忍連合軍本部に配属された伝達班に水月によって広められたうちはサスケという英雄が存在するという宣言に対する反響が各部隊から続々と届き始める。
そしてそれはほぼ全てが好意的なものばかりだった。
それはある意味当然であった。
連合軍の中心を占める五大里においてうちはサスケは元々様々な事柄からその名を知られていた。
忍の誰もが知るうちは一族の生き残りという立場は勿論霧隠れの忍刀七人衆の1人であった鬼人、桃地 再不斬との交戦、砂隠れと合同と行われた中忍試験において人柱力にして今や風影となった我愛羅との激闘、岩隠れの抜け忍にして暁のメンバーであったデイダラの討伐と自里の木ノ葉以外でも五大里に所属する者の多くが自里の強力な忍との戦いの記録に彼の名を見ていた。
当然戸惑い、疑念がないわけではない、まして大蛇丸や元、暁のメンバーとの共闘を受け入れたくない者はいるだろうが部隊の方針が肯定的のものになったのならばそれで良いとシカクは自らを冷酷だと認めながらも狙いは成功だったと判断する。
「協力、感謝するぞ水月」
「このボクがサスケの配下なんて立場になってあげたんだ、その分そっちもきっちり戦ってもらうよ?」
「当たり前だ、ナルト達はトビ相手に優勢に戦ってくれているがマダラが合流されては恐らく形勢は一気に逆転される…その前に皆が合流してくれれば良いのだが」
「もしも援軍よりもマダラが先に着いたなら、その時はワシが出る」
奥の部屋からしたドスの効いた声の方へ視線を向けた水月はその声の主の正体に僅かに息を呑む。
筋肉質で褐色の身体が特徴の大男、雷影エー。
五影の中でも最も武闘派、過激派として恐れられる男が秘書の女性を連れてそこにいた。
「天送の術の準備は整いました、これでいつでも雷影様を戦場へ送り届けられます」
「総大将1人にマダラの相手を任せるのは避けたいが…いざという時はお願いします」
「うむ…それで──そこの奴が例の男か」
「はい、"新生・忍刀七人衆"のリーダーであり、渦柘榴村雨を最も良く知る男です」
「その認識はサスケの配下以上に嫌なんだけど?」
エーへ非常に不服な紹介をする青に物申すが肝心の雷影は意に介した様子もなく水月へ厳しい視線を向ける。
「あの女を中心にお前達がこれまで各里へ行った狼藉を思えばワシの前にこうして立っていられる事がどれだけ幸運なのか、分かっているだろうな?」
「その女の狼藉を精一杯抑えながらここまで付き合わされたボクがどれだけ不幸か分かってる?」
「水月…」
水月の語る事が事実であったとしても既に彼が村雨の、そして暁の片棒を担いだ事は揺らがない…それでも青はそのあまりに重い言葉に同情を抱かずにはいられなかった。
「それに、そんなボクらと協力することを決めたんならその間は過去の事を持ち出さない方が良いんじゃないの?」
「雷影様…不本意ではありますが彼の言う通りです。総大将である貴方が彼らとの軋轢を見せれば皆の意識が…」
作戦立案として既に過去を飲み込むと決めたシカクの仲裁に水月はため息を吐いて脱力する──その瞬間に視界に細い稲光が走る。
青白い雷光と共に目の前に現れたエーの拳が自らの顔面に真正面から向かってくるのを見て水月は首のみを僅かに横に動かした。
「避けた!?」
「雷影様!!」
エーの秘書の女性マブイは現在において忍界最速を誇る自身の長の攻撃を寸前で回避した水月に驚愕を、そしてシカクは同盟を結んだばかりの相手へ攻撃を仕掛けた総大将の行動に批判の声を上げる。
しかし周囲の騒めきを意に介さない当事者達は静かに向かい合い、やがて僅かな間の後に水月は自身の頬を掠めた先で静止したエーの左腕を押し返す。
「……いやさ、アンタが過激派ってのは有名だけど度が過ぎない?」
「お前達が本当に組むに値する相手か試しただけだ。この程度で死ぬ相手ならば連合の結束を乱すリスクを背負ってまで組むメリットはないからな」
