綱手様が皆さんの回復を進めているのを横目に斬り倒した木を指示された形通りに整える。
チャクラで切れ味を増した刀身が触れる度に、こちらのチャクラを押さえつけられる様な感覚を覚え術者が離れてもなお残る木遁の恐ろしい力を感じずにはいられない。
思えばクシナダの設計で当初は木遁をボディに使う事を想定していたが、この特性を思うと実現は困難だったかもしれない。しかしこれなれば破損したボディを覆う繋ぎにして新たな装甲としては申し分ない。
むしろこんな厄介な素材をメインボディに使ったら運用は困難だったかもしれない、そう思うと最初に思い描いた素材をより良い形で扱える様になったというのは実に嬉しい事だ。
「…こんな状況でも楽しそうね」
不意に声を掛けられて作業の手を止めないまま声の主、メイ様へと視線の端に収める。
「あの木遁忍術を利用した作品造りに携わる事が出来るのですから至上の楽しみですよ」
「そうではなくて──」
メイ様がどこか悲しそうな表情を浮かべた事に気付いて作業の手を一度止めて改めて向き合う。
「仲間を人質にされているというのに暁の人達や大蛇丸よりもそれを気に留めていない様子ね。水月は貴女にとって大切な存在のはずなのに」
てっきり水影であるメイ様を前にしてこれまでの行いを弁明もせずに作業に熱中している事を咎められるのかと思ったがそちらだったか。
「人質である以上殺される事はないでしょうから私が水月を心配する必要は特にないでしょう。…人質という立場から早く解放してあげたくはありますが」
「…この戦争の後、忍連合軍が貴女達と有利に戦う為に情報を得ようと彼を尋問に掛けているとは考えていないのかしら?」
「考えてませんでした、出来ればあくまで客人として待遇をしてあげてほしいのですが出来ませんか?」
まずい、そこまでは考えていなかったぞ。
いや、人質として殺される事はないというのは勿論、この戦争が続く限りいざという時の戦力は少しでも残しておいた方が良いはずだと、水月が痛めつけられる事もないと踏んではいたのだが少々楽観視し過ぎていたのか?
「………あぁ、いえ、やはり心配ないと思います」
やっぱりどうにかして水月を早急に解放するべきかと考えたが、仮にメイ様達が水月を尋問に掛けて皆さんの情報を得ようとするのなら、そんな事を私にこうして話す必要なんてないはずだと気付く。
それに先程からのメイ様のどこか悲しそうな様子からして恐らく間違いないであろう予想が浮かぶ。
「勘違いでなければですが…人質を使うというやり方、あまりやりたくはなかったのではないですか?」
メイ様の瞳が一瞬揺らいだ。
やはり…というべきだが、考えてみればもっと早く気付くべきだった。
メイ様とお会いした…というよりもお顔を知ったのも今が初めてだったが五代目水影様がどういう人かは知っている。
霧の里で迫害の対象であった血継限界を持つ忍でありながら水影となり、かつて霧の里に根付いていた"血霧の里"としての在り方を完全に廃した正しく高潔と称するにふさわしい御方だ。
勿論私達は忍連合軍からしたら…というよりも世間一般からしても重罪人だ。
自里の人達に向ける情の深さをそれと同様に与える必要はない者達ではあるのだが、そうだとしてもメイ様本人が好ましい手段とそうでない手段というものがあるのだろう。…その気持ちは私にも良く分かる。
しかし、そういう意味では水月の尋問だって必要と思えば行うかもしれないが…先程のメイ様の反応から人質扱い以上に酷い事にはならなさそう…いや、ならないだろうと断言できる。
手段の好き嫌いとは別にメイ様がそれを避けている理由…それも何となくだが思い至った。
「──それに、私の母が死んだ理由を気にしているのですか?」
「ッ! …そう、やっぱり…気付いていたのね」
あぁ、やはりか。
メイ様が選んだ"新生・忍刀七人衆"にトビさん達の相手を強要し、利用するだけ利用して戦争の後に捕らえようとするやり方…それはかつて先代の四代目水影様の時代に私達"渦柘榴一族"を他里との交渉カードとして使われたのと同じ、"人を使い切る"やり方だろう。
…しかし、里を同じくする同胞を生贄にしたあの時と違い、世の平和を乱した者達を利用する今回の試みは決して非難される様な事ではないだろうに…本当に優しい人だ。
