飛雷神の術で主戦場へと送られた角都達はトビとしての仮面が割られ遂に正体を明かしたうちはオビトの相手をナルト達に任せ、穢土転生によって復活した本物のマダラと再び戦っていた。
更には天送の術によって連合本部より駆け付けた雷影と異例とも言うべき共闘により辛うじてマダラの猛攻を凌ぎ、時には反撃を試みてもいた。
しかし背後でナルトとビーが放った巨大な尾獣玉の爆発の中から巨大な十の尻尾が揺らいだ瞬間に彼らはピタリと動きが止まる。
「まさか…あれが…」
「十尾、遂に復活してしまったのか!?」
呆気に取られた彼らの視界の端で先程まで戦っていたマダラは突如空中に飛びあがると自身を包囲する"新生・忍刀七人衆"のメンバー達を飛び越えて十尾へと向かい出した。
「しまった!」
「逃がさん──"万象天引"」
「む…」
復活した十尾への接触をマダラが目論んでいる事を察し、長門はその場から瞬く間に離れ続けるマダラを自分へと引き寄せる。
「アンタを十尾には近づけさせん!」
「…まぁ良い、あの段階ならばまだ奴1人でも制御出来よう。それ程望むならお前から先に──ッ!」
本来ならば引き寄せる力に動きを拘束されて自由に動けない最中、マダラは平然と腕を長門へと伸ばすが突如空から降り注いだ雷光と共にエーが現れ筋力任せにマダラの顔に拳を叩き込み弾き飛ばす。
「…感謝する、雷影」
「貴様が一瞬マダラの動きを止めたお陰で間に合った、誰だか知らんがよくやったぞ」
互いに声を掛け合いながらも地面に激突したマダラから目を逸らさず警戒を続ける。
彼らの予想の通り、舞い上がる砂煙を振り払いながら青黒いチャクラの巨人、須佐能乎が再び彼らの前に顕現する。
「あれが須佐能乎だ、大半の忍術も物理攻撃も弾く…破るには中のマダラに直接干渉出来る音や臭いなどを使った搦め手かアレを強引に破るだけの破壊力が必要だ」
「この場で一番重い一撃を持つのは恐らく貴方です、雷影様…いけますか?」
「ふん、総大将として今まで大人しくしておかねばならんかったからな…存分に暴れてくれるわ」
角都、カブトの分析にエーは荒々しい形相を浮かべ彼らと肩を並べてマダラへと向かい合う。
その異様な光景に大蛇丸と長門は思わず笑みを浮かべる。
「まさか本当に五影と我々が組む事になるなんてね」
「到底考えられない事だがお陰でマダラをこの場に留める事が出来る」
長門は一瞬だけ離れた位置で叫びを上げる巨大な怪物、十尾とそれに向かい合う九尾へと尾獣化を果たした弟弟子ナルトへと視線を向ける。
(こっちは全力で時間を稼ぐ、その間に何とかその怪物への勝機を見つけ出せナルト)
▼▼▼
「──ふん、マダラの奴もいいザマだな」
トビとしての仮面の奥に隠していた素顔を露わにしたオビトは十尾の頭上から足止めされているマダラを眺め嘲る。
目的を同じくとしながらも互いに仲間とは思っていないが故に自分だけが十尾に接触を果たした今の状況はオビトにとっては好都合なものだった。
そして彼が操る十尾に挑んだナルト達も神威を利用した八尾の奇襲作戦も容易く阻まれ遂に力を使い果たしており、オビトにとって全てが都合の良い状況となった。
ただ一つ懸念があるとすれば十尾の制御についてだった。
今の十尾は第一形態に過ぎず、この先力を取り戻した時に自分1人での制御は恐らく難しい、だからと言って完全に覚醒するまでは吸収し人柱力となることも出来ない。
確実なものとするならば十尾が完全な状態になるまで自分1人異空間に避難しておけば良いが、制御を離れた十尾が自らが完全な状態になる前にこの世界そのものを滅ぼしかねない。