「協力する様に命令しておいてよく言うよね…仮にも里長なのに礼儀なさ過ぎでしょ。まぁいいけどね、どっかの同盟結んだ直後に相手の腹切り裂いて片腕切り落とす奴に比べたら全然マシだし」
「お前、許容範囲がだいぶ歪まされている気がするんだが…」
これで同盟関係に問題が起きるやもと不安になっていたシカクはどうも感性が摩耗しているらしい水月に若干顔を引き攣らせた。
「雷影様、里長として納得し切れないところもあるでしょうが他の影達も納得された事です」
「ふん」
青の諌言も受けて雷影は不機嫌そうに水月から離れ自身に用意されていた椅子に座り、ひとまず場が収まった事にその場の皆が胸をなでおろす。
直後、伝令係のいのいちの戸惑いの声が周囲に響く。
「交戦中のガイから戦況報告! カカシの作戦でナルトが偽マダラの面の破壊に成功…その正体は、うちはオビト」
「バカな!?」
「うちは一族にうちはサスケ以外の生き残りがいてマダラの名を騙っていたということか…しかし聞かぬ名だ、何者なのだ?」
「……かつて四代目火影がまだ一小隊の隊長だった頃にはたけカカシと共にその小隊に所属し、そして岩隠れとの戦争で死んだはずの男です」
死んだはずの男が生きていた、かつての彼の生き様からは想像も出来ない現在の所業、何もかもが結びつかない現実にシカクが顔を顰めるが悪い情報は更に感知部隊の方から続く。
「あ、ああ!? 現れました、本物のマダラが作戦ポイントに…ナルト達の下に現れました!!」
「クソッ! 奴の移動の方が速かったか!」
本物のマダラの出現は勿論だが、それ以上にうちはオビトの存在はきっとカカシの精神を大きく揺さぶる、戦況が一気に覆される予測にシカクに歯噛みする。
「……マブイ、天送の術を使うぞ」
「分かりました」
事前に決めていたとはいえ、最悪の状況に対しての策を使わされる事に険しい顔を浮かべたままエーとマブイは戦場へ向かう準備を整える。
「シカク、これで本部から五影が全員離れる。作戦指揮はお前に全て任せるぞ」
「ッ! 分かりました! 雷影様…ご武運を!」
焦りを募らせていたシカクだったがエーからの任命に顔を引き締めて力強い頷く。
エーもまた頷き返すと天送の術を使う為の檀上に向かう──その瞬間、感知部隊から再び声が上がる、その声はさっきの切迫したものとは違う歓声に近いものだった。
「作戦ポイントに新たなチャクラ反応出現! "新生・忍刀七人衆"の角都です!」
「おお!」
「さ、更に出現、薬師カブトです!」
「ゲンマ達、上手くやってくれたか」
"新生・忍刀七人衆"と協力する作戦を決めた時に彼らを送り込む為に飛雷神の術のマーキングを施したカツユを事前に天送の術でカカシの下へ送り込んでおり、それを頼りに木ノ葉のゲンマ小隊が終末の谷と作戦ポイントを何度も往復して1人ずつだが次々に時空間移動をさせていた。
マダラ側だけでなく、こちらも増援を果たせたことにシカクは小さく安堵の息を吐く。
「へぇ、あの人ら本当に同盟関係受け入れたんだ」
一方水月もここに時空間移動させられる前に一応全員が忍連合軍との同盟を結ぶ事に納得しているのを確認はしているが、その場限りの嘘でもなく彼らと協力して戦場に駆け付けたという報告に少し驚いた。
「村雨を抱えている以上お前程失いたくない奴はいないだろうからな」
「ああそっか…やっぱアンタもあいつらも一発殴りたいんだけど」
自分が周囲の人間から村雨の奇行の後始末役として認識されていることを前提に今回の人質作戦を考案したうちの1人であろう青、そしてその通りの認識をしていた"新生・忍刀七人衆"のメンバー達へ怒りを露わにする水月から気まずそうに視線を逸らした青はエーへと声を掛ける。
「増援部隊も作成ポイントへかなり接近しています、後もう少しだけ時間を稼げばきっと…雷影様、戦力が集結するまでどうか無理はなさらないでください」
