霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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影達の要求

 マダラさんが立ち去った戦場に新たに現れた2人の人物をジッと観察する。

 綱手様と水影様、名は確か…メイ様だったか? 

 

 どちらともチャクラこそ荒立ててはいないが表情は険しいもので、私達に対して友好的な印象は受けない…まぁそれに関しては悪いのは全面的にこちら側、それ自体は然して気にする事ではない。

 しかし私達をそうやって敵として扱うのならばむしろ自然な事と受け入れるのだが、お二人は先程マダラさんが立ち去り際に放った攻撃から私達を守ってくれた…それが分からない。

 

 私達を敵だと思うのならばここで私達を守る理由はないはずだ…かといって対マダラさん、トビさんの為に協力するつもりになったとは考えにくい。

 勿論そうなってくれたら一番良いのだが、これまでの確執を思うとそれが如何に難しい事かは良く分かっている…あったとしても"影"であるお二人が来る前にまずは遣いの忍が出向くはずだ。

 

 それこそ穢土転生の経路を明かさないままマダラさんを倒す事が出来ていれば或いはその可能性もあったかもしれないが、痛み分け…むしろこちらの方が劣勢でマダラさんを取り逃がしてしまった以上その見込みも薄いだろう。

 ならばこの方達は一体何を求めてここに来た? 

 

「…フフ、来るとしたらそろそろじゃないかと思っていたわ、綱手」

「え!? そうなんですか!?」

 

 綱手様達の真意をまったく読めないでいたというのに傍で瓦礫に背凭れて座るハレンチ博士は立ち上がって戦闘態勢をとる事さえせずに、笑みを浮かべて綱手様が来る事を分かっていたように言ってみせた。

 

「早とちりしない事ね村雨、来るとしたら…と言ったでしょう。忍連合軍は全ての戦場の状況を把握する為に何かしらの手段で広範囲の感知をしているでしょう。だから私達とマダラの戦いについても把握していて当たり前。だったら忍連合軍としてはマダラか私達の戦いがどう転ぼうとも戦力を送り込むなら勝敗が決まるまで待てば良い」

 

 なるほど…それはさっき私も思っていた"協力するつもりになってもらうのは難しいだろう"という推測にも一致する事だ。

 忍連合軍の方々からすれば一番望ましい展開は、私達がマダラさんを倒した上で戦闘を続行する余力を使い果たす事だ。だから綱手様達がこの場に来るのならば戦闘が終わった時に現れるのが妥当。

 

「…あれ、でも…」

 

 しかしそんな推測に反して綱手様達が来たのはマダラさんが立ち去る寸前だ。さっきまでの戦いが終わるまで待つという戦略とかけ離れた行動だ。

 

「…それだけ輪廻眼となったうちはマダラから観測出来たチャクラが桁外れだったという事よ。最早手段を選ぶよりもあの男と戦えるだけの戦力を得る事を必要とする程にね」

 

 ああ、つまりはハレンチ博士が綱手様達が来るかもしれないと思ったのはマダラさんが輪廻眼を見せた時という事か。あの戦いの中でもそこまで考えを巡らせていたとは…。

 

「…だから、"十拳剣"をあの使い方はしなかったんですね」

 

 先の戦いでハレンチ博士が仕掛けた攻撃で気になっていたのだが、つまりハレンチ博士はあの場でマダラさんを倒すよりもこの状況に持ち込む方が都合が良いと判断したというのか。念の為小声で確認する。

 

「それだけが理由ではないけれどね…マダラをあの場で確実に倒せるのならそれが一番だったけど、アレは私の姿を変える必要があるから僅かな隙を狙うのには向いていない。…そして正面から勝負を仕掛けるには輪廻眼を持ったマダラの力は未知数過ぎた」

 

