霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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忍集結

 十尾の攻撃が迫る忍連合軍本部の救出が成功してホッと胸を撫で下ろす。

 飛ばし切れなかった尾獣玉を誘爆させた蒸気壮怒によって本部の壁は防御の結界諸共崩壊しており、吹き抜けた先で床に座り込んでいる水月を見つける。

 

「水月、無事でよかった」

「あぁ…うん、お陰様でね…ところでさぁ」

「うん?」

 

 何とか無事で済んだというのに水月の表情はいまいち晴れやかなものではなく、何かあったのかと首を傾げている内に彼の周りに色んな人達が集まってくる。

 

「凄い、凄いなお前…あの尾獣玉から本当に助かるなんて…」

「お前の言う通り、諦めずに防御用の結界を張ったからだ、お前は俺達の恩人だ」

 

 装束からして岩隠れと雲隠れの方々だろうか、彼らは座り込んだ水月と空に打ち上がった水月の顔を見比べて身体を歓喜に震わせていた──が、肝心の水月はというと何だか目を見開いてこちらを見て口を開いた。

 

「…とんでもない事してくれたね」

「ごめん、"十拳剣・水鏡"で十尾の尾獣玉を安全に飛ばし切るのは間に合わなくて直前で爆発させてしまった…お陰で建物はボロボロだし、結界がなければ皆無事では済まなかったと思う…けど、水月が手配してくれたみたいで良かった…流石」

「うん、お願いだからもう黙って…誤解が凄い事になってるから…」

『悪いけど黙っている訳にはいかないわ』

 

 はて? 

 周囲から感謝の抱擁を受ける程に水月の采配が見事だったと伝えたのにどうして…と疑問を抱いたのも束の間、巨大な八岐大蛇と化したハレンチ博士の厳しい声が響いた。

 

『十尾の尾獣玉の爆発が起きなかったんだ、ここが忍連合が防衛しなきゃならない場所だって奴らはすぐに気付く、二発目が来る前にさっさと移動するぞ』

「…あ、でもサソリさん。今のクシナダの中にこの人数は収容できません」

『何人だろうが収容できる蛇が纏わりついてるだろうが。口ん中入ってろ』

『グズグズしているとこっちから飲み込んでしまうわよ。胃の中にまで入れられたくなかったら早くしなさい』

 

 怖い。

 改めて凄い人達と一緒にいるんだな、と緊張感のない感想が出てきそうになるのをグッと堪え、忍連合軍本部の方々に視線を向けるが、やはりと言うか仕方ないと言うべきかサソリさん、ハレンチ博士の申し出を素直に信じていいのか躊躇っている様子だった。

 

 協力関係を結び、こうして彼らを救出してもなお私達を信用していいのか疑いが湧く…それは無理もない事だ。

 だが幸い、彼らから絶対的な信頼を得られる方々は──ここにいる。

 クシナダのハッチが開いて2人の人物が顔を出した。

 

「こいつらの言う通りにしろ」

「彼らは今は味方です、時間がありません、急いでください」

 

 ハッチの奥から姿を見せた綱手様、メイ様が揃って彼らに指示を出した。

 思わぬ人物達が顔を見せた事で戸惑いも広がるが、本部に配属された方々だけあって感知に優れた人達が多いのだろう。目の前の2人が紛れもない本人である事を即座に見抜き交互に頷き合い、そしてクシナダの掌の上に次々に乗り込んでいった。

 

 掌の上に乗った方々は蛇の頭の前まで運ばれてパクリと口の中に収められた…決して飲み込むわけではないと先程の会話からして分かっていることだが、傍から見ているとそれでも中々にショッキングな光景だ。

 …思わず視線を逸らすとハレンチ博士の、というよりも巨大な蛇の口内に入る事に抵抗があるのか未だに半壊した本部に留まっていた水月が建物の一部ごと別の蛇に食べられている瞬間が視界に収まった…あまりに衝撃的な光景に言葉を失う。

 

 さて、私はクシナダのハッチの中に戻るとしよう、ちょっと窮屈だけどあっちの方が…いや、あっちの方が綱手様とメイ様が至近距離過ぎて心臓に良くないのでは? 