「心配するな、戦場には強い味方がおる…我が弟ビーと救世主の息子うずまきナルト、それに木ノ葉の者達。それから、お前の部下共も…我々に協力するのだろう水月とやらよ」
「え?」
先程までの荒々しい様子とは違う、剛毅な威圧感はありながらも里長として威厳に満ちた佇まいで真っ直ぐに時運を見据える雷影様に水月は一瞬戸惑い、わざとらしく肩を竦める。
「こっちは戦争の真っ只中でアンタらと一戦交えるつもりなんてないからさ、アンタがボクにやったみたいなお試しをしないなら喜んで協力するよ…多分ね」
「そこは協力しますで良いだろう、何だ多分って…長十郎でもあるまいに」
「いやだって面子があんな奴らだし、流石に大丈夫だとは思うけど絶対に悪巧みしてないと断言はできないじゃないか」
「……それはそうかもしれんが」
「ふん、ワシの拳を避けておきながら…"新生・忍刀七人衆"の隊長とは随分と情けない男だな」
天送の術用の檀上に立ったエーは歯切れの悪い物言いを続ける水月を一蹴する。
「思惑は推し量れず、メンバー同士の結束も信用出来ない部下共…そんな連中を率いると決めたのならばまずは力で従えろ! 弱いリーダーが我の強い者共を真に従える事など出来るものか!」
「アンタ…」
「尤も、ワシもお前もどれだけ強くなろうとも手を焼かされる変わり者ほど近くにいるのが厄介だがな──話が過ぎたな、マブイもういいぞ」
「はい!」
殆ど一方的に捲し立ててエーは眩い閃光と共に姿を消した。
立ち去り際に怒涛の勢いで一喝された水月は半ば茫然と立ち尽くし、やがて小さくため息を吐く。
「他人の苦労も知らずに好き勝手言ってくれるよ、言ってる事も力尽く過ぎるし…あんなで雷影なんてよく務まるよね」
「雷影様なりのエールだ。忍連合軍のリーダーとして自里の人間も、他里の…雲隠れを恨む者達さえも率いる立場となった者として、大罪人達を率いる立場となったお前の為のな、だからそんな斜に構えるな」
「……分かってるさ」
先程のエーの言葉が分かり難い激励であると正しく理解していながらも捻くれる素振りを指摘されて拗ねた様に床に座り込む水月に青は苦笑し、人質として招かれた彼がこの場で敵対行為を働く事はもうないだろうと判断する。
「俺は作成ポイントの感知に集中する。お前を信用し拘束まではしないでおいてやる…下手な行動はするなよ」
「はいはい、戦争が終わるまでは大人しくしておくよ」
形式的な忠告にヒラヒラと手を振って適当な返事をして水月は首切り包丁を床に突き刺して背もたれに寛ぎだす。
何をしでかすか分からない狂人、未だ姿を見せない怪人…戦争が終わるまで大人しくしておくという言葉を覆す存在達を脳裏に浮かべながらマダラとの戦いでの消耗した心身を休めるのだった。
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急ピッチで進められるクシナダの修復作業を手伝いながら角都さん、カブトさんと続けて時空間移動させていた木ノ葉の三人組の方々が今度はハレンチ博士を囲んで姿を消すのを見届ける。
便利なものだがあれさえも四代目火影様が扱ったものを三人組で何とか再現したものなのだから驚きだ。
「──村雨、少しいいかしら?」
感心しながら周囲に伸びる木遁の木々を指示された通りに斬って整えていると不意にメイ様に声を掛けられて手を止める。
「何でしょう?」
「忍連合軍が貴女達と手を組む事を受け入れた、貴女達"新生・忍刀七人衆"がうちはサスケの配下の人間だという情報のお陰でね」
「え? ああ、そういう事」
どうしてそんな出鱈目な情報が…と一瞬思ったが状況的答えは一つだった。
多分、私達が忍連合軍と協力するにあたって連合の皆さんの疑念を晴らし信用を得る為にサスケ君を正義の存在として立て私達を彼に従う身とした方が良いだろうと判断したのだろう。