 なるほど、全力の見えない相手に対して切り札を安易に使うよりは、輪廻眼を出したマダラさんの脅威を悟った忍連合軍の動きを待った方が良い…そういう事か。

 本人はあくまで今の状況は本命ではなく妥協した結果という口振りだが、あの状況でそれを選べた事自体がやはり常人とは違う人物だと舌を巻く。

 

 …しかしコソコソと話している様子が不審に思えたのだろう。ハレンチ博士を賞賛する間もなく綱手様の厳しい視線が突き刺さる。

 

「コソコソと何を話している?」

「い、いえ決して怪しい話ではありません」

「まぁ私と貴女はもう何もしていなくても怪しいと思われるでしょうけどね」

「自分でそれを言うのは結構ですけど、ボクから言わせればアンタらいつでも怪しい通り越して常に現行犯だよ」

 

 いや、いつでも疑わしいから容疑者扱いということならばともかく、常に現行犯というのはまるでいつでも悪事を働いているようだ。それはいくら何でも極端だ。

 …しかし頻繁に悪事を働いているのは事実。この場で水月の言葉を否定するのは少々時間を要する為一先ず後回しにしておこう。

 

「こちらの話はともかく、改めてご助力感謝致します。火影様、水影様、ありがとうございました」

「礼はいらん、お前達にはこれから私達の為に動いてもらうのだからな」

「……やっぱりそうきたわね」

 

 ある意味では望んでいた忍連合軍からの協力の要請ではあるが、その実態は紛れもない脅しだ。

 戦争の最大の脅威であるマダラさんの対抗戦力として私達を加えたいが、一方で私達は忍連合軍にとっては不安要素である。…つまりこの場で私達が協力する気がないのであればマダラさんとの戦いで消耗した私達をこの場で消す、それが出来る様になったからこそ彼女達はここに現れたのだ。

 

「…らしくないじゃない綱手、アンタがこんな一方的な取引を持ち掛けようなんてね」

「人は変わるものだ──"大切なものを守る為"ならな」

「……ふん、血に怯えていたアンタが下忍のガキ1人を守る為に再起した様に、かしら。さっきの言葉は撤回するわ。心配しなくてもアンタはあの時から変わっていないわ」

 

 そうそうあの時の綱手様は最初にお会いした時の荒んでいたのが嘘の様に本当に格好良くて…っと、そうではなく忍連合軍に協力するかどうかだが…果たしてどうしたものだろうか。

 要求を呑む方が良いのか、それとも断った方が良いのか。仮に断るにしても皆さんの余力がどれ程かが全てだが、皆さんは今すぐに動けるのか。…全員を観察するが流石というべきか誰一人として大人しく従うという様子は見せていない。

 

 もしも誰かが要求を拒否するべく綱手様、メイ様に攻撃を仕掛けたならば即座に他の人達もそれに続くであろう…そんな一触即発の雰囲気だ。

 …そう、如何に相手が五影の名を持つお二方だとしてもあの彼らが平伏する様な要求をされたのに一触即発に留まっている状態だ。つまりマダラさんとの戦いの消耗はそれ程までに重かったという事だ。

 

 唯一長門さんだけは穢土転生であるが故に消耗もないが、かといってこの場で長門さんに綱手様、メイ様を倒してもらうというのもそれはそれで問題だ。

 長門さんもそう思っているからこそ動かないのだろう…ならばやむを得ない、一先ずあちら側の要求をより聞くしかないだろう。

 

「…大切なものを守る為、という事は綱手様、メイ様…貴女達は私達を殺しにきたのではなく、忍連合軍に従う戦力とする為にきた…と認識してよろしいですか?」

「ああ、面の男は今ナルト達と戦いを続けていて奴は不完全な形の様だが遂に十尾を復活させた、そしてお前達との戦いを切り上げてマダラもそこに向かっている。…戦況は最終局面であり、こちらが不利だ。全戦力を集結させているが恐らく途方もない被害が出るだろう」

「貴方達にはその戦場に赴いて主戦力として命を惜しむ事なく前に出てもらいます」

 

