霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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初代様パンチ

 絶え間なく続く滝の音に包まれながら目の前の人物に向かい合う。

 脱力して呆れた表情で自身を模した石像から降りたマダラさんはこれで満足かと視線で訴えながら水面に立っていた。

 

 …ここに呼び出した事もそうだが更に石像から離れた位置で戦いたいという要望にも応じて頂いて、もしかしてマダラさんは意外と…というのも失礼だが寛大な方なのではないかと思う。

 

 いや、もしかしたらマダラさんもご自身と柱間様を模したこの石像の出来栄えを評価しているのかもしれない。

 造られてからかなりの年月を過ぎたにも拘わらずこれ程の圧巻の作品、壊す事を惜しいと思って当然だろう。

 

「…流石ね村雨、貴女や水月にとって地の利があり、そしてマダラの火遁に有効な水場に上手く誘導するなんて…はぁ、ホント大したものね」

「大蛇丸様…ため息を吐くぐらいなら無理に現実から目を逸らすのはやめましょう。お気持ちはとても良く分かりますが…」

 

 え? 

 …あ、そうだ、考えてみればマダラさんと戦う場所を水辺に移す事が出来た、勿論これで勝てると楽観視するわけではないがマダラさん程の人を相手にするのならそれがどれ程些細なものであっても自分達が有利になる条件を増やすに越した事はないだろう。

 そう思えば私の我が儘も思わぬ副産物があったものだ…戦闘でどれ程役に立てるのか不安で仕方なかったが確かな貢献が出来たみたいで誇らしく思う。…が、どうして皆曖昧な表情を浮かべているのだろう? 

 

「…興が削がれたな、やはり九尾を狩りにいってもいいのだが」

「待って下さい待って下さい! もうこれ以上お願いはしませんから!」

「…醜いなぁ」

 

 マダラさんがナルト君、そして忍連合軍の人達と接触して被害を出したら穢土転生の情報源となってしまった私の立場が危うくなる…そうなってしまえば水月達にも影響が出てしまうのだからマダラさんはここで処理するしかない、だから必死に呼び止めるがオブラートに包む事なく本音を口にする水月を筆頭に皆の反応は実に冷ややかだ。

 

 折れそうになる心を「それでもやるんだ、ここでこの人を止めねば…」と必死に自分を鼓舞してマダラさんにもう一度向かい合う。

 

「…気分を害して申し訳ありませんでした、改めてまして"新生・忍刀七人衆"…この場で貴方に再び終末を与えます」

「良いだろう、無様な再現で全力とは言えぬが…このうちはマダラも相応には応えてやろう」

 

 瞬間、マダラさんのチャクラが爆発したかの様に急激に練り上げられるのを感知能力がなくとも突き付けられる。

 

「"火遁・劫火滅却"」

 

 視界全てを覆い尽くす程広範囲に広がる炎が放たれた。

 正しく獄炎と恐れるべきその炎はまともに受ければ肉体は灰さえも残らないだろう、しかし──

 

「"水遁・爆水衝波"!!」

 

 水月が起こした巨大な波がそれを正面から受け止める消火する。

 規格外の規模の炎と水のぶつかり合いによって立ち上がる水蒸気に紛れて全員が一斉に散会する──その瞬間だった、水蒸気による濃霧によって写輪眼であっても視界が阻害されている事を意に介さずマダラさんが飛び出してきた。

 

「な!?」

 

 術の放出で唯一散会せず、元の位置に留まっていた水月はその強引な突撃に対応する間もなく首を掴まれる──いや、それだけではなく同時にマダラさんの周囲を覆う深く暗いチャクラで造られた骨状の両腕が近くで散会していた角都さんとカブトさんをそれぞれ捕まえていた。

 

「……まずは3人か」

「「舐めるな!」」

 