 

「………ハレンチ博士」

『何かしら?』

「私も食べてください?」

『…たまに思うのだけど貴女、私に余計な風評被害を与えようとしていないかしら?』

「何がですかハレンチ博士?」

『サソリ…発進しなさい』

「……仕方ねぇな」

 

 え、いや私まだクシナダの掌の上なのですが? 

 それに何であのサソリさんがハレンチ博士の要求に二つ返事で了承を? あの2人いつの間にそんなに関係が修復していたんだ? まぁ、それ自体は喜ばしい限りではあるのですが──などと巡らせていた思考はクシナダの発進と共に襲い掛かってきた暴風によって意識の外へと吹き飛ばされてしまった。

 

 一体どうしてこんな事に。

 上空を高速で突き進むクシナダにしがみつき肌を突き刺し身体を吹き飛ばす程の世間の厳しい風をひしひしと感じながら途方に暮れる。

 

 

 

 ──が、やがて視界に映る巨大な怪物に意識を引き戻される。

 

 考え事に耽っている内に主戦場へ辿り着いたのだろう。クシナダが移動状態から滞空姿勢へと切り替えたことで漸く余裕が出来て、姿勢を起こして目の前の怪物を観察しようとするが写輪眼と輪廻眼が一緒になったような一つ眼、大きな腕の様な十の尾、見間違えるはずもない程の特徴がその存在こそが十尾なのだと一目で理解する。

 

「な、なんだあの飛行物体は!?」

「あ、あれは…まさか我愛羅第4部隊から報告があった空飛ぶ巨大傀儡!? それに、あそこにいるのは!?」

「……やはりお前か村雨」

 

 おや、十尾に意識を傾けている間に地上で軽い騒ぎが起きている…それに身体を起こしたせいで姿を見られたらしく地上を確認すれば見知った顔が確認出来て小さく手を振る。

 

「我愛羅君、久しぶり…あぁ、一応そっちは私に会ったんだったかな?」

「それについては大方の事情は察しているつもりだが…それよりも、お前達が来た方向からして本部の方に飛んでいった尾獣玉の爆発がなかったのはお前の仕業か?」

「私はこれに乗っていただけ、サソリさんとハレンチ博士、それに水月のお陰…本部にいた人達は皆無事だよ」

 

 安心させようと思い口にしたその言葉に地上の人達の騒めきがより大きくなる。

 

「な、何だと!?」

「ほ、本当に父さんも無事なの!?」

「本当だ、本部配属の者達は皆、助かった」

 

 ああ、考えてみれば戦場にいる人の中には本部に肉親がいた人もいるのか、それば急な話に戸惑うのも無理はないかと反省している内にバンッと大きな音と共に開いたクシナダのハッチの奥から飛び降りた綱手様が彼らを落ち着けた。

 

 ハレンチ博士も口内から収容していた人達を解放し全員の無事を明かした…これならば混乱もすぐに収束するだろうと安堵していると、砂の塊によって宙に上ってきた我愛羅君が隣に並んだ。

 

「忍連合軍連隊長として、そして風影として礼を言っておく」

「さっきも言ったけど私は大した事はしていない。…あぁでも、そうか我愛羅君、今は風影か…なら、代わりに受け取っておく」

 

 同盟関係とはいえ風影として立場のある我愛羅君がハレンチ博士、それに自里の抜け忍であるサソリさんにお礼を口にするのは何かと問題もあるかもしれないと思い至り代理として彼の気持ちを受け取っておく。

 

「…あれ、でも私も砂隠れの里の裏切り者でもあるのか」

 

 清濁併せ吞む事への理解ある風を気取ってみせたが、私自身が濁流である事を思い出して途端に気恥ずかしくなってきた。

 木ノ葉崩しに砂隠れを利用して先代の風影様を暗殺したハレンチ博士や砂隠れの直接の抜け忍でありデイダラさんと共に我愛羅君を誘拐、死に追いやったサソリさん程ではないとは思うが私の立場もそんなに良いものではなかった。

 

「…というか、厳密には別人といえるけど私も実質我愛羅君暗殺に加担しているのか」

 

 何て事だ、ここにいる人達皆風影様を殺す事に関わっているなんて…私達が我愛羅君からお礼を言われる資格は果たしてあるのだろうか? 