 酷い要求だ…しかしそれも彼女達が里長として1人でも多くの忍を生き残らせるべく考えた作戦であることは良く分かる。だからこそ容赦の無さに反して彼女達への嫌悪感はまったく無かった。むしろ、その作戦の欠点を見落としている事への心配が湧く。

 

「確認したいのですが、私達が連合の方々と同じ戦場に出たとして皆さんは私達を信用出来るのですか? 私達も不安ですが、戦場で戦う連合の皆さんも私達がいるとむしろ懸念が増えて動き難くなるのではないですか?」

「問題ありません、諸々の対策は私の方で考えています」

 

 私の質問に答えたのはメイ様だった。

 そこまではっきりと言い切るとは…本当にそんな事が出来るとしたらマダラさんを取り逃がしてしまった今忍連合と協力する方が勝機あるかもしれない。

 だが、それでも決めるのは実際に戦う皆であるべきだ。綱手様の事を最もよく知るであろうハレンチ博士の判断を仰ごうと視線を向ける。

 

「貴女達の要求通りに私達が動くメリットはあるのかしら?」

「この場で私に消されない事だ」

「…クク、つくづくアンタと交渉なんて碌な事にならないわね」

 

 いよいよ交渉という体裁を保つ事なくシンプルな脅しが出てきたがハレンチ博士はそれをどこか楽しそうに笑っていた。…あまりに独特な関係性に面食らってしまうが、ともかく私達の答えは最初から一つしかなかった様だ。

 

「いいわ、要求を呑んであげる。そもそもトビと十尾、そしてマダラが一つの場に集った以上、私達と貴女達忍連合は共闘しなければどちらかの戦力が無駄になるのだからね」

 

 カブトさんは勿論、サソリさんと角都さんからも否定意見は出て来ない。…彼らも最初からそうする以外選択肢がない事は理解していたのだろう。

 

「い、いやいや大蛇丸様、ボクらもまだ余力ないわけじゃないし戦力温存で残してきた重吾達も呼べばこの場を切り抜ける事だって出来るでしょ? 何もこいつらの盾役なんて引き受けなくても…」

「切り抜けたところで戦う相手は皆連合の忍の前にいるのだから仕方ないでしょう…あの場でマダラと倒せなかった結果よ」

 

 水月は全ての勢力が揃った場で主戦力として働かされる事に恐れているようだが、それはむしろ当然の反応だ。

 ハレンチ博士を筆頭に皆がそれを受け入れているが私としても果たしてこの要求を呑んで大丈夫か不安だったから心配を募らせる慎重さは安心する。

 

 しかし、ハレンチ博士の言う通り戦況そのものが綱手様達の誘いに乗るしかない状況になっているのだから、不安があったとしても要求に従って戦場に出るしかない。

 悔しさや罪悪感で心が締め付けられるような感覚に襲われた。その直後にメイ様が口を開いた。

 

「安心しなさい水月、貴方を連合の盾にするわけではないわ」

「はぁ? アンタらがボクらに戦場で命を惜しまず戦えって言ったんだろ?」

「言ったでしょう、貴方達が忍連合と共闘する為の条件を考えていると──水月、貴方の身柄は連合軍本部で預かる。貴方達が本気で戦う為の人質としてね」

「は?」

「「な、なにぃ!?」」

 

 メイ様の告げた条件に水月どころか"新生・忍刀七人衆"の全員が目を見開いて驚愕した。

 無論私も同様だ、水月は"新生・忍刀七人衆"の長…リーダーが欠けるというのは部隊での行動においてあまりにも致命的な事柄だ。

 

「貴方達暁のメンバーと音隠れの忍達が集結したのはそこにいる村雨の仕業でしょう。…その彼女と一緒に行動するつもりなら彼の存在は失いたくないはず」

「随分と…吹っ掛けてくれますね」

 