十尾の復活は通過点に過ぎず、その力を利用した世界に永遠の平和を齎す"無限月読"こそが目的であるオビトにとってそれは決して望んだ結果ではない。
それ故に未だに抵抗の意思を宿すナルト達を前に十尾の頭上に留まり続け、穢土転生で蘇らせたマダラも十尾を制御する力としてその口寄せを解除できずにいた。
(十尾が次の形態になれば柱間細胞でより制御を強めなければならないな、マダラの力抜きでコントロール出来れば良いがこればかりはその時にならねば分からんか…)
本来ならばともかく八尾は足一本分、九尾の力もほんの一欠片に過ぎない不完全な復活であるが故にオビトにとってもマダラにとってもこの十尾の力は把握し切れていない。
十尾の人柱力にさえなれれば良いオビトにとってはいっそ自分1人で制御出来る程度であることを望みながら再びナルト達へ視線を向ける。
オビトにとってもう一つ、懸念…ではないが彼らが十尾が復活する直前に何か困惑した様子をしていたのが疑問として残っていた。
忍連合軍の念話で何か動きの報告でもあったのか、マダラの方であの雷影と大蛇丸や元、暁の者達が自然と手を組んでいるのもそれが関係しているのか、そんな可能性を考えていくとこの緊迫した戦争の最中でそんな状況を作り上げそうな人物にいい加減思い当たる様になっていた。
(渦柘榴村雨が何かやっているのか? だとしても十尾が復活した以上今更どうこう出来るとも思えんが妙な事をされても鬱陶しい)
絶対的な存在を従えてなお脳裏を過る嫌な予感にオビトはナルト、そしてカカシ達を睥睨する視線を一層鋭くさせる。
「十尾の復活を以て"無限月読"の準備は出来た。これで本当の平和の世界を実現できる──この術の中でナルト…お前を火影にし、仮初めの英雄もクズの様に言い訳する必要の無いようにしておいてやる。…だから、この世界ごと消えろ」
その言葉と十尾の口内で莫大なエネルギーが収束される。
八尾や九尾さえ比較にならない威力の尾獣玉が放たれ、それは寸分違わずナルト達へ一直線へ向かう。
ナルトとビーは足りないチャクラで尾獣化を試み、カカシは自身の左目に限界以上のチャクラを、ガイも八門遁甲の全てを、各々が命を投げ打ってこの状況を打破しようと動きかけた時彼らの背後から声がした。
「──"天照"!!」
「──"塵遁・限界剥離の術"!!」
全てを焼き尽くす黒炎が十尾の尾獣玉を燃え散らし、それでも残った部分を触れた物全てを分子レベルへ崩壊させる術が消滅させる。
更に呆気に取られたナルト達4人を足元から噴き出した大量の砂が全身を包んだ直後後方へと引き寄せ、それぞれに誰かの手が添えられる。
その瞬間に疲労感が急激に和らいでチャクラも徐々に満たされていく、それが医療忍術が施されているのだと気付いた事で彼らは増援の到着に安堵する──そして最初の黒い炎の術を思い出して十尾復活の直前に流れてきた伝令が嘘ではない事を思い知らされる。
「……よぅ、ウスラトンカチ」
忍連合軍の全部隊、土影・オオノキや風影・我愛羅と共に現れたのは離れた位置でマダラを足止めをしている"新生・忍刀七人衆"を従え彼らを連合の協力者とさせた立役者、今や英雄とまで称されしうちはサスケだった。
ただし背後まで引き寄せられたナルトに対してその懐かしい呼び掛けを行うサスケの表情は非常に不服そうなものであった。
「サスケェ! なんでか本部から水月が伝達してきてお前が大蛇丸とか暁の奴らを従えて忍連合軍に協力するとか訳わかんねぇ話聞かされたんだけどアレどういう事だってばよ!?」