 

「あ、そうだ代理なら水月に──あ、駄目だ水月も前に一度我愛羅君と戦っている」

「…アレを前にしてもお前はつくづく相変わらずだな。念の為聞いておくが目の前の十尾は見えているか?」

「ちゃんと見えている、もう風影だからって子供扱いし過ぎ」

「人として扱うべきかを悩んでいるところだ」

 

 ひどい。

 でも確かに十尾を前にして少し気を抜き過ぎていたかもしれない。

 

 気を引き締めて十尾へ視線を戻すとその頭部に1人の男性が立っていた。

 顔に見覚えはないが右眼の写輪眼が仮面の奥から覗いていたトビさんのそれと重なる。

 

「──現れたか、渦柘榴村雨…お前が生きている事はとっくに知っていたが、実際にこの眼でまた見る事になるとはな…少なくとも刀匠としては一度は殺したつもりだったのだが」

「自分でも思っていませんでしたが、意外と人の繋がりに恵まれていた様ですので」

「繋がりか…ナルトといいお前といい随分とその言葉が好きらしい」

 

 その言葉にちらりと地上で1人の少年の姿を探す。

 うずまきナルト君は力強い視線でトビさんを睨んでいる様子だった。

 

 きっと月の眼計画というこの瞬間に至るまでの積み重ねも、この先にある未来も、今確かに存在する人と人の交流も、それら全ての"繋がり"を断ち切ってしまう行いを止める為に何度も言葉を交わし、それでも意見が交わる事はなかったのだろう。

 

 ならばもう私が何を言っても無駄なのだろう。

 何よりもトビさん自身、最早私との会話に興じるつもりは毛頭ないらしく、その冷たい眼をより一層鋭くした。

 

「貴様が生きていようが、誰を救おうとも大した意味はない…だがこの計画の邪魔をするのならば今度こそ確実に葬ってやろう…この十尾の力でな」

「──待て」

 

 トビさんの言葉と共に十の尻尾の内の一つが大きく揺らいだ──だが、それは彼の隣に降り立った人影によって止められた。

 

「あれとその仲間共の相手は俺がする。お前は他の連中を片付けておけ」

「…マダラさん」

 

 マダラさんの相手は確かカブトさん達が受け持っているはず、だというのに何故あの人がこの場に駆け付ける? 

 嫌な予感に十尾から視線を外して周囲を窺うが私が見つけるよりも早くクシナダの近くの地面に目当ての人達が集結する。

 

「すみません、抜かれました」

「一度に全員写輪眼の幻術を掛けられた…即座に解いたのだが、ほんの一瞬の隙でこのザマだ」

 

 カブトさんもリーダーさんも歯噛みしているが誰も殺されたわけではなかった事に安堵する。

 

「それにしても…俺達との戦いを自分から切り上げるとは、随分とマダラに気に入られたようだな貴様」

「どう考えて逆な気がするのですが」

 

 角都さんの皮肉に思わず顔を引き攣らせてしまう。

 散々やった挑発行為が悪かったのか、それとも柱間様の石像で殴り掛かったのが悪かったのか心当たりは多過ぎるが、いざそれを実感するとあまりに恐ろしい。

 

 …恐る恐るマダラさんの様子を窺うとトビさんが冷ややかな視線をマダラさんへと向けていた。

 

「アンタがあの女をそこまで特別視するとは、十尾を前に余興が過ぎるんじゃないのか?」

「次の変化までは制御も出来るだろう、それまでにケリを着ける」

「……ふん、好きにしろ」

 

 いっそトビさんが止めてくれないかと思っていたがやはりそうもいかないらしい。

 …しかし、あれが十尾だという事は間違いないが今目の前の十尾は完全な姿ではないのか? だとすると──

 

