗な字とは違う、微妙にブレた字で短い簡潔な文が書き記されていた。

 

『最後かもしれないので念の為にこちらを送らせて頂きます。一度は貴方が亡くなられたと思ってしまいましたがまたお会い出来て嬉しかったです。──長く、お世話になりました』

 

「……何ですかこれは?」

「私が知りたいわ…ここに来る前に様子を見てみたら妙に疲れた顔で生きてはいたけれど…」

 

 はて…私が山椒魚の毒袋の摘出を頼んだ後ハレンチ博士がここに来るまで…丁度サソリさんから毒液のみの口寄せ術式の構築方法を教わりそれを"蛇刀・蝕"に組み込んでいる間の時間に何かとんでもない無茶でもしていたのだろうか? 

 

 例えば何人もの実力者の集う孤島かどこかに単身乗り込んで行ったりとか…いや、特に心当たりはないな、カブトさんが今そんな事をする理由もないし。

 

「ところでハレンチ博士。この文面を見て何故私に? 特に私に関する事は何も書かれていませんが?」

「……そういえばそうね」

 

 そういえばではないが? 

 カブトさんが命の危機を感じる原因を当たり前の様に私絡みと思われているのはどうしてだ…日頃の行い…と言われると否定は出来ないが。

 

「まぁ、何が原因かは知らないけれど結局杞憂で済んだ様だしどうでも良いわ」

「一応カブトさんが危機感を覚える程の出来事があった事は事実なのですしもう少し気にしてあげて良いのでは?」

 

 勿論、カブトさんへの信頼があってこそだとは思うが…以前にカブトさんが優秀過ぎるのも困りもの、信頼があり過ぎるのもそれはそれで面倒だなんて言っていたがなるほどこういう事なのかと今になって理解する。

 

「そんな事よりも、貴女結局十拳剣はどう扱うつもりなの? 私に黙って写輪眼を隠し持っているようだけどそれと合わせて使うつもりかしら?」

 

 何故写輪眼を隠し持っている事が…いや、この前サスケ君に見られちゃったしそこから漏れたのだろうか? 

 …でも隠し持っていたのは事実でもその前にハレンチ博士にも8つあげたのだから怒られる事はないと思うが…いや、そもそもハレンチ博士がそのつもりなら怒る事もなく私を殺して奪うだろう、という訳でこの話は決してそういう意図はないはずだ、安心して話すとしよう。

 

「そうですね…私が持っている写輪眼は既に別の用途を考えているので十拳剣との掛け合わせは出来ないです。そもそも十拳剣自体がこの上なく優れた業物ですから安易な改造はしたくない…というか私も実際に戦闘で使われている様子を見ていないのでより改良するにしてもどういうアプローチをすればいいのか不透明で…しかしだからこそ心躍るというもの、どうするかは不透明とは言いましたが案自体は10通り以上既に思い描いていて──」

「…つまり何も決まってないのね」

「そう…ですね。あぁでもさっきも言いましたがアイディア自体はあるので良ければ1つ1つ詳細な内容をご紹介──」

「特に決めていないのなら…私の案に協力してくれないかしら?」

 

 思わぬ提案に次々と無意識の内に続けていた言葉をピタリと止める。

 

「ハレンチ博士から…刀の提案ですか?」

「別におかしな話ではないでしょう? 元々十拳剣はずっと手に入れたいと思っていたのだから──尤も、その時は別に改造しようとなんて考えてはいなかったけれどね」

「なるほど…それはつまり、それ程私の腕を買っていただけた…と、解釈させて頂いても?」

「…貴女がそうであってほしいと思うならそれで良いわ。それで、どうかしら?」

 

 さて…どうか、と聞かれたら──ほんの少し残念ではあるが答えは一つだ。

 折角手に入った名刀、出来る事なら自分の案で自分の理想のままに改良を加えたかった──しかし、尊敬する人物に腕を買われ、要望を持ち込まれたとあっては刀匠として全力で応えないわけにはいかない。

 

 …勿論、ハレンチ博士の案というものがあまりに十拳剣の改良にそぐわないものであればその限りではないが…ハレンチ博士に限ってそんな愚案を持ち込む事はないだろう。

 

 未練があるのは事実。

 だとしても構わない、私は刀匠──惜しむ刀はいつの日か自分の手で一から造り上げてしまえば良いだけの事だ、だから──

 

 

 

「承りました…それでは、ご要望をお聞かせください」

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