まったく想定していなかった状況だったというのにそんな機転を利かせるとは──
「流石水月、見事な緊急着地」
「私もついそう思っちゃったけど…今まで受けた苦労の副産物かと思うと心が痛むわ」
「苦労そのものは辛いものがあるとは思いますが過去の苦労が別の分野に活かされている事はむしろ今までの辛苦が報われた結果なのですから嘆く事ではないと思いますが?」
苦労がまったく必要のないものだったり何かの拍子に水の泡になったりしたのならそれは悲しい限りだが今回みたいな場合は素直に喜んでいいはずだ。
「苦労の原因が言ってなければ正論なのだけど…」
「いえ、苦労を掛けている身としてもその経験を力にしてくれているのはやっぱり嬉しいものがありますよ」
「お願いだから誇らしくしないであげて…」
決して誇っているつもりはないのだが…その場限りの苦労だけで無く、後々の困難を切り抜ける事に活かしてくれているのならお得というか、応用が出来るのは良い事と言うか…そういうつもりだったのだが…。
「はぁ、まあ良いわ、とにかく無理やりではあったけれど貴女達が協力するつもりになってくれたことには礼を言っておくわ」
「いえ、ここまで上手く言ったのは水月の機転のお陰なのでお礼でしたらそちらに」
「そうね、…でも、協力するのならば一つだけ聞いておきたい事があるの」
「……はい?」
妙に改まった切り出し方に少し警戒心が刺激される。
ひょっとして協力関係を結んだ事で返って要求を断り難くする事が目的だったのか? だとしたら一体何を──
「あの般若面の人は誰? 貴方の作品の刀は持っていないようだけどどういう関係かしら?」
「あ、ああ~…」
言われてみれば当然の質問だった。
どうしたものか、忍連合の方々と協力する事が決まった以上リーダーさんには素性を明かしてもらった方が良いのだろうがそれではトビさんに穢土転生の情報が渡った経路を自白するようなものだ。
「俺は雨隠れの忍だ、小南…様の意向でこの者達に協力している。名はチビだ」
返事を悩んでいる内にリーダーさんの方から誤魔化しの建前が流石に偽名と疑われるのではないかと思わずにはいられない仮初めの名前と一緒に語られた。
「チビ…さん、今まで話の通り"新生・忍刀七人衆"は我々と共闘してもらいます、貴方の立場はあくまで彼女達の協力者だというのなら貴方に無理強いはしませんが…」
「気にするな、今更死を恐れる身でもない」
やっぱりどこか疑いの眼差しをしていながらも名前というのもデリケートな話題だからか、それとも目の前の人物の正体はこの際に気にしない事にしたのか、ともあれメイ様は深く追及する事はなくリーダーさんへ戦線から離脱する事を許可した。
しかしリーダーさんはそれをあっさりと拒否した…それはそれとして断り方が事情を知る身、というよりも原因の立場からするとちょっとハラハラしてしまう。
「分かりました、では貴方も兵力の一員として奮闘してもらいます…彼らの下へ」
メイ様が綱手様へと視線を動かすと彼女の傍に飛雷神の術による時空間移動役の皆さんが帰還した。
綱手様は彼らに即座に医療忍術でチャクラを供給すると「よし」と頷く、改めてとんでもない医療スキルだ…あまりに手際の良い回復処置に思わず見惚れてしまう。
「…準備が出来た様だから俺も戦場に行くが、ちゃんと大人しくしておけよ」
「大丈夫です、クシナダの修復作業に関してはサソリさんの指示に従って動くだけですので」
「それはそれで不安になるな…作業中のサソリ以外は水影と火影だけになる、妙な事をした時に庇ってくれる奴はいないからな」
「あ…はい、気を付けます」
特に何かする事を企んだわけでもないが釘を刺されると少し怖くなってきて思わずそう返事をしてしまい、まるでさっきまで悪巧みをしていたのを見透かされた時のような反応をしてしまったと後から後悔する。