「黙れ、俺にとっても想定外の事だ。だがこうなった以上俺の道はもう決まった…俺は月の眼計画とやらを阻止し、この戦争を終わらせる、そして──火影になる」
「は?」
ナルトの記憶の中ではサスケは木ノ葉の里がイタチに無理を強いて死へと追い込んだ事への復讐を思い描きながらもイタチの意思を受け止めてそれを実行するかを悩んでいた。
仮にその考えの果てに木ノ葉を許す道を選んだのだとしても、それでも先程のサスケの宣言はナルトにとって理解が出来ない事だった。
だが、戸惑うナルトを他所に周囲から大きな歓声が上がる。
戦争の危機的状況に駆け付けた英雄が火影の名を継ぐという意思表明に木ノ葉の忍達を筆頭に他里の者達も含めて沸いていた。
まるでサスケが火影となる事を祝福するような大歓声にナルトは自身を治療するサクラを手で制して立ち上がるとサスケの横に並び立つ。
「お前が何でそんな事を言い出したのかわかんねぇけど…火影になるのはオレだってばよ!」
本来この戦争で皆に守られる立場であったはずが気が付けば誰よりも前に出て連合の皆を恐れさせた尾獣を制圧し、オビトを追い詰めていたもう1人の英雄の言葉に歓声を上げていた者達が息を飲む。
その張り合い癖もその夢も、昔から何も変わっていないと思いながらも昔とは比べ物にならない程にその言葉の強さを増した"友"の宣言にサスケは微かに笑う。
水月の仕業で英雄に仕立て上げられて1人であるはずの自分を慕う者達が出来始めている…このままでは思い至った本当の火影の在り方に辿り着けないことは明白だった。
だが、自分と同等の英雄がいたとしたらそのもう一人の英雄を五影や尾獣と共に自らの手で葬ればくだらない幻で自分を英雄視する者達も目を覚ますだろう。
そして、そのもう一人とはそんな凶行とその果てに実現する火影の在り方を知れば必ずそれを阻止しようと自分の前に立ち塞がってくれる相手だった。
この先に待つ本当の戦いを確信しながらサスケは目の前の巨大な怪物へと目を向け、その視線を動かす事なく隣に並び立つナルトへと声を掛ける。
「──やるぞ」
「おう──行くぞ皆ァ! これが"忍連合軍の術"だってばよ!」
2人の英雄の鼓舞の下、連合の忍達は心を一つに動き出し、本部のシカクから伝えられたそれぞれの里の得意術を活かした策を仕掛ける。
雲の忍と砂の忍が十尾の視覚を奪い、岩の忍が作り出したセメントを霧と木ノ葉の忍達が十尾の身体を固めて止める、かつて様々な形で争いあった五里の忍達が完璧な連携を見せる奇跡とも言うべき光景、それを感心した様に見つめるのは離れた位置で"新生・忍刀七人衆"に囲まれたマダラだった。
「あれが九尾のガキが語る"忍連合軍の術"か。あの五里の忍共があれ程の連携をやってみせるとは信じられんな」
「アンタにも大人しくなってもらうぞ──"修羅道"」
長門はローブの内側に隠した右腕から爆発性の弾丸を8発撃ち出すとそれらをマダラを覆う須佐能乎ではなくその周囲の地面に全て着弾させてその激しい爆発の衝撃に須佐能乎がグラつき、更に視界も阻害する。
「今だ雷影!」
「オゥ!」
全身に雷を纏ったエーは自身の最高速度の拳を須佐能乎に叩き込む―しかし須佐能乎の強固な守りはそれさえも阻む。
「スピードは中々だが、ただの速度ならば写輪眼で見切る…そしてオレの須佐能乎を割るにはまだまだパワーが足りんな」
「──ならば足すまでじゃぜ!」
拳を受け止めた須佐能乎が間近のエーへと刀を振り下ろす瞬間、それよりも早く雷影の肩に誰かが触れる、その人物にマダラはかつて戯れた岩隠れの若者の面影を感じ取る。
「貴様は…両天秤の──」
「小僧、と言いわれたあの頃とは違うんじゃぜ!」