 水月とカブトさんは水化の術とそれを応用した脱皮の様な肉体変化によってそれぞれ逃れ、角都さんもまた肉体を硬化させチャクラの腕の握力に耐えていた。

 

「それは既に見ていたぞ小僧──"火遁・劫火滅却"」

 

 しかし逃れようともマダラさんの攻撃は止まらない。

 角都さんを握り潰す事は出来ないと判断したのかチャクラの腕を角都さん諸共川の底へ沈めると同時に、脱出したカブトさんを追って後方に飛び下がったマダラさんはすぐにカブトさんに追いつき蹴り落とす──更にその傍らで印を結び終えて水となった水月に向かって再び火遁を放つ。

 

 身体を水にしていた水月は当然、印を結ぶ事が出来ずに二度目の炎を防ぐ事が出来ずに直撃する。

 肉体が焼かれる事はなくとも川の水さえも蒸発させるその火炎に存在を消滅させられることは明らかだった。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

「…ほぅ」

 

 身体を消滅させられながらも水月は周囲の水を搔き集める。

 それは私達の足元の水が無くなるどころか滝を落ちる水の流れさえも加速させ──見上げる程の巨体となって浮かび上がる。

 その巨大な水の身体の中には水の急激な膨張や激流によって地面に激突する前に拾われたカブトさん、チャクラの腕から引き剥がされた角都さんの2人も収容されていた。

 

「俺の炎に蒸発させられるよりも早く…それにそいつらも助けたか、どうやら肩書だけの部隊長という訳でもないようだな」

 

 狙いから外れていたハレンチ博士の口寄せ蛇とサソリさんの仕込みクナイの射出による攻撃をチャクラの腕と同様のドス黒いチャクラの鎧で全て弾き、マダラさんはそんな攻撃に一瞥する事すらなく勾玉の形をした巨大なチャクラの塊を投げ返した。

 

 激しい爆発に負傷しながらも致命的なダメージは辛うじて逃れた2人を見ながら水月は歯噛みする。

 

「クソ、分身マダラとは速さが段違いだ、影分身って身体能力自体は本体と大差ないんじゃないの?」

「あの時のオレの分身が本気を出していたとでも思っていたのか?」

「納得…」

 

 霜隠れ周辺の海岸で応戦した時には逃げに徹すれば私を抱えながらも辛うじて攻撃を凌ぐ事が出来ていたが今のマダラさんの動きはあの時とは全くの別物だった。

 

「…さて、こちらも本気で試すとしよう」

「ッ! マズい」

「"木遁・樹海降誕"」

 

 マダラさんの足元から大量の樹木が生え全員に襲い掛かる。

 その勢いと物量は巻き込まれれば身体はぐちゃぐちゃに轢き潰されるであろうことは明確──私や水月はその手の物理攻撃はやり過ごせるが他の皆は凌げるか? 

 

 最悪の可能性が脳裏に浮かんだ瞬間にボンッと口寄せの術を使用した際の独特の音があちこちで響き、皆に迫った巨木はそれぞれに触れる寸前で次々に斬り捨てられる。

 

「──それがお前達の刀か…」

 

 断刀・首斬り包丁

 蛇刀・蝕

 壊刃・遺骨

 無限爆刀・蒸気壮怒

 魂刀・屍鬼切

 

 それぞれに託した名刀達を一斉に手にした"新生・忍刀七人衆"のその姿に鼓動が早くなるのを感じる。

 無論、悪意ありきだとは言え折角マダラさんが私には攻撃していないというのに感動で勝手に死んでしまうところだったと肝を冷やしたが、何とか落ち着きを取り戻して水月達の姿を真っ直ぐに目に焼き付ける。

 

「…ん? あの悪趣味な面の奴だけはいないようだが──」

「写輪眼の目晦ましは絶対よ…水月」

「分かってるよ、"水遁・霧隠れの術"」

 

