霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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狂気乱舞

 中忍試験会場の物見やぐらの屋根の上、結界忍術・四紫炎陣内部は異様な沈黙に支配されていた。

 ただしそれは数瞬前の緊迫感によるものとは異なる意味不明な状況に対する困惑によるものだった。

 

 木ノ葉崩しの最重要目標"火影暗殺"、その為の場を造るこの結界忍術・四紫炎陣の術者という大役を任された大蛇丸の部下にしてその護衛役たる"音の四人衆"は結界内に紛れ込んだ異物に戸惑う。

 闘争心はまるでなく明らかに戦闘慣れした忍ではない、にも関わらず自分達のみならず自身の首魁たる大蛇丸様、そして火影の目さえ幻術で欺きこの場に息を潜めていた、そんな事があり得るのか? ──そしてその幻術が半ば偶然の形で破られるや否や"何故か刀を売ってきた"。

 

 大蛇丸様が築き上げた完璧な計画、そこに紛れ込んだ挙句にそれを汚す異物に四人衆の一人、左近は苛立ちが止められなかった。

 

「何なんだテメェはっ!? どっから湧いてきやがったっ!?」

 

 正直今すぐぶち殺しに行きたかった……しかし四紫炎陣を解く訳にもいかずその怒りを宿した声を異物へとぶつける。

 

「訳あってここで試合を眺めていた……別に貴方達の邪魔をする気はなく……道端の水溜まり程度に思って頂ければ……あ、刀に興味などは」

「死ね!!」

「交渉の余地なし……」

 

 どうやらあの異物女も一応自身の置かれた状況を理解はしているのだろう、命乞いらしき言葉をかけてはくるが知った事ではない。こちらからすればその存在自体が目障りなのだ。一体何であんなカスみてぇなのがこんなとこにいやがる……。

 

「お主は……もしや……」

「フフッこんなところに迷い込むなんてつくづく面白い子ね、貴女も」

 

 意味不明の女、しかし火影と大蛇丸様は奴の事を知っているらしく表情を動かしていた。

 

「……元々私が先にいた……何もしないから出して欲しい……」

「あら、今日は随分と愛想が悪いわね? 刀が絡んでいない時はそうなのかしら?」

「…………」

「フフ、まぁいいわ。それとここから出すことは出来ないわ、貴女を出そうとその結界を解けばそこの"火影様"が逃げてしまうもの」

「──ワシはどこにも逃げんよ、その娘を出してやれ大蛇丸よ」

「ククッ、木ノ葉の里の長、火影たる貴方が自らの危機を顧みず他里の人間を庇うと? つくづく慈悲深く……愚鈍なものですね」

 

 嗜虐的に笑みを浮かべる大蛇丸様に火影が顔を顰めている。

 話に聞いていた通り相当な甘さだ、あまりの馬鹿馬鹿しさに本来ならば釣られて笑みを浮かべていた事だろう。

 ──例の女がその会話に割って入らなければ。

 

 その目は生意気にも恐怖など感じていないのか、ただ真っ直ぐ大蛇丸様を捉えていた。

 

「──ハレンチ博士」

「「自来也!?」」

 

 女が意味不明な言葉を発した直後、大蛇丸様と火影が驚愕と共に女の視線を追うのを見て意識をハッとさせる。

 こんな女が紛れ込んでいたのだ。まさか大蛇丸様の行動を予期して『伝説の三忍』の一人、自来也がここに? 

 そう思ったが女の視線の先には大蛇丸様しかおらず、その先には結界の壁があるだけだった……つまりは……。

 

「…………ひょっとして、今のは私の事かしら?」

「……? 他に誰か? 自来也?」

「……クク……」

 

 あのクソ女っ! 何て恐ろしいことを!? 

 幸い大蛇丸様は困惑しているだけのようだがもしお怒りを買ったらどうなるか分からねぇのか!? 