『村雨、分かっているわね?』

「勿論です、彼らの言葉本当ならば十尾は今の不完全な状態で倒したい。つまりマダラさんが私に意識を割いてくれているというのは大きなチャンスです」

『その通り。村雨、貴女は他の者達と一緒にマダラを少しでも遠くに誘導しなさい』

「ちょ、ちょっと大蛇丸様! 他の者達とって、アンタは何するつもり、なんです?」

 

 自分だけは同行しない口振りのハレンチ博士に私が聞くよりも早く水月が詰め寄るが、ハレンチ博士は八岐大蛇と化していた姿を人型へと戻し地上に、綱手様のすぐ傍に降り立った。

 

「私は綱手と十尾を止める、マダラは貴女達に任せるわ」

「私とって、急になんのつもりだ大蛇丸!?」

「アレを止めない事にはトビとは勝負にならないし、戦いの余波だけで世界が滅びかねない、十尾を止めるのは絶対で、それが出来るのは私達ぐらいでしょう? ──準備しなさい、"四赤陽陣"のね」

「!?」

 

 どうやらそれは綱手様にとっても急な申し出だったらしく、綱手様もまた水月同様にハレンチ博士に詰め寄ったが返ってきた答えに目を見開いた。

 

「バカな事を言うな、アレは火影級の忍4人で成立する結界術だぞ、他の影達ならば可能かもしれんがぶっつけ本番ではまず無理だ」

「何を言うかと思えば…バカな事を言ってるのはアンタよ綱手、忘れていないでしょう…私とアンタとあと1人、いるでしょう」

「なッ!?」

 

 ──ハレンチ博士の言わんとしている事は私にも分かった、だがまさか…そんな半信半疑の思いを待たずしてハレンチ博士は襟に潜んでいた小動物──小さな蛙を取り出した。

 

「この戦争の直前に木ノ葉に顔を出していてね、必要になったら呼び出すって伝えた時に預かっていたの」

「……バカヤローどもが」

 

 綱手さんが今にも泣きだしそうな表情を浮かべる傍らで小さな蛙は両手を打ち鳴らして周囲に煙を撒き散らす。

 その煙の奥には車椅子に座した白髪の大柄の男性が、腕を大きく広げ上半身のみで堂々たる見得を切っていた。

 

「怒りに溢れた血の涙ァ! 三忍語りて仙人にィ! 妙木山の蝦蟇妖怪、自来也様たぁワシのこ──ぁぶ!?」

「オラァ自来也ァ! 私に黙って何考えてんだゴラァ!!」

 

 声高々に名乗りを挙げる自来也さんの脳天に綱手様の拳が振り下ろされて舌を盛大に噛んでしまっている、あれは凄く痛そうだ…。

 

「綱手ェ、見得切り中の重傷人どつくんじゃねェってのォ!」

「重傷人がこんなところに出てくるな! お前、自分の身体の事も分からないのか!? お前の身体はもう…」

 

 必死に訴え掛ける綱手様の言葉を自来也さんが手を差し出して制止する。

 

「お前の言う通り、もう自分1人ではまともに動けやしねェ、だがチャクラは練れる…だったらワシにも出来る事ァある。そんで…出来る事があるのなら動けねェぐらいで諦めてられん──そうだろうナルトォ!?」

「──ッ…オッス!!」

 

 無謀とも言うべき行為だ。

 しかし一切の恐怖も見せず自分に出来る事を貫き通さんとするその姿に彼の弟子は涙を浮かべて敬礼した。

 

「バカヤローが…この戦争が終わったらお前の病室は牢屋に変更だぞ」

「ふん、這いずってでも抜け出してやるぞ」

 

 もう何を言っても自来也さんの考えが変わらない、それは綱手様こそが何よりも理解しているのだろう…諦めた、いや、自来也さんの覚悟を受け入れたのだろう。考え直させる為の言葉はもう言わず共に戦争を生き抜く決意を口にした。

 …そんなやり取りにハレンチ博士は肩を竦めた。

 

「相変わらず、アンタ達が揃うと騒々しくなるわね…」

「うるさい、それよりもあと1人は? カカシも戦場に出ずっぱりでチャクラがもたないぞ、一体どうするつもりだ!?」

「心配ないわ、…着いたみたいよ?」

 