「かつて霧の里は貴女達一族を裏切った。貴女が里という枠組みに重みを感じなくなるのも当然だと私は思っていたの…けれどそれは霧の里への憎しみでそうなるべきだった。結局貴女は憎しみなどではなく自らの作品造りへ傾倒した為に霧の里に留まらず全ての里、忍世界そのものへの関心を抱かなくなった──だからこそ私は貴女の抹殺の許可をした。そして今回も貴女とその仲間達を利用する事も躊躇わない。それが水影としての私の決断です」
「──大丈夫ですよ」
「え?」
深い情、そしてそれ以上に揺るぎない水影としての責任感合わせ持つメイ様にいつの間にか魅せられて思わず言葉が漏れた。
「私達が連合の皆さんと共闘する為には私達が五影の皆さんに従うしかない状況になったと周知させ納得させるしかない。それを詳細に説明する時間がない以上一番分かりやすく納得する方法が"人質の解放を求めている"という建前を作った、そうでしょう?」
私の問いかけにメイ様は肯定も否定もしない。
それはもしかしたら私が言った内容以外にも別の思惑があったのかもしれないが、完全に否定しない辺りいくつかの思惑の中の一つではあったのだろう。
「私達を従う立場にする事で連合の皆さんの疑心を抑えて共闘を可能にする…そして同時に連合の皆さんから私達を守る為の手…これはそういう事ですよね、ちゃんと皆さん分かっているんだと思います」
勿論、今が世界の行方を左右する戦争の只中だという事も大きい要因だが、それでもハレンチ博士達が無理やり従わせようとする人達の言いなりに簡単になるとは思えない。
そんなあの人達が今の状況を受け入れているのはメイ様達の要求が遠回しであるが私達を同士討ちから守る意図があり、それが自分達に利があるということを理解しているからだろう。
たとえこの戦争の後で相容れる事は出来ずとも、今の戦いにおいては互いに全ての力を出し勝利を得る為に。
その為にハレンチ博士達は業腹ながらもメイ様達の要求を呑み、メイ様も本意ではないやり方さえも決断したのだろう、でも──
「──でも、大丈夫です。こんなやり方でなくてももっと良い協力関係を結べると、私は思っています」
「ッ! どういう事? いえ、どうやって?」
「人質として水月は今忍連合の本部へと行ったんですよね、それなら本部の人達と相談して何というか、こう…良い落としどころ? を見つけてくれると思うので」
「……え?」
メイ様が途端に目を丸くした。
「えぇっと…良い関係が結べるって…人質にされた水月にやらせるの?」
「やらせるというか、やってくれるはずというか…どうにもならなさそうな状況を何とかするの水月得意なんです。そうですね…綱手様が医療忍術のスペシャリストなら水月は緊急着地のスペシャリストとでも言うべきでしょうか」
「念の為聞いておくけれどその緊急事態を引き起こして水月を空中に放り出している自覚はあるのかしら?」
勿論自覚はしている…が、確かにそう言われてみれば私が自信満々に語るのは色々と問題があるかもしれない。…よし、ならばこれ以上は深く語らずクシナダの修理作業の手伝いをしながら吉報を待つとしよう、頑張れ水月。
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忍連合軍本部へと連行されて早々に要求された"新生・忍刀七人衆"隊長として降伏宣言に対して村雨の悪行をぶちまけてパニックにさせてやろうなどという破滅的な思考を冷静に破棄して今一度自身の置かれた状況、そして忍連合軍の思惑を整理する。
(落ち着け…要求はともかく忍連合軍と協力関係になるってのは悪い事じゃないんだ。腹立つからって全部を台無しにしちゃ駄目だ…)
必要な事は降伏宣言などというふざけた要求を取り下げさせる事だけ…そう目的を見定めて目の前の顔見知りの男へ声を掛ける。
「青、一ついいかな?」
「……なんだ?」
「アンタらの目的はあくまで大蛇丸様達をトビやマダラにぶつけたいって事だよね? その為の人質がボクで、ボクにさせようとしている降伏宣言ってのは連合の忍に大蛇丸達を攻撃させない為の手回しでしかない…合ってるかな?」