 唯一木遁の術に呑み込まれたリーダーさんの姿を見失ったマダラさんが僅かに視線を動かしたその瞬間にマダラさんの力量を冷静に分析しそれぞれの役割を即座に決め──彼らは動き出す。

 先程の水蒸気よりも更に深い霧が視界を埋め尽くす、それはその名の通り、霧隠れの里の代名詞たる隠密用の術"霧隠れの術"だ。

 

 これでマダラさんの写輪眼の強みを無くした…ならば次に出すのはマダラさんの身体を覆うあのチャクラの鎧を崩す、破壊力に優れた一撃の番──その予想の通り深い霧に包まれた視界に更に影が差したのを感じる。

 

「…来たか」

 

 マダラさんも先の戦いで既に目にしたのだろう、頭上を仰ぎ霧の中でも微かに届いていた太陽の光を遮る"巨大傀儡人刀・櫛儺娜"を笑みと共に見上げた。

 

 深い霧を割りながら振り下ろされたクシナダの持つ"無限爆刀・蒸気壮怒"とマダラさんのチャクラの鎧が更に変化した四本腕の怪物、それがその四本腕全てに形成した四本のチャクラの刀がぶつかり合いこの世の物とは思えない程美しい音色を響かせる。

 

 思わず陶酔しかけたが"蒸気壮怒"の一撃は防がれた──しかしあの刀はこれからが本領だ。

 硬質な特殊なチャクラと接触した"蒸気壮怒"の刀身から出た火花が蝦蟇油と反応し刀身が炎を纏い──起爆する。

 

 爆風に弾き飛ばされそうな身体を足にチャクラを集中して必死に踏み留まらせ霧が晴れた先に視線を向け──驚愕に目を見開く。

 

「良い攻撃だが…この須佐能乎を破るには少々足りんな」

「…分身はこれで葬ったが、その術もやはりあの時は手加減していたか」

「正確にはこれも"完成体"の一つ手前と言ったところだがな」

「なんだと!?」

「──尤も、今の無様な復活ではこれが限度だが…だが、お前達にはこれで十分か?」

 

 バキッと鈍く、嫌な音が耳に響く。

 マダラさんのチャクラの鎧…須佐能乎という術の拳がクシナダの腹部を破壊した、辛うじてクシナダの腕が須佐能乎の腕を掴みそれ以上の破壊は食い止めているが決して軽度とは言えない破損だ、けれど──

 

「──掛かったな」

「なに?」

 

 瞬間、マダラさんのすぐ傍に落雷が落ち、身体の崩壊と再生を繰り返しながら降り立った人物が須佐能乎の足にその手を触れる。

 

「貴様は!?」

「"餓鬼道"」

 

 "閃刀・黄華"、対の刀の下へ持ち主を転送する双刀だ、ただしその速すぎる転送に生物の身体は耐えられず、特殊な肉体でなければ大きなダメージを受ける…だが穢土転生により復活したリーダーさんは身体がバラバラになろうとも僅かな時間で修復される。

 

 周囲の水と同化した水月には"蒸気壮怒"の起爆の瞬間にこの刀の片割れを水中でマダラさんの足元へと流してもらった──そしてもう片方の刀を手に持った状態で敢えて木遁忍術に吞み込まれる事でマダラさんの視界から消えたリーダーさんは今、マダラさんのすぐ傍に瞬間移動を果たし吸収能力で須佐能乎を形成するチャクラ全てを瞬く間に飲み込んだ。

 

 たとえどれだけ強固な守りに優れた術であってもチャクラそのものを吸収されてはその性能も無意味、遂に須佐能乎を剥がしたその瞬間を見逃しはしない。

 角都さんは即座に水月の水の身体から飛び出し"魂刀・屍鬼切"に宿した死神の腕でマダラさんを捕まえた。

 

「…身体が動かぬ、この封印術も中々だな。それに──蘇っていたのは知っていたが、そうか…その趣味の悪い面の正体はお前だったか、長門」

 