刀が当たるよりも早くオオノキの術により身体を軽くされたエーはその意図を理解し、飛躍的に上昇したその速度を以て刀を避けた勢いのままマダラの背後に回り込む。
「──"超加重岩の術"!!」
背後から再び放った雷影の拳、それは先程とは真逆の効果を持つオオノキの術によって重さを増加させ須佐能乎の鎧を砕きマダラを弾き飛ばした。
「土影! お前が欠けては十尾の方が!?」
「分かっておる、だがマダラを自由にさせる訳にもいかん…十尾の相手は本部からの作戦とあそこで戦ってくれておる皆を信じるんじゃぜ!」
それは最高戦力である"五影"の一角としては苦渋の決断ではあった。しかしそれでもオオノキは生前のマダラの脅威を知る数少ない生き残りとして、そして何よりも我愛羅やナルトといった新たな時代を担う者達を信頼し自らの戦場を選んだ。
連携を執りながらも戸惑いもしたエーもその決断を汲み取るとそれ以上は何も言わず目の前の土煙へと視線を向ける──その視線に込める警戒に応える様に蒼炎の如きチャクラが揺らめく。
砂煙の奥から姿を見せたマダラは須佐能乎を貫く拳圧に幾分かのダメージを負った様子だが穢土転生の身体は瞬く間に再生を始め、砕けた須佐能乎もすぐに再構築され始めている。
最強の忍が不死である事の絶望をありありと突き付ける光景だが、それと対峙する覚悟など疾うに決めていた彼らにとっては須佐能乎を破り一時的であってもダメージを与える事が出来た何よりの証拠であると、その絶望にこそ活路を見出す。
──そしてそれ故にマダラもまた、僅かな勝機に縋る者達に冷笑を浮かべる。
「信じる…か。お前達も向こうの連中もあまりにも蒙昧だ、確かに五里の忍共があれ程の連携をしてみせたのは偉業と言って良い。だが哀れだな、如何に偉業であろうとも──十尾を止めるには程遠い…頃合いだ」
「──ッ!?」
突如、背後の地面が爆ぜて立ち上がる砂煙から巨大な十本の腕──否、尻尾が空に蠢いた。
マダラの前であるにも関わらず思わず微かに振り向いた彼らの眼に飛び込んできたのは僅かに人の姿に近づいた不気味で更に巨大な姿に変化した十尾だった。
「十尾…やはり簡単には止まらんか」
「必死にオレの足止めをしているようだが、お前達と向こうの烏合の衆共、どちらが先に全滅するだろうな?」
「決まっているだろう、その前にアンタを倒し十尾を止める」
「言うなガキが。その言葉が実現できない事はお前達が一番感じ取っているのではないか? いや一番理解しているのはあの水月とかいう小僧の方か?」
「なに?」
思わぬ名が出て長門を含めマダラを包囲する全員が耳を疑う。
「お前達のリーダーらしいがいつまで経っても合流しないな、先の戦いで逃げ出したか?」
「あ…」
終末の谷での戦いで一度は必至に食い下がった事もあってマダラなりに自分達を少しは意識しているのだと理解した彼らは、それ故にこの場に居合わせない水月が心折れたのかとマダラに思われていたのだと察する。
しかし実際には忍連合軍との共闘の為、彼らの本部に人質として連行されただけであり、更には予想外ながらもサスケを自分達を従える英雄とするとすることで忍連合軍に降伏したという汚名を被る事を阻止する戦果を挙げてみせた。
実際に水月がこの場にいたらマダラの言う通り逃げ出したくなっていたかもしれないが、それでも想像以上の貢献をした彼への誤解は流石に訂正をしようとメンバーの中で最も長く付き合いのある大蛇丸は口を開く。
「彼は──」
「ほぅ、オビトめ。十尾の尾獣玉で連合の本部を消すつもりか…まぁ敵の頭から先に潰すのは基本だがな」
