本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
(年末までの投稿を目指してたら気が付けば年始すら逃してしまった投稿をしながら)
カブトから渡された白ゼツの能力、その情報を本部から伝えられたオオノキと黄ツチ第二部隊は先の白ゼツの襲撃を受け近くの仲間が本物か偽物か識別する事が出来なくなっていた。
その為作戦立案役のシカクの指示に従い自身の周囲に円を描き合い、互いにその線を越えない様にして待機するという一時凌ぎながらも有効な手段によって闇討ちの被害だけは避けられていた。
しかし、日没も迫り視界さえも悪くなっていく状況も相まって敵の襲撃をまた受けたらという不安や窮屈感や緊張感で満足に休息も取れないこと、更には他の戦場でうちはマダラが出現したという情報、あらゆる要素から湧くストレスはあまりにも大きく皆顔に焦りを浮かべていた。
「おいジジイ、いつまでこうしてりゃ良いんだよ!?」
「落ち着け黒ツチ、今本部のシカクが根本的な対策を練っておる…今は大人しく待っておれ!」
焦燥感に駆られる黒ツチを毅然と諫めるとオオノキはこの状況になってから常に接続している本部の伝令役いのいちとの交信を続ける。
「──しかし、あの白い奴の情報というのも例の連中からのものじゃろう、信憑性はあるのか?」
『各戦場での共闘の様子からしても彼ら自身はともかく、この情報については信用する価値がある…と、シカクは判断したようです。…それにこれが本当だった時のリスクが高過ぎます』
「…ま、それは確かじゃぜ…で、その場凌ぎでない完全な対策はまだ難しそうか?」
『情報ではチャクラまで完全に真似しまう変化らしく感知タイプでも見分ける事は出来ないそうで…互いに信用出来る記憶を共有するというのも、当てずっぽうで合致する可能性がある以上対策とは言えないでしょうから…』
八方塞がりな状況にオオノキは嘆息するとそれ以上いのいちに問いたところで仕方がないと思考を切り替えて、直近であった戦況報告について確認する。
「うちはマダラ、その本物が現れたというのは本当か?」
『正確にはその分身ですが、面の男とは別人らしき穢土転生されたうちはマダラが各戦場に…かなり被害が出ていますが新生・忍刀七人衆を名乗る元暁や大蛇丸達の介入もあってダルイ第一部隊以外は撃退、もしくは撤退に成功はしています』
「…そうか」
面の男にはずっと違和感があったがそれが最悪の形で証明された事でオオノキは顔を顰める。
否応なしに思い出させられるのは若き頃に師である二代目土影・無と共に木ノ葉の里と同盟の協定に向かった際にうちはマダラから襲撃を受けた苦い記憶。
対話は叶わず、力は到底及ばない絶対的な強者。
あの日から気が付けば己を捨て他里を信用しない里長となった、しかし今はそれを拾おうしている自分がいる──今の自分ならばあの男と渡り合う事が出来るのか…それを確かめる為にもここでいつまでも足止めされている訳にはいかずシカクの対策が纏まるのを待ち侘びる。
──そんな最中に待ち望むものとは別の、耳を疑う情報が届く。
『──ダルイ第一部隊に出現した分身マダラが応戦していた渦柘榴村雨、鬼灯水月との会話に応じるらしく戦場を離れました』
「あの男が会話に応じるじゃと!?」
先程思い出した苦い記憶と真逆の出来事に絶句すると共にマダラと共に告げられた名に頭を抱える。
「やはり渦柘榴村雨は生きていた上に今度はマダラと接触したという事ではないか! マダラもあの娘もどちらとも行動が読めん、あのマダラに限って無いとは思うが…万が一にも奴らが結託したらそれこそ何をしでかすか分からんぞ!?」
もしもそんな事になった事になったらそれこそ過去の自分が叶わなかったマダラとの話し合いや同盟をあの狂人が成功させたという事になるのも気に入らないがそんな個人の感情以上に万が一の恐ろしい予測にそれまで冷静に対策が纏まるのを待っているつもりだったのが一刻も早く戦場に復帰せねばと焦りを募らせるのだった。
▼▼▼
忍連合の方々が陣を取る海岸の崖から離れ、一面に水平線が広がる海の真ん中でマダラさんと向かい合う。