 チャクラの吸収でリーダーさんの正体に思い至ったらしく、魂を掴まれ身体の自由を奪われたにも関わらずマダラさんは平坦な調子でそう語り掛けた。

 …はて、かつてリーダーさんと関わりがあったマダラさんとはトビさんの事のはずだがそれにしては妙に関係深そうな口調だ。

 

「…まったく、俺の思い通り動いていれば礎程度には平和への貢献も出来たものを。…ふん!」

 

 先程までと違い明確にマダラさんが身体に力を入れた──たったそれだけで魂を掴んでいる角都さんの表情が険しくなる。

 

「この封印術、うずまき一族のものが源流だな…ミトの一族の者が似た様な術を使っていたぞ。術者のチャクラで相手の魂を引き剥がす類の術らしいがチャクラの綱引きで俺に挑もうとは、角都…貴様もボケたか?」

「ぐ…ぬ…。ふん、確かにこれで貴様の魂を引き抜く事が出来るのならばそれが一番だったが、それが叶わぬのならば次の手を用いるまでだ」

 

 その言葉と同時にカブトさんが動く。

 "蛇刀・蝕"がマダラさんの身体に巻き付いて全身に呪印を走らせ更に動きを抑制する。

 

「…くだらん小細工を」

「生憎、ボクみたいな奴は小賢しいぐらいが取り柄ですので…だから、更に細工を凝らして頂きます」

 

 数珠繋ぎの刀身から毒煙が噴き出してマダラさんに全身から浴びさせる。

 

「これは…今の俺に効く毒だと?」

 

 それはたとえ死人の身体でさえ異常をきたす雨隠れの山椒魚から採取した強力無比の猛毒だ、これでマダラさんの抵抗する力はかなり弱まったはずだと皆が角都さんへと視線を向ける。

 

「うおおおおお!!」

 

 雄叫びと共に角都さんが死神の腕が憑依した右腕を振り下ろし──引き摺り出したマダラさんの魂を切り落とした、そして空中に漂う魂は"魂刀・屍鬼切"の鞘へと吸い込まれ、完全に封印される。

 

「封印した!」

「良し!」

「……やった」

 

 魂を封印され力なく、ぐらりと倒れるマダラさんの姿は演技のそれではなく確実に打ち倒したのだと確信する。

 

「──ッ!? 角都!!」

「な!?」

 

 それ故に、足元の樹木の内側から突き出された須佐能乎の刃に貫かれる角都さんの姿に言葉を失う。

 

「──柱間の使った木遁分身だ。良く出来ているだろう?」

 

 ゆっくりと姿を現したマダラさんは傷は勿論、呪印も毒も受けた様子もなく平然と笑みを浮かべていた。

 

「…霧隠れの術で写輪眼を妨げるつもりが逆に利用されたようね」

「その手の術は写輪眼と戦う相手の常套手段だからな、その対策を俺がしないとでも思っていたのか? ──さて、これで1人目か」

「……今だ、やれ!」

「なに?」

 

 確実に急所を貫かれてもなお、言葉を口にする角都さんにマダラさんは僅かに驚いた──恐らくだが、マダラさんが知る頃の角都さんと今の角都さんは能力が大きく異なるだろう。

 当時の角都さんがどれ程の実力だったのかは私は知らないが、体内で心臓を動かして急所の位置をズラし更に柱間細胞を摂取しているという点で今の角都さんの生命力はマダラさんの知る頃の比ではないだろう。

 

「"仙人・白激の術"」

「クシナダ全腕"響鳴スピーカー"起動、『響鳴穿・咆哮』」

「むぅ…」

 

 カブトさんとサソリさんがそれぞれ光と音を炸裂させる。

 目、そして耳を塞がずにはいられない閃光と振動、そして爆音の衝撃に須佐能乎に守られたマダラさんでも流石に顔を顰め最初に見せた須佐能乎よりも不完全だった事も合わせ、その強固の鎧に裂け目を造る。