 忌々しい事にあのジジイも笑いを堪えてやがる……何なんだこの空気は!? 

 

「……貴女の中でどうして私はそんな事になっているのかしらね?」

「自覚もなくあんな事を? ……何と恐ろしい……」

 

 恐ろしいのテメェだっ!! いいからもう口開くんじゃねェよ!! 

 

「特に身に覚えはないのだけれどね……まぁ良いわ。それで……何か用かしら?」

「──私が霧隠れの刀匠の一族、渦柘榴一族であることは既に知っているはず……私をここで殺せばそれを理由に霧の里もこの戦争に参戦するかもしれない……木ノ葉と砂・音、両者が消耗した状態で万全の霧と戦争になる……それでも構わない?」

「「──っ!?」」

 

 馬鹿かあの女!? 大蛇丸様を脅しに掛けるなど正気か!? 

 怒りも呆れも通り越し左近は絶句する。

 この世の如何なる存在よりも大蛇丸を尊敬しているが、それと同時に同じぐらい恐れをも抱いている四人衆は皆言葉を失い自分達の上司へと視線を向ける。

 

 

 

 大蛇丸をして村雨の言葉は衝撃的なものだった。

 脅威を、捕食者を前にした時、獲物は別の餌を差し出し自身を見逃してもらうしか手段はない。

 うちはサスケ、自らが望んだ少年も自分を前にした時はそうだった。

 しかし目の前の少女はどうか? 

 てっきりまた風変わりな刀を差しだして媚びてくるかと思えば、あろうことか脅威に対して"更なる脅威"を差し向けることで逃れようとしてくるとは。

 この世の闇や凄惨な運命さえも知らぬ少女がこの様な脅しをかけてくるとは……大蛇丸にとっては──愉快過ぎて衝撃的だった。

 

「……元々貴女は後で連れて行く気だったから丁度良いわ……彼らと一緒にいなさい、内側にも結界を張るから中に入れて貰えるわ」

「「は?」」

「ありがとうございます……お邪魔します」

「すんな!? 別のとこ行けェ!」

 

 想像以上に行動が早い。

 こちらの言葉を聞くや否や一番近くにいた左近のすぐ傍に走り寄って頭を下げると丁寧な動作でその場に座る。

 座った際の姿勢も無駄に綺麗で何だかんだで名門の一族らしい育ちの良さを見せる。

 勿論、目の前でそれを披露された左近にとっては逆に神経を逆撫でしている様だけど……。

 

 あぁ。よく見たら他の四人衆が"自分のとこに来なくて良かった"と心底安堵しているようだった……まったく呑気なものね。すっかり終わった気になっているようだが、むしろここから漸く本来の目的を始められるというのに酷い緩み振りだ。──後でお仕置きも考慮すべきかもしれない。

 

「……サスケの写輪眼のみならずあの少女も利用する気か?」

「ククッ、人聞きの悪い。私は今、貴方じゃ救えない命を救っただけですよ?それよりいい加減話は終わりで良いでしょう?そろそろ……始めましょうよ、猿飛先生?」

 

 

 

 音の四人衆の一人、左近のすぐ傍の位置に座りながら村雨は結界内の中心の2人から目を離せずにいた。

 

 ハレンチ博士……もとい大蛇丸さんの言葉に応える様に火影様は『火』の字が刻まれた笠と衣を脱ぎ捨てその下に隠されていた黒の忍装束を纏った姿を現す。

 里の長としての政の姿ではない、里の頂点としての戦いの姿だ。

 大蛇丸さんも同様に風影様の変装として着ていた衣を脱ぎ捨て向かい合う。

 

「おい、そろそろ始まるぜよ?」

「ちゃんと内側にも結界張れよ、左近?」

「チィ……」

 

 互いに戦闘態勢になった事でそれを見守る四人衆の方々も自分達が巻き込まれないように内側にも結界を張り出す。……近くの方……左近さんというらしい男性が心底忌まわしそうにこちらを見てくる……お世話になります。

 

 ──っ! 始まった!! 