水月のお陰で何とか話し合いに応じて頂けたのだがそれでも然程興味があるわけではないのか移動の足を止めても彼の方から話し掛けてくる様子はなかった。
これが意味するところはつまり、依然としてマダラさんが聞く価値がないと思い直してしまえば一瞬にして話し合いは破綻し一方的な攻撃が始まるだろうという事だ。
…水月も、三尾との戦闘の後にここまで場を繋ぐのにすっかり疲弊してしまっているのか彼からの言葉もない。
いや、そもそもマダラさんと話をしたいと言い出したのは私だけだ、だからこそ必要以上に口を挟まないでいてくれているのだろう。
──ならばここはこの場を望んだ私が口火を切るのが筋というものだろう。
「──改めまして、話し合いに応じて頂いて深く感謝致します、マダラさん」
「つまらん前置きは良い、それで、俺と何を話たいというのだ?」
「そうですね、まずは…マダラさんに使われた穢土転生ですが、恐らく私が使ったものを参考にしているのでマダラさんは術者から一切コントロールされていないはずです」
「ちょ!? バカバカ、それ先に話したらもうアイツがボクらと話する必要なくなるだろ!?」
確かにマダラさんが私達の持っている情報で気にしているのはご自身に掛けられた穢土転生の詳細ぐらいのものだがまずこの前提を認識して頂かないとその先の話に繋がらないのだから仕方ない、それに──
「大丈夫、マダラさんが会話に応じる気になりながらも然程興味がなさそうな様子からしてこの事については大体の予想はついていたと思う。つまりどっちにしてもこの事はこちらの聞きたい事に対する見返りにはならない」
「何だ、意外と賢明だな。…しかし、お前の様な者が穢土転生を使えたというのは流石に意外だったな、それに術者の管理下に置かない穢土転生とは…まさか、トビの奴に誤った使用法でも掴ませて破滅させるつもりだったか?」
「いえ、そんな事は…私の場合管理下に置こうとしても私如きの制御では簡単に解かれそうですし、折角なら生前の力も再現したいからいっそコントロール用のチャクラを力の再現に回そうと術式から行動抑制の為の部分を削っただけで…トビさん達に監視されている可能性も考えなかった訳ではないですが私事ながら事情もあってまぁそうなったら仕方ないな…と判断して──」
「……賢明と言ったのは取り消すとしよう」
うん、実際こうしてマダラさんと相対しなければならなくなったのは私のその判断の結果なのだから賢明とはとても言えまい…だがそれでも私にとってはそれだけの価値はあったのは確かだ。
「それで…先程言った様にマダラさん自身、ご自分が操られていない事はある程度把握出来ていたはず…それなのに何故トビさんに協力しているのでしょうか?」
「…あ、そういえば」
「単純に考えてマダラさんを口寄せした際にトビさんが計画を明かしマダラさんもそれに賛同した…或いはトビさんと何らかの取引があったと考えるのが自然ですが…もしかしてマダラさん、穢土転生の術で蘇る以前からトビさんと関わっていたのではないですか? そして仮にそうだとしたらこの月の眼計画、元々トビさんではなくマダラさんのものだったのではないか…と私は思っているのですがいかがでしょうか?」
この時間はマダラさんの気分一つでいつ切り上げられてもおかしくない、だからこそ自分の推測を一気に捲し立てる。
「でもマダラが初代火影に殺されたのなんてもっと昔、顔は見えてないけどトビもいくら何でもそんなに年取ってない…てのは大蛇丸にサソリ、それに角都もそうだし無くはないのか…」
「そう、つまりこの月の眼計画は元々マダラさんの計画であり柱間様に阻止されたもの──そして当時のマダラさんと計画を共にしていたトビさんは長い時を経て柱間様という計画の脅威となる存在がいないこの時代でその計画を引き継いだ…しかし偶然にも私が穢土転生の術を得た事でそれを監視したトビさんがマダラさんを復活させた事で今再び2人で計画を完成させようとしている──違いますか?」
「……違うな」
「違うんじゃん!」
「違ったんですか…」
結構自信がある推測だったんだけど…いや、不老という理に反する偉業を実現している人達に関わる機会が増えて感覚がマヒしていたが考えてみるとトビさんが年を取らないという前提での推測は流石に突飛過ぎたかもしれない。