 

「ぐ…おおおおおお!」

 

 須佐能乎が消えかけた事で身体を貫く刀も脆くなったのだろう、角都さんが僅かに残ったチャクラの刃を握り潰し落下に近い勢いで須佐能乎の裂け目に飛び込みマダラさんへ迫る。

 

「──ふん」

 

 その瞬間だった、再び形成された須佐能乎の手がマダラさんの顔を握り潰した。

 

「しまった!?」

 

 そして瞬く間に塵芥が集まりマダラさんの身体は再生し始める──しかしその身体は顔の大半、つまりは目と耳の再生が不完全な状態で動き出し自身に迫る角都さんへ拳を振り上げていた。

 

 バシャッと水が弾ける音がした。

 白激の術の激しい振動の中でも動ける水の身体を持つ水月がマダラさんと角都さんの間に割り込んでその拳を身体で受け止めた。

 

「お前!」

「決めろ! ボクごと貫け!」

「──任せろ」

 

 角都さんは勢いを緩める事なく手にしたクナイを水月の身体を貫いてマダラさんの再生途中の頭に突き刺した──それはハレンチ博士が準備した穢土転生した人物に掛けられた命令を上書きする術式札付きのクナイだ。

 

「札を入れたぞ、大蛇丸!」

「"穢土転生の術・解"!!」

 

 瞬間、マダラさんの身体が光に包まれその身体を造る塵芥が全身から徐々に剥がれて散っていく。

 術者としての主導権を奪ったハレンチ博士が穢土転生を解除した事でマダラさんは消滅する…ここに来るまでにハレンチ博士が準備し全員に渡しておいた切り札だ。

 

「……なるほど、お前達の狙いはこれだったか」

 

 頭部の再生を果たしたマダラさんは消え掛かっている自分の身体を把握して感心した様にそう言って全身から力を抜いた。

 身体のコントロールをハレンチ博士に制御され最早数秒後の消滅を待つだけの状況に戦う気をなくしたのか両目を閉じて腕を組むその姿に言いようのない不信感を抱く。

 

 マダラさんにはまだまだ謎が多い、しかし彼がトビさんの計画に自らの意思で協力しているのは本人の発言からして間違いない。

 自らの理想の計画に本気の人間ならば、たとえ死を目前にした数秒であっても足掻かないはずがない。

 たとえ自らが消滅するとして協力者であるトビさんに計画を託す為、彼の障害になりそうな存在を1人でも多く葬ろうとするなどの何らかの行動をするはず──そう思いながらマダラさんの動きをジッと見張る。

 

「流石は奴が集めた忍達だ…中々楽しませてくれる」

「…ッ!」

 

 突如、ハレンチ博士の顔が険しくなり同時に行動を縛られているはずマダラさんの両腕が動き出した。

 

「穢土転生の術には一つだけリスクがある。それは印さえ知っていれば死人側から口寄せ契約を破棄出来るという事だ」

「マズい、奴の印を止めろ!?」

「ふ、精々良く見ておけ長門。──"解"」

 

 一斉に遠距離攻撃を仕掛けるも須佐能乎の守りに阻まれマダラさんは印を結び終えてしまう。

 宙に舞っていた塵芥は再びマダラさんの下に集まり、彼の周囲を包んでいた光も収まってしまっており穢土転生の術の解除が打ち消されたのは間違いなかった。

 

「……カブトさん、頂いた穢土転生の術についての書物に死人側からの契約解除について書かれていなかったのですが?」

「いやボクが悪意を持って消していたとかじゃないからね、ボクだって初めて知った事だし…大蛇丸様?」

「私も知らなかったわよ…二代目様も厄介な術を作ってくれたものね」

「まったくですね。術である以上人道に反するなとは言いませんが開発者ならば使う側の安全は徹底してほしいものですね」

「君自分の造った刀を棚に置いてよくそんなこと言えるね!?」

 