 メイ様の言葉にカブトさんは渋い表情で唸る。

 しかし皆さんを集めたのは確かに私だがこういう形で浮彫りになるとどこか誇らしくなってしまう…いや、だとしてもそれならば…だ──

 

「…あの、メイ様、それでしたら人質役は私が。戦闘ではあまり役に立てませんし戦闘能力のある水月よりも私が人質として管理された方が都合がよろしいかと…」

「貴女が人質だと彼らも死んだら死んだで諦めがついてしまうからダメよ」

「よく分かってるじゃない」

「まったく分かりませんが!?」

 

 皆さん私の誘いで集まったという事は否定しないのに、私が死んだらそれはそれで良いかもと思っているという事なのか? 私とハレンチ博士達の関係性は一体どういうものなのかここに至って疑問になってしまう。

 

「いやいや、意味分からないのはボクの方なんだけど!? ちょ、何アンタら、急に囲んできてキモ──」

 

 そうこう言っている内に水月はメイ様と一緒に来た3人の忍に囲まれて彼ら共々消えてしまった…なんて事だ。

 

「くそ…奴は俺達にとって大切な生贄だと言うのに…」

「それを分かっていて人質にした私が言うのも何だけど、人質扱いの方がまだ立場が向上しているのはどうなのかしら?」

 

 いや水月はこの"新生・忍刀七人衆"の長としてやんごとなき立場であるはずなのだが。…まぁ人の上に立つというのは苦手な人にとっては生贄扱いも分からなくもないが。…かくいう私もアカデミーの頃は委員会などの立場のある役目は絶対になりたくないと…いや少々思考が脱線し過ぎだ。

 

 そんな事よりも人質にされた水月についてだが…心配ではあるが人質という事からして滅多な事はないはずだろう。問題があるとするならば──

 

「この戦いが終われば水月は解放して頂けるのでしょうか?」

「彼は雲隠れを襲撃したことが目撃されています。…けれど被害を受けたキラー・ビーさんの負傷も貴女達が八尾の魂の一部を返却し重度のものには至らなかった。罪には問われるでしょうけど解放も不可能ではないはずよ」

「……"彼は"ですか」

 

 それは裏を返せば重度の罪を犯した事のある私達はその限りではないという事だ。

 遠回しではあるがそんな事を明かさずとも「解放する」とだけ言って私達を使い潰す事も出来るはずなのに…それでもその手のやり方を選ばないメイ様は誠実な方なのだろう。

 

 だからこそ、この戦争を生き延びたところで私達が忍連合軍と対立せずに済む未来はないのだと確信する。

 

 まぁ良い、失敗に終わったマダラさんとの戦いもそうならずに済む道を求めてのものだったが、仮に成功していてもそうなる可能性は考慮していた。むしろ水月が解放される可能性が示唆されただけ充分だ。

 

「──分かりました。…しかし今から戦場に向かって間に合いますでしょうか?」

「マーキングをしたカツユを"天送の術"で戦場に送ってある。あとはさっきの3人に"飛雷神の術"でここと目的地を往復させて1人ずつ運ぶ」

「なら俺は後にしろ、こいつを修理してから向かう」

 

 そう言ったサソリさんは周囲に散らばったクシナダのパーツを傀儡糸で一つ一つ集めていた。

 

「そいつの代わりになる傀儡がないのは分かるが、修理は可能なのか?」

「…丁度良い木材を奴が置いていった。継ぎ接ぎにはなるが即席の修理は出来る」

 

 サソリさんの視線の先には川の中から天に向かって伸びる巨大な樹木…マダラさんが使った木遁忍術によって出現した大量の木々があった。

 

「なるほど、だがアレの動かす為の制御パーツになっている傀儡も数体破壊されたのだろう、そちらはどうするつもりだ?」

「……別の傀儡がある、問題ねぇ」

 

 別の傀儡? 