「「え?」」
訂正の言葉よりも早く告げられたマダラのその言葉に全員がもう一度背後に振り返ると、不完全な制御に身体を激しく揺らしながらも十尾が次々に尾獣玉をあちこちへと放っていた。
遠く離れた着弾地点から激しい爆発が立ち上がり続ける中、最後の一発を放った時連合の忍達が揃って顔に絶望を浮かべた。
──それは広範囲を一瞬にして消し飛ばす尾獣玉が忍連合軍本部へと放たれたのだと突き付ける。
「す、水月ぅ!!」
「なに?」
思わず叫びを上げたカブトや顔を青くするメンバー達に今度はマダラが呆気に取られるのだった。
▼▼▼
「──これは!?」
形態変化した十尾の無差別攻撃が始まり思わず絶句していた青が驚愕に声を上げた。
「どうした青殿!?」
「……冷静に聞いてくれ」
慌てる事なく、しかしどこか絶望、諦めの混じったその声、そして今の戦場で起きている敵の攻撃から状況を察したシカクは声を絞り出す。
「──ここか…」
「ッ!? なら、早くここから逃げないと!!」
無差別攻撃と思われていた十尾の尾獣玉、その狙いがここであったのだとその言葉で理解した伝令役の忍が声を荒げて立ち上がる。しかし感知役の忍がそれを制した。
「へッ、この尾獣玉の破壊規模からしてもう遅い、本部役に決まって安心でもしていたか?」
「違う! 俺も忍だ、いつ死んでも良い覚悟はしていた…だがこんなところで何の役にも立てず──」
「ねぇーえ!! ボク本部役でもなければただの巻き添えなんだけど!?」
無理やり連行された挙句の無茶な要求を何とか別の形で決着させて漸く一息と思った矢先、死が目前に迫り水月は嘆きの声を上げる。
「何とかしろよ本部なんだから迎撃用の攻撃とか防御の結界とかなんか準備してないのかよ!?」
「当然備えはありますがあの尾獣玉は規格外です、はっきり言って何の効果もないでしょう──私達はここまでです」
必死に周囲を確認する水月にマブイは静かに首を振る。
その顔は迫る死の恐怖以上にどうしようもない事態への諦めに染まっていた。
「水月…お前の言う通り巻き込んでしまって済まなかった、こんな事は慰めにも、当然謝罪にもならないが…お前の機転には助けられた、ありがとう」
「いやいやそんなんどうでも良いから! 諦めてないで何か方法を──」
「フ、諦めてなどいない、十尾を止める策が出来た、いのいち戦場の皆へ繋いでくれ…最後の仕事だ」
「いやそういう方向性の諦めなさじゃなくてさァ!?」
必死に訴える水月だがシカクは淡々と最後の仕事、忍連合軍の作戦指揮としての役目を果たし万が一の場合に自身の息子に全てを託す言葉を紡ぎ出すのだった。
▼▼▼
『──という訳で、時間がないわ』
突如、脳に語り掛けてきたハレンチ博士の言葉を冷静に受け止めて手元に荷物を即座に纏める。
「分かりました。サソリさん、どうですか?」
「脚部の修復は不完全だが飛んでいく分には問題ねぇ」
「流石ですね」
確かに脚部の破損は未だ内側が剥き出しの部分さえ見えて自立する事は出来なさそうだ。
だが本来四本の腕は左右それぞれ一本に合体させる事で両腕を完全なものにして刀を振るうには十分な仕上がりになっており、背中のチャクラの噴出口も正常のチャージの音を奏でている。
チャクラの噴出さえ出来ればクシナダは空を飛べる、脚なんて必要ないと豪語することは出来ないが十分戦うことは出来るはずだ。
「──では、どうぞメイ様、綱手様」
「その…さっきから修理しているのは見ていたけど…これ本当に飛ぶの?」