霧隠れの上忍、青は僅かな沈黙の後に口を開く。
「そうだ。お前達にとっては不服だろうが、多くの里に攻撃を仕掛けたお前達を命懸けの戦場にいる忍達に信用させるにはやむを得んのだ」
やっぱり──彼らにしたって後々は戦う事になる事が予測できるとはいえ不必要に大蛇丸達から恨まれそうな行為はやりたくはないはずだ。
ただ戦争の状況が仕方なくそうさせるというのなら、不本意な選択に変わりはないが、少なくとも彼らが提示した方法よりはまだマシな手がある。
「ボクに、別の考えがある」
「なんだと!?」
意を決して口にした言葉に驚いたのは青だけでなくその後ろで座る顔に傷が刻まれた男も同様だった。
「…シカク殿」
「──聞かせてくれ、それはお前達"新生・忍刀七人衆"にとって都合の良い選択という訳ではなく我々忍連合軍にとってもより良い選択肢という事なのだな?」
青に促されてシカクと呼ばれた傷の男が慎重な様子で確認に乗り出してくる。
恐らくこの男こそが忍連合軍の頭脳なのだろう、そう判断して青ではなくその男へと言葉を投げ掛ける。
「アンタらの作戦と殆ど変わらない、ただ一つだけ…ボク達"新生・忍刀七人衆"が従う存在を忍連合ではなく1人の人物に変えさせてもらう」
「…1人の人物だと? ま、まさか村雨か!?」
「んな訳ないだろ!」
その名の通り顔を真っ青にした青の懸念を全力で否定すると改めて精一杯の妥協案を口にする。
「ボクの仲間に1人だけ暁のメンバーになった事も、どこかの里を襲った事もない、そして"新生・忍刀七人衆"のメンバーでもない奴がいる…ボク達が動いているのはそいつの命令…ってことでどう?」
「まさか!」
「大蛇丸様に連れ去られながらも奴に囚われた人間を解放し、暁のメンバーを2人打ち破り、木ノ葉の里の危機にも駆け付けて戦った…今や英雄と称されている男──うちはサスケだ!」
そう、既に暁のメンバーを何人も倒したと周知されているあいつなら、他の暁のメンバーを実力で従えたとでっち上げても信憑性はある。
それに何年も失踪した状況でも木ノ葉の里が暁のリーダー、ペインに襲われた時に突如駆け付けたという事実もトビ達の計画を防ぐ為に立ち上がったと認識させるには好都合だ。
…そういえば大蛇丸に囚われていた連中を解放する時にボクがそいつらに「うちはサスケこそがこの世に安定と平和を齎す男」だとかなんだとか適当に広めさせたがそれもここに来て大きな布石になったかもしれない。
…尤も、あいつがボクらを従えたという認識をされるのも正直気に入らないがこの際そこは見逃してやろう。
忍連合軍の結成に怯えてトビとマダラの討伐に尻尾を振って協力する気になった…なんて状況になるぐらいならばうちはサスケが従える忍部隊として認識される方がまだマシだ。
「どうかな? トビ達との戦いで手を焼いているはずのアンタらが片手間でボクらを降伏させた…なんて作り話よりはずっと信憑性があると思うけど? 何せ実績自体は本当の事なんだからね」
「……確かにそうだ。良いだろうお前の提案を採用しよう」
短い黙考の末にシカクと呼ばれた男が出したその結論に口角を吊り上げる。
これで気に入らない点がないわけではないがそれでもボクの夢に致命的な汚点が刻まれる事はなくなった。
「…良く考えたものだな」
「人質として呼んでおいて全忍に降伏宣言させようとしたアンタらに言われたくないよ。むしろボクはアンタらの偉ッそうな要求に乗っかっただけだっての」
「……そうかも、しれないな」
言い返したこちらの言葉に青はどうも曖昧な返事で受け答えた。
頭の固さに定評のあるこの男がそんな反応をするのはどうもおかしいと思ったが、その違和感の通り青はどこか言い辛いそうに声を絞り出した。
「これは言うべきではないのかもしれないが…お前、やはり村雨のせいで無茶振りを何とかするのに慣れてしまっているな」
「うっさいよ!?」
自分でも薄々感じていた変化を言葉にされて思わず首切り包丁に手を伸ばそうとしていたのを必死に声だけに抑える。
ああそうだよ、村雨の脈絡意味不明な奇行の数々に比べてたら意図は理解できるこいつらの要求なんてまだ優しい方だと思ったよ、泣いていいかな?