「ま、まぁ私の推測はともかくとして、重要なのはマダラさんが自分がトビさんに行動を縛られてはいない事を自覚しているはず、という事です」
「…強引に話進めるね」
自信満々に問い掛けた上でこの始末、顔から火が出そうになるのを誤魔化すべく、そんな内心を見透かす水月の指摘は無視して何とか会話を続ける。
「私が穢土転生で蘇らせた方も縛りのチャクラが殆どない事に気付いていましたので、マダラさんが気付かないはずもない…つまり今マダラさんは月の眼計画に賛同し本人の意思で行動している、それは確かですよね?」
ここでマダラさんが何かしらの返答をしてくれないと気恥ずかしさに耐えられない、せめて「教えない」の一言だけでも…そんな勝手な祈りを知るはずもないマダラさんの返答は意外なものだった。
「──ああ、俺はあのガキに操られてなどいない。それと、さっきのお前の推測だが月の眼計画が元々俺のものだという点だけに限れば間違ってはいない」
「「!?」」
予想外のマダラさんのその返答に私も水月もただ戸惑う。
無論、問い掛けたのは私だがマダラさん自身とトビさん、そして月の眼計画との直接の関係を明かすことにマダラさんには何のメリットもない、それどころか月の眼計画を阻もうとする私達や忍連合軍の人達から明確に敵と見做されるだけだ。
「……随分正直に答えてくれたけど、一体どういうつもりなのかな?」
「そこの小娘の推測を聞いて確信した。無駄に隠したところで妙な勘違いをされた挙句に下らん妄想を長々と付き合わされるだけだろう」
「さっきのやり取りだけでそこまで見抜くとはね…」
二人は私を何だと思っているのか少々疑問を抱くが聞いたところで多分あまり良い答えは貰えなさそうだし止めておこう。そんなことよりもマダラさんが自身の立場を明かし、それが思った通りのものだった今聞くべき事は一つだ。
「…月の眼計画がマダラさんのものだったというのなら私が聞きたい事は一つだけ、何故マダラさんはその計画を始めたのですか?」
「何故、だと?」
「私は元々霧隠れの里の人間なので木ノ葉隠れの始まりを正確には知りませんが、それでも先代達から歴史として聞いています。千手一族の長、千手柱間様とうちは一族の長であるマダラさん、戦乱の時代にお二人が結んだ同盟が火の国との繋がりとなり、やがて様々な一族が集まる巨大な里となった。──そしてその形式は他国にも広がり霧隠れや砂隠れなどの木ノ葉隠れの里と同等の規模の里も生まれる切っ掛けになったのだと。…言ってみればマダラさんは今もなお続く忍の里システムの、この世界の在り方を築き上げた人物のお一人。そんな方がどうして世界全てを夢に閉じ込める様な計画を始めたのですか?」
対極と言っても良い程に昔のマダラさんの偉業と今マダラさんが成そうとしている計画は相反する。
一体何故マダラさんはそれ程考えを変える事になったのか、それを直接問い掛けるとマダラさん退屈そうに腕を組み直した。
「一体俺に何を聞きたいのかと思えばそんな事か…つまらん質問だな」
態度だけでなく言葉でもはっきりと退屈さを伝えられた事で会話の終わりを予感し、即座に臨戦態勢を取る水月の後ろに回ると同時に水月の手元からハレンチ博士から渡されていたという巻物を預かって撤退の準備をする──が、それよりも早くマダラさんの言葉が続いた。
「──確か、貴様は刀匠だとか言っていたな」
「…はい」
意外な事にマダラさんが会話をまだ続けるつもりだった事に多少面食らってしまって返事が少し遅れた事を自覚するが、そんな事よりもマダラさんの更なる言葉を聞き逃さないそうに気を引き締める。
「刀を造る中で失敗する事もあるだろう、思い描いた作品に至らなかった鈍をお前はどうする? 出来の悪い駄作だと捨てて次の作品に手を出すか? それとも打ち直して鍛えるか? …そのどちらかだろう」
「…つまり、マダラさんにとってこの世界は失敗だと?」
「ああ、そうだ、お前は俺と柱間をこの世界の在り方を築き上げた人物だと称したな…だがかつて俺と柱間が共に思い描いた里造りは矛盾を抱えていた──奴は、それに気付かぬままだったがな」
「忍里の矛盾?」