 

 両者共に恐るべき速さで印を結ぶ。

 その速さは私等に見切れるものではない程だ。

 先に印を終えたのは火影様……印を終えたと同時に放った一つの手裏剣が無数に増殖する。

 ──なるほど大変素晴らしい! 名を"ハーレムの術"と言ったところか! 

 

「『口寄せ・穢土転生』!」

 

 大蛇丸さんが僅かに遅れて掌を打ち付けパンッと音が響く。

 屋根を突き破り生えてきた2つの棺が無数の手裏剣を阻む盾となる。なんて罰当たりな……。

 えっ!? 棺が開いて中から人が……良かった御遺体はちゃんと綺麗だ、腐り欠けのグロテスクな様だったらどうしようかと……。

 

 それにしても何なんだこの忍術は? 

 火影様やハレンチ博士、結界外の暗部の方々……そして甦ったという喋る御遺体、それぞれの話が聞こえ耳を疑う。

 

 まずあの口寄せ忍術は『穢土転生』というらしく、死者を浄土から穢土へと甦らせ操るというものらしい。

 そして甦ったという御遺体2人、あれは初代火影様と二代目火影様であり三代目火影様とは顔見知り。

 

 ……何という忍術だ、生者の身体を器に死者を甦らせた上に意のままに操りかつての仲間と殺し合いをさせようとは……あまりに酷い話だ、この様な忍術を開発した人はどれ程冷血な人物なのだろうか?

 いっそ一度ぐらい顔を見てみたいものだ。いや、以前ハレンチ博士にお会いした時に忍術の開発を行っていると言っていたがこれもその一つなのか? 

 

 ……しかし死者を操りその身内と争わせるという突き詰めた合理性自体は優れたものだ。同じ"造る者"としてその開発力には敬意を抱くし感服する。

 

 ましてや今回甦ったのは初代火影様と二代目火影様だ、"格"としては三代目火影様と同等かそれ以上。

 果たして三代目火影様にこの状況は覆せるのだろうか? 

 

「ククク……知っていますか? かつて師と呼んだ者を傷付けるという達成感と喜び! それを知ってもらおうとこの場を用意したのですから──楽しんで下さい」

 

 ふむ、師を越えるという意味では同意するところもあるかも知れない。

 私もまた大爺様という偉大な存在を越える為に里を抜けた身だ──まぁ、師という存在でいうならば父の方が正しいのだがあの人は自ら腐った人なのだから置いておこう。

 

 それはそれとして火影様達による戦闘は凄まじいものだ。

 三代目様が大規模の炎を吐いたと思えば二代目様が水がないにも関わらずレベルの高い水遁忍術を発動しそれを打ち消す。霧の里の人間でも規模の大きな水遁忍術には周囲の地形を利用する場合が多いのだが……鬼鮫さんは例外だ、あの人のものは同じ括りにする事自体がもう間違っている。

 

 しかしやはり二代目様も只者ではない、炎を防ぐ為に使った水遁忍術で出た大量の水をそのまま水龍弾の術へ繋げるとは無駄がない。

 三代目様も土遁忍術を用いて難を逃れるも続く初代様の木遁忍術に追い詰められている。

 それにしても血継限界か……やはり凄まじい、霧の里では水影様こそ血継限界を持っているがかつての制度の弊害もあって猶更希少な存在だがこうして目の当たりにすると実に創作意欲を刺激してくれる。

 

「忍法・口寄せ! 出でよ! 猿魔!!」

 

 木々に縛られながらも三代目様は口寄せ忍術で契約動物を召喚する。

 見るからに貫禄のある大猿だ、人語も解し三代目様にもかしづいているという様子もなく対等な関係らしく三代目様だからこそ契約できているのだと窺い知れる。

 ……うぅん、私の『小蜃』は喋れないのだがああいうのを見ていると折角契約しているのだからお喋りできるのが少し羨ましく思えてくる、人付き合いは苦手だが昔から犬とかなら結構気楽に話せたのだ。

 

 む、猿魔とやらが金剛如意という如意棒へと変化した。ということは忍術ではなく近接戦闘だ!! 

