心の内から溢れる達成感と周囲の冷え切った雰囲気の差に周囲をキョロキョロと見渡してハレンチ博士を見て固まっているリーダーさんに恐る恐る声を掛ける。
「…えっと…戦わないのですか?」
「復活させるならさせるでまず状況を説明しろ、大蛇丸が復活していること自体はこの男の事だ、さして驚く事でもないがお前はこいつの部下だったはずだ、なぜ俺を復活させてまで戦おうとしている…大蛇丸が死んで暁に寝返った事がバレた様子でもなさそうだが」
「──貴女、そんな事も説明せずに私と長門を戦わせるつもりだったの?」
「言われてみれば…あの術の成功に満足してあくまでサスケ君の写輪眼を賭けての模擬戦という事を説明を忘れていました」
「お前…最悪俺に自分の師を殺させるところだったぞ」
危ないところだった…リーダーさんを復活させたのは私だがその行動の制御が出来る訳ではない。戦いの最中でストップを掛けるなんて出来ないのだからその最悪のケースになる可能性は十分あったと背筋が凍る。
「そもそも俺の認識では大蛇丸、お前はうちはサスケに返り討ちに遭い死んでいた。…尤もさっきも言った様にアンタの事だ、復活したこと自体は驚く事でもない。だが今はどういう状況だ? 復活したお前があれほど執着していた写輪眼を賭けてこの女と模擬戦を取り決めたり、この雨隠れで小南と共にいるとは……よほど頭が痛くなりそうな事情がありそうだが…」
「理解が早くて助かるわ」
あぁそうか、リーダーさんの認識の範囲内からここに至るまでは色々とあった、それを説明するとなると大変だ。
「あ! ではリーダーさんの能力で私の記憶を見てみれば説明も省けて──」
「二度とするか!」
「え?」
提案を途中で遮られ呆気に取られる内に長門さんはハレンチ博士、そして小南さんの2人と情報の共有を始めてしまい私1人取り残された。
数分後、粗方の説明を聞き終えた長門さんは相変わらず呆れた表情を浮かべたまま深くため息を吐いた。
「──つまり、俺の本当の身体はマダラに持っていかれたが、こいつの思い付きで俺は復活した…と。まったく揃いも揃って好き勝手してくれる」
「ごめんなさい、やはり止めるべきだった」
「…いや、こうして復活した以上俺がいなくなった後のこの里の基盤を作っておけるのは思いもしなかった幸運だ。──だが、それはそれとして…俺はお前と戦わないといけないのか、大蛇丸?」
何だか気まずそうにそう確認するリーダーさんにハレンチ博士は肩をすくめた。
「…輪廻眼、それも不死身の状態の貴方と戦うなんて御免よ。たとえ生前より遥かに劣化しているとしてもね」
「…! つまり、その…私の不戦勝という事に?」
「もうそれで良いわ」
やった!
反則とも言うべき代理人、本人が然程ノリ気じゃない模擬戦、2つの要素が大きすぎるとはいえあのハレンチ博士に形式上の勝利出来るとは…それも不戦勝、誰もケガせずに終わる最良の結果だ──やはり、"あの術"を使って正解だった。
「…それにしても、村雨、貴女よくあの術を──"穢土転生の術"を使えたものね」
「難しい術でした…印自体はカブトさんに頂いた巻物に記されていたのですが生前の意識と能力を再現させるのは至難の業で──しかし蘇らせる対象…今回でいうリーダーさんの制御を取り払う事でそちらに割く分のチャクラとコントロールを回す事が出来たのでこうして術は成功致しました」
「…いや待て、確かに口寄せされた割にお前のチャクラを殆ど感知出来ないと思っていたがまさか…管理下に置いていないのか? …俺を?」
困惑した様子のリーダーさんに力強く頷き肯定する。
「リーダーさんは信用出来る方ですからその必要もないでしょう? それに仮に管理しようにも私如きの縛り、多分リーダーさんなら簡単に解いてしまいそうですし…しかし余計な分に意識を割かずに済んだので生前の強さにある程度近づいた状態で口寄せ出来たと思いますよ」
「大蛇丸…術者に言っておけ、禁術を不用意に使うべきではないとな」
「目の前にいるんだから自分で言ってくれるかしら。…私はカブトに禁術を不用意に渡すなとは後で言っておくけれど」
おや? 何故かカブトさんが怒られる流れになってしまっている。
いや、考えてみれば穢土転生の術なんて使い方次第でとんでもない事になる代物だ…半ば自暴自棄になりかけていた時の行動とはいえあっさりと手渡しされた時は私も当然感謝はしているがそれ以上に驚いたものだ。
使い時を慎重に選んだ私だったから良かったが、カブトさんのあの行動が危険な事であるのは事実…怒られてしまうのも可哀想だがそれもカブトさんの為だろう。
大丈夫、説教はされている間は辛いがそれも自分の事を思い成長、改善を促そうとしてくれる相手がいるからこそのもの…辛いからこそ自分をより大きく高めてくれるヒントがきっとあるのだと何度も説教をされた私だからこそ分かる。
「──さて、それではハレンチ博士もご予定が出来た様なので私もこれにて作業に戻ります。ハレンチ博士、こちらの写輪眼はお預かり致します」
「予定が出来たのが誰のせいだと…もう今更何も言う気はないけれど。…ただし、その写輪眼を使う以上失敗は許さないわよ」
「勿論です。万が一その様な事があればこの首、どうぞ跳ね飛ばしてください」
冷たい声で響くハレンチ博士の警告に躊躇いなく返事をするとサスケ君の元の写輪眼が入った容器を手に取って宿舎を後にする。
「待て」
──そのつもりだったのだが、不意に長門さんから呼び止められて足を止める。
「お前は穢土転生の術でこの俺を呼び寄せた…その過程で何をしたのか、本当に理解しているか?」
「人を1人…"また"殺しました」
その言葉と共に振り返ると長門さん、そしてハレンチ博士の2人と真っ直ぐに向き合う。
「この手で命を奪った人の事です…些細な犠牲と言い捨てるつもりも必要な犠牲だったと誤魔化すつもりもありません。私は自分の目的の為に無関係な人の命を奪った…許される事ではないけれど、それの結果私が望んだ今がここにある」
そう…思えばこの3年間お世話になった、そして最終的には"どちらかの側"しか選べないと思っていた大切な雇い主2人が争う事なくこの場で私と向き合ってくれている…私は人を1人殺してこの奇跡を掴んだ──この結果に後悔なんてない。
そもそも私が奪った命だって今回に始まった事ではない。
ハレンチ博士の下にいた時何人もの人で実験を行った、厳密には偽雨ではあるが暁に所属していた際には人柱力と呼ばれる人を見殺しにしたはずだ。
「私は、自分の道を譲ることは出来ません、だから自分が選んだこの道を決して外れずに歩き続ける…そんな都合の良い言い分が償いになるとも思いませんが…私に出来ることはそれだけです」
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人を殺めた事、他人の命を都合の良いように消費した事に完全に割り切った主張をしてみせた村雨が立ち去った後、長門は自嘲気味に笑った。
「…まったく、お互い随分と厄介な奴を抱え込んだものだな大蛇丸?」
「貴方があの娘の同一体を作って味方に引き込もうとしたと知った時は、一体どんな目に遭うか興味が湧いたものだわ」
「言ってくれる。元はと言えばアンタがアレを拾ったのが巡り巡ったせいなんだがな、ハレンチ博士?」
「そのふざけた名前で貴方が私と自分の師を勝手に勘違いしただけでしょう、言っておくけれど次その名で呼んだら頭の中の白紙同然の命令札を書き換えて貴方の手でこの里を潰すわよ」
一触即発、というには互いに脱力し切った闘志の無さ…暁の長と裏切り者が向かい合いあってなおその空間は戦場の緊張感は欠片もなく愚痴を言い合う酒の場の方がまだ近しかった。
小南も含めてこの場にいる3人とも、互いが相対してこんな生温い状況になるなど思いもしなかったが、そんな異常事態に感慨などあるはずもなくただ元凶の所業に呆れるばかりだった。
「…それにしても、アンタがあれだけ欲していた写輪眼を渡すとはな。随分とアイツを評価したものだな」
「クク、あの命知らずな生き様でしっかり結果を出してくるのだから面白くてね。──それに本人は道を譲る気はないというけど…あれで案外義理堅いところもあるのよ」
大蛇丸の視線の先の棚にはうちはサスケの元の写輪眼が浮かぶ保存容器が1つだけ残っていた。
「…あの娘の目的はイタチの兄弟であるサスケ君の写輪眼が持つチャクラ…だから1つあれば彼女にとっては十分だったみたいね」
瞳術である以上、2つ揃ってこそだが…彼らがこれから戦ううちはマダラがその仮面の奥に写輪眼を宿しているのは知っている。
つまりはこの戦争の果てに再び写輪眼を2つ揃える可能性をしっかりと残していったつもりらしい。
「…尤も、サスケ君の写輪眼を使う事…多分サスケ君に許可はとってないから義理堅いといっても本人の感覚がズレているから筋を通しているとはとても言えないけど…」
「忍連合軍以上に先行き不安だな」
そもそもがマダラ側のメンバーを除いた暁と暁を裏切った大蛇丸とカブト、そして大蛇丸を裏切ったサスケとその仲間達で構成されたのが今の自分達だ、地雷なんてそこかしこに埋まっている上に不本意ながらそんな集まりを実現させたのがあの爆発物そのものというべき村雨だ、小南の率直な感想に大蛇丸も長門も同意する以外なかった。
「しかし、そう考えると貴方が復活したのは都合が良い。サソリや角都の手綱はしっかりと握ってもらうわよ」
「…善処はする、が…今だから明かすが俺は機動力に欠ける、穢土転生の身体でもどうやらこの足は思う様にいかないらしい」
そう語る長門の両足は激しい火傷の痕があり、異常に痩せ細った身体と合わせて自力での歩行さえ難しい事が見て取れた。
「戦い自体はいくらでもやり様もあるが戦争は広範囲の移動が肝だ、戦場を駆けまわる事が出来ない俺はあまり役には立たないだろう、バックアップはしてやるが戦場に出るのは恐らく無理だ。…それに、俺はもう死んだ人間だ、この世界に平和を齎す役目は…もっと相応しい男にもう託した後だ」
「ふん、あのうちはマダラに協力した挙句輪廻眼を奪われた上で戦争への不参加を決めるなんて…面倒事を残すだけ残して良い身分じゃない」
「そうだな…なら、うちはマダラが何故生きていたのか…あの男が死んだ人間がしゃしゃり出ても許されるような相手だったなら、その時は俺も戦場に出るとしよう…それが最低限の線引きだ。なにより穢土転生の術を使えるという情報は忍連合軍に知られない方があいつの為だろう」
「…人にとやかく言う割には貴方も案外気に入っているのかしら?」
「俺はただ借りがあるだけだ…いや、あの女に借りがあるのはアンタもか…その両腕、治してもらったんだろう」
人間道で村雨の記憶を読み取った際に濁流の如く流れ込んできた村雨の奇行の内、木ノ葉での大立ち回りの末に能面堂という寺院から死神の面を持ち出していた光景を思い出して長門は完全に完治しているのが見て取れる大蛇丸の両腕を指さしてそう言う。
「…フン、別に私は私で両腕を治す算段は整えていたのだけどね…お陰でとんだ気まぐれを起こしてしまったものだわ」
それは決して強がりではないのだろうと長門は思う。
慎重にして狡猾…大蛇丸ならばそのぐらいの事はして当然だ、しかしそれでもその算段を出し抜いて村雨に両腕を治してもらったという結果になってしまったのは事実、だからこそらしくない悪態をつく大蛇丸の珍しい様子に微かに笑う。
「安心しろ大蛇丸、あいつがアンタの両腕を治したのは屍鬼封尽の術を刀造りに利用する為のついでだ。何ならアンタの部下になった直後には屍鬼封尽の情報を得る為にはアンタが苦しんでいた方が都合が良いと綱手姫を排除しようと短冊街に毒蟲を散布しようとした程だ」
「大方そんな風に思っているだろうとは思っていたけどそこまでバカな行動をしようとしていたのは初耳だわ。それにしても、どうして貴方がそんな事を…いや、まさか──」
その前も、その後もこそこそとアジトの中を嗅ぎまわっているのは知っている、村雨が今の様に自分を慕い出したのはこちらが刀造りの素材を何かと提供してあげて漸くの事だ。
しかしそんな再認識よりも長門の熟知っぷりに違和感を覚える──何せその短冊街の一件は彼女が暁と関わりを持つ以前の出来事だ…しかし、少し前の長門と村雨のやり取りで一つの可能性に思い至り大蛇丸は目の前の男へ同情気味の視線を向ける。
「まさか、何かしらの術で村雨の記憶でも読み取ろうとでもしたのかしら?」
「………」
「ご愁傷様…ふ、クク…」
「…知っているか大蛇丸、お前は義理堅いと評したあの女…実は写輪眼を10個隠し持っているぞ」
同情的な表情から一瞬にして煽る様にワザとらしく肩を震わせた大蛇丸に長門は僅かに迷う素振りを見せ…意を決し、自分が見た村雨の記憶の中でも最も悍ましい光景に繋がる話題を持ち掛ける。
「勿論知っているわ、なんならその内8つはプレゼントしてもらったもの…今は本人に預けているけれどそれがどうか──」
「あれあいつがダンゾウに口移しで酒を飲ませて酔い潰して奪ったものだぞ」
「聞きたくなかったわ…墓場まで持って行ってくれるかしら、そういうのは…」
「悪いな、墓場から引きずり出された身だ」
実際、人柄はさておき実力そのものは決して火影に劣らないダンゾウからどうやって右腕の写輪眼を奪い取ったのか気にはなっていたが予想だにしない内容に大蛇丸は言葉を失う。
紛いなりにもかつての上司とこの3年間近くで何度も奇行を見せられた村雨…その光景が容易に想像出来てしまいに思わず眉間を抑えて唸ってしまっていた。
(…私も聞きたくなかったな)
それまで2人のやり取りを静観していた小南も半ば巻き込み事故の形で怨敵と一応の恩人の間で起きた悪夢の出来事を聞かされ渋い表情を浮かべていた…。
かくして狂人の雇い主達の集いは困惑と虚しさに飲み込まれお開きとなるのだった。
村雨が完成の報告を持ってきたのはそれから二日後の事だった。
「こちらの巻物が…ご要望のものになります…後ほど確認を…」
「──確かに」
要望そのものの作品…本来ならば心躍る瞬間のはずが長門から聞かされた内容のせいで微妙に気まずさが残り喜びも半端な大蛇丸だが、徹夜続きの作業に限界を迎えた村雨はその様子に気付かないまま眠たそうに眼を開けては閉じてを繰り返してはハッと顔を上げて申し訳なさそうに頭を下げた。
「…ご苦労だったわね、確認はこちらでやっておくから貴女は寝てきなさい」
「すみません、徹夜の作業も…慣れているのですが、今回ばかりは…素材が素材なので集中し続けたもので…それに、かなりの大型ですし…」
一応、目上の人間に失礼な態度をとっている自覚はあるらしい村雨に労いの言葉を掛けると村雨も珍しく疲れ果てた様子で弱々しく返事をするともう一度だけ深く頭を下げて自分に与えられた部屋へと戻っていった。
「…はぁ、いよいよ顔を合わせるだけで頭が痛くなってきたわね。──まぁ良いわ、さて…テストをするには広い場所が必要ね。長門に場所の手配を──」
「大蛇丸様ーー!!」
突如、廊下の扉が開き一室の奥から香燐が顔を真っ青にして飛び出してくる──少し遅れて大蛇丸もまた香燐が感じ取った異変を察して顔を引き締める。
「…マダラ、遂に始めた様ね」
「あちこちでバカでかいチャクラが急に現れて…それもあの八尾ってのとほぼ同じぐらいの…どうなってんだコレ!?」
「──世界各地に尾獣どもを放った様だな。外道魔像の封印を一時的に解いて口寄せしたか」
同じく世界各地に突如現れた巨大なチャクラを感じとったのだろう長門が小南に補助されながら駆け付けた。
「恐らく忍連合軍の連中が前もって動かしていた対マダラ捜索隊への奇襲だろう、それに数体は忍里近くにも口寄せされている…どちらにしても連合軍にはいきなり致命的な奇襲だ」
突然の尾獣の襲撃…どれだけ多くても機動力を考慮すれば3小隊程度で編成されるであろう捜索隊では一瞬で全滅だ、おまけに里の近くに尾獣が出現したともなれば防衛側へ戦力の増援をしなくてはならない…未だマダラの居場所を掴めていないであろう連合軍はゲリラ戦においていきなり不利な状況に叩き込まれたと見てよいと長門は推測する。
「──だが、マダラにとってもこれはリスクの高い手段だ」
「尾獣の一匹でも失ってしまえば月の眼計画とやらは破綻する…となると、やる事は一つね。香燐、サスケ君達を呼んできなさい」
「は、はい!」
「小南、お前もサソリと角都に声を掛けにいってくれ」
「ええ」
遂に始まったマダラと忍連合軍による第四次忍界大戦。
自分達もまたその戦いに参戦する──その覚悟と共にそれぞれの部下へ指示を出す大蛇丸と長門の耳に「あの刀バカ引っ叩いても起きやしねぇ!」と怒り心頭の香燐の報告が届くのはその3分後の事だった。