「人は平和を望む心と争いを望む心を持ち合わせる。故に平和だけを手にすることは出来ず、それでも何かを守ろうとするならば必ず何かを犠牲にしてしまう──平和の象徴たる里を守る為ならば里に仇なす者がたとえ親であろうと兄弟であろうと我が子であろうとも許さない…子供が、弟が戦争で死なずともよい集落を創る事を夢見た"初代火影"がそう語った様にな」
大切な人を守る為の里、その里を守る為ならば大切な人さえも殺める──里を最初に築き上げた人がその決意を抱いたならば確かにそれは矛盾と言えるだろう。
無論、それは柱間様に限った話ではない。
私とて争いを望んでいるつもりはないが"人を殺める道具"を造ることを生業としている人間だ、その規模は柱間様のものと比べるべくもないがマダラさんの語る矛盾を感じないわけではない。
「里が出来た事で確かに争いは減った…だがその一方で一族と一族の戦いから里と里の争いへと変化しその戦いの規模と犠牲はより膨れ上がった。分かるか? この世界に真の意味での平和などありはしない──だからこそ夢の世界を創り本当の平和へと導いてやろうというのだ」
支配ではなく平和を齎す為に…マダラさんの明かした計画の真実にほんの少しだけ自分が安心しているのを感じる。
支配欲による計画などではなかったことが分かり、かつて里造りという偉業を成した人物へ変わらず尊敬の念を抱くことが出来る…その計画が決して受け入れられないものである事が残念だが──それでも確かにこの時間に満足できた。
「お話して頂いて感謝しますマダラさん。お陰で月の眼計画について、そしてマダラさんの事が少しだけでも理解出来た気がします」
「俺を理解だと?」
「一族を守る為の里造り、そして世界全てを平和にしようとする月の眼計画…手段は変わってもその信念はずっと他者の為に…里造りの起源を知った時に思った通り―貴方は"情が深い御方"だ」
瞬間、マダラさんの表情が一瞬固まり──僅かの間をおいて吹き出した。
「──クッ…ハハハハハハハハハハハッ!!」
それまでの様子とはかけ離れた大笑いに戸惑い言葉を失っていると同じく呆気にとられた水月が引き攣った顔でこちらを向いた。
「…ねぇ、君のこれで何度目かの見当違いな発言にマダラも呆れ通り越して大ウケしてんだけど」
違う。
さっきまで確かに何度も見当違いの発言をしていたがその度にマダラさんはただただ呆れていた…だが今回はそれまでの気怠げな立ち振る舞いとは全く異なる。
一体何がそんなにおかしかったのか、聞くことも出来ずに固まっているとマダラさんが少しずつ肩の震えを抑えて口を開いた。
「──まさか、この俺をそう捉える奴がまた現れようとはな…クク、柄にもない情けだったが案外会話もしてみるものだな」
「え…と」
一体何と返事したものか…何であれマダラさんが今回の会話に面白さを感じとってくれたのならばそれは喜ば──
「村雨、といったな…久方ぶりだぞ俺が1人の人間を打ち砕いてやろうと思ったな」
どうして!?
あんなに楽しそうに笑っていて内心打ち砕いてやろうと思うってどういう事だ? まさかこれが平和と戦争を求める人間ということなのか?
「──と言っても、忍でもない小娘を躍起になって殺しに掛かるのも少々みっともないな」
…助かった、マダラさんからすれば私など吹けば飛ぶような存在、さっきの会話に何か感じるところがあったにしても本気になって殺しに掛かるようなことはなかったらしい──
「その代わりにお前の兵隊…新生・忍刀七人衆とやらを叩く…十尾復活までの間、それを余興とするとしよう」
「は?」
隣の水月から咎めるような視線が向けられて滝のように汗を流す。
勿論、この会話を通しても結局マダラさんと戦いを避けられないという結果になる事は充分あり得ると想定していたが、さっきの一言でマダラさんが急に戦意を増すなんて予想外にも程がある。
どうする…今からでも「やっぱりマダラさん情の薄い御方かもしれないです」とでも言ってみれば──いやそれはそれで殺されそうだ、ただの悪口だし。
だがこのままでは水月は勿論ハレンチ博士達にも多大な迷惑が掛かる…ただでさえマダラさんの復活自体私の責任だというのに…ッ! いや!