 あれはちょっと使い方に癖がある子達、もしくは調整前の段階の子達だ…いやそういう意味でいうと二代目火影、扉間様もまだ調整途中だったのかもしれないが…。

 

「バカな事を言ってないでこれからどうする? …奥の手の命令札付きクナイも契約そのものを無効にされた以上もう小細工はない。あとは行動出来ない程度にダメージを負わせた上で再生するより早く封印するしかないぞ?」

 

 それが何よりも難しい事は先程まで戦闘で既に皆が理解していた。

 こちらの動きを完璧に見切る写輪眼、無敵の須佐能乎の攻撃と防御、穢土転生の身体の効果的な使い方、いずれもマダラさんが一時的に行動不能になるだけのダメージを負わせる事を困難にしていた。

 

「…どうした、まだ踊れなくなった訳ではなかろう? 折角この世に留まってやったのだ、もう少し楽しませてもらいたいのだがな」

 

 こちらが如何に攻めるのか迷うのを見てマダラさんはまるで新しい芸を披露されるのを待つかの様にそう嘲る。

 

「…サソリ、クシナダは?」

「装甲の一部を破損しただけだ…この程度で動けなくなるかよ」

「なら援護は任せるわ、須佐能乎を正面から抑えられるのは質量で上回っているその傀儡だけだからね」

 

 確かに命令札が効かなかったのは残念だが、それが効かないのならば今までマダラさんの行動を縛る為に集中していたハレンチ博士も前面に出れる様になったとも言える──死者の身体である以上細胞の異常活性化で人体を破壊する"壊刃・遺骨"の効果はないだろうが、ハレンチ博士にはもう一つ別の刀を渡してある。

 

 ハレンチ博士の要請の通り、サソリさんはクシナダの背の放出口からチャクラを噴出させ一気に須佐能乎へと迫る。

 互いに刀を交差させ、爆撃とチャクラの勾玉をぶつけ合い周囲に忍の戦闘とはかけ離れた衝撃を撒き散らす。

 

「須佐能乎の鎧を剥がすのはあの刀の爆発でも無理だった、長門…貴方がもう一度チャクラを吸収するしかないわよ」

「俺の接近はもう警戒されるはずだ、何らかの手段でマダラの視界を奪うしかないが…光や音ではまた自ら顔を潰して避けられるぞ」

 

 機動力に欠ける長門さんでは高速で戦う中へ接近するのも難しい上にマダラさんに隙を作らせる必要がある…それも物理攻撃以外に限られる、しかしその他の手段は既に破られた後だ、他にどんな手段が…。

 

「須佐能乎って攻撃を弾くってことは実体はあるんだよね?」

「まぁ、現に俺もそれに触れてチャクラを吸収したのだからな」

 

 慎重に長門さんに何らかの確認をした水月は自分の案を再考しているのか僅かな間顔を顰め…やがて口を開く。

 

「……だったらボクに一つ考えがある」

「了解、私達はどうすれば良い?」

「誰か、土遁でマダラを少し落としてくれる」

「土遁…ハレンチ博士は決め手の準備がいるから…」

「俺に任せろ。それと角都、マダラの動きが止まったら俺を投げろ」

 

 打ち合わせが終わると水月は周囲の水と再び同化し、それを見た長門さんもまた水に潜りその下の地面に手を置いた。

 一方で単身マダラさんの相手をしていたサソリさんは徐々に攻撃を捌かれ出し追い詰められていた。

 

「傀儡の術は人形を動かす為にチャクラ糸で操作するが、俺の眼にはその動きが全て見えている。その仕込みが何かは知らんがどこから攻撃が来るかはすぐに分かる、そしてチャクラの集まる核部分も、こんな風にな」

「な!?」

 