 期待に胸を膨らませ大蛇丸さんへと目をやるとまた顎を上へと傾けていた。

 

 これはもしや……あぁやはり口から刀を……。

 しかし私とてこの一ヶ月毎晩この光景をイメージトレーニングしていたのだ! もう目を覆い隠す必要など……。

 あれ? これはむしろ私の方がおかしくなっているのでは……。

 

「……ごめんなさい、私って……変?」

「誰よりもなァッ!!」

 

 つい耐え切れず傍にいた左近さんに聞いてみればやはりというべき返答がくる……これはいけない。

 もし生きて帰ることができればこの様な煩悩は早々に取り除かねば……。

 その為にも、今は目の前の戦いに集中だ。

 

 三代目様は猿魔が変化した如意棒を振るい初代、二代目様の動きを阻害しつつ本丸である大蛇丸さんへと迫る。

 草薙の剣と金剛如意が交差する。

 キィンと耳に響く音を奏でると草薙の剣は大蛇丸さんの手元から弾かれる。

 

「ここじゃ!」

 

 如意棒の鋭い突きが大蛇丸さんへと迫る。

 武器を弾き落とされた大蛇丸さんは防ぐ手もなくその一撃を──受ける前に"腰に差したもう一本の刀"を抜く。

 蒼の一閃が描かれ再び甲高い音が周囲に響く。

 

「ゥグッ……」

「猿魔ッ!?」

 

 金剛如意に切れ込みが入りそこから赤い血が滴る。

 ……流石に切り落とす事は出来なかったか……大蛇丸さんの太刀筋に落ち度は無い事からこれは私の実力不足だろう。

 

「馬鹿な……金剛如意の猿魔に傷を!?」

「ククッ、ペットよりもご自身の心配をすべきですよ猿飛先生!」

「グッ」

 

 三代目様の腹部に二つの脚が突き刺さる。三代目様の僅かな隙に初代、二代目様が蹴りを入れたのだ。

 蹴り飛ばされ横たわる三代目様に嗜虐的な笑みを浮かべて手に持つ刀の刀身を指先でツゥーと撫でる……手付きが妙にいかがわしく感じるのは何故だろうか。

 

「素晴らしい刀でしょう、業物と知られる草薙の剣さえ霞ませる程に……」

「よもや……その刀は」

「えぇ、彼女の造った物ですよ。……もっとも入手経路は少し違いますがね」

「……やはりか、あの若さでそれほど……何とも恐ろしき才覚よの」

 

 三代目様の視線が一瞬だがこちらに向く。

 自身が造った刀に追い詰められている人物の視線に僅かに罪悪感も覚えるがそれ以上に"火影"の称号を持つ偉大な人物を自らの刀が傷つけているという事に高揚する。

 

「──それにしても、影分身も使わずに単身突っ込んでくるとは……らしくありませんね」

「…………」

 

 大蛇丸さんの言葉に三代目様は何も答えない。

 人は老いてしまえば力は弱まりチャクラも減衰する。

 三代目様は大蛇丸さんが知る頃よりも衰えているのかもしれない──だとするとこの状況はハッキリ言って絶望的なものだろう。

 

 忍術スキルこそ互角だが3対1では印が間に合わない、手に持つ忍具は劣り、チャクラも3対1では衰えた身ではいつまで保つか……。

 

 更に……。

 

 蹴りを受けながらも初代、二代目様に貼り付けた起爆札が炸裂し両者の片腕、片足が吹き飛ぶも即座に塵芥が集まり修復する。

 