「──全力でお相手して頂くよう皆に伝えておきます。…と言ってももう日没ですから…今から12時間以内に集めてきます」
「えぇ!?」
「ふん…随分と待たせるな、ガキの逃げる口実の様だ」
「皆さん各戦場に出払っているので少しお時間をください…それと忍連合の方々を巻き込みたくはないので"終末の谷"でお待ち下さい──貴方を倒すに相応しいその場所で戦いましょう」
「はぁあああ!? なんでそこで全力で喧嘩売ってんの君!?」
当然、水月は怒り混じりで叫び出した…正直凄く申し訳ないと思っている──だが、それでもこれで良い。
「…たとえ敵でも腑抜けた連中よりは芯のある奴の方が好ましいと思っていたのだが…度が過ぎるとそうでもなくなるらしい。…やはりここで殺してしまっても良いのだが…」
「その場合他の七人衆の皆さんと戦うにはマダラさんが自分で1人ずつ探してもらう必要が出てきますが…」
「つくづく…この俺を前に良くそこまで口が回るものだ──よかろう、元より夜は奴のやり方に任せるつもりだったから丁度良い。では明日、お前達が来るのを待っておくとしよう」
その言葉を最後にマダラさんはその姿を消した。
急な消滅だが本体のマダラさんに待ち合わせの話は届いているのか少し気になるがマダラさんの事だ、そこについては要らない心配だろう。
とにかく──なんとかマダラさんの真意を確かめた上で無事に切り抜ける事が出来た、安堵の息を大きく吐くと隣から突き刺さる厳しい視線に向き直る。
「…さて、ちゃんと説明をするからまずは聞いてほしい」
「その流れで聞かされる言い訳さぁ、毎回微妙に納得させられるから聞かずにぶっ殺したいって思うんだけど」
納得できるのにどうして!? と思わず聞き返したくなるがそれよりも早く水月の判断を何とか先延ばしにさせなければならない、残念だが諦めて本題に入ることにしよう。
「マダラさんが月の眼計画に本気で加担している以上どうあがいても戦いは避けられない…それならマダラさんとトビさんを引き離す事は必要不可欠、トビさんの能力の全容は把握出来ていないけど印もマーキングもないあの時空間忍術…あれがある限り仮にマダラさんを追い詰められたとしても簡単に退かれてしまう。それならマダラさん個人に私達を"自分の手で倒したい相手"だと思わせるのが丁度良かった」
「…ほら、そういう感じのがホント嫌なんだよね。ってか、それにしても終末の谷に呼び出しは挑発し過ぎでしょ」
「ああ…それはマダラさんの関心を惹く以外に別の目的があったから」
かつてマダラさんが敗れた地である終末の谷に呼びつけるという過剰な挑発…しかしその本来の目的は場所を指定することに隠した"時間の指定"だ。
「マダラさんとの戦いを12時間後に約束する事でその間の時間を稼ぐことが出来た」
「時間稼ぎ…って一体何の為に?」
これで戦争が始まってしまったことで確保する事が難しくなったと思った時間を得ることが出来たのだと語ると訝しげに水月が聞き返してきた。
「マダラさんが来る前に三尾のチャクラの回収に成功したんでしょう。これで漸く"双魔刀・三巴"の本当の使い方が出来る様になる。だから、それを使い熟す為の修行をしないと…マダラさんとの約束の12時間以内で」
そう告げると水月の顔が急激に青くなっていく。
"双魔刀・三巴"を完成させる直前にそれを使い熟すべく"かなりキツい修行"を長門さんに頼んでいたが私が思っていた以上に大変なものだったのかもしれない。
だが必要なものも全て揃った今これ以上選択肢はない…大変だけどこれはマダラさんではない、"本命の相手"に勝つために必要なものなのだから。
さて、そうと決まれば1分1秒が惜しい。
確保出来たとはいえその時間はあまりに貴重、いつまでもここに留まっているわけにはいかないと頭が真っ白になってしまった水月に代わり彼の手に巻き付いた蛇に触れてチャクラを流し込む事でハレンチ博士達へと合図を送る。
…それにしても死を覚悟してマダラさんとの対話に臨んでやはり正解だった。
水月には言わなかったがマダラさんを終末の谷に呼び出す事にはもう一つ、マダラさんを忍連合軍の方々から引き離す目的もあった。
既に分身マダラさんが忍連合軍に大きな被害を出した今、彼の本体が忍連合軍の方々と接触しマダラさんの穢土転生の大元が私であるという事が知られるとこの戦争の後、忍連合軍との戦いが避けられなくなってしまう。
私やハレンチ博士、元暁の方々はこの戦争の結果がどの様なものであろうとも追われる立場ならばそれでも構わないが、連合の方々が把握している悪事が未遂に終わった八尾襲撃ぐらいの水月達は別の道もあるかもしれない。