考えると辛くなってきた。
沸々と湧き上がる怒りから目を逸らすにもさっさと伝令を済ませて後はこの安全な本部で戦争が終わるまでゆっくりするとしよう。
あぁ、本部への降伏ではなくなったが勝手にサスケより下の立場された事で、サソリや角都辺りは文句を言ってくるかもしれないからそいつらへの言い訳は考えておかないといけないのか。
…本当にろくでもない連中ばっかりだと頭を痛めながら伝令役の男の手に触れて忍連合軍の忍達へ先程決めた内容の送信する。
『忍連合軍本部より"新生・忍刀七人衆"隊長水月が伝達! ボク達"新生・忍刀七人衆"は木ノ葉の英雄"うちはサスケ"の掲げる月の眼計画阻止に同意しサスケの意思に従い、彼と水影メイ、火影綱手が結んだ同盟によりこれより忍連合軍に全面協力する!!』
…そういえばサソリや角都以前にサスケの意思を聞いてないや。
まぁいっか、あいつ火影になりたいみたいだし名前を上げるのはむしろ都合が良いだろう……なんか嫌な予感はするけど。
▼▼▼
激しい雨が降りしきる中うちはサスケは香燐、重吾、そして小南の雨隠れの里に待機していた者達と共に森を駆け抜ける。
"新生・忍刀七人衆"がマダラと戦闘を開始する少し前から尾獣を連れたトビのチャクラを香燐が感知を果たしており、その戦場へと赴いていた。
香燐の報告によると既に尾獣のチャクラは消え、その代わりに規格外の一つのチャクラが増幅を続けているらしく戦況が大詰めになっている事を確信して急いでいたが、それよりもずっと近くにチャクラ反応を察知していた香燐が警告をする。
「忍連合軍の小隊だ、接触するぞ」
「構わない、攻撃されない限りは無視しろ」
余計な戦闘を避ける為に速度を上げるべく足へ流すチャクラ量を少し増しながらサスケが指示を出すと茂みの奥から大勢の、恐らく連合軍の一部隊が続々と現れる──その隊列の前方から少し中央側の位置にいる金髪の少女が声が上げた。
「サ、サスケ君!?」
いの…それにチョウジにシカマルか、と見知った顔を一瞥しつつも足を止める理由はないと彼らが攻撃、あるいは言葉を出す前にさっさと切り抜けようとサスケは判断する。
「やっぱりサスケ君は天才ね! あの大蛇丸や暁のメンバーを従えて忍連合軍の味方をするように指示していたなんて!」
その判断を打ち砕いたのはまったく身に覚えがない賞賛の言葉だった。
「サスケ! あの時の、ペインが襲撃してきた時助けてくれた礼を言わせてくれ!」
「あれがうちはサスケ…先の尾獣達の襲撃に増援を手配してくれたってのは奴なのか…」
「確かに普通の奴とはどこか違うチャクラだ…あれがうちは一族、あんな奴が俺達の味方をしてくれるのか」
木ノ葉の忍を中心にして起きた騒めきは次第に見覚えない他里の忍達にまで波及していく理解不能な状況にサスケはただ1人冷静に話が出来そうな男の目の前に飛び移る。
「…おいシカマル、状況を説明しろ」
「お、おう…俺も正直半信半疑なんだが…お前、ますます英雄になってるぞ?」
そうとう言葉に迷いながらそう告げたシカマルは周囲は見渡し、自分が代表で話し他は待機と指示を出すと部隊から外れてサスケと一対一で向かい合う。
その後サスケがシカマルから教えられたのは忍連合軍と"新生・忍刀七人衆"の同盟が結成されたという考えられない出来事であり、そんな本来あり得ない出来事を実現させるには妙に説得力のある経歴を持った英雄、うちはサスケの名前とそれら全てを連合軍の全忍へ伝達した"新生・忍刀七人衆"の隊長、水月の名だった。
(あの野郎…)
果たしてそれは本当に水月の意思だったのか、もしかしたらいつも水月に無茶振りを強いるあの狂人の仕業かもしれないと様々な可能性を考慮するが、どちらであっても遠巻きに自分を尊敬の眼差しで見つめる忍達の姿を見てサスケは自身が思い描いていた革命の計画が全力で阻まれ始めているのを感じて歯噛みする。
今すぐにでも連合軍の本部へ赴いて実行犯に問い質したいと思うも戦争の状況がそんな事に時間を割く事を許さない事ぐらいは理解しており、またこの月の眼計画阻止を目的とする戦争において大蛇丸や元暁の連中が堂々と戦場でその力を振るうにはこの誤解がどれ程有用なものなのかも考えるまでもなかった。
「その様子じゃあ、一杯食わされたみてぇだな」
「他の連中には黙っていろ、この戦争の間はな」
「……てことは、この戦争中は味方って事で良いんだな」
サスケの事情を察して言葉に迷っていたシカマルだったが戦争の間はサスケがこの厄介な情報を受け入れる事を決めた事にほんの少しだけ顔を緩めた。
「…勝手に思っていろ」
「ああ、ナルトの奴に良い報告が出来るぜ。お前の言う通り、勝手させてもらうぜ?」
「ふん」
話は終わったと無言でサスケは香燐達の下へ戻ると彼女達に「いくぞ」とだけ指示を出して連合の忍達を置き去りにトビ、そしてナルトがいる戦場へと向かって再び移動を再開するのだった、この戦争を終えた時、不本意極まりない出鱈目を広めた実行犯と存在するのならば発案者にどう復讐するのかを考えながら…。