 また、彼らの傍に1人の人物が降り立った。

 自来也さんよりも更に一回り程年配の、顔の半分を包帯で隠したご老人、その姿には見覚えがあった。

 

「──今まで散々猿飛先生に張り合ってきたんだからね、まさか今更自分如きでは三代目の代わりは務まらない…なんて言い出したりはしないわよね、ダンゾウ?」

「黙れ、大蛇丸」

 

 間違いない、私が木ノ葉で酔っ払っている間にいつの間にか目の前に現れて右肩から写輪眼の成る木を生やしていたあの方だ。

 だが彼の右腕はあの時私が切断したはずだが、今はハレンチ博士の身体と似た様な白い肌の腕が癒着していた…そしてよく見ればそれは自来也さんも同様だった。

 

「…大蛇丸め、戦争前に一度どこかへ行っていたかと思えば──随分と根回ししていたようだな」

「リーダーさん?」

「自来也の片腕は俺が一度吹き飛ばした…何らかの手段で代用の腕を作っていたのか。それに…ダンゾウにまで」

 

 その言葉にダンゾウさんがかつてリーダーさんに行った騙し討ちの話を思い出す。

 いや、リーダーさんだけではない、小南さんにカブトさん、そしてサスケ君…ダンゾウさんの手で運命を狂わされた人達は私が知る中でも数多い。

 

 もしやと思い見渡すとやはりと言うべきか彼らの皆、憎しみの混じった複雑な表情を浮かべていた。

 ここに来て仲間割れなどならないとは思うが、それでもダンゾウさんの言動一つで何かが起きてしまうのではないかと不安が募る。

 

「ダンゾウ、表の騒動の時には隠れ潜んでいるアンタがどうして?」

「今となってはそれさえも意味のないものになってしまった。ワシはもう、光に当たる事はない。だが……日の目を見ることがなくとも役目を果たす陰の功労者こそが忍…ただその本来の姿に従っておるだけだ」

 

 闇の中こそを居場所とする忍の過酷な生き方を述べるダンゾウさんだが、だがその口上を口にする直前に僅かに言葉を詰まらせており、その言葉が本心からのものなのか私には分からなかった。

 

「──さぁ、頭数はこれで揃ったわ。どんな覚悟や思惑で来たかなんてどうでも良いけど、そろそろ始めるわよ」

「ふん、お前に仕切られる日が来るとはのォ!」

 

 どこか嬉しそうにそう笑った自来也さんは十尾ではなくその背後へクナイを放り投げ、少し離れた場所にいる人達へ呼び掛ける。

 

「ゲンマ、ライドウ、イワシ、"飛雷神の術"でワシを飛ばせ!」

「「は、はい!」」

 

 時空間忍術で自来也さんが十尾の背後へ回ると、その直線上にハレンチ博士と綱手がそれぞれ移動し、更に対角線上にダンゾウさんが並び、四角形の配置が完成する。

 

「──さて、ほんの少し思い出しましょうか、懐かしき同志の関係を」

「お前が反抗期にならなきゃ思い出すまでもなかったのにのォ!」

「お前も里を出奔していただろうが自来也!」

「そりゃお前もだろう綱手!?」

「貴様ら敵を前にくだらん私的な争いを持ち込むな、それでもヒルゼンの弟子どもか?」

「「テメーが言うな狸ジジイ!」」

 

 準備を整え出した途端に言い争いを勃発される姿にハラハラするが、そんな心配を他所に彼らのライン上に赤い線が走り繋がっていく。

 

「「"四赤陽陣"!!」」

 

 以前木ノ葉崩しの際に左近さん達が用いた紫色の壁を造る結界忍術に酷似した赤い結界が形成され十尾を包囲する。

 

「おお!」

「アレが四紫炎陣の何十倍も強いという結界だ…これで十尾の攻撃が遠くへ向かう事もはない」

 

 結界に囚われた十尾に歓喜の声が上がる──が、それに反して肝心のハレンチ博士達4人の表情は険しいものだった。

 