その為には連合の方々に水月や香燐さん達の事を"マダラさんが復活した原因の関係者"と認識させる訳にはいかない…連合の方々がいない場所で秘密裏にマダラさんと戦いに臨む方が良い。
結局水月達を巻き込む事に変わりはないし、マダラさんを倒せたとしてもメリットのないハレンチ博士達には申し訳ないけれど…そう心の中で罪悪感を覚えた時にふとある事を思い出す。
そういえばハレンチ博士達に12時間後にマダラさんと戦ってもらう事を何と言って説明、依頼するか考えてなかった。
…
……
………どうしよう。
その疑問の答えが浮かぶ前に合図を察知したハレンチ博士の逆口寄せによって雨隠れの里へ水月と共に帰還を果たすのだった。
▼▼▼
うちはマダラと渦柘榴村雨、鬼灯水月が向かい合い会話を交わす様子をその場から大きく離れた位置から窺っている者達──忍連合軍第一戦闘部隊の隊長ダルイと彼の部隊に配属された日向一族の長、ヒアシの2人だった。
三尾、そしてマダラとの戦いでの負傷者の手当てを他の仲間に任せた彼らは会話の為に離れたマダラ、そして村雨と水月を追跡していた。
理解不能な情報ばかりを作り出す村雨と突如出現した本物のうちはマダラ、この2人が会話を交わすとなれば最悪の場合、忍連合軍にとって想像も出来ない脅威となり得る…そう判断したダルイはマダラに追跡を察知され殺されることも覚悟の上で彼らを追跡する事を決めた。
幸い、同じ部隊に所属しているヒアシもまた先の戦闘を軽傷で切り抜けた上に索敵能力に優れた白眼を持っていた事でマダラに察知されない、察知された場合であっても逃げられる距離を維持しつつ追跡し、その会話を盗み聞く事に成功した…のだが──
「……さっきの会話、どう思うダルイ殿?」
「あの娘、渦柘榴村雨は…まぁ詳しくは説明出来ねぇんスけど厄介な奴で、風影様や水影様からもアイツの行動をそのまま捉えちゃいけないとは言われてんスよね…でも、これは…」
聞き取れた衝撃的な内容にヒアシとダルイはこれをどう判断すべきか思案する。
マダラに気付かれない様にかなり離れた位置の水中に身を隠していた為聞き取れたのは村雨の推測に対してマダラが返答した「──俺はあのガキに操られてなどいない。それと、さっきのお前の推測だが月の眼計画が元々俺のものだという点だけに限れば間違ってはいない」という言葉からでありそれ以前にどの様なやり取りがあったのかは推測も出来ない。
しかし、これだけでも何らかの手段で復活したマダラが面の男に操られているのではなく、月の眼計画を阻止する為にはマダラとの戦いは避けられないという事の裏付けだった。
この情報は戦場の忍達にとっては絶望的ではあるがそれと同時に戦う覚悟を決めさせる重要な内容であり命を懸けた価値は確かにあった。
…だが問題はその後だ。
月の眼計画を阻止したいという目的は一致しているのであろう村雨は命知らずにもうちはマダラを挑発、時間と場所を指定してまで"新生・忍刀七人衆"の全メンバーでうちはマダラと戦うと宣言してみせた。
それも"忍連合の方々を巻き込みたくない"という言葉…本心とは思えない、別の思惑があるはずだがわざわざ終末の谷というここからも人里からも離れた場所を指定した事、それに事実"新生・忍刀七人衆"のメンバーが各戦場で助力したという報告が思わず信じさせてしまう。
それに「夜は奴のやり方に任せる」というマダラの言葉…日没が迫るこのタイミングで面の男の何らかの戦略が進められているという事まで偶然にも聞き出してくれた。
どの情報も連合にとってかなり有力なものだ──だからこそ、あの狂人によって出てきたこの有力情報をそのまま本部に伝えて良い物か不安になってくる。
だが夜までにもう時間もない。
ここで自分が頭を悩ませていても仕方ない、とにかく残してきた本隊に合流し本部にここで聞いた情報を伝達しなくてはと腹を括る。
「──だるい」
仮にも部隊長であり他里出身での年上の部下、それも有名な日向一族の長が目の前にいるにも関わらず、思わず人生で何度口にしたかも分からない自堕落な口癖を今までの人生で最も本気で口にしてしまう。
しかしそれに対して咎めるどころか心から同意と労いを込めて肩を叩かれてほんの少し心が温かくなる。
「──すみません」
「なに、報告の際には私も伝令役を通して綱手様やシカク殿に口添えしよう」
かくして命を懸けた追跡を果たした上忍達によって本部に重要な情報が届けられ、本部で各戦場の情報を統括するエー、綱手、そしてシカクの3人はその内容の重さと情報の入手経緯に頭を抱え苦悶の表情を浮かべるのだった。