しかしこれ以上何を言っても誤解は解けないだろう。イメージ改善は諦めてリーダーさんを見送るとリーダーさんの言った通り、作業で少し離れているサソリさんを除き私とメイ様、綱手様だけの空間となり些か気まずくなる。
完全に私の過去の行いのせいではあるがお二人に対して掛ける言葉も見つからず手元の作業途中だった木材へと視線を戻す。
「村雨、お前に一つ聞きたい事がある」
作業を始めてしまえば意識から抜けるだろうと思っていたのだがそれより先に綱手様から呼び止められてしまう。
流石に作業があるのでなどと拒否する訳にもいかないので諦めて視線を戻すと綱手様の厳しい視線が突き刺さる──しかしそれは怒りを宿したものとは違う、ただ真剣な眼差しだと本能的に理解する。
「この戦争を終えるまで協力する事をお前達も受け入れた以上過去の行いについては今の間は目を瞑る、だがお前はこの戦争を終えた後どうするつもりだ?」
戦争が終えた時にどうするか…実際にそれは私も考えていたことだ。
一番理想だったのが自力でトビさん達を打倒して忍里の方々から恩赦を得る事だったのだがマダラさんは想像以上に強く、結局忍連合軍に対してやや低い立場として取引に応じる形となってしまった。
元々恩赦が得られたかどうかすら怪しいところだが現状望みは完全にないと断言して良いだろう…となると戦争を終えたとて私に何かをするという自由があるかも分からない。
「…とりあえず逃げます?」
「刀造りの為か?」
「勿論です。"新生・忍刀七人衆"、実はまだ人も刀も足りてなくてちゃんと揃えないと夢の達成にはなりませんから」
「……"忍刀七人衆"の復興、水月の夢ね──なら仮に、その夢が叶った時貴女にそれ以上の目的はあるの?」
綱手様の問いに対する私の返答を聞いたメイ様の言葉もまた以前から考えていた事ではあった。
より良い刀を造り続ける事は目的…というよりも生き方ではあるがきっと目の前のお二人が求めているのはそういうものではないのだろう。
水月の夢が果たされた時、今の様に誰かの為に造り、何かを成そうという目的は無くなるし、新たな目的を定めるにしても現状見当もない。
「…答えないという事は他の目的はない、より良い環境で刀を造る事が出来ればそれで良いという事ね」
「そうですね、そういう認識で間違いはないです」
「なら、この戦争が終わった時すぐに投降しなさい。そうすれば刀を造る環境は与えてあげる」
それは俄かに信じ難い申し出だった。
恐らく鍛冶場を与える代わりにそこから許可のない外出は一切禁止、言ってしまえば鍛冶場付きの牢獄暮らしになるという事だろうが私にそんな容赦をするなんて普通は考えられないことだ。
「どういうおつもりですか?」
「これ以上貴女に勝手をされるわけにはいかないの、それに、貴女ももう分かっているでしょう…忍連合軍が結成された以上もう今までの様に大蛇丸や暁の下に隠れ続ける事は出来ない」
それはそうだ、五大里全てが手を組んだ以上いくら各地に点在しているハレンチ博士のアジトもいずれは見つかっていく事だろう。
小南さんが容認してくれたならば雨隠れの里に潜むという手もあるが…どちらにしても限られた環境で生きるしかないという事実は変わりない。
「大人しく投降するのなら貴女から他の仲間を手繰る事はしない…そして、水月を霧の忍として復帰できるように尽くします」
「…本当、ですか?」
「彼は暁と組んで雲隠れの、八尾の人柱力を襲った…けれど結果的に失敗に終わり奪った力も既に返却されている、忍連合軍結成の為に互いの里同士が傷付け合った過去は忘れられずとも手を取り合えた今ならばまだ霧の里に戻すことが出来るはずよ」
それが出来たら良いなとはずっと思っていた。
"新生・忍刀七人衆"と名乗ってはいるが彼が本当に望んでいたのは霧隠れの里が誇る伝統であり伝説である"忍刀七人衆"だ。
正式なその部隊の一員になるという事は今や"霧隠れの里の正式な所属に戻る"という事が出来ないところまで至った私では絶対にしてあげられないと思っていたことだった。
「……考えておきます、という受け答えでよろしいですか?」
「構わないわ、例えここで貴女が了承したとしても何かの思い付きで考えを変えるかもしれないのだから。戦争が終わった後の選択肢として覚えておいてくれたらそれでいいのよ」
優しい言葉だが言外に戦争が終わった直後でなければその選択は与えないと言っているのと同じだ。
なんて強い人だ、これがかつて霧隠れの里で迫害される立場でありながら水影という地位まで上り詰めた人かと感嘆するしかなかった。
思いもしなかった申し出に一体どうしたら良いのか考えが纏まらないまま、それでもしっかりと作業を進めて形を整えた資材をサソリさんの下へ持っていく。
「サソリさん、こちら指示されたように斬り整えておきました…クシナダ、動かせそうですか?」
「自爆機能と言っても内部で溜めたチャクラをクシナダの各パーツを分裂させる事で一気に放出する仕込みだ、言ってみればバラしたパズルを組み直すだけ…というには威力が強過ぎて破損しちまってるが、完全にぶっ壊れる様なバカな設計にはしてねぇよ」
デイダラさんが聞けば不満を口にしそうだが私としては有難い。
サソリさんが苦心しているのもどうやらマダラさんの攻撃で破壊された部分の処置の方らしくこれなら何とか戦線復帰も望めそうだと安堵する。
「──ところで、随分と面白い話をしていた様だな?」
「聞こえていたんですね」
「あの女が隠す気もないだけだろ。話を聞かれても俺達がお前を事前に殺す事はないと踏んだのか、俺達が口封じにお前を殺してくれれば扱いが楽で済むと思っていたかは知らないがな、ククッ」
珍しく意地悪く嗤うサソリさんだがメイさんの申し出そのものばかりに意識が傾いてそこまでは考えていなかった。
「……ではサソリさんは私を殺そうとは思わないんですか?」
「くだらねぇな、あの女の言う通り五大里全てが今のまま一丸となって追手となられちゃ確かに俺達は終わりだ。それは認めるが、それならお前を殺そうが殺すまいが結果は変わらねぇ。だったらあいつ等の悩みの種を俺がわざわざ抜いてやる必要がどこにあるってんだ」
「ああ…なるほどです」
それなりの付き合いでの仲間意識などではない理由にむしろ納得が出来た。少し残念ではあるのが本音だが、ともあれそれならば安心だ。
「…確かに指示通りだ、ご苦労」
渡した資材に目を通して出来栄えに納得がいったサソリさんから労いの言葉を掛けられてホッとする、大丈夫だとは思ったが考え事をしながらだっただけにどこかにミスがないか不安だったが何よりだ。
「──仕事をしてもらった礼だ、一つ言っておいてやる」
「え?」
「お前に限られた世界で生きるなんて出来ねぇよ、刺激のない環境じゃあ職人としての感情が鈍るだけだぞ?」
それは木ノ葉へ潜入した後に暁に所属して暫く後にサソリさんから聞かされた偽雨の末路を踏まえての見解なのだろう。
そうだった、彼女もまたハレンチ博士と暁の方々両方と関係を結ぼうと当時では到底叶わぬであろう望みの為に限られた世界に追いやられ、その果てに私とはまるで違う選択をするにまで至ったんだった。
だとしたら確かにサソリさんの言う通りメイ様の言葉に従った先にも私に先はないのかもしれない。
しかしだとしたら一体どうしたら良いのだろう、メイ様の言葉に従わなくても今まで通り自由に刀造りをする事は出来なくなるであろう事も事実、だとしたら私はどうすればより良い未来を得られるのだろう。
その疑問への答えは尽きないまま忍連合軍本部から伝令があったらしい、綱手様とメイ様が顔を青くした。
「──十尾が復活した」
この戦争を終えた時の悩みなど許さないかの様に、世界の終焉はすぐそこまで迫っていた。