「さて…ここからが正念場よ」

「十尾の攻撃を全て受け止めねばならんからのォ、気を抜くなよ!」

 

 そうか、結界が攻撃を受ければ当然術者に負担が掛かる…勿論、あれ程の結界に大抵の攻撃ならば何の影響も与えることは出来ないだろうが十尾の力は規格外だ。

 

「結界が有効な内に十尾を叩く、行くぞ」

 

 即座にそれを理解したサスケ君が周囲の人達に指示を出して突入用に造られた結界の穴から一斉に十尾へと立ち向かっていく。

 決死の反撃、だがトビさんはそれを憐れむように見つめた。

 

「くだらん、古強者どもが集まって結界を造ったとしても十尾の動き自体は止まっていない…戦場以外は十尾の攻撃から逃れようともここにいる貴様らに未来などありはしない」

 

 十尾の尻尾の内たった1本の薙ぎ払いが激しい衝撃波となってサスケ君と彼の先導に続いた人達を飲み込んだ──サスケ君が顕現させた須佐能乎が衝撃波の一部を切り裂いて道を作るが、その道から外れた何人もの人達は強風に晒された葉の様に吹き飛ばされる。

 

「──それに、結界を張るお前達も十尾の攻撃を何度も受け止められるわけでもあるまい?」

 

 十尾の尾が今度は3本一斉に蠢いて槍の突きの様に一直線に放たれる──狙いは、結界の術者の中で最も機動力に欠ける自来也さんだ。

 

「自来也!」

「内側に結界を張りなさい」

「──いや、その必要はない」

 

 綱手さんの悲痛な声とハレンチ博士の指示を遮って1人の男性の声が聞こえた。

 

「漸く、この仮面をしてから感じていた異物感の正体が掴めた…まったく、こんな丁度良い物だとはな」

「──リーダーさん?」

「"封印術・金剛封鎖"!!」

 

 小南さんに支えられ、結界の内側に入り込んでいたリーダーさんの身体から無数の鎖が飛び出して十尾の身体を瞬く間に縛り上げる。

 自来也さんへ向かっていた尻尾も、残る7本の尻尾も絡めとられた事で姿勢を崩して十尾が倒れ込んで地上の人達は大きな地響きに襲われていた。

 

「アレってば、母ちゃんの!?」

「あれはうずまき一族の封印術だ…おい大蛇丸、あの般若面の奴は何者だ?」

「さてね、村雨が発掘してきた男で私は詳しくは知らないわ…しかし、ククッ、屍鬼封尽の死神のお面を盗むついでにうずまき一族の能面堂から持ち出したお面の一つがあの術の為のものだとは、どこまでも面白い事をしてくれる」

 

 十尾を縛る強力な封印術に見覚えがあったのか戸惑いの声を上げるナルト君と自来也さんにハレンチ博士が説明をしているが正直驚いたは私の方だ。

 まさかリーダーさんの正体隠しに丁度良いと渡した余っていたお面がそんなものだったとは──なんたる幸運、この戦争が終わったら返してもらわなくては。

 

 なにせうずまき一族でないリーダーさんでもうずまき一族固有の封印術が扱える様に出来る優れ物のお面だ、そのまま"新生・忍刀七人衆"の誰かに使ってもらっても良いし刀造りの素材に使うのも良い、実に素晴らしい。

 

 メイ様から提示された取引についてはまだ答えは出ない、だが戦争を生き延びた先で試してみたい事は今この瞬間にだって増えている。ならば、ここで終わるわけにはいかない。

 だから──

 

 四赤陽陣に身を焼かれならも再生し続けることで強引に結界の外へと抜け出した全身を黒く焦がした人影へと向かい合う。

 

「──まだ、"この世界で試し続ける事"を許してください、マダラさん」

 

 その言葉を告げた時、真っ黒に身を焼かれた身体は再生し傷一つとない身体でマダラさんは笑う。

 

「俺はもう"この世界を試し終えた"…後は、貴様が次の世界が出来るまで生きていられるか…試してやろう」

 

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