 確かクシナダを動かすにはチャクラの糸をかなりの精度で動かせるぐらい性能の良い傀儡人形が必要で、当初はカンクロウを始めとする傀儡使いを人傀儡にする事を計画した程のはずだが。…先程までは極めて性能が良い傀儡を使っていたらしいのだがそれと同じレベルの傀儡が他にあるのだろうか? 

 

 …いや、傀儡に関してはサソリさんの判断に間違いはない、そこは全て任せておけば良い。それよりも──

 

「でしたらあの木は私が。必要な形に整えて斬ります」

 

 私が急いで戦場に出たところで然程戦力にはならないだろう、ならばここで戦力補充に貢献する方が遥かにマシだ。

 

 何より戦力ならば私よりもずっと強い忍がこことは別に戦場に向かっているはずだ。

 マダラさんと戦う際にトビさんの動きを警戒し待機させていた香燐さんがトビさんが本格的に戦い始めたことを感知し、同じく待機していたサスケ君が今頃戦場に向かっているはずだ。

 

 今回マダラさんとの戦い、私達の中から死者が出た訳ではない…しかし戦績としては私達は負けたと言って良い。だが次こそは…仲間も全員揃い、忍連合軍も一時とはいえ協力して挑む事が出来る次こそは…そう思った直後に水月が人質となった事で仲間が全員揃わない事を思い出す。

 

(ごめん水月、何とか皆で解放してもらえる様に頑張るからどうか無事で…)

 

 色々と頭が一杯になりそうなやり取りが繰り広げられたせいでつい水月の危機が頭から抜けてしまった事を悔やみながら祈る。

 

 …

 ……

 ………

 

 さて、祈りもほどほどに早速クシナダの緊急修理を始めよう。それが水月の解放にも一番近づくのだから無事を祈るよりも有用というものだ、頑張ろう。

 

 刀を手に木遁の樹木へと向かっていくと横目に綱手様がハレンチ博士に医療忍術を施しているのが目に映る。…無論それは次の戦場で万全に働いてもらう為の行為であり、ハレンチ博士への処置が済めば他の人達にもやる事なのだろうが、それでもずっと対立していた過去に囚われずにそれを行い受け入れる、お互いのある意味での信頼関係が垣間見える。

 

 やはり古くからの付き合いというのは良いものなのだろう。

 人質となった水月も私を信じて安心して待っていてくれれば嬉しいが…どうだろうか? 

 

 根っこは挑戦的なのに何かと心配性な幼馴染は、唐突に人質にされるという状況に果たして冷静にいてくれているのか。…思わず私の方まで不安な感情が湧いてくるのを心の片隅に追いやってクシナダの修理に思いを馳せるのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 額当ての印が"忍"と統一されているせいで正確には分からないが恐らく木ノ葉の忍らしき三人組に囲まれた直後、真っ白になった視界が戻るとそこはどこかの室内…飛ばされる前の会話からして忍連合軍の本部なのだろう。

 

 人質という屈辱的な扱いに腹が立つが、皮肉にも化け物共の同伴から免れたという結果に感情が迷子になっていると、自身を囲む連中の先に目の前に見知った片目を改造した男の姿を見つける。

 

「…来たか、水月」

「青、この状況アンタと水影の差し金な訳?」

「正確には火影殿と風影殿とも相談した結果だがな。…ゲンマ殿達は水影様達の下へ、何度も往復させて申し訳ないが」

 

 青の指示にボクを囲む連中は笑って頷くと再び時空間忍術を使ったのかその姿を消した。

 …さっきの指示からしてまた終末の谷に戻ったのだろう。…まぁあんな連中はどうでも良い、それよりも問題は目の前のこの男だ。

 

「まぁ、ボクとしてはこんな戦争に関わるのも正直ごめんだからさ、ここで大人しくしてろってんなら精々ゆっくりさせてもらうけど…それで構わない?」

「いいや、お前にはどうしてもやってもらわなくてはならない事がある。…"新生・忍刀七人衆"という我ら霧隠れの里にとって断じて許しがたい名を騙る部隊の隊長らしいお前にしかできない事をな」