 須佐能乎が手にしていた刀を投げ飛ばしクシナダの左肩の少し下部分に突き刺さる──そこはクシナダの巨大な身体を操作する為の中継器となっている傀儡人形が格納されている部分だった。

 

 二本の左腕が落とされはしなかったがその操作する為のパーツが失われ左側の腕はダラリと垂れ下がり動かなくなってしまった。

 

「さて、次は右腕か?」

「"土遁・地動核"」

 

 更に須佐能乎の刃を投擲しようとするマダラさんだが、それよりも早く彼の足元の地面が崩落しその刃の軌道は大きく外れる。

 しかしそれだけではたった一撃を凌いだだけ、現に須佐能乎はすぐに地面を掴み穴の中から這い出ようとしていた。

 

 水月は一体何をしようとしているのか焦りが募り始めた瞬間、渓流の水音が異常な程に加速していた。

 

「これは!?」

 

 須佐能乎が掴んだ地面が激しい水の流れに削られ崩壊し再びマダラさんは水の中へと沈む。

 当然、須佐能乎で外界から遮断されているマダラさんが溺れる事はないだろうが…水月の狙いはそんな事ではない事に気付く。

 

 須佐能乎の周囲の水は絶えず渦巻きその激流によって須佐能乎を水の中に閉じ込めていた。

 

「なるほど、渦潮か」

「須佐能乎の強固な守りを突き破る事は難しい、しかしその攻撃はあくまで物理的なもの…水を掴む事も止める事も出来ない」

 

 …流石

 水月らしい、と言って良いかは分からないがそれでこそだ。

 

「ほう、面白い事を考えるな…だが、こうなる事を忘れたか? ──"火遁・劫火滅却"!」

 

 再び放たれた火炎がまた水と同化した水月の身体を蒸発させていき、同時に須佐能乎が水の中から這い出ようとしている。

 

「マズい、水が減ればその分押さえつける力が弱まる…何よりこのままでは水月が!」

「角都、俺の身体は穢土転生だ、構わず炎の中に投げ込め!」

 

 長門さんが炎の中に投げ込まれ、彼に吸い込まれる様に炎の流れが変化していくがその間に須佐能乎はもう身体の殆どが水の中から浮上している。

 

「そぉら!!」

「む!」

 

 急降下したクシナダが二本の右腕で須佐能乎の頭を押さえつけ水中へ再び沈めに掛かる。

 

「ふん、つくづくふざけた出し物だが…所詮は人形、力が足りんぞ」

 

 ただでさえ左腕を動かす制御パーツの傀儡人形が破壊され右腕だけ…須佐能乎の浮上を抑え込むには至っていない、長門さんが須佐能乎に触れるにはとても間に合わない。

 それでも水月が焼き尽くされる前に、何か手は…。

 

「ッ! 手が…あった、巨大な手が」

「村雨?」

「カブトさん、仙術チャクラを貸してください…あれを!」

「…え、いや…本気?」

 

 カブトさんと共に水面を蹴って目的の場所へ飛び移る、そしてその岩の表面に触れ仙術チャクラを流し込む。

 

「仙術チャクラなら生物以外の物体を動かせる…これで」

「"仙法・無機転生"という術だよ、にしても…"これ"を動かすなんてね」

 

 私としても決して本意ではないが今回ばかりは仕方ない。

 

「──ん…な、なにぃ!?」

 

 何かが軋むような音に気付いたのだろう、マダラさんが自身の視界を塞ぐ程の火遁を止めてこちらに眼を向け──珍しく驚愕に顔を染めた──しかしもう遅い、仙術チャクラによって動き出した"初代火影様の石像"はもう頭上に掲げた拳を須佐能乎の脳天へ振り下ろす! 

 

「初代様パンチ!」

「ふざけ過ぎだガキ共ォ!!」

 

 岩の拳が須佐能乎の頭部に激突し鈍く大きい音を響かせ、須佐能乎ごとマダラさんを渦潮の中へと突き落とすのだった。

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