『穢土転生』で甦った彼らはまさしく不死身なのだ。

 実に不条理なまでの強さだ。

 これでは如何に三代目火影様と言えど勝ち目はない。

 

 大蛇丸さんもそれを確信しているのだろう。『老いる事の虚しさ』に哀れみと見下しの言葉をぶつけていた。

 そう、自身の不死について語りながら──。

 

 他者の身体を乗っ取り己という存在、精神を永遠に永らえさせる禁術、その詳細を明かし自身の次なる目的、その名を三代目様に答えさせる。

 

 ──うちはサスケ。

 

 先日私が刀を与えた子だ。

 その特異な血筋に現れる特殊な目、"写輪眼"。

 それを求め大蛇丸さんはその目を持つうちはサスケ君こそが次なる自らの器なのだと告げた。

 

 なんとも醜くおぞましい考えだ。

 それでも、あぁそれでも……私はそれを羨ましく感じる。

 永遠の命、仮にそんなものを得られたのならば私はどれ程の刀を生み出すことが出来るのだろうか。

 まさしく夢の様な話だ。

 

 ──しかし、それ故に自らの身体を手放してしまったあの方に同情してしまう。

 例え乗っ取り自身の物になったとしてもそれでは他人の身体だ、他人の腕だ。

 それでは至高の刀を生み出したとしてもそれに触れられるのは自分の"この身"ではない、それが振るわれる姿を見られるのは"この目"ではない。

 ──あぁあの人は……なんて悲しい人なのだろう。

 

 先程まで食い入る様に見ていた戦いを涙を流しながら眺める。

 初代様の生み出す木遁の木々を凪ぎ払い、三代目様が三人へ分身する。

 

 チャクラの乏しい身でその忍術は自殺行為に等しいと結界の外の暗部の方は驚愕し、そして対峙する大蛇丸さんは嘲る。

 しかし三代目様の目には一切の曇りなく、決意を宿した眼差しと共に何らかの印を紡ぎ始める。

 

「もう何をやっても遅い……私の勝ちです。木ノ葉は滅びるのよ!」

「木ノ葉の里はワシの住む家じゃ! 火影とはその家の大黒柱として家を守り、立ち続ける存在! それは木ノ葉の意志を受け継ぎ託す者……簡単にはゆかぬぞ!」

 

 三代目様と大蛇丸さんが本気の気迫を周囲に巡らせ対峙する。

 迷いを断ち切り、嘲りを止め、お互いにただ相手を葬る事に集中しているのだと肌で感じる。

 

「『幻術・黒暗行の術』!」

 

 直後、視界全てが黒で塗り潰される。

 初代様の幻術だ、恐らく三代目様を狙ってのものだったのだろうが私も巻き添えで喰らってしまったようだ。何も見えない。

 水化の術さえあれば物理的な攻撃は効かないのだが如何せん幻術は苦手だ、回避の仕方がまるで分からない。

 

 ……とはいえ、大蛇丸さん、そして三代目様の会話が聞こえてくることからして恐らくこれは視界を塗り潰す類いのものだ。聴覚、そして嗅覚に集中すれば大蛇丸さんが持つ『叢雲の剣・青雲』や三代目様の背のポーチに収納された手裏剣など多少の位置は割り出せた。

 ──初代様と二代目様の位置は分からない、時折聞こえてくる三代目様の呻き声からして暗闇に紛れて三代目様に攻撃しているのだろう。

 

 ……いよいよ大詰めとなってきたこの戦いを見れないとは……これ程の戦いなどそう目撃できるものではないというのに……。

 何とかならないものかと耳や鼻に意識を集中させる。

 刀の類い以外ではあまり利かないのだが、それでも何とかならないか。ただそう思っていた。

 

 

 

 しかしやはりそんな程度では戦いの様子は何一つとして掴めなかった。

 当然だ、刀関係以外では人並み程度しか利かないのだから、集中しても分かったのは刀を持つ大蛇丸さんと手裏剣を収納している三代目様だけ──。

 

(──っ!? 何!? 何なの……この気配はっ!?)