「カカシ達から報告はあったが…何を思ってこんなものを…」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで早くそいつと一緒に乗ってろ」
開けたハッチの中へ飛び込むと身体をハッチの外へと傾けてメイ様に手を伸ばすとおずおずと差し出された手を掴んで引き寄せる。
本来ならば七人分の搭乗スペースがあるのだが緊急修理の都合サソリさんが使う操縦室と今使っている一つ分しか機能していない。その為2人で乗るには狭く、抜けた自里の長と肩を触れ合わせながら座るのは非常に居心地の悪さを感じるが今はそれどころではない。
意を決して今度は綱手様へと手を伸ばすと綱手様はメイ様とは違い不機嫌そうに握り返してくる。
万が一ここで本気で力を入れられたら私の手の骨は粉々になるんだろうなと寒気を感じながらも綱手様を引き寄せる。
右肩にメイ様、左肩に綱手様…かつてない程に近い距離に両者の存在を感じあまりの緊張感に思わず身体が竦む。
自分で言うのも何だが色々と悪事を働いた私が両脇を水影と火影に固められるというのはあまりにも絶体絶命過ぎて鼓動が苦しい程に早くなる…しかし今は私の心臓など気にしてはいられない。
本当に死が迫っているのは私ではないのだから。
「──行きましょうメイ様、綱手様、私達の…大切な仲間を救いに」
「……あぁ」
「お願い」
思わぬ同乗者達のその願いに応える様にクシナダは激しい振動と共に宙へ浮かび上がると流星の如き速度で暗い空を横切って"忍連合軍本部"へと空を駆け抜ける。
「十尾め、何と言う射程範囲だ…あの位置から本部を狙うとは」
「本部だけではありません、このまま十尾の攻撃が続けば里や無関係の街の人々も、避難させた大名様達も…」
あぁそうか、忍連合軍という組織を結成するには当然大名も承認も必要で、そうとなれば連合は必ず大名を守る責務がある…そもそも各々の国と手を結んで成り立っているのが五大里なのだから猶更だ。
だが十尾なるものの破壊規模は規格外と言っていい、メイ様の言う通り十尾の攻撃を完全に途切れさせない限り守り通して戦う事など不可能と思えた。
いや、今は既に放たれた攻撃一つを何とかする事のみに集中しなくては…ハレンチ博士からの伝達によっては十尾の尾獣玉は威力は勿論、その速度も桁外れ…間に合わせるには私達のタイミングが命だ。
『──10秒後に尾獣玉が接近する、準備しろ村雨』
「はい。お二人とも風に備えてください」
空中移動を続けていたクシナダが目的のポイントに到着した事でサソリさんが私達の区画のハッチを開いた。
吹き抜ける突風が区画の中に入ってきて全身が弾き飛ばされそうになるが、足に込めたチャクラで必死に堪えそのまま大きく座席を蹴って空中に踊り出る。
上空の荒れ狂う風と寒さに全身を晒しながらもサソリさんが事前に差し向けてくれていたクシナダの左手に着地すると、ポーチから蛇模様の巻物と血の入った小瓶を取り出し開いた巻物に描かれた術式の中心、その空白の部分に小瓶の中のハレンチ博士の血を垂らす。
「"口寄せの術"」
「──よし、間に合ったようね」
口寄せ蛇を利用して現れたのは作戦ポイントでマダラさんと対峙していたハレンチ博士。
主力であるこの方をこちら側に呼んでは戦場の方が厳しいものになるやもしれない…しかし、この状況で十尾の尾獣玉を何とか出来るのは自分だけだとハレンチ博士自身のお言葉とそれが事実であるという確信に従い今、この御方をここに呼び出した。
「あと5秒…お願いします」
クシナダの指に必死に捕まりながら懇願するとハレンチ博士は僅かに笑みを浮かべ吹き付ける風を物ともせずにクシナダの腕を上り胴体まで移動し──身体を歪ませ膨張していく。