 

 とても嫌な予感がした。

 何故こいつがボクの立場を知っているんだとも焦ったが、霜隠れの里近くの海岸で最初にマダラと交戦した時に現れた村雨のせいで、あの戦場にいた忍連合軍の奴らに多少こちらの事情を聞かれていた事を思い出して歯噛みする。

 

「お前の仲間…トビと袂を分かった暁のメンバーや大蛇丸があの村雨の事をいたく気に入りつつも、程良く扱う為にお前を利用しているのは私には分かっている。…奴らはお前を失わない為にこちらと共闘の要求を呑むはずだ」

 

 あの連中に人質にされた仲間を助けようなんていう人の心はない。

 だが今後も自分達に苦労を増やさないという打算と、どうせこの戦争を切り抜けなればならないという条件が重なったのならばそうなるだろう。…正直この交渉に関わっている身内を含めて全員一発殴っても許されるんじゃないかと思えてくる。

 

「…だがお前達がこちらに協力する気になったところでお前達暁によって傷付けられた者達は決して信用はしないだろう、そこで──」

 

 嫌な予感が現実になりつつあるのを実感する。

 周囲で聞いている連中も固唾を飲んで見守る中で青が続きの言葉を口にする。

 

「ここにいる伝令役のいのいち殿の術を借り、暁の連中や大蛇丸を従える隊長であるお前の口から戦場の忍達全員に伝えてもらうぞ。"新生・忍刀七人衆"の惜しみない協力を、忍連合軍への降伏と一緒にな!」

 

 本ッ当に良く考えたものだ。

 ボクらがまるで対等な立場で忍連合軍に協力するとなれば不満を抱く者も疑念を抱くも者も大勢いるだろう。更には先の尾獣の襲来に対して救世主の様に登場した事で、ボクらに対して良い印象を覚えた五大里以外の情報を多く得ていない里の忍達に余計な誤解を与える事もこれで防げると言う訳だ。

 

 だがこっちからすれば、というかボクからすれば堪ったもんじゃない! 

 大蛇丸様や暁の連中に相談の出来ないまま部隊の代表として降伏宣言を忍連合全員にしろだと…そんな事したら何をされるか分かったもんじゃない、それに──

 

 それに…色々と認めたくない要素は多いがずっと思い描いた"忍刀七人衆の再興"という悲願が遂に形になってきたばかりだ。こんなところでボクの夢の部隊にボク自身で"降伏"なんて汚点を刻めだって…冗談じゃない。

 

 ふざけた要求を呑む気は欠片もない。

 だがしかし、この状況をどうやって覆す? 

 

 忍連合軍と結託してトビとマダラを倒すという事自体は変えたくない。だから忍連合軍の者達からボクらへの不信感を無くすという彼らの作戦自体は踏襲しつつもボク達の降伏という屈辱は避ける。

 

 あまりにも無理難題だ…だが、不本意ながらも長い付き合いの狂人の事を思い出す。

 理解不能な思考回路であらゆる組織を転々としたあいつなら…あるいはこの状況だって覆してみせるかもしれない。だったらそんな生き方をずっと見てきた、というか付き合わされたボクにだって出来ないはずはない。

 

 そんなやけっぱちな自己暗示をする為に村雨を思い浮かべた瞬間、そもそもこんな無理難題を突き付けられたこと自体があの狂人が少なからず遠因である事を思い出してそれにあやかろうとした自分に悲しくなってきた。

 

(…いっそ降伏宣言の代わりにマダラの穢土転生は全てあのバカのせいだって連合の忍全員に今この状況でチクったらどうなるかな…)

 

 そんな出来るはずのない思い付きを心のの片隅に追いやってこの状況をどうやって切り抜けるのか、ただ思考を巡らせるのだった。

 

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