 

 二人だけではない! 三代目様のすぐ後ろに"何か"がいる! 

 それが何かは分からない、暗闇に包まれる直前に三代目様が結んでいた印に関係しているのか? 新たに何らかの存在を口寄せしたのだろうか? 何も分からない。

 分かる事はただ一つ、"それ"はとても強力な刀を持っている。

 ──あれは……何だ!? 

 

 それに惹き付けられている間に暗闇が晴れていた。

 見れば三代目様の分身二体が初代様、二代目様にそれぞれ組み付いていた。

 

「封印!」

 

 三代目様が何らかの封印術を行使したらしい。

 初代様、二代目様の身体が崩れ塵芥と化しその内側から見知らぬ二人の男女の姿が見えた。

 恐らく、生け贄になった者達なのだろう。

 

 怒り……いや悲しみか。

 三代目様が涙を流しながら金剛如意を手に大蛇丸さんへと向かう。

 大蛇丸さんも『叢雲の剣・青雲』を以てそれに応じる。

 激しい打ち合いに金剛如意は多くの傷を造りその身を血塗れにする──だが、それでも決して斬撃から逃れず受け止め続ける。……自身の使い手をただ守る為に──。

 

 そして激しい応酬の最中、金剛如意から生えた両腕が『叢雲の剣・青雲』の刀身を捕らえた。

 白羽取りだ。──身を切り付けられてなお……その太刀筋を見極めていたのか……。

 

「終わりじゃ!!」

 

 僅かな隙に火影様が大蛇丸さんに組み付き、その一喝が響く。

 初代様、二代様を葬った時と同じ光景。

 しかし大蛇丸さんもまた、最初に弾かれていた『草薙の剣』を浮かせ、それを放つ。

 

「「死ね!!」」

 

 草薙の剣が火影様の背を貫き腹から飛び出す。

 それでも尚、火影様は笑っていた。

 ──そして語る、彼が掛けた『封印術・屍鬼封尽』。それは術者の命を代償に対象となる存在の魂を引き摺り出し互いを死神に喰わせる封印術。

 

 封印した者とされた者、死神に喰われたその魂は死神の中で争い合い永遠の苦しみを受けるのだと。

 そこまでの詳細を聞き確信した、先程まで私が感じていた刀の気配……それこそが死神の存在なのだと。

 

 理解した……理解したから……私の目はその刀の姿をハッキリと捉えた。

 術者とそれを受ける者のみが見えるという死神? ……そんな理屈に従うものか──もっと良く見せろ! 

 

 瞳孔を開きその光景を目に焼き付ける。

 ハッキリと見えた刀以外の部分──朧気に見えた死神がその手を振り下ろし、分身である三代目様の魂2つと初代様、二代目様の魂をその小刀で切り裂いた。

 

 そうして死神がその魂を腹に納める光景に心が震える。

 

 素晴らしい素晴らしい素晴らしい!! 

 忍の神と呼ばれた初代火影様、その弟たる二代目火影様そして現忍五大国最強の影と名高い三代目火影様の魂をあれ程容易く刈り取る刀だと!? 

 あぁ……なんて素晴らしい! 

 

 アレは実体を持たない霊体だ……すなわち術式に組み込めば新忍刀七刀のその一つの素材として使えるだろう。

 

 ──あぁ……欲しい、欲しい……欲しい欲しい欲しい! 

 




死神は狂人にターゲッティングされました。

左近「結界内に紛れ込んでいた女が大蛇丸様を脅した挙げ句に自分の結界内に入り込んできて呑気に座って観戦してるかと思えば突然涙を流した上に暗闇が晴れたら戦いを瞳孔かっ開いて凝視していた。…何コイツ怖ェ…」
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