長く伸びた一本の肉塊はクシナダに巻き付きながら更に伸び続けやがてその先端の片方を八つに枝分かれさせる。
肉塊はやがて白い鱗に覆われ8つの頭を持つ巨大な蛇と変化する。
「これがハレンチ博士の言っていた八岐の術──ッ! きました!」
ハレンチ博士の大規模な変化に奪われた視線の端に急接近してくる黒い塊が映り意識を現実に引き戻される。
感知能力の持たない私でさえ分かる程にその塊は高密度のチャクラであり、アレが着弾すればその爆発による被害規模は到底計り知れるものではないと恐怖する。
──それでも私達の合作は負けない。
尾獣玉がクシナダの真横を通過する瞬間、その巨大な塊を8つの刃が刺し貫く。
そしてその瞬間、チャクラの塊は刀身に触れている部分から徐々に徐々に刀身の中へと飲み込まれていく。
それぞれの眉間に写輪眼を埋め込んだ3つ目8つ頭の巨大蛇──その口内から伸びたそれぞれの刃は水鏡の術で複製した"十拳剣"と融合させ同じ性質を持った霊剣。
それらは写輪眼のチャクラによって本物の"十拳剣"と呼応し1本1本が必殺の、そして全てを突き刺せば通常の8倍速で対象を飲み込む究極の刃、それが"十拳剣・水鏡"だ。
膨大で速い十尾の尾獣玉はその速度を減衰させる事なく進み続け少しずつだが刃から抜け出そうとするがクシナダもそれを追って推進し続け完全には逃さない。
故に後は忍連合軍本部に到達するまでに飲み込み切れるかの勝負だが──
『いけない! 本部が!!』
クシナダの内側から聞こえたメイ様の声の通り、忍連合軍本部らしき大型の建物が見えてきた──その内側からは首斬り包丁の気配がして、水月がそこにいる事は間違いない事からしてもやはりアレがそうなのだろうと確信する。
しかし十尾の尾獣玉は8割以上"十拳剣・水鏡"に吸い込まれながらも未だ僅かに残っている…そしてこの僅かな塊でさえその破壊規模はこの建物を消滅させ、中の人間を消し去るだけの力はあるはずだ。
──間に合わないかもしれない。
嫌な予感が頭を過った刹那、連合本部の建物の周囲にチャクラの壁が出現する。
「防御結界!?」
『中の奴らに往生際の悪い奴でもいたらしいな。これなら──』
クシナダの右手が"蒸気壮怒"を握るのが見えた後、突然視界が真っ暗になる。
しがみついていたクシナダの手がサソリさんの操作によって握り潰されない程度に閉じさせられたのだろう…つまりこの後に起こる事を予測しクシナダの指により強くしがみつく。
──その直後、激しい振動と鼓膜に響く爆発音に襲われ意識が飛びそうになる。
必死に意識を保っているとクシナダの拳が開かれて大空に水月の顔が打ち上がっているのが見えた。
ゆっくりと、恐る恐る視線を空から下に降ろせば結界諸共破壊された忍連合軍本部の壁の奥に水月に青さん、その他にも大勢の忍がいるのが見える。
"蒸気壮怒"を背中に戻したクシナダの右腕がゆっくりと建物へと近づけられているのを確認し、状況を未だに飲み込み切れていないのか建物の奥で戸惑いの表情を浮かべる彼らに呼び掛ける。
「すぐにこの場を離れます、乗ってください!」
私達がこうして尾獣玉を防いだ事でマダラさん達にここが重要な拠点である事はバレただろう、ならばここに留まる理由はない、そう訴えた私に青さんが壊れた壁や手を差し伸べるクシナダ、空に打ち上がった水月の顔へ次々に視線を動かした後何故か曖昧な表情で口を開く。
「……いや、その、世界観…違くないか?」
それは私の作品が世界を変える品質…みたいな意味だろうか?
とっても嬉しい。