霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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初投稿で不安な心境でしたが本当にありがとうございます!


木ノ葉崩し始動!?

 中忍試験本戦会場の物見やぐらの屋根の上、村雨はついつい上がり過ぎたテンションを何とか冷まそうと屋根の中心辺りに座り込んで会場を見下ろす。

 気が付けば会場の中心では既にサスケ君と我愛羅君が向かい合い、試合開始の宣言を待つのみとなっていた。

 

 会場もまた先程までの怒声が嘘の様に静まり返っていた。

 誰もが名高いうちは一族の試合に釘付けになっているのだ、私にとっても実に好都合だ。

 どうやら今はまだポーチの中の巻物に収納し隠しているようだがちゃんと刀を持っている。

 注目が集まれば集まるほど私の刀にも注目が集まってくれるというもの、カンクロウには果たせなかった事を是非とも頑張って欲しい。

 

 ……まぁ何だかんだで長い付き合いである我愛羅君も頑張って欲しいとは思うが、そもそも彼は中忍になる事に然程拘りはないはずだ。

 それ以上に彼にとっては『己の存在を実感させてくれる程に強い相手を殺すこと』が大切なのだから……。

 ならばこの場、この状況こそが私と我愛羅君の望んだ瞬間である。

 私の造り上げた刃は果たして彼の絶対防御を切り裂くか、或いは彼の存在証明の糧となるか。実に楽しみで仕方がない。

 

 時間にしてほんの僅かな、しかし感覚としてはあまりに長い待ち時間。

 やがてバンダナの試験官さんが片手を挙げ──

 

『──始め!!』

 

 その手を振り下ろされ開戦の幕が上がる。

 最初に動いたのは我愛羅君、背負った瓢箪から大量の砂が溢れ出す。それを見てサスケ君は即座に距離をとった。

 良い判断だろうと感心している内に我愛羅君が何やらうわ言を呟き始める。

 

 ──以前に彼自身から聞いた彼の"中"に眠る者との会話なのだろう。いい傾向だ、これで彼の意志とは関係なしに動く砂の盾や纏うだけの砂の鎧だけでなく"彼自身"の本気に挑めるというもの。

 

「……えっ?」

 

 そのまま試合の流れをじっくりと観戦していると想定外の戦況に目を見開く。

 サスケ君が刀も忍術も使わぬまま体術一つで我愛羅君を圧倒しているのだ、素早い身のこなし、巧みな格闘術が彼の纏う砂の鎧に罅割れを造っていく。

 流石にサスケ君自身もそのハイスピードの負担はやはり大きいのか呼吸が乱れだしているがそれでも優勢なのは間違いないだろう。

 

 想定外だ、想定外だが……これはこれで悪くはない。

 うちはサスケ君、彼のその強さが知られれば知られる程、その彼が使う刀の存在も知れ渡るというもの。

 それに体術で我愛羅君を圧倒しているのは見事という他ないが砂の鎧や砂のクッションがある限り火力不足である事は否めない……ならばそろそろ抜くしかあるまい。

 

 先程まで素早い動きに翻弄され続けた我愛羅君が砂の殻にその身を隠した。

 オートで動く砂の盾とは違う、彼自身の意思による防御形態だ、その強度は今までのそれとは大きく異なりサスケ君の拳も蹴りも容易く弾く。

 最早あれは人の力で破れるものではない。何らかの強力な忍術……或いは忍具が必要だろう。

 ──つまり……来る! 

 

 格闘術で砂の殻を割ることは不可能と判断したサスケ君は地面を蹴り、会場の壁に吸着し着地すると──何故か印を結び始める。

 え? まさか刀を抜かず忍術で? 何て不作法な……

 

 こちらの戸惑いを他所にサスケ君はその手に雷遁のチャクラを纏う。

 とんでもなく高密度のチャクラだと、分析できたのはそこまでだった。

 ──鳥の鳴き声の様な音を奏で青白い光の尾を引きながら超高速で放たれた閃電の一突きが炸裂した。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

「つかまえた」

 

 この一ヶ月を費やし会得したとっておき。

 写輪眼を持つ者のみが使用できる雷遁忍術『千鳥』、砂の殻を破りその中にいる人物に対する確かな手応えを感じサスケは自らの優勢を確信する。

 

 対戦相手である我愛羅の強みである砂の盾と鎧の二重防壁は自身の速度には追いつけず、それら以上の硬度を誇っていた砂の殻も『千鳥』ならば貫ける。

 使用回数という難点もあるが、だからこそこの好機は逃さない。

 ──このまま押し切る! そう思った矢先、砂の力が桁違いに変化し砂の殻にねじ込んだ左腕が骨まで押し潰される程の激痛に襲われる。

 腕を引き抜くこともままならず、それならばと砂の殻にねじ込んだ左腕から雷遁のチャクラを放出させる。

 

『ぎゃあああああああっ!!』

 

 砂の殻の奥から更に苦悶の叫びが響き砂の圧力が僅かに弱まった。

 歯を食いしばり何とかを引き抜くと先程まで左腕を押し潰そうとしていた"それまでとは形状が異なる砂"が纏わりついていた。

 まるで巨大な腕の様なそれを振り払うとゆっくりと砂の殻の中へと戻っていく。

 

 ひとまず難は逃れたが『千鳥』を撃てるのはあと一発限り……次こそは確実に仕留めなければならない。

 そう算段を練りながら砂の殻にポッカリと空いた穴を覗き込む。

 

 手応えは確かにあったのだ……せめて深い傷を負ってくれていれば良いが……。

 果たして中の奴はどうなった? そんな警戒心に満ちた視線と砂の中の視線が交差する。

 

(──っ!? 何だあの目は!?)

 

 全身にゾワッとした寒気が走る。

 人間の目ではなく、自分の様な特別な眼でもない。敢えて言うならば獣の──いや、化物の眼だ。

 

 あれはヤバい、本能のままカカシからいざというときに使えと言われた巻物を入れた腰のポーチへ無意識に手が伸びていた。

 

 しかし、目の前の砂の殻が崩れ出した事でふと手が止まる。砂の殻から出てきた我愛羅の目は普段と何の変化もなく、むしろ負傷のせいなのか今まで以上に弱っている様だった。

 良く分からないがとにかくこのまま押し切るしかない。

 そう思い再び『千鳥』を狙う──そう思った時だった。

 

 自分達が立つ会場中央を除く観客席全体に白い羽が舞い観客達が一斉に眠りについた。

 更に火影、風影の座す物見やぐらに深い煙が立ち込めた直後、我愛羅の周りに奴の仲間達が降りてくる。

 

 一体何がどうなってやがる? 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 物見やぐらの屋根の上、村雨は試合を眺め呆然としていた。

 

 我愛羅君自身の意思で造った砂の守りが貫かれた。それも自分が造った刀ではなくサスケ君の忍術でだ。

 おのれ……これでは自分の立つ瀬がないではないか。

 

 砂の殻も破れ、中で守られていた我愛羅君が負傷した状態で引き摺り出された。

 にわかに信じ難い……だが、これは勝負あったか? 

 そんな風に思った時、足元の屋根……その真下から煙が上がった。

 

 ──火事か? ならば私の水遁で救助すれば恩を売れる……いやでも一度摘まみ出された身で勝手に入り込んだのがバレるとまずい? ……でも一応助けられるならそうするべきだろうか……

 

 そんな一瞬の良心と画策のせめぎ合いに足を止めている間に下の階から2つの影が重なって飛び上がり屋根の中央──すなわち自身のすぐ近くに着地する。

 

 一体何が起こっているのか? そんな疑問など目の前に着地した人物達を一目見た時点で抱く余裕すらなかった。

 "風影様"が"火影様"の首に右腕を回しながら左手に持ったクナイを突き付けている。

 それはすなわち風影様自身の手による火影様の暗殺、砂による木ノ葉への宣戦布告にほかならない。

 

 一体どうして……いや、そんな事はこの際どうでも良い! こんなとこにいたら間違いなく無事ではすまない! 今すぐ逃げよう! 

 

『小蜃』による蜃気楼により目の前のお二方に気付かれた様子はない、さすがは二代目水影様が主力にしたほどの幻術だ。これなら何とか……

 そう思った直後、お二方を追ってきた影が4つ、それぞれ屋根の4隅に着地し、風影様が短い指示を発する

 

「やれ」

 

「「はっ! ──『忍法・四紫炎陣』!!」」

 

 物見やぐらの屋根、その中心部分が四角形の結界忍術に囲まれる──私を内側に残したまま……

 い、いや待て、結界というものにはただ侵入を防ぐだけであり内側から出る事には問題ないものもある! それに賭けて……あっ結界に触れた暗部の方の全身が燃え出した……。

 

 ──どうしよう……

 

 所詮忍者としてはアカデミー卒業後、下忍を数ヶ月務めた程度ではこの結界からすり抜けて逃げ出す手段などないし影同士の戦場に紛れ込んで生き延びる方法など知らない……もっと真面目に授業を受けておくんだった……。

 

 せめて巻物に収納している刀の中でも"最上位の業物達"さえ口寄せできれば、もしかしたらあの結界を切り裂くこともできるやも知れない……が仮にも自らが住む砂隠れの里の長が起こした行動を邪魔したとあっては確実に殺される。

 ──そもそも今は大人しくしているが故に無事なだけだ、相手は"影"、武器の口寄せなどしてしまえば気付かれる可能性も十分ある……やはり何も出来ない……。

 

 とにかく今は息を潜めてお二方の成り行きを見守るしかない。

 ……正直今すぐ風影様がそのクナイで火影様をざっくりとやってくれれば少なくともこの場は安全になるのだが……。

 

「まさか……砂が木ノ葉を裏切るとはな……」

「条約なんてものは相手を油断させるためのカモフラージュでしかないのですよ。チンケな試合ごっこはここで終わりです……ここからは歴史が動く……」

 

 ──よし、やってしまって下さい風影様! 早く歴史を動かしましょう。

 

「戦争でもしようというのか!?」

「そうです」

 

 ──戦争!? つまり刀の需要が高まる……至高の刀を造るという目的を達成しやすくなるかも知れない……。

 

「武力による解決は避け話し合いでの解決を模索すべきだ……風影殿。今ならまだ間に合う……」

 

 ──火影様の仰る通りです風影様! 全ては命あっての物種……このままでは高い確率で私は死ぬ……やはり話し合いで解決すべきです。

 

「フフ……年をとると平和ボケするのかな……猿飛先生!!」

「──ッ! ……お前……」

 

 先生? どういうことだ? 

 あ、会場の方では我愛羅君がカンクロウとテマリさんに連れられ離脱した様だ、いいなぁ。

 

 ……できるなら……皆と……同じ所に……行きたいなぁ……私も……。

 

 あ、そもそもこんな状況になったのは私がテマリさんの忠告を聞かずに木ノ葉に滞在したのが原因か、いやでもこんな事になるなんて想像できるはずもない。

 せめてこのまま木ノ葉に滞在していると風影様と火影様の争いの場に閉じ込められるぞと言って欲しかった……。

 

 そんな既に半ば心が折れかけた心境の私を他所に影達の会話は続く。

 

「貴方の愚鈍さが木ノ葉を後手後手に追いやった、私の勝ちだ」

「事はその最後の時まで分からないと教えたはずだぞ? ──大蛇丸!」

 

 えっ? 大蛇丸さんって……暫く前に会ったあのハレンチ博士!? 

 一体どういう事だ!? 風影様がハレンチ博士でハレンチ博士が風影様? 風影様はハレンチだった!? 

 いや違う落ち着け、自ら風影様の顔を剥ぎ取り露になったのは間違いなく以前に会ったハレンチ博士……もとい大蛇丸さんそのものだ。つまりこれは下の会場の状況からしても砂と音が組んでの火影様暗殺計画だ。

 つまり大蛇丸さんは風影様に扮して火影様の暗殺の場に赴き、風影様は安全な所で身を潜めているということなのだろう。

 

 ……だがこの状況は私にとっては救いかもしれない。

 大蛇丸さんとは以前親しく話すことが出来ていた、ある意味風影様本人よりも助けてくれる可能性が高い。

 ──いや、優位をとったと言えど相手は火影様だ、私の様な一刀匠等にかまけている余裕はないだろうな。

 

 果たしてどうするべきか、普段刀以外に使わない頭をフル稼働させつつお二人の様子を伺うと驚くべき光景が目に入る。

 

「──だから五代目を早くお決めになった方が良いと言ったのですよ……三代目、貴方はここで死ぬのだから……」

 

 ──またあの人はクナイをペロリと舐めていた。

 

 本当に慎みというものが無いのだろうかあの人は……。

 いや口から刀を取り出すよりはアブノーマルさはなくなってまだ健全な方と言うべきなのか? 

 うぅ……何だか無意識に毒されている気がする……さすがは『伝説の三忍』と称されたハレンチ博士……油断ならない。

 

 ──って!? 今度は自分の掌にあんな深々と!? 

 

 本当に何なんだあの人は!? 

 刃物の扱いは安全と節度と情緒を守って頂かないと目のやり場に困るというのに……。

 まずい、こんな場所にいては本当にどうにかなってしまいそうだ……ここはもう一か八か、あの結界を張っている四人の内誰か一人を不意打ちで気絶、もしくは殺すかしよう。

 蜃気楼で姿を消しつつ接近し側頭部に『水鉄砲の術』を当ててしまえば意識を奪う程度のことは出来るだろう。

 

 やるなら暗部の人達とは逆方向にいる2人のどちらかだ。

 そうすれば結界も解け暗部の人達が火影様を守ろうと突入し逆サイドの2人とかち合う、ハレンチ博士と火影様も互いを警戒をする必要があるはずだし私に攻撃できるのは四人の内残りの一人だけ。

 たった一人ならば初見の『水化の術』に対応する前に逃げ切ることが出来るはず。

 

 ──よし、影同士の戦場からの脱出大作戦開始! 

 

「回っていない風車なんて見るに値せず……てね。かと言って……止まっているのも情緒があっていい時もある……」

「──ひゃぁっ!?」

 

 意を決した直後、"風"の字が刻まれた笠が飛んできて私の掌に乗っていた『小蜃』が弾き飛ばされる。

 思わず声を出した挙句に蜃気楼も解除され──ついに私は自身の姿をその場の全員に晒してしまう……

 

「「…………」」

 

「────刀一本如何ですか? 脇差一本、背中に一本、おまけに懐に忍ばせ一本、合わせて3本如何ですか?」

 

「「「「誰だ(ぜよ)テメーはっ!?」」」」

 

 戸惑いに満ちた場の沈黙を半ば自暴自棄気味に破って売り口上を述べて見ても返ってきたのは結界を張っている四人組の怒声だけだった。

 

 ……